No.425214

『改訂版』真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第一部 其の十七

雷起さん


大幅加筆+修正となっております。

遅くなりました。
お待ちいただいている方々、申し訳ありませんでした。

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2012-05-19 21:40:03 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:3874   閲覧ユーザー数:2999

 

『改訂版』 第一部 其の十七

 

 

 

蜀 益州 成都城内執務室

【緑一刀turn】

 五胡の驚異もひとまず静まり、

 俺達連合軍がそれぞれの本拠地に戻って二ヶ月程が過ぎた。

 

 季節は晩秋。

 もう冬の足音がもうそこまで聞こえいる。

 そして大陸の各地からは豊作の知らせが届いていた。

 これは三国とも復興に力を注ぐ現在、涙が出るほどありがたい。

 各地での収穫を祝う祭りも終わり、人々は冬を迎える準備に忙しい。

 そんなある日の朝。

 

「寒くなって来たねぇ、ご主人さま。」

 桃香が上着を着込んで仕事部屋にやって来た。

 それでもミニスカートと絶対領域の確保は変えない所が女の子である。

「だなぁ。でも成都じゃ真冬になっても氷が張らないらしいよ。」

「え?・・・・・・・ええぇ!?そうなのご主人さま!?」

 幽州出身の桃香が驚くのも無理はない。

 向こうは最低気温が-10℃近くになる日もあるのに、成都は氷点下になる事がまずないのだ。

 実は元の世界に居た頃にちょっと興味が湧いて成都、許昌、建業、そして幽州の気候を調べた事があった。

 なんと成都は三都市の中で冬は一番気温が高く、夏は一番気温が低い。

 年間を通して最もすごしやすい都市なのである。

 そして南国のイメージが有る孫呉だけど。

 建業は揚州の北に位置していて、緯度も成都より北になるのだ。

 ちなみに建業は現代の南京、幽州の現代での大都市といえば何と言っても北京である。

 四都市で共通してるのは冬が無茶苦茶乾燥するって事か。

 これは大陸の気候の特徴だから当然と言えば当然なんだが、十二月の降水量が成都は東京の十分の一以下なのを知って愕然のしたのを覚えている。

 

 ちょっと話が逸れたが、たとえ氷点下に成らなくとも寒いものは寒い。

「あぁ、紫苑にも確認したから間違いないよ。涿県の冬はここより厳しかったんだろう?」

「うん・・・・・冬は(ムシロ)草鞋(ワラジ)を編んでたけど寒さで指がかじかんじゃって・・・・・」

 プルプル震えながら手を擦り合わせる仕種で説明されると、実際に寒くなってきたような気になるよ・・・・・。

 

「冬に草鞋とかを編むと手が荒れたんじゃないか?・・・・・・」

 

 擦り合わせる手を俺の手で包み込む。

 

「う、うん・・・・・でも今はご主人さまの手が・・・・・」

 

 俺を見上げる桃香の瞳は・・・・・。

 

「ゴシュジンサマ、トウカサマ、ナニヲナサッテオラレルンデスカ?」

「「ひいいいいいいいいいぃぃぃいっ!!」」

 

 入り口には、いつの間にか朱里が書類の束を抱えて立っていた。

 氷のような眼差しをしながら・・・・・。

 

「「ごめんなさい。」」

 俺達は反射的に頭を下げていた。

 

 

「もう!これが私ではなく愛紗さんだったら今頃どうなっていたと思いますかっ!?」

 朱里は腰に手を当て俺と桃香に言い聞かせる。

 まあ俺の場合は、(一)土下座をしている。(二)殴られて気絶している。

 の二択だろうな。

「・・・・・・さ、さあ今日もお仕事頑張ろうね!朱里ちゃん♪」

 桃香の場合は、恨みがましい目でいつまでも黙って見つめられ続ける、ってところか?

「さ、さてと。今日はどんな書類が回って来てるかなぁ・・・」

 俺は誤魔化す為に書類の一つを手に取り読み始めた。

「ええと、なになに・・・・・・・南中で騒ぎが起きている?」

 

 そんな・・・・・五胡の事が収まってようやくこれからって時に・・・・・・。

 

「あ、ご主人さま!それなんですが・・・・・う~ん・・・やっぱり先ずはそちらを良く読んで戴いた方がいいですねぇ・・・・・」

 なんだ?えらく歯切れが悪いが・・・。

「うん、そうさせてもらうよ・・・・・何々?南蛮大王孟獲率いる一団が南中にて騒動を起こし、各地の太守、県令が苦戦しておりますので何卒援軍を・・・・・なんか表現がおかしくないか?」

 軍ではなく一団、反乱ではなく騒動・・・・・どういう事だ?

