[記録(某月某日)]
[風都に飛ばされて今日でもう一週間]
[あいかわらず鳴海探偵事務所は、閑古鳥の巣窟になっています]
[依頼人はこの一週間で一人。それもペット探しというものでした]
[おかげで事務所は今日も赤字。ご飯も切り詰めてギリギリと言う状況です]
[そこで僕もアルバイトを始めることに決めました]
[翔太郎さんたちには大丈夫だと言われましたけど]
[『働かざるもの食うべからず』ですし、僕も働かないと]
[そんなこんなで職探しをしていたんですけど]
[どこも雇ってくれる余裕は無いようで、途方にくれていると]
[一人の男性に呼び止められました]
[その人はおでん屋さんだそうで、]
[僕がよっぽど気落ちしていた顔をしていたんでしょう、]
[相談に乗ってくれました]
[話を聞いてくれたその人は、唐突に「俺が雇おう」と言い出したんです]
[僕は迷惑だろうと言ったのですが、
[なんでもおばあさんが困っている人は放っておくなと言っていたそうなので]
[むしろ強引に雇われてしまいました]
[そのお店の名前は『天道屋』。とても美味しいおでんを作っているお店です]
[さて、明日もがんばってアルバイトしないと]
「天道さん、テーブル磨き終わりましたよ。次は何をすればよろしいですか?」
「ああ、次は椅子をきちんと並べてくれ。
お客様に気持ちよく食べていただけるようにな」
「了解です」
「いいか聡里、おばあちゃんが言っていた。
『病は飯から。食べるという字は、人を良くすると書く』ってな。
俺の作った飯を気持ちよく食べていただく。それがこの『天道屋』だ」
「はい、承知しています。天道総司(てんどうそうじ)さん」
「ならいい。さぁ、もうまもなく開店だ。準備を急げ」
「はい!椅子並べてきます!」
こういった感じで二、三日前からバイトをしています。
店主は天道総司さん。『おばあちゃんが言っていた』が口癖で、
なにか不思議に惹かれる人です。
綺麗な妹さんの樹花(じゅか)さんも元気にお手伝いしているようで、
正直僕がいるのが場違いのような気もします。
……でも、天道さんってどこかで見たことあるような……?
そんな風に考え事をしていると声を掛けられた。
「……聡里、聞いているのか?」
という天道さんの声で我に帰る僕。しまった、仕事中だった!
「あ、すみません。ちょっと考え事をしてしまって。何の話でしたっけ?」
「お前の給料の話だ。お前は中々物覚えがいい。
少し給料を上げてやっても良いと思ってな」
「そ、そんな。雇ってもらえただけでも大助かりなのに、良いですよ。
……あ、でも」
「なんだ?言ってみろ」
「これから家に帰るときここのおでんを少し戴いて帰っていいですか?
ここのおでんが食べられるなら事務所のみんなも喜ぶと思うので」
そう僕が言うと天道さんは少し驚いたような顔をして、
「事務所?何の事務所だ?」
と聞いてきた。そういえば言ってなかったかな。
「鳴海探偵事務所って言う探偵事務所で助手兼雑用をさせていただいてるんです、
住み込みで。ちょっと事情があって実家に帰れないもので。はいこれ名刺です」
そう言って僕は事務所で作った名刺を差し出すと、天道さんは納得したようだった。
「なるほど。その事務所の経営はうまくいってはいないようだな」
「はい、そうなんです。といっても、お客さんが居ないだけなんですけど」
「腕自体はいい、ということか。判った。
俺も何か困ったことがあれば相談させてもらおう」
「え、本当ですか?でも、天道さんなら大抵の事は解決できてしまいそうな……」
「フ、確かにな。だが、一人では限界があるというのもまた事実だ」
「ええ、確かに。それは痛感します」
「だが、この事務所なら大丈夫そうだ。何せ、『風都の守護者』だからな」
「はい。……って、え!?」
天道さん、まさか翔太郎さんたちのことに気づいてる……!?
「天道さん、あなたは……」
「おっと聡里、時間はいいのか?仕事も終わったことだ。今日はもう帰るといい」
そう言い切られては、粘ることはできなかった。
「明日もよろしくおねがいします」
「こちらこそだ。それから、これを持って行け」
そういって渡されたのは、天道屋のおでん(四人前)だった。
「ありがとうございます」
そう返事をし、僕は家路に着いた。
そして事務所について、中に入る寸前に気がついた。
(天道さんはなんで四人だって知ってるの!?)
