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第3話 悪魔 - 機動戦士ガンダムOO × FSS

木星の衛星軌道上に現れた小型宇宙船。ガデラーザ・ブレイヴの混成小隊を血祭りに上げた宇宙船は地球に舵を取った。迎撃に向かったGN-X部隊とついに衝突する。

2012-05-14 00:47:22 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:2579   閲覧ユーザー数:2548

第3話 悪魔 - 機動戦士ガンダムOO × FSS

 その建物の一室には多くのモニターやコンソールが並び、世界各地の映像や軌道エレベーターから宇宙空間の様子までが映し出されている。

 その内の一つのモニターには、ガデラーザとブレイヴの小隊が謎の宇宙船の奇襲を受けて撃墜される映像がリピート再生されていた。この映像は地球連邦軍も知り得ない情報である。

 その中でも一番大きいメインモニターには刹那とクアンタが宇宙空間へ向けて急上昇していく様子すらも映し出されていたのだ。

 

「やはり、刹那は彼女を救うため行ってしまいました。」

「はい。」

 

 モニターを見ていた少女が、傍らに立つ長身の男に話しかける。

 

「司令。もう一度確認します。刹那とダブルオークアンタが奴ら(・・)と戦った場合の勝率は?」

「ドウターの計算ではGNT-0000(・・・・・・・・)ダブルオークアンタでは勝率は、ほぼ0%に近い結果が出ています。」

「……ソープ様のMHでも手を焼く相手ですものね。やはり、ここで彼らは死ぬのでしょうか。」

「それが彼らの運命というのであれば、そうなのでしょう。」

「そう……刹那・F・セイエイとマリナ・イスマイールの運命の糸は間もなく途絶える事になりますね。」

 

 彼らこそが先日から、いやもしかすると遙か以前より、刹那・F・セイエイとマリナ・イスマイールの死に対して準備を進めてきた集団であった。彼らはこの場所で今まさに悪魔(サタン)と戦うべく出撃した刹那を監視していたのだ。

 男の立ち位置からは「姫様」と呼ばれる小柄な少女の表情を伺うことができないが、言葉の端々から悲しんでいる様子が伝わっていた。そんな少女の気持ちを酌んだのか、長身の男は小さなため息をつくと今度は男の方から話し始める。

 

「ただ」

「ただ?」

「我々が掴んでいるデータは51年前のものです。」

 

 少女はハッとする。彼らがどのようにしてダブルオークアンタの情報を入手したかは定かではないが、彼らが持ちうる情報は51年前のELS襲来時のGNT-0000 ダブルオークアンタの性能情報でしかなかった。今、彼らの目の前の巨大モニターに映し出されていたダブルオークアンタは51年前の機体とは明らかに違う機体、ELSと融合し更に未知なる技術が盛り込まれている。ミレイナの言葉の借りるのであればGNT-0000[E] ELSダブルオークアンタである。

 

「そして刹那・F・セイエイ。地球人類初のイノベイターでありELSと融合した新生命体です。」

「なるほど。彼らなら運命を変える事が出来るかもしれない。と、そう司令は仰るわけですね。」

「ですが、楽観はできません。私も奴とは直接剣を交えていませんので実力は未知数です。」

「そうですか。」

「はい。」

 

「司令、私の運命(ディスティニー)の準備をお願いします。」

「姫様、どちらへ?」

「彼らの死に様を見届けに。せめて別れの一言ぐらい……伝えても良いでしょ?」

「……ふむ。わかりました。すぐに部下達に準備をさせます。」

「急いでください。」

 

 少女は踵を返すとそのまま管制室を退室していくと、入れ違いで今度は別の女性が足早に入室してきた。女性はハイヒールの踵をカツッと鳴らし男に敬礼をするが開口一番。

 

「司令? 姫様が出て行かれましたが、また要らない事を言ったんじゃないでしょうね?」

「私はダブルオークアンタの勝率は限りなくゼロに近いと申し上げただけだ。」

 