「はあ・・・私もそう思いました。けど続きを読んで頂ければ・・・・・。」

「そ、そう?・・・・・ええと、被害状況は・・・・・畑が荒らされ作物が食べられた・・・?」

 それ以下書いてあるのは、

 壁に落書きをされた。

 どんぐりをぶつけられ、怯んだ隙にお弁当を盗られた。

 突然ぶつかって来て転ばされ怪我をした。

「・・・・・子供のイタズラか?」

「ご主人さま、まだあるよ。夜中に鳴き声がうるさい。柱で爪を研ぐ。屋根に登って走り回る・・・・・」

「・・・子供どころか動物みたいだな・・・・・あ、風体も書いてあるな。身の丈五尺・・・・・五尺っ!?」

 一尺がここでは23センチぐらいだから・・・115センチ!?

 鈴々より小さいのか?

「・・・尖った耳をしており、虎の皮を着込み、象の頭に乗っている・・・・・」

「あ、ご主人さま!そこは『乗っている』ではなく、『象を頭に乗せている』ですよ。」

「あ!ごめんごめん、間違え・・・・た?・・・・・・象って動物の象だよね?あの鼻の長い・・・」

「これを読む限りそうだと思われます・・・・・ご主人さまは象を見た事がおありなんですか?」

「あぁ、子供の頃にはよく動物園に行ってたから・・・・・あ、そうか朱里は見た事が無いんだ、でも絵ぐらいは見た事有るんだろ?」

 俺の家は浅草だから上野動物園にはよく行ったもんだ。

「はい、文献で・・・・・あのぅ、動物園って何ですか?」

 この外史に動物園は無いもんなぁ。

「色んな動物を集めて生態を研究する所でね、一般の人もお金を出せば見られるんだ。」

「なんか見世物小屋みたいですけど、成程研究のためですか♪」

「ねぇねぇ、動物園も楽しそうだけど、象ってどんな動物なの?」

 桃香は象そのものが判らないか。

「そうだな・・・・・でっかい動物。ここの庭にある東屋以上の大きさはあるな。」

「そ、そんなにおっきいのっ!?」

「はわ~・・・具体的に言われると実感できますねぇ。」

 はは、二人とも驚いてるなぁ♪

 なんか面白くなってきたぞ。

「耳もこう・・・大きくって。」

 身振りも加えて説明してやる。

「ほえぇぇ・・・・」

「ふむふむ!」

「何といっても特徴的なのは鼻!すごい長くて、しかも手の様に物を掴んだり抱えたりもできるんだ!!」

 二人の感心する姿に俺の説明もヒートアップしていく。

 

「主。何を朝からいかがわしい話をなさっているのですかな?」

 

「は?・・・・・星?俺は別にいかがわしい話なんかしてないぞ。」

 いつの間にか星が入口に立っている。

「象の話をなさっておいでの様でしたな。」

「なんだ分かってるんじゃないか。」

 俺は笑って答えるが、星は真面目な顔のまま。

「大きいの、長いの言ってましたから、主が桃香様と朱里に股間をさらけだして『ほぉら♪象さんだよ~ぅ♪』と・・・」

 

「どこまで変態なんだっ!!星の中の俺はっ!!」

 

「「???」」

 象を見た事が無い桃香と朱里は星の言った事の意味が解ってないようだ・・・・・ということは星は見た事があるのか。

「そんなネタが出るって事は星は何処かで象を見たんだ?」

「お忘れか?私は長く旅をしていたのですぞ。交州まで足を延した事もありますよ。」

「えぇ!?そうなのか?」

 これは意外な所に意見を聞ける人間がいたな。

「じゃあこれを読んで意見を貰えるかな?」

「ん?どれどれ・・・・・ふむふむ・・・これはまた・・・」

 星は真剣な表情で書類を読み、一度思案してから口を開いた。

「朱里、この報告をした者は直ちに斬首すべきだな。身の丈五尺の子供の頭に象を載せる・・・いや、これは既に踏み潰すと言った方が良い!そんな奴は生かしておくべきではないぞ!!」