天道さん、おそるべし……
「「う・ま・い・ぞぉぉぉぉぉぉ!」」
「これがおでんという食べ物か……とても興味深い。早速検索を!」
「食事中に検索はお行儀が悪いから食べ終わってからにして下さい!」
味王様みたいになっている翔太郎さんと亜樹子さん、
検索モードに入ったフィリップさんがにぎやかな中で、
僕は少し考え事をしていました。
(天道さんはなんでこの事務所の事を知ってるんだ?
それに、見たことあると思うのに思い出せない……まさか)
そこまで考えた所で、亜樹子さんが僕に話を振ってきた。
「聡里くん、いいアルバイト先見つけたね~。
こんな美味しいおでん食べたのは初めてだよ!」
「ああ。今度食べに行きたいな。なんて名前の店だっけか?」
「天道屋っていうおでん屋さんですよ、翔太郎さん。知ってますか?」
「いや、知らねぇな……」
「ごちそうさま!さぁ、検索を始めよう!!」
そういい速攻でガレージに入ろうとするフィリップさん。
「フィリップさん!食器を洗って下さい!」
「えー」
「い・い・で・す・よ・ね?(ハリセン装備)」
「判ったよ。聡里くん」
その一言と共に自分の分の食器を持って台所へ直行するフィリップさん。
「(聡里くんって怒ると怖いよね……)」
「(ああ、キレたときのアイツの背後にはおやっさん以上の脅威が見えるぜ……)」
「ん、翔太郎さん、亜樹子さん。お二人とも、何か言いましたか?」
「「いえなんにも」」
「?」
その翌日。僕が天道さんにもらったおでんの食器をもって天道屋へ向かっていると、
いきなり柄の悪い男の人がプレハブ倉庫の壁を突き破って飛んできた!
「ッ!?大丈夫ですか!!」
僕がそう声を掛けるけれど反応はなし。
脈はあったから生きているけれど全身打撲くらいか、もっと酷いか……
「貴様、私の仕事の邪魔をするな。どけ」
そういい現れたのは……
「ドーパント!」
そう、流線型で空気抵抗が少なそうなデザインをしたドーパントが、
大股でこちらに向かって歩いて来ていた。
「俺はその男への『復讐』を代行しに来た。邪魔をするな」
「そんなことできませんね。本人にさせればいいでしょう、復讐なんて!
それに、ドーパントなら放って置けませんしね!」
そういい、僕はロストドライバーMとメモリーメモリを取り出す。
「お前、そのメモリ、それにベルトは!?」
[MEMORY!]
「行きますよ……変っ身!」
ロストドライバーMの、
通常のロストドライバーとは逆にある変身用のスロットに
メモリーメモリを左手で挿入。
そのあと左手の指をピストルのような形にして左下から右上に向かって伸ばし、
右手を左下に降ろしつつベルトを展開、変身する!
[MEMORY!]
僕を地球の記憶の光が包み、それが結晶となって装甲が形成され変身が完了した。
「お前が……仮面ライダー!」
「といっても、助手の方ですけどね。さて、貴方の記憶、見せてもらいます!」
決め台詞と共に僕は走り出す!
「破ッ!」
掛け声と共にパンチを叩き込もうとしたけれど、
振り切った瞬間にはすでにドーパントはそこには居ない。
「なっ、何処に!?」
「ここだ、ここ」
言い放ったドーパントは、僕の後ろに立って回し蹴りのモーションに入っていた!
「しまっ……!?」
「させるかよ!」
その声と共に横から緑色の風の銃撃が飛んでくる。この攻撃は!
「翔太郎さん、フィリップさん!やっと来ましたね!」
僕がそう叫ぶと、
ハードボイルダーで駆けつけたWはホークフォンを取り出してきた。
「ああ、お前が知らせてくれなかったら気づかなかったぜ」
『咄嗟にホークフォンに伝令させるとは、よく考えたね』
「そんなことより、今はコイツを!」
「『ああ!』」
そしてW・サイクロントリガーはドーパントを攻撃しようとする。
が、高速移動で回避されてしまう。
「なんだコイツは、物凄ぇ速さだぞ!?」
『落ち着きたまえ翔太郎。こういうときは、このメモリで行こう』
[LUNA!]
「ああ、そうだなフィリップ。行くぜ!」
[LUNA!][TRIGGER!]
ガイアウィスパーが鳴り響くと共にWがハーフチェンジ、
W・ルナトリガーになった。
「行くぞ、聡里!」
「はい、ダブル!」
僕もメモリーマグナムを装備し同時に射撃をかける。
僕の牽制でドーパントが逃げたところに、ルナトリガーの射撃が迫る!