 女性は「司令」と呼ばれる食ってかかるのだが、そっけない返事に頭を押さえてしまう。あ~もうこれだから貴方(マスター)は! と心の中で呟くと、毎度のことなのか女性はすぐに立ち直り、再び食ってかかった。

 

「はぁ、まったく。そうやって姫様を焚きつけたんですね。」

「人聞きの悪いことをいうな。我々は現在の刹那とダブルオークアンタに関してのデータは一切持ち合わせていないのは事実だろう。そのためのデータ取りも兼ねてクリサリス公に出張って貰っているわけだが。」

「それはそうですが……。」

「もっとも、出現ポイントは裏をかかれたがな。それよりも報告は?」

「はい。そのクリサリス公より入電。救出した地球連邦軍のパイロットを引き渡し後、追尾中という事です。しかし光速移動(テレポート)は使えませんので刹那・F・セイエイとサタン達との会敵予想時刻は間に合わない可能性が出てきました。そのための指示を仰いでいます。」

「データ取りに支障が出るか。こういう時は量子ワープが行えるGNドライヴ機が羨ましく思えるな。」

「まったくです。」

「その他の報告は?」

「はい。司令の言いつけ通り、姫様の運命(ディスティニー)にオーバーホール済みの物干し竿(アレ)の取り付けが終わりました。」

 

 男の顔がニヤリと笑ったように見えた。

 

「良いタイミングだ。」

「はい? まさか司令!?」

「そのまさかだ。姫様に準備が出来たと伝えろ。奴には姫様のフォローをさせろ。」

 ミレイナからの一報で事態は急転した。

 

「セイエイさん! 緊急事態です。宇宙船はワープを突如終了。ワープアウト後、付近を航行中の地球連邦軍の戦艦に衝突しました! もう無茶苦茶です。」

 

 時間は刹那が宇宙空間にワープする前まで遡る。

 連絡を絶った小型宇宙船調査隊の捜索と増援のため、地球連邦軍はナイル級戦艦を緊急出動させていた。ガデラーザをも曳航できる巨大戦艦である。現在は同じく緊急出動要請を受けたMS部隊と航路上でランデブーする手筈だった。

 

 緊急要請を受けたMS部隊とは、GNビームライフル、NGNバズーカ、GNロングバレルビームライフルで武装し、長距離侵攻用にGNブースターと粒子増加タンクを装備した重装備型GN-X VI部隊である。

 総数12機、パイロットは皆イノベイターであり、GN-X VIもパイロットに合わせてカスタマイズが行われている。

 GN-X VI部隊はナイル級戦艦にて合流後、刹那同様にヴェーダの予想ワープアウトポイントに急行、『遊軍機』と協力して宇宙船を挟撃する作戦が軍本部より発令されていた。

 ただし友軍機の正体がソレスタルビーイングのガンダムという事は聞かされていない。勿論、刹那もGN-X部隊との挟撃作戦は聞かされていなかった。

「隊長、質問してもよろしいですか?」

「7番機、今は作戦行動中だ。個人的な質問は慎め」

「も、申し訳ございません」

 GNロングバレルビームライフルを装備したGN-X7番機のパイロットが部隊内通信で隊長機に通信を入れるが、副隊長機から遮られた。しかし、

「まぁそういうな。7番機、作戦行動中であるが、質問を許可する」

「ハ、隊長ありがとうございます。我々がワープアウトポイントで遭遇する友軍機というのはどこの部隊ですか? 我々より先に急行できる友軍部隊はこの近くにはいないはずですが……。第一、我が部隊だけで対応できるではありませんか。」

「フム、私も友軍機としか聞かされていない。しかし、我々と共同作戦が行えるだけの機体となると最新鋭機だろう。それも、かなりの戦闘能力を持った、な。」

 老練な隊長は何か心当たりがありそう表情を浮かべながら応える。もっとも音声通信のみで映像は部隊内には送られていないが。

「ありえません! GN-Xと互角に渡り合えるMSを私は知りません。それは我々が一番よく知っている事ではありませんか。たとえ相手がブレイヴIIでも模擬戦で我々のGN-X VIは後れをとるようなことはありません!」