「ま、待って下さい!!星さんっ!報告をくれた李恢(りかい)さんは真面目な方ですよ!紫苑さんにも確認しましたし!」

「ならば其奴は南方の暑さで頭がイカレたか、病で気が触れたかしたとしか思えんな!」

「そ、そこまで言わなくても・・・・・」

「いやっ!朱里っ!!象に踏み潰されればペッタンコになってしまうのだぞっ!!ペッタンコにっ!!!」

「あの・・・・・どうして私の胸を見て言うんですか・・・・・・」

「せ、星ちゃん・・・もしかしたら赤ちゃん象なのかも・・・・・」

「桃香様!象と云う物は生まれたての赤子でも桃香様より・・・・・・・・・重たい・・・ハズなのです!」

「・・・・・・・・・」

「星、桃香の胸を見て言い淀むという事はもしかして・・・・・」

「また更に成長されたご様子ですので少々自信が無くなりまして。」

「せ、星ちゃんっ!!」

 真っ赤になって両腕で胸を隠す桃香だけど・・・隠しきれないとは、さすが福乳様だ。

 隣では朱里の視線の温度が急降下してるし・・・・・。

「星・・・気持ちは判るけど、どうも手紙の感じからして見たままを報告してるみたいだから・・・・・・もしかしたら俺達の知らない新種の象がいるのかも知れないだろ。」

「ふむ、なるほど・・・世の中は広いですからな。主のおっしゃる事も最も。」

 どうやら落ち着いてくれたか。

「では主はこの南蛮大王孟獲をどうするおつもりですかな?」

「いや、俺はむしろそっちの方を聞きたかったんだけど・・・・・」

「おぉ、これは失敬!そうですな・・・・・武官の意見として言わせて戴ければ反乱の芽は早い内に摘み取るのがよろしいかと。」

 星はひと呼吸置いてにこやかに笑う。

「それに古来より悪戯をする子供にはお仕置きと相場が決まっておりますぞ、主。」

 星は出陣に賛成か・・・・・確かに早い内に蜀を統一しておく方がいいだろうな。

「うん!それじゃあ南蛮行をする方向で話を進めよう。」

「時期的にも丁度良いでしょう。これから寒くなる時期に南蛮入りするならこちらの負担はかなり軽減できますからな。」

「あ、そうか。暑い時期に行くよりはいいな。」

「実は私も以前行った時は向こうで年を越しまして、いやあ過ごし易すかったですなぁ♪」

 星の笑顔での話に桃香と朱里はしきりと感心しっぱなしだった。

 

 

蜀 益州 成都城内謁見の間

【緑一刀turn】

 という訳で南蛮行の準備が開始された。

 報告書を読んだ限りじゃ大した戦に成る事は無いだろう。

 それでも曹魏と孫呉には連絡を入れておく。

 向こうも復興に忙しいだろうが助っ人の依頼も書簡に書いておいた。

 本当に助っ人が必要な訳では無く、情報の開示と交流が目的だ。

 以前愛紗が官渡で曹魏と一緒に戦った事があった。

 あれがヒントになって思い付いたんだが、まずは蜀が最初にやってみせれば他の二国もやり易くなるだろう。

 後他にも思い付いた事が有ったので、その辺も盛り込んで計画を練り。

 ついに南蛮に向け出発する日がやって来た。

 

「緑一刀様!この度の南蛮遠征、周幼平が微力ながら馳せ参じました!お引き回しの程よろしくお願い致しますなのですっ♪♪」

 孫呉から参加してくれた明命の明るい声が謁見の間に響いた。

「うん、よろしくね♪明命♪」

 相変わらず元気で礼儀正しい子だねぇ♪

 実は孫呉から明命か思春が来てほしいと思ってたんだ。

 孟獲といえばやっぱり『七縦七禽』。

 マンハント能力がズバ抜けてる二人がいれば『七縦七禽』が楽になるんじゃないかという単純な理由だけど。

 多分、赤がそのことに気付いて進言してくれたんだろう。

 冥琳も情報収集に慣れている明命ならと送り出したんじゃないかな。

「孫呉のみんなは元気にやってる?」

「はい♪赤一刀様も怒った小蓮様に追いかけられて、建業の街を三周するくらい元気なのです!」

「・・・・・・・・・あいつ何やったんだ?」

 まあそれは次の手紙で聞けばいいか。

 さてもう一方の曹魏からは、沙和と風が来てくれた。

「緑隊長ぉ!お久しぶりなの~♪」

「お久しぶりです~。この度の南蛮行に華琳様の名代としてやって参りました~♪」

「名代って、大袈裟だなぁ・・・・・・・もしかして華琳本人が来たがってた?」

「実はそうなのですよぉ。ですが流石にこの時期華琳様が許都を離れる訳にはいきませんからねぇ。」

 華琳が南蛮に行きたがる理由って何だろう?