「クッ、こうなれば『あれ』を使いますか……!」
そういうと、ドーパントはある『メモリ』を取り出した。
「やった……のではないみたいですね」
「ああ……アイツ、どこに行きやがった!?」
射撃は確かに着弾したと思った。
しかし、着弾地点にはドーパントの姿も、被弾の痕跡すらなかった。
その時、なにかが恐ろしい速さで接近し、僕とダブルを吹き飛ばした!
「かはっ……!?」
「ぐあぁっ!?」
『翔太郎、大丈夫かい!?』
そう、高速移動してきたのはドーパント。しかし、速度が明らかにおかしい!
「まさか、このメモリまで使う羽目になろうとは……仮面ライダー、侮れん」
その手に握られていたものは、ガイアメモリ。
しかし、そこに書いてあった文字は……
「『ワーム』……だって……?そんな馬鹿な!」
「どうした聡里!あのメモリがどうかしたのか!」
「フン、教えてやろう。このメモリは『パッチメモリ』と言い、
ドーパントに更なる能力を与えるものだ。このメモリは『ワームメモリ』。
超高速移動・クロックアップを可能にするものだ。
これがある限り、お前たちは私には勝てない」
「クロックアップ、だと?」
『そんなメモリ、有り得ない!第一僕の本棚にもそんな記憶は……』
「いえ、フィリップさん。その記憶は本棚にあります。メモリーの方の」
僕がそういうと、
メモリーメモリ側の本棚にある、一冊の『本』のロックが外されようとしていた。
『……これは、『KABUTO』の記憶?』
フィリップさんもその感覚を感じ取ったようだった。
「ええ。そのライダーの敵の力なんですよ。クロックアップは」
「だが、なぜその力がドーパントのメモリに?」
「そこまでは……ッ、危ない!」
僕がそう叫んだが時すでに遅く、ダブルは胴体を攻撃され、メモリ……
ルナメモリとトリガーメモリを奪われてしまった。
『しまった、僕たちのメモリが!』
「ルナトリガーになれなかったらあのスピードに追いつくのは無茶だぞ!?」
「いえ、たとえルナトリガーでもかなりキツいですよ……!?」
その時だった。横合いから『赤い影』が翔けて来たのは。
「なんだと!?他にもワームメモリの使用者が!?」
そうドーパントがうろたえるが、違う。
「あれは……クロックアップシステム。
ワームのクロックアップをシステムで再現した、仮面ライダー」
「あれが……ライダー?聡里、どういうことだ!」
『聡里くん、あのライダー、わかるかい?』
「僕らのようなガイアメモリで変身するのではなく、
ゼクターと呼ばれる虫型メカによって変身するメカライダー、あれが……」
その影は僕らとドーパントの中間の位置に立ち止まり、こちらを見る。
「……カブト。仮面ライダーカブト!」
『カブト……あれは誰なんだ?』
「おい、お前誰なんだ!?」
翔太郎さんの質問に、カブトは天を指差す。
「え?この仕草は……!」
それを以前に見たのは、数日前、天道屋の前。
『あなたは、誰ですか?』
『俺か?俺は、天の道を往き……』
「……総てを司る男」
そうして、カブトはこちらを向き、答える。
「天道総司」
その台詞を聞いた瞬間、僕の脳内で記憶が溢れ返る。
「ッ!くぅっ……思い出せた。カブトの……記憶を!」
「く、相手もクロックアップが使えるとは!ここは一旦!」
ドーパントはクロックアップを使い逃走していった。
「おい待ちやがれ、ドーパント!」
『待つんだ翔太郎!