「……残念だがそのブレイヴIIが撃墜された。ガデラーザも奇襲を受けて撃墜されたのだ。」

「信じられません! ガデラーザとブレイヴ・チームを壊滅させるなんて何かの間違いです。」

「残念ながら本当だ。だから俺たちで仇討ちをしてやろうってわけだ。」

「……了解。鼻持ちならない奴らでしたが、それでも我々の仲間です。仲間の仇を必ず討ちましょう。」

 7番機のパイロットは若いのだろうか血気盛んなようだ。

「そうだな。副隊長、戦艦からの通信は入っていないか? 着艦コースを仰ぎたい。」

 ナイル級戦艦が出すGN粒子の光を肉眼でも確認できる距離に近づきつつあったのだが、通信が入らない。

「こちらからも呼びかけを行っていますが、返信がありません。レーザー通信に(ザーーーー)」

 直後、酷いノイズが入り交じり通信が途絶えてしまう。

「(副隊長、どうした?通信が切れてしまったが通信機の故障か?)」

「(原因がわかりません。部隊内通信も行えなくなりました。レーザー通信に切り替えます。)」

すぐに脳量子波で通信を行えるのがイノベイターの利点であったが、機体のデータリンクは別の話だ。

ナイル級からもレーザー通信で部隊に通信が入り着艦許可が下りる。その時、

「隊長!」

 後続の10番機から通信が入った。

 9時方向の宇宙区間が歪むと宇宙船がワープアウトしてきたのだ。

「まずい、衝突コースだ。各機、着艦中止、戦艦から離れろ!」

 ヴェーダの予想を裏切るように宇宙船がワープアウトしたきたのだ。宇宙船は前方にGNフィールドのようにエネルギーフィールドを発生させるとナイル級戦艦のカタパルトデッキ側面に一直線に突っ込む。

「な、馬鹿なラム戦だと!?」

 ナイル級戦艦の艦長は緊急回避を命じるが間に合わない。

 太古の昔、水上艦が船首水線下に角を取り付け敵艦隊に体当たりした戦法だ。それをこの宇宙船は行ってきたのだ。

 戦艦にすさまじい衝撃が走る。宇宙船の体当たりにより戦艦前方のカタパルト部分と後方のデッキ・コンテナ部分が大きく割け、真っ二つにされてしまった。

「た、隊長! 戦艦が、轟沈します!」

 GN-X部隊の隊員達から動揺の声が漏れてくる。

「司令本部聞こえるか? 戦艦が敵宇宙船の体当たりにより撃沈した! おい、本部応答せよ! 本部!」

 副隊長機が地球連邦軍本部に通信を入れようとするが、やはり繋がらない。

「隊長、本部とも通信できません」

「何!?(この一連の通信障害はこの宇宙船からのジャミングか?)副隊長はそのまま呼び出しをつづけろ。11番機・12番機は戦艦の乗組員の救助に向かえ、残りはあの宇宙船を沈めるぞ!」

「了解。」

 宇宙船は戦艦の爆発の中から悠々と現れると今度はGN-X部隊に向けて舵を取る。

「戦艦の仇を取るぞ。全機、対艦ミサイル発射!」

 GN-Xの長距離GNブースターにはハードポイントが取り付けられており、任務に応じて武装を交換できるようになっている。

 今回は対艦ミサイルと多連装GNミサイルポッドを装備していた。

 この対艦ミサイルは51年前の作戦時に大型宇宙船の迎撃に出撃したGN-X部隊が粒子不足で宇宙船の攻撃に失敗した教訓から装備されたミサイルである。推進力にGN粒子を使用しており一時的ではあるがトランザム並みの急加速を行えるため一度ロックオンされたら並の戦闘艦では逃げることが困難である。