 まさか象が見たかった訳じゃ無いよな。

 もしそうだとしたら、いつか蓮華が象をプレゼントするイベントが発生したりするんだろうか?

「まあそれで誰が行くかで少々紛糾致しまして~。結局は希望者がクジを引いてきめました~♪」

「・・・・・・クジ引きなんだ。」

「えへへ、冬の寒さから逃げられるお仕事だから沙和は参加希望したのぉ♪」

「ぶっちゃけたなぁ・・・・・まあ気持ちは分からないでもないけど。」

「華琳様から新兵の遠征訓練だから気を抜かないようにって釘は刺されてるけど・・・」

 苦笑いでそう付け加える沙和。

 華琳が許可した理由はそれだけじゃ無いだろうな。

 俺から見た沙和って子は、誰とでも気さくに会話ができる女の子という感想だ。

 話してる内容は普通にガールズトークって感じだけど、これが外交官という立場になれば侮れない才能だと言える。

 華琳は沙和のそんな所を買ったんだろう。

「風は星ちゃんから聞いていた南方の地をこの目で見てみたいと思いまして。」

 風も星から聞いていたのか。

 星の説明は気候風土、植生や生息動物と結構細かな部分にまで渡っていたので、装備や輜重隊に運ばせる物資を考える上でかなり役に立った。

 だがっ!!

 肝心の南蛮人の情報が一つもされていない。

 それもその筈。星の行った事があるのは揚州の南、交州の東側であって南蛮ではないのだ。

「報告書に在った南蛮大王孟獲も気にはなりますが~・・・・・・華琳様からもう一つ重大な任務を仰せつかっておりまして~。」

「へぇ、どんな任務か分からないけど、蜀の人間で協力できる事は何でもするよ。」

「何を言ってるのですか、緑のお兄さん。風が任されたのは現在の蜀はキチンと運営されているのか視察報告することなのですよ。」

「あ、そうなんだ。昔っからうちは隠し事って無いから別に気にしないけど・・・・・」

「むむむ・・・どうもまだ分かっていない様ですね。風の報告で及第点に達していない場合、とおっても恐ろしい事が起こるのですよ~。」

「恐ろしい事?」

 今の三国の状態でキナ臭い事が起こるはずは無いと信じている俺は楽観的に答えると、風も眉間に寄せていた眉を緩めた。

 やっぱり冗談だったのか♪

「華琳様が直々に乗り込んで、緑のお兄さんと桃香さまに監禁強制勉強会を行うと言ってました~♪」

 

「ゲフッ!!!」

 

「あ、冥琳様も同じ事を仰ってました。」

 

「ぎゃおおおおおおおおおおおおおぉぉおおぉおぉぉっ!!」

 

 明命・・・そんな恐ろしい追い討ちを掛けますか!?

 華琳と冥琳のダブル講師で缶詰勉強会なんて、開始後十分で頭が破裂するっての!!

 

「遅くなってごめんなさーい!明命ちゃん、風ちゃん、沙和ちゃん!ようこそいらっしゃいました♪」

 

 桃香クン・・・・・君はタイミングがいいのか悪いのか、実に微妙な所でやって来たね・・・・。

「?・・・どうしたのご主人さま?そんなすごい顔して・・・・・」

 

 そんなことを言った桃香が、俺と同じ顔で悲鳴を上げたのは数分後のことだった・・・・・。

 

 

蜀 益州南方密林

【緑一刀turn】

 

「暑いっ!!」

 

 誰だ!あったかいなんて言った奴はっ!!

 そんなもん通り越して真夏の暑さじゃねえかっ!!

 確かに昆明辺は標高が高いから肌寒いくらいだったのに、低地に向かって進むにつれ周りの風景は緑が濃くなって行き、今ではすっかりジャングルですよっ!!

「ダメだっ!!こんなの着てられるかっ!!」

 聖フランチェスカの制服を脱いでTシャツ姿になる。

 みんながいなければスラックスも脱いでトランクス姿になりたい処だ。

「一刀様はお暑いのが苦手なのですか?」

 明命はいつもの格好で涼しげに訊いてきた。

「元いた世界の夏はこんな感じだったけど、涼しい所から数日でこんな暑い所に来たせいかまだ体が慣れてないんだよ・・・」

 まあ向こうでも家の中じゃクーラーが有ったから大きな事は言えないけど。

「みんなも楽な格好にした方がいいぞ!」

 俺の言葉にみんなが安堵の溜息を吐いて、上着や袖を外し始めた。

 

 おぉ!こ、これは!!