今後を追ってもルナとトリガーのメモリがない以上圧倒的に不利だ!』
フィリップさんの一言に、翔太郎さんも追おうとしていたのをやめる。
「くっそ、油断したぜ……」
『だが、まさかあんな能力があるとは想定できなかった。それよりも、まずは』
「ああ、天道とかいうあの男だな」
その後、僕らと天道さんは鳴海探偵事務所に集まっていた。
その理由はドーパントの対策を考えるためである。
「なぁ、あんたの能力であっちのクロックアップに対抗できないのか?」
と、翔太郎さん。
「生憎、今のカブトは能力の大半を封じられている。
俺は元々別の世界の住人だったが、俺の世界の戦いは終わっていたからな。
この世界での生活を楽しませてもらっている。
幸いといえるのか判らないが家族も全員一緒だからな」
あくまでも我が道を往く天道さん。さすがというかなんというか。
「まあそれはいい。だが、俺も有事の際には協力させてもらおう」
「いいんですか、天道さん。けっこう危険ですよ、ドーパントは」
「クロックアップに比べれば軽いものだ」
「「「それは確かに」」」
と僕&翔太郎さん&フィリップさん。
なんせ神速ライダーとその敵だから、説得力がある。
あ、ちなみに今所亜樹子さんは絶賛情報収集中です。
街中で聞き込みしてます。
「それにしても、カブトか。興味深いね。もうすこし詳しく調べたいものだけど」
「あ、だったらデータ出しますよ?」
「「ええっ!?」」
答えた僕に、驚くダブルコンビ。
「フィリップさんの作ってくれたマンタレイライブラリの機能を使います。
さぁて、起動、っと」
僕はマンタレイライブラリをPCモードで起動、
メモリスロットにメモリーメモリをセットし、『ライブラリモード』を起動する。
「ライダーズデータ呼び出し、まずは『マスクドライダー』!」
そのコールと共に音声認識でデータが検索され、ライダーの概要が表示される。
「マスクドライダーシステム。
未知の生命体『ワーム』に対抗するために
『ZECT』という組織により作り出されたシステム。
装甲は未知の金属である『ヒヒイロノカネ』によって構成されている。
一段階目の変身は『マスクドフォーム』と呼称されており、
重装甲による高い防御力を誇る。
これは一部のみ排除・装着といったことも可能。
この形態から外装甲を排除、高機動形態になる
『キャストオフ』により『ライダーフォーム』に変化する。
キャストオフ後のライダーフォームの特徴は、
タキオンエネルギーにより時間流を操作し、
擬似的な超高速移動を生み出す『クロックアップシステム』。
クロックアップシステムはワームの能力である
クロックアップに並ぶシステムとして製作され、
唯一対抗が可能と言われているシステム。
また、変身ツールであり、コアである『ゼクター』と呼ばれる昆虫型メカが
意思を持っており変身者を選ぶのも特徴の一つで、
殆どのゼクターのモチーフは昆虫になっている。」
「凄いものだね、まるで僕の『検索』みたいだ」
「ああ、メモリーメモリの検索は聡里の独壇場だな」
「俺たちのデータがここまで集められている?なぜここまで……」
「それは僕にもさっぱり。じゃあ次行きます。
検索項目、『仮面ライダーカブト』!」
そうコールすると、また情報が検索、表示される。
「仮面ライダーカブト。
カブトムシがモチーフのマスクドライダー。
誕生の詳細を知るものには『光を支配せし太陽の神』と呼ばれる。
必殺技数が16と平成ライダー中でも多い。装着者は天道総司。
ハイパーゼクターを使いこなすライダーであり、
そのシステムにはワームを装着者の意思に関係なく完全撃破する、
『暴走スイッチ』が搭載されている。」
「……こんなところです。データはフィリップさんの側にも送っておきました」
「ありがとう、聡里くん。こんどゆっくり閲覧させてもらうよ」
「に、してもあのドーパント、厄介だな。
どうにかして正体を突き止めて、メモリを取り返さないとな」
「ああ。俺も安心して店を続けたいからな」
「そういえば、天道さんはどうしてあのドーパントを追っていたんですか?」
僕の疑問に天道さんは答える。
「どうやら、俺に恨みを持った奴がいるらしくてな。俺も狙われた。
一応追い払いはしたのだが、まだ狙われているらしい。
だが、おばあちゃんが言っていた。
『この世にまずい飯屋と悪が栄えた試しはない』ってな。
必ず捕まえることができるだろう。では、俺は店に戻らせてもらおう。
商売があるからな」
天道さんは立ち上がり、お店に戻ろうとした。
「あ、僕も行きます」
「いや、お前はあのドーパントとやらを探してくれ。
これは『依頼』だ。頼めるな? 」
「! ……判りました。その依頼、受けます!」
僕がそういった瞬間、後ろからスリッパが振り下ろされる。
「あっぶな!?」
ギリギリ回避成功!
「かわされた!?じゃなくて聡里くん!
そういうことは私たちに一言相談してからにしなさい!
……でも受ける!」
「亜樹子さん、ありがとうございます!」
「え~、それで依頼量の方は……」
……さすが亜樹子さん、関西人だな~。お金の事はしっかりしてる。
「ああ、この位でどうだ?」
天道さんが金額を書いて渡した依頼書をみた亜樹子さんは、目を丸くしていた。
「ホントにいいんですか!?こんなに!?」
「勿論だ。うちの店の窓ガラスを割った奴に対して、
言ってやりたいことがあるからな。
捕まえるときには呼び出してくれ。頼んだぞ」
そういい、今度こそ天道さんは帰っていった。
続く
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今回はカブト回です。