 

 合計10発の対艦ミサイルが迫るが宇宙船は真っ正面からミサイルに突進する。血迷ったのか? とGN-X部隊の隊員が思ったとき宇宙船の多数の砲門から豪雨のようなレーザーマシンガン(ビラルケマ)が発射された。次々と対艦ミサイルが打ち落とされミサイルの爆煙で宇宙船が見えなくなってしまう。しかし、 GN-X部隊はイノベイターパイロットである。すぐに宇宙船が煙の中を動き始めていることを察知する。

「各機、敵艦艇は健在だ。あいつのレーザー兵器を食らうとGNフィールドでも一溜まりもない。一旦、距離を置いてロングレンジから攻撃を行う。」

隊長の命令で一斉に散開する。GNブースターは粒子増加タンクと組み合わせる事によりフェリー航行だけではなく高機動戦にも利用できるのだ。

「ミサイルは落とせたが、こいつならどうだ!」

GNロングバレルビームライフルを装備した7番機が煙の中から姿を現した宇宙船の右舷に一撃を浴びせる。連射速度を落とした代わりに一撃の破壊力が大幅にあがっている。対艦・要塞攻撃に特化したビームライフルだ。

だが、ビームは直進し右舷にあたる直前で巨大な可動式ブレードで反射させられてしまった。

「な、俺たちのディフェンスロッドと同じ技術かよ!?」

 宇宙船に装備されていた可動式ブレードはアクティブバインダーと呼ばれる装備であったが、GN-X部隊のパイロットは知るはずもない。

「ビーム兵器が駄目なら!」

 宇宙船の正面に回り込んだGN-X2機がNGNバズーカを発射する。NGNバズーカは物理弾頭を発射することが可能だ。

 両機が発射したのは散弾である。流石のアクティブバインダーでも防御しきれず何発かは宇宙船の前面装甲に命中するが、散弾では威力が弱いため宇宙船の装甲を貫通することが出来ない。

 今度は宇宙船は全方位にレーザーマシンガンを発射しながら急加速してきた。

「なんて加速力だ!6番機・9番機逃げろ!」

 宇宙船の正面に展開しNGNバズーカを発射していたGN-X2機だ。

「くそったれ、散弾を使い果たした。」

 NGNバズーカを撃ち尽くした6番機が毒づく。

「俺のを使え。」

 9番機がNGNバズーカを投げる。6番機が新しいNGNバズーカを受け取り宇宙船に狙いをつけたが、すでに間に合わない距離に宇宙船が迫っていた。

「隊長、うわぁ!」

 宇宙船は前面にエネルギーフィールドを展開し6番機に体当たりをしかけたのだ。ナイル級戦艦を轟沈させるエネルギーフィールドだ。GN-Xはバラバラになり爆散する。

「6番機! 敵艦艇が逃げる。後方から集中して攻撃を行うぞ。」

 

 

「コマンダー、機動兵器が追尾してきます。振り切る事も可能ですが?」

GN-X部隊が追撃する宇宙船のブリッジ。この宇宙船は4人の彼らによって操艦されたいた。

中央に座り操舵を担当する『彼』は6本の指でコンソールを叩きながらブリッジの一番後ろに座る『彼ら』の司令官に指示を仰ぐ。

「いや、しばらく追い駆けっこに付き合って貰おう。エネルギーの回復はどうか。」

「高速機動には差し支えませんが、破壊砲へのエネルギーチャージ完了は発射ポイント到着に間に合いません。」

「そうなるともう少し時間稼ぎが必要か。」

「コマンダー、それでしたら我々が機動兵器の相手をします。コマンダーは発射ポイントへ向かって下さい。」

 操舵を勤める彼の両脇に座っていた『彼ら』が立ち上がり指揮官に進言する。

「お前達二人で大丈夫か?」

「相手は進化が始まったといえ、まだ『人間』です。相手が人間であれば戦いようもあります。」

「わかった。ただし、巫女の加護を受けた騎士が現れたらすぐに報告しろ。」

「了解。」

 彼らは背中の翼を誇るように広げながら手にしたライフルを構え指揮官に応えるのだった。

 