 

 気軽に言った言葉だったがみんなの薄着姿が見られるとは!

 これだけでもここに来た甲斐は有ったな♪

 おっと、あんまりジロジロ見てると愛紗あたりに怒られる。

「だけど流石明命は孫呉の武将だけあって暑さに強いんだなって居ないっ!?」

 俺の行動を悟られない様に明命に話しかけたつもりが、視線を戻した先に明命の姿は無かった。

「どこに行っちゃったんだ、一体?」

 明命の乗っていた馬は何食わぬ顔で俺の横で歩いている。

 呆然とその馬の鞍を眺めていると、道の横の背の高い草がガサガサと音を立てた。

 

「緑一刀様っ!お猫様を発見しましたっ!!」

 

「は?・・・・・・・・猫?・・・・」

 草の中から姿を現したのは明命・・・・・なのだが・・・その腕に抱えられているのは猫耳の小さな女の子。

 しかも白目を剥いて口からヨダレが垂れていた・・・・・。

「何やらこちらを伺っている気配がしましたので行ってみたらこのお猫様が♪ん~~~モフモフです~~~♪♪」

 明命がスリスリしてる女の子・・・・・報告書に有った尖った耳ってこの猫耳の事じゃないのか?

 しかもその女の子の力なくブラブラ揺れる足にピンク色でバスケットボール位の大きさの象・・・・・としか思えない生物がしがみ付いていた。

 もしかしてこの子が孟獲なのか!?

「って明命!強く抱きしめすぎっ!!うわあっ!!泡吹いて手足がビクンビクンいってるぅっ!!か、華佗えもーん!早く来てーーーーーーっ!!」

 

 

「・・・・・・はっ!ここはどこにゃ!?」

「よかった・・・・・生き返った・・・」

 華佗の鍼のお蔭で何とか息を吹き返した猫耳の女の子はキョロキョロと辺りを見回している。

「なんか川の向こうのお花畑に連れて行かれるところだったようにゃ・・・・・?」

 三途の川を渡りかけてたか・・・・・本当に危ない所だったみたいだ。

「大丈夫?気分は悪く無い?」

「うん、大丈夫にゃ♪・・・・・・・・・って!だれにゃおまえらはっ!?美以は南蛮大王孟獲にゃ!えらいんだじょっ!!はは~って言えにゃっ!!」

 やっぱり孟獲だったか。

「俺は北郷一刀。蜀から来たんだけど・・・」

 言いながら孟獲の頭をナデナデしていた・・・・・いや、あんまり可愛らしいモンだから無意識で・・・・・。

「ふにゃぁ♪」

 孟獲も満更では無いのか目を細めている。確かに猫だ、これは。

「緑一刀様ずるいです!私も!」

 明命がまたしても孟獲を抱きしめた。

「ふぎゃああああぁぁっ!!なにするにゃっ!!はなすのにゃあああぁぁ!!」

 ジタバタと藻掻く孟獲を明命からみんなで救出してやる。

 

「ふーっ!ふーっ!!」

 毛を逆立てて明命を威嚇する孟獲・・・・・。

 それを見て涙目になる明命・・・・・。

 

「ほらほら、怖い人は向こうに行ったからもう大丈夫だよ~。」

「ほ、ほんとうにダイジョウブにゃ?」

 疑わしげな眼差しで睨みつつも話は聞いてくれそうだ。

「君は孟獲なんだよね?」

「そうにゃ。えっへん!!」

「うんうん。それじゃあ訊くけど、なんでみんなが困るような事をするのかな?」

「美以はいま、いくさをしてるのにゃ♪しょくのやつらに美以の・・・つよさを・・・・・・見せつけて・・・・・・・・・・・おまえさっきしょくから来たって言わなかったかにゃ?」

「あ~・・・うん、言ったね。で、どうだろう?こうやって捕まっちゃった訳だし、この戦は孟獲の負けって事にならないかな?」

「今日はていさつで、いくさじゃにゃいから負けじゃ無いにゃっ!負けじゃ無いにゃっ!負けじゃ無いにゃっ!負けじゃ無いにゃっ!・・・負けじゃにゃいにゃ・・・・・・・・まけじゃ・・・にゃいもん・・・・・」

 最初は両手を振り上げて怒っていたのに、だんだん背中が丸まって縮こまり、最後は涙声になってしまった。

 その姿に俺を始め、みんなが『ほわ~ん』となってしまった。

 愛紗なんかはもうトロトロに(とろ)けきった表情で孟獲を見つめている。

 ある意味これは俺達の負けなんじゃなかろうか?

