姉が約束の期限までに帰ってこなかった。
姉は僕との約束だけは何があっても破らない。
故に導き出される結論はただ一つ。
負けたのであろう犯罪組織マジェコンヌに。
だがここで慌てる事は許されない、感情に流される事は許されない。
僕は直ぐ様行動に出た。
グリーンハートの敗北を住民達に演説を行い伝えた。
ただし大量の尾ひれを付けて。
悪い話しが嘘を練り混ぜて伝えた。
女神グリーンハートは犯罪組織に敗北した。
だがそれは不足の自体があった為であると。
例えば人質を取られた。
例えば他の女神を庇った。
犯罪組織が卑怯極まりない手を使い女神を貶めた。
そう伝えた事によってリーンボックスのシェアの大幅な低下は防がれた。
それでも自国内の保有シェア値は76%まで下がってしまったが。
そこからは失ってしまったシェアを取り返す為に翻弄した。
寝ずに働き詰めの日々を過ごす内に月日は経ち既に二年と半年が経過していた。
そして今僕はリーンボックス近くのダンジョンに一人で来ていた。
理由は簡単。
ご招待を受けたからだ。
「これはこれは、わさわざご足労ありがとうございますリーンボックスの女神候補生様。」
「御託はいいです。僕に何の様ですか犯罪組織?」
呼び出してきたのは犯罪組織マジェコンヌ。
リーンボックス近くのダンジョンを指定し、尚且つリーンボックスの女神候補生である僕が一人で来る様にとの事であった。
そうすればこちら側にとって有意義な情報を提供するとの条件であった。
だから来た。無論一人で。
反対はされた。けれどもここで何も行動を起こさなかったら女神候補生が犯罪組織を恐れて行動を起こさなかったとも取られかねない。
「用と言う程の事ではありません。私は貴方を見る様に言われて来ただけです。本当でしたら可愛らしい幼女達でも愛でていたかっただけです。」
実に残念だと嘆息するのは金髪を腰まで伸ばし神父服を着た背丈がかなりの高さの優男。
「見る?」
「えぇ、そうですとも。女神がいなくなったにも関わらず我々に屈せずに尚且つ勝ち続けている貴方を見に来たのですよ。」
優男は細い垂れた目をさらに細めると自らの手を胸に添えて親しい友人に話し掛けるかの如く柔らかい口調でこちらに語りかけてくる。
「戦いますか?」
「それもいいですがもっと有意義な選択をしましょう。」
「有意義な選択?」
「そう。例えばこれを見てください。」
そう言って優男は指を一度鳴らすとまるで手品の如くどこからともなく一枚の写真を取り出す。
「子供?」
「正確なカテゴライズは幼女。あぁ実に素晴らしい。そうは思いませんか貴方は?この穢れなき姿は。」
熱に魘されてかの如く顔を赤らめうっとりとした様子でそれを見つめる優男。
確かにその写真に載っている子供達は世間一般的に言えば可愛らしいのかもしれない。
「……術式固定。斬撃・派。」
「わ、私の幼女がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
お前はキモイ。
だから槍から斬撃を跳ばして写真ごと右手を切断する……はずだったのが。
「右手が残っている?」
斬撃で飛ばそうとした筈の腕は何事もなかったかの如く顕在しており神父服の肩口先が切り裂かれていた。
「ぬぅぅぅぅおおおおおおおおお!!」
「来る?」
優男から放たれた怒号。つまりそれは奴が怒っている証拠。原因を作ったのが自分とはいえ相手が怒りに身を任せているというのなら僕にとっては殺りやすい。
「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ。なんちゃって。」
「……?」
「ご安心ください幼女はまだいます。しかも幼稚園児です。」
咆哮をおさえ神父は新たに子供の写真を取り出す。
どうして僕の周りには変な人ばかり集まるのだろうか。
「……結局貴方は何なんですか?戦いに来たんですか?」
「できれば幼女について語りたかったのですが致し方ありません。戦いましょう。そうした方がいろいろ都合が良いのでしょう。貴方にとっても私にとっても。」
「戦いを始めるなら一応名を名乗っておきます。リーンボックスの女神候補生ユウです。」
「知っていますよ。貴方は自分が思っている以上に有名なんですよ。私の名は私に勝てたら教えてさしあげましょう。」
そう言って神父は構える。
その構えは八極拳であろう。確か広乃さんがココロさんをお仕置きする時に使っていた物。
まぁそれは置いておくとしてこの神父凄く隙だらけなんだけれど何処に拳を打ち込むことも、槍を突き刺ことも容易に可能である。
だけどこの神父はそれはやりにくい、というかしにくい。
口で説明するのも難しい。
かと言って身振り手振りで説明するのも難しい。
強いて言うなら…………。
「貴方嫌な奴ですね。」
「生憎のところ私は礼儀正しくないものですから。……ではこうしましょうもし私に勝てたら貴方のお姉さんが今どうなっているかも教えて差し上げましょう。」
「……術式固定。」
神父のその言葉を聞いた瞬間に僕は槍を蜻蛉切を構えなおして術式を発動する。
「おやおや、わかりやすい人だ。」
こうしてリーンボックスの運命をかけた第三戦目が始まろうとしていた。
そう……三戦目が。
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