No.42486

不思議的乙女少女と現実的乙女少女の日常8 『良く晴れた空3』

バグさん

リコとヤカは、エリーの屋敷へ入ります。そこで、あまりにスケールが異なる屋敷に再度圧倒される事に。

2008-11-19 20:03:40 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:431   閲覧ユーザー数:420

見誤っていた。

 

 リコは、そこに足を踏み入れた瞬間、愚か者、と自分を卑下する事に何の躊躇も覚えなかった。

 

 エリーの屋敷。花刻家の屋敷。

 

 その玄関。

 

 荘厳。

 

 その一言が正に相応しい。

 

 塵一つ無いほどに磨き上げられた、靴を脱ぐ玄関先。靴を脱いだ先の床は赤い絨毯が…………端にビラビラの付いた赤い絨毯で覆われていた。床の端の方は元々の床が露出しているが、その床は鏡の様に世界を反射させている。

 

 何よりも驚いたのは、その大きさであった。とにかく大きいのだ。リコとヤカの住宅など、纏めて入って余りあるほどの高さと広さがそこに広がっていた。

 

 見誤っていた、というのは正にそのままの意味である。外観から感じられる大きさよりも、中に入って視た大きさは数倍に感じられた。大きすぎるのだ。身長何メートルの人間が住んでいるんですか? と問いたくなるくらいに大きかった。

 

 もちろん、ここに居を構えている人間の中には友人も含まれているのだから、普通の人間が住んでいるのはまず間違い無いが。

 

 玄関には、入り口を起点として両側に十数人のメイド服を着用した女性が、恭しくリコ達に向かって礼をしていた。つまりは、それくらい玄関が大きいのだ、という事が言いたい。

 

 だが、それに反してそこここに置かれた調度はそのままであるので、妙な錯覚を起こしそうだった。

 

 殺風景に感じられた屋敷の外観であったが、内側から見ればまた違った感想を持つ。中世ヨーロッパの趣を感じさせる造りだ。玄関の扉の両側には大きなステンドグラスが配され、教会の様に聖と静の空気を醸し出している。

 

 天井には大きなシャンデリアだ。アレが落ちてきたら3、4人くらいは軽く押しつぶされるのだろうなあ、とリコは不吉な事を考える。その灯火部分は蝋燭の形をしていたが、実際に火が付いているわけでは無く、その形をしているのはただのデザインの様だ。

 

 リコが立ち尽くしていると、ヤカがぼんやりと言った。

 

「これが私の物になるのかぁ」

 

「ならんわっ! え? なにそれ。お家乗っ取り? 遺産相続?」

 

 リコのツッコミにもヤカは動じず、ぼんやりとした表情でふひ、ふひひと笑っている。涎すら僅かに垂らしている。

 

やばい。眼がやばい。焦点を失っている。

 

本格的に幻想世界にトリップしてしまっている。ヤカの足元にあるのは床では無くて、きっと金の延べ棒が敷き詰められた黄金世界だ。

 

「ヤカ! 眼を! 眼を覚ますのよ!」

 

 バシンバシンと頬を叩くと、ヤカの眼が正気を取り戻した。

 

「あんた、一回来た事あるんじゃないの? 取り乱し過ぎよ」

 

「いやぁ、この前は色々あったから余裕無くて」

 

「…………何があったの?」

 

「いろいろー」

 

 基本的にお花畑が咲いている頭を持つヤカは、そんな事を良いながらその場で一回転した。

 

そして。

 

「あ、あの。…………よろしいですか?」

 

 冷や汗を垂らしながら、

 

「履物をお預かりします」

 

 2人の、メイド服を着た如何にもメイドなメイドさんが、玄関で立ち尽くして

いる2人に対して丁寧に会釈した。

 

如何にもメイドなメイドさん、と言っても、専門喫茶店に居そうなそれとは違った。服装は確かにそれに近いが、身にまとうオーラが違った。あちらは『喫茶店』というカテゴリーの現実の中で客にフロアスタッフとしてのサービスを提供する事が目的であるが、彼女等は雇い主が快適に過ごすため、その命令に従うことが義務付けられている本職なのだ。プロ意識というものだろう。

 

「邸内のお客様はこちらを履いて頂く事になっております」

 

 リコとヤカの靴を受け取りながら、その履物とやらを受け取る。

 

新品か、あるいはそれに近い状態に保たれている靴だった。歩きやすさを考慮してか、スニーカーの形状に近かった。ただのスニーカーと異なるのは、そのデザインもさることながら、使われている素材だろうか。リコには素材について詳しいことなど分かりよう筈も無いのだが、履き心地から相当に良い物が使われている様に感じた。

 

「うわ…………私の持ってるスニーカーと全然違う」

 

 何となく感動しながら、屋敷の中で靴を履くのは欧米スタイルだろうか? などと考える。汚れていない真新しい靴を提供するのは、掃除の手間を省くためだろうか。

 