 そんな中、紫苑が孟獲に優しい微笑みを(たた)えながら寄り添った。

「はい、孟獲ちゃんは強いんでしょう。泣かないのよ♪」

 優しく抱きしめ背中をポンポンしてあげる紫苑。

 さすが母親。子供の扱いは手馴れたものだ。

「ふにゅ~・・・・・・・はっ!と、とにかく美以はまだ負けてないのにゃっ!!」

 おぉ!見事に復活。

「それじゃあ今日は帰してあげるから、明日改めて戦をしよう。」

「にゃ?・・・・・・ほ、ほんとうにゃ?」

「あぁ、本当だ。約束するよ。」

「やくそくにゃぁ♪」

 なんとまあ嬉しそうな顔を・・・これは素直を通り越してアホっ子の領域だな。

「さぁ、おうちにお帰り。」

「わかったのにゃ♪」

 元気良く返事をした孟獲は全速力で走り去った・・・・・と思ったら突然立ち止まって振り返り。

「あしたはごめんなさいって言わせてやるにゃーーーーっ!!」

 捨て台詞を残して、今度こそ本当に走り去って行った。

「はぅぁぁお猫様がぁ・・・お猫様が行ってしまいましたぁぁ・・・・・」

 鈴々と翠に押さえられながら明命は、腕を伸ばして名残惜しそうに訴える。

 その様子を苦笑しながら見ていると、愛紗が俺の所にやって来た。

「・・・・・ご主人様・・・私にはアレに刃を向けるなどできそうにありません・・・・・」

 孟獲の影響を残し、まだほわ~んとなっている愛紗が申し訳なさそうに言う。

「その気持ちは良く解るよ。そこで俺に考えが有るんだ。みんな集まってくれっ!」

 

 俺の声を聞いて集まってきた顔を見ると、みんな困ったような顔をしている。

 みんな愛紗と同じ気持ちなんだろうな。

 若干名いつもと同じかニコニコしてるのもいるけど。

「みんな、あの孟獲と戦うのはやり辛そうだね。でも今回は普通の戦にはならないと思うから安心して。」

 俺の言葉に朱里が手を挙げた。

「あのぉ、それは孟獲ちゃんが言っていた戦というのが、あのイタズラの数々だからでしょうか?」

「さすが朱里♪気が付いてたんだ。それでこちらの対応方法だけど・・・たんぽぽ。」

「ほへ?」

 ここで声を掛けられると思ってなかったのか、少々間抜けな返事が返ってきた。

「たんぽぽに罠を仕掛けてもらって生け捕りにしようと思うんだ。」

「あはぁ♪面白そう!たんぽぽ張り切っちゃうよ、ご主人さま♪」

 実に生き生きとした顔で答えてくれた。

 すると今度は沙和が手を挙げる。

「あのう緑の隊長、風ちゃんが猫の相手とっても上手だから参考になると思うの!」

「猫の相手って・・・・・まあ確かに猫だったよねぇ。それじゃあ風、たんぽぽの罠を考えるのを手伝ってもらえる?」

「はいは~い、かしこまりましたなのです~♪」

 こちらもニコニコと答えてくれる。

「それから明命・・・・・猫が好きなのは赤から聞いてたけど・・・・・もう少し落ち着こうね。」

「は、はい・・・・・申し訳ないのです・・・・・」

 さっきまでの興奮が覚めて我に返ったおかげか、少し落ち込んでいるみたいだな。

「孟獲を捕えたのはお手柄だったんだから、あんまり気にしないで。」

「は、はい♪ありがとうございます♪」

「さて、多分孟獲は一度や二度じゃ負けを認めそうに無い感じだったから、根気良く相手をすることになると思うけど、みんな頑張ろう!」

 こうして孟獲との戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

「ものどもー!しょくのやつらをギャフンと言わせてやるのにゃっ!!」

「ギャフンと言わせるにゃー!」

「言わせてやるにゃー!」

「・・・いわせるのにゃ~♪」

 

 一夜明けて次の日。

 孟獲は約束通りやって来た。

 こりゃまたちびっ子達が大量に・・・・・なんか顔が三種類しか無い様な気がするのは気のせいか?

