【ネタバレ防止用文章】
「いっくわよぉ!」
ルフレの雷魔法が炸裂し、敵のスナイパーを直撃した。
しかし、即死は免れたのかルフレの一瞬の隙を突き反撃をしかけようと弓を引いたのだがついにその矢は放たれることなく重力に沿って地に落ちる。
「ルフレくん、隙だらけ……だよ」
「こ、これも策のうちよ」
「勝利の女神のごとき我が妻が言うことなら、そうなんだろうね。
……私がいるから安心してしまったというのなら、嬉しかったのだけれどね」
「じゃ、次はそういうことにしておくわ」
「是非そうしてくれると嬉しい、よ」
そう言うと二人は戦場を駆けだした。
以上ボツにした文章でした。
最初はね、最後まで書こうと思ってたんだよ。実は。
変になったからやめたけど……以下本編です。
「ねぇ、ヴィオール。
大事な話があるの」
それは、決戦の前日の晩のことだった。
約束
「美しい我が妻、ルフレくんからのお誘いならいつでも大歓迎だよ」
そう応じたヴィオールとルフレが軍営を離れ、山道を黙々と歩き始めて半刻が過ぎた。
ルフレがアンナから譲ってもらったという、明かりを灯すための杖の光だけが僅かに二人を照らしている。
やはり木々が生い茂るこの場所では月も星も見えない為それだけでは心許ないように感じるが、これから酷いお願いをよりにもよって自分の夫にするという後ろめたさを持つルフレにはむしろ都合が良かった。
この暗闇なら、ヴィオールの顔も自分の顔も、きっとよくは見えない。
「……デートではないとは思っていたが、それほどまでに言い難いことをルフレくんは話したいのかな?」
黙ってついて来ていたヴィオールが、口を開いた。
「おおかたの予想はついているよ。
……君の負担を、少しでも肩代わりできないのが残念だよ」
ルフレがギムレーを討てば、ギムレーはルフレを道連れに消滅する。
これは他の誰にもできないことだ。
せめてクロムのようにあの絶望の竜を永い眠りへと誘う力があればもう少しでも力になれたのだろうか。
しかし、その言葉にルフレは、夫を振り返り顔を横に振った。
「そんなこと……これはあたしのわがままだもの。
あたしはあたしのわがままで、世界と未来と……何よりあなたとマークを守りたいの」
ここにギムレーを消滅させる方法があるならば、それを使うべきだ。
ここで倒さなければ次に復活を遂げた時、遠い遠い誰も知らない未来で再び絶望の未来が訪れてしまうのではないか。
ギムレーの血の流れる自分と自分の愛する者の血を受けた、顔も知らない遠い孫か曾孫かに自分と同じ苦悩を与えてしまうのではないか。
もしそうなるくらいならば、ここで全て終わりにしたい。
ルフレは、そう考えたのだ。
「あのね。
明日、あたしを……ギムレーのところまで連れて行って欲しいの。
ヴィオール」
「……君と一緒に消えてしまいたい気分だよ」
今生の別れかもしれない。
それが二人の不安なのだ。
消滅を免れるとしたら、それは神にも等しい竜の力に打ち勝つ人と人との絆の力。
けれど、人の身が神の力の前にどれほどのこととなるのだろう。
それでもルフレは苦い物を飲みほしてなお隠し通そうとするように笑った。
「誰よりも、あなたとの絆があれば……あたしはきっと帰ってこれる。
あなたまで一緒に来ちゃったら、帰る必要が……なくなっちゃうじゃない」
「なんと!それは困る。
……ルフレくんといっしょなら、地獄だって楽園になってしまいそうだ」
これには、ルフレも本物の笑顔で応じた。
確かに彼と一緒ならどこへでも行けるだろうと思えるし、こんなにも不安にならないだろう。
だがそれでも、救いたいと思う存在があったから決意ができたと彼女は思う。
「そう言って、あたしがいない間に思う存分女の人を口説けるって思ってるでしょ?」
「まさか。
すぐ君が戻って来るというのに、そんな恐ろしいことができるはずもない」
「ふふ、その言葉…………ずっと忘れないでね」
ふとルフレが真剣な目でヴィオールをみつめた。
そんな強い妻の目に彼もまたまっすぐに応える。
「もちろん、華麗に覚えているよ。
ルフレくんの、今日のわがままも当然叶えてみせる」
「ヴィオール……」
「女性の要求には否を申さぬ主義だからね、私は。
それが美しい我が妻の願いとあれば」
ヴィオールはルフレの左手を取り、薬指の付け根に口付る。
「なおさらさ」
そんな夫の言葉に泣きそうになりながらルフレは笑った。
「同じ台詞を、いったい何人に言ったのかしら……でも、そうね」
そこで言葉を区切り、彼女はわずか視線を伏せた。
「そう言ってくれるのを期待して、こんなことを頼んだのよね……ヴィオール、ごめんなさい」
二人の2年にも及ぶ結婚生活を思い起こすと、ルフレは何一つ妻らしいことができなかったと後悔してしまう。
常にクロムを始めとした軍のために、軍師として努力してきた。
だがその代償として夫であるヴィオールは二の次として、妻の勤めを疎かにして来てしまったのではないか、と。
それなのに今なお自分は夫や息子を犠牲にしようとしている。
「ごめんなさい……」
愛する者を置いていこうとしていること、その優しさに甘えて手伝いをさせようとしていること。
いくら謝っても謝り足りないと、ルフレは思う。
しかしそんな妻のことをわかっているのかヴィオールはこともなげにこう言う。
「なに、貴族的に失うことの苦しみを君にまで味あわせるのは忍びない。
それに妻が夫に甘えたら何か悪いのかい?」
「でも」
それでもなお言葉を重ねようとしたルフレをヴィオールは手で制す。
「ならば謝罪よりも相応しい言葉があるだろう?」
その言葉に、ルフレは少し考え小さく頷いた。
「それも、そうね……ねぇ、ヴィオール。
帰って来たらもっと、甘えさせてね」
「二度目の蜜月というわけだね。
私は君の愛の奴隷だから好きなだけ甘えるといい。
クロムくんにだって邪魔はさせないつもりさ」
「それは楽しみだわ」
「我々の愛の結晶たるマークくんが生まれてくるためにも、ね」
「うーん、それは少しばかり覚悟しなくちゃならなそうね」
「ん?ルフレくんは何を期待しているのかな」
「な、なんでもないわよ!
……うん、でも…………こうしてあなたといたら帰って来なくちゃってもっと思えた。
ありがと、ヴィオール。
奥さんらしくできないあたしなんかと結婚してくれて。
あたしを愛して、甘やかせてさせてくれて。
いつも傍にいてくれて、ありがと。
好きよ、ヴィオール。
世界中の、誰よりも」
「なんと!美しき愛の言葉ではないか……!
もちろん私も、君のことを優雅に愛しているよ。
……しかし、これでは別れの言葉のようじゃないかね?」
「ふふ……そんなこと言うなら、もう好きって言ってあげないんだから!」
そう言って慌てる夫を置いて軍営に向かってルフレは歩きだした。
この会話を最後にしたくない。
もう一度、ヴィオールに好きだと言いたい。
だから必ず勝ってみせる。
いや、ヴィオールが自分と一緒に戦ってくれるなら絶対に勝てる。
ルフレは未だわずかに残る不安を振り払うようにキッと空を見上げた。
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FE覚醒終章ヴィオール×ルフレ(女)夫婦前提ネタ。数日前に渋とサイトでも公開してました。
(サイトのだとルフレではなくうちのマイユニ名になっているので注意して下さい。)