「そういえば、エリーはどこだろぅ」

 

「そうね、てっきり門前で待っていてくれるものかと思ったんだけど」

 

「私、前に来た時は地下から侵入して地下から帰ったからなぁ。エリーの部屋の場所なんて、さすがに分からないや」

 

「…………あんた、前はほんとに何しに来たのよ」

 

 礼をした後、メイド達は忙しそうに何処へ立ち去ってしまった。仕事中なのだろう。無理も無い。なので、エリーの部屋の場所を聞き出す、という手段は存在しない。家の中を勝手に動き回るのはどうかと思ったのもある。

 

「…………案内くらいしてくれたら良いのに」

 

 靴の面倒は見れても、本人達の面倒を見れないとは何とも妙な話だった。

 

妙と言えば。

 

玄関は、良く考えてみれば妙な空間だった。もちろん、その規格外のスケールは除いて、だ。

 

なんというか…………玄関としての用途のみ果たしている感じで。

 

玄関なので、当然それはそうであるべきなのだが、リコが抱いた感想はそういう事では無い。

 

(…………もっと、階段とか奥行きとかがある者じゃない?)

 

 その玄関の構造は全く奇妙だった。

 

縦に小さく横に長く。そんな感じだった。縦に小さく、とはいえ、十数メートルあるために十分大きい。横の長さと比較した場合の話だ。横の長さはもっとあり、その両端の壁にはドアがあり、別の部屋との繋がりを持っている様だ。そのドアは、イギリスの城に設えられている様なものに似ていた。以前、ドキュメンタリー番組か何かで見たような気がする。

 

(なんだか、この玄関が通路の一部の様な…………?)

 

 と、その時、何処かから声が聞こえてきた。

 

エリーの声だ。

 

声は真正面から聞こえてくる。

 

そこで、リコは気になっていたそれに眼を向けた。

 

玄関の横に広がった空間の端にはドアが存在した。だが、縦には別のものが存在した。円状に大きく繰り抜かれた形をした、普通とは少し異なる扉である。

 

リコとヤカは眼を合わせて、扉に近付くとそっと開いた。扉は予想以上に軽かった。

 

「うわ…………?」

 

「なるほどねぃ」

 

扉の向こう側。そこは、この屋敷に来るまでに広がっていた空間と似たようなそれであった。

 

つまり、芝生と木が存在する庭の様な感じであった。中庭であろうか。

 

 

 一つ異なるのは、ゴシック調の屋敷がかなり離れた場所に有るという事だけだ。その屋敷から、エリーの声が聞こえてきた。本当に、小さくだが。

 

 リコとヤカは中庭に立って初めて、靴を預けた空間の全容を知った。

 

「円…………?」

 

白い壁が、円状に中庭を取り囲んでいた。白い壁は、リコとヤカが玄関として認識していた建物と同一の建造物だ。中庭はかなり大きく、取り囲む白い壁の終りが見えない。

 

丁寧に刈り込まれた木々や良く整理された花壇、アーチ状の橋に大きな池も見える。

 

ゴシック調の建造物までには赤レンガで導かれていた。

 

その屋敷には当然玄関が付いており、エリーはそこで手を振っていた。

 

あはっ、小さく叫んでヤカが走り出した。仕方無しにリコも走る。レンガで綺麗に舗装された道の上を、タッタッ、と駆けて行く。

 

運動神経の良いヤカにはあっという間に離されてしまったが、なんとかエリーの元までたどり着いた。

 

そこまで走ってリコは気が付いたが、赤レンガの道は、通ってきたそれ一つだけでは無かった。ゴシック調の屋敷の左右からも延びている。きっと屋敷の後ろからも延びているだろう。ゴシック調の屋敷を取り囲んでいる白い壁と連絡している。

 

「リコ、おっそーい」

 

「はぁ、はぁ、あんたが…………はぁ、速過ぎるの、よ」

 

 息を大きく切らしながら、息一つ切らしていないヤカを睨む。なんだろうか、このスペックの差は。天界の人間運動能力技術開発システムに異論を唱えたい気分だ。そんな場所があれば、だが。

 

「こんにちわ、リコさん」

 

「一泊二日、お世話になるわよ」

 

 エリーは当然の事ながら制服から着替えていた。そういえば、私服を見るのは初めてだったかもしれない。

 

Tーシャツにデニムという、金持ちとは思えないシンプルな服装だ。リコの服装とほとんど同じであったが…………シンプルなだけにスタイルの違いがとても…………凄い出てしまう。

 

モデル並の体型を誇るエリーは胸が凄い。あと、足の長さも凄い。

 

シャツが突起を起点にして皴をたくさん作っているのがとても羨ましかった。アンタの胸は兵器だよあれか高級な乳製品とってたらそうなるのかと問いたかった。

 

まあ、とにもかくにも、笑顔のエリーと手を合わせて、快く迎え入れられたのだった。

 


 
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