 猫耳ちびっ子軍団を目の前にみんなも兵も驚いていたが、にゃーにゃーと言いながら走ってくる姿がなんとも微笑ましく、全員がほわ~んとなっていた。

「お、お猫様がこんなに・・・・・♡」

「だ、大丈夫か、明命?」

「は!だ、だ、だ、大丈夫なのです!」

 そうは言うけど、まだそわそわしてるなぁ・・・・・。

 なんて思っていた次の瞬間。

 

「にょわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・」

 

 孟獲とちびっ子達十数名が大きな落とし穴に落っこちた。

「だ、ダメです!もう辛抱たまりませんっ!!」

 そう言って明命も落とし穴に飛び込んでしまった。

「み、明命っ!!」

 慌てて落とし穴を覗き込んだら。

 

「ふぎゃああああああっ!!はなすのにゃあああああああああっ!!」

 

 案の定、孟獲は明命にモフモフされていた。

 孟獲の悲鳴を聞いた猫耳ちびっ子軍団は泣き叫びながら逃げ惑い始め、一緒に穴に落っこちた子達は一箇所に固まってブルブル震えている。

 孟獲が大人しくなった所を見ると気絶してしまったようだ。

 明命は大人しくなった孟獲を横たえると次の目標に向かってゆっくりと動き始めた。

 その姿は暴走する某巨大人造人間を彷彿させる。

 

 結局俺達が落とし穴に入って止めるまで、明命のモフモフは続けられたのだった。

 

 

 

 そして次の日。

 ジャングルから近付いて来た孟獲達はたんぽぽが仕掛けた罠に引っかかり、頭上から降ってきた桶やタライなどの直撃を受けて気絶してる所を発見された。

 

 更に次の日。

 檻の中に朱里と雛里が作ったお菓子を入れた罠を仕掛けると、一時間もしないうちに孟獲は檻の中にいた。

 しかも孟獲は閉じ込められた事に気付かず、お腹いっぱいになると檻の中で寝てしまったのだった。

 

 次の日には、明命と孟獲がたまたま泉で出くわし、またしてもモフモフ地獄を体験し。

 その次の日はまた落しあなに落っこちた。

 

 そして遂に・・・。

「もういやにゃあぁぁああぁ!あいつどっかにやってほしいにゃああぁぁああぁ!!」

 明命の姿を見ただけで孟獲と猫耳ちびっ子達は泣き出す様になってしまった。

 兵も合わせた全員で、お菓子をあげたりおんぶや抱っこ、高い高い等であやしてあげ、何とか事態を収集し。

「いつか仲良くなれるように協力するから元気出しなよ。」

「うぅ・・・・・ありがとうございます・・・・・緑一刀様・・・」

 落ち込む明命を励ましたりと、大変な南蛮行となってしまった。

 この場に羌族王の炙叉がいたら事態はどれだけ悪化したことか・・・・・・考えたくないなぁ。

 

 未だ涙目で棒付きキャンディを舐めている孟獲に桃香が近付いて声をかける。

「ねえ孟獲ちゃん、わたしたちとお友達になれないかな?わたしは孟獲ちゃんとお友達になりたいんだけどなぁ♪」

「おともだち・・・・・にゃ?」

「うん♪わたしは蜀の王様で劉備玄徳っていうの。真名は桃香、よろしくね♪」

「・・・と、とうか・・・」

 恐る恐る上目遣いで言う孟獲に、桃香は極上の笑顔で答えた。

「うん♪」

「・・・・・美以の真名は美以にゃ♪」

 ようやく孟獲も笑顔になり桃香の胸に飛び込んだ。

「ふにゃあぁ・・・桃香のおっぱいもフカフカで気持ちいいのにゃ♪」

 

 こうして七縦七禽は終了したのだった。

 

 

蜀 南方瘴気の山

【緑一刀turn】

 美以と真名を交換し終えた俺達は、成都に戻る前に俺の提案でちょっと寄り道をすることに。

 三国志演義で瘴気を出す場所が出てくるのを思い出し、美以に聞いたところ確かに有ると言うのだ。

 これはきっと火山の有毒ガスだと踏んだ俺は、その近辺に温泉が在るに違いないと思い、ガスの届かない範囲まで近づき温泉を探した。

 すると在りました。温泉♪

 戦乱を戦い抜いてくれたみんなに、温泉で疲れを癒して欲しいと・・・・・スイマセン、建前です。

 みんなの入浴シーンを見たいと思いました。

 源泉と川の水が混じり合い丁度良い湯加減の浴槽になりそうな場所が三箇所。

 早速天幕の布を使って仕切りを作る。

 浴槽が三つとなれば男湯、女湯、そして当然混浴だろう♪

 

「ご主人さま、温泉の準備ができたって♪」

「兄ィ、美以たちはさきにいってるじょ♪」

「「おんせん♪おんせん♪」」

「おんせんにゃぁ~♪」

 桃香が頬を染めて美以とトラ、ミケ、シャムを連れて向かった。

 

「・・・・・ふふふふふ。遂に嬉し恥ずかしのイベントシーンが♪」

 

 俺は期待に胸を膨らませ、いざ温泉へと向かう。

 それぞれの入口に『男湯』『女湯』。

 そして最後一つっ!!

 

『漢女湯』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

「お、主もこれからですか。」

「お兄さん、こんな結構なものに連れ来ていただき、ありがとうなのです~♪」

 がっくりと打ち(ひし)がれた所に星と風がやって来た。

「あの・・・・・・この『漢女湯』って・・・・・」

「主ものんびり入りたかろうと思いましてな。二人には可愛そうかとも思いましたが折角浴槽が三つ在りましたしな♪」

「お兄さんが何を期待してたかはなんとな~く分かりますけどぉ・・・・・・うふふふふ」

 そう言って二人は脱衣場へと消えていく。

 

「いや、確かに貂蝉と卑弥呼のいる温泉に一緒に入るよりはいいけどさ・・・・・納得いかねぇっ!!」

 結局男湯に入っている俺だった。

「一刀、彼女達の気持ちも考えるんだな。いくら相手がお前とはいえこう明るくては恥ずかしいのだろう。」

 横には華佗が一緒に入っていた。

「それに貂蝉と卑弥呼もあれで恥ずかしがり屋だから別にしてあげたのはいいんじゃないか?」

「はぁ?あの二人が恥ずかしがり屋?」

「ああ、怪我の治療をする時でも恥ずかしがって中々服を脱いでくれなくてな。俺は医者だから気にするなといつも言ってるんだけどな・・・」

 この妙にずれた医者王を誰かどうにかしてくれ!

「しかし、湯はいいぞ!温泉に限らず身体を温めるのは血行を良くし、気の流れも正常化してくれ・・・・・」

 俺はこの後延々風呂がいかに健康にいいかを聞かされ続けた。

 こんなシーン、一体誰得だよっ!!

 

 

女湯

【エクストラturn】

「鈴々ちゃん・・・はしたないよう・・・」

 雛里が鈴々をたしなめているのは。

「う~ん、お兄ちゃんと一緒に入りたいのに華佗がいるから行けないのだぁ・・・」

 男湯を覗いていたからだった。

「ご主人さまと華佗さんが二人きりでお風呂に・・・・・」

「どうしたんだ朱里?もうのぼせたのか?」

 朱里の趣味を理解できていない翠は赤くなった朱里を見て素直に心配している。

「翠、朱里は別のものにのぼせているのだ気にしなくていいぞ。ん~♪昼間っから湯に浸かり飲む酒は格別だな♪」

「星!あまり飲み過ぎるなよ。」

「堅いことを言うな、愛紗。」

 ワイワイと言いながら湯に浸かるみんなや、泳ぎ回っている美以たちを眺めた後。

 桃香は湯を両手ですくって見る。

 その手は以前、筵や草鞋を編むためヒビやアカギレで悩まされていた。

 

『温泉には傷を治す効能があるって言うからその頃から連れて行ってあげたかったな。』

 

 そんな一刀の言葉を思い出し、一人微笑む桃香だった。

 

 

漢女湯

【エクストラturn】

「誰得かって言うとぉ♪」

「それは当然私達♪」

 貂蝉と卑弥呼もしっかり男湯を覗いていた。

 

 

 

 

あとがき

 

 

投稿する時期の季節を無視した

冬のような夏のようなお話になりました。

 

寒い季節は暖かい所に行きたくなりますよね

そんな気持ちを思い出しながら書いていました。

 

蓮華が華琳に象をプレゼント

これは『曹沖称象』という逸話の事。

孫権から送られた象の大きさに驚いた曹操が

重さの測り方を家臣に考えさせた所

息子の一人曹沖くんが象を船に乗せてその沈んだ分と

同じ重さの物を積めば測れると教えたという故事です。

 

明命暴走

本物の猫相手ならこんな事にはならなかったと思いますが

美以たちが簡単に捕まえられるので抑えが効かなくなっているようですw

 

温泉

こちらは三国志演義に登場する孟獲の兄、孟節の話が元ネタです。

戦も終わり、一刀がその欲望を解放しはじめましたw

女湯のシーンはみなさんの妄想力でその姿を補完してくださいw

 

 

次回は建業、許都の様子と

袁家の五人が再登場!

成都に来襲する予定です。

 

 

 


 
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