 

 宇宙船は追撃してくるGN-X部隊をまるで無視するように地球に舵をとり、更にスピードを上げる。

「逃げ切るつもりか!だがこちらは下駄(GNブースター)付きだ。逃げられると思うなよ!」

 GN-X部隊は空になった粒子増加タンクを切り離すと更に加速する。その時、宇宙船の後部ハッチが開き始めた。

「隊長、敵宇宙船は艦載機を発進させる模様です。」

「阻止しろ! 4番機、7番機、後部ハッチを狙え。発進する所を狙うんだ」

「Yes,Sir! 必ず仕留めて見せます。5番機、8番機、観測データをこちらに寄こしてくれ」

 GNロングバレルビームライフルを装備する4番機と7番機が狙撃体制を取る。5番機、8番機は精密射撃用の観測レーダーを装備しているのだ。

 だが、宇宙船はハンターに狙われているのを知ってか知らずかジグザグに回避運動をとるような事もせず、一直線に地球を目指す。更に加速する。

(このままだとTRANS-AMによる加速が必要になってくる。早くハッチを開けやがれ)

4番機のスナイパーがそう思ったとき、ハッチが完全に開いた。

「今だ!」

 誰もが4番機、7番機のGNロングバレルビームライフルが必殺の一撃が発射すると思った。

 しかし、

「4番機、7番機!今だ撃て!何をしている!発砲しろ!発砲しろ!艦載機が出てくるぞ」

 副隊長が4番機、7番機に必死に命令をする。しかし、両機とも構えたまま一向に発射しない。

「おい、4番機、7番機、応答しろ、どうした?トラブルか?」

 隊長機も通信を入れるが応答がない。嫌な予感が頭をよぎるが、すぐに現実になる。

 コックピットのモニターに4番機、7番機の生体反応が途絶えた事を示す警告が表示されていたのだ。

 生体反応が消失した4番機と7番機は無人のまま軌道を外れ始める。

 彼らは電子スコープ越しに見てしまったのだ。ハッチから出てくる『彼ら』の目を。

 事態が飲み込めないGN-X部隊の隙をついて、後部ハッチから宇宙空間の闇にとけ込むような翼を持った漆黒の人型が飛び出してきたのはまさにその時だった。

 

 

「ミレイナ、連邦軍の被害は?」

「衝突された戦艦は被害甚大で轟沈。退艦命令が出されています。現在、生存者の救出作業中です。ポイントを送ります。」

 刹那はミレイナから送られてきたポイントに目をやる。現在のクアンタの位置からそう遠くはない。すぐに刹那はクアンタを衝突ポイントへ転進させる。

「セイエイさん、最新情報です。宇宙船から艦載機が発進。現在、MS部隊と交戦を開始しました。」

 最悪な連絡だった。それはELSとは違い兵器を運用している高度な文明を持つ異星人だということだ。

 こちらに対して敵対心を持っているとなると対話の難易度が跳ね上がる。いや、そもそも対話が成立するのか怪しくなる。あのマリナが対話が出来ない者達と言った理由を痛感していた。

「艦載機の映像は? こちらに回してくれ。」

 ミレイナからの敵艦載機の映像が送られてくるがジャミング酷い。しかし、そこには黒い物体が通り過ぎた残像だけが映っていた。

「ヴェーダによる画像処理でもこれが精一杯です。特殊なジャマーがあるのかわかりませんが、映像が妨害されています。」

 ミレイナからの弁明を聞きながら刹那は応える。

「ジャマーだけではないかもしれない。相手は超高速で機動している可能性がある。」

「え!? 現在交戦中のMS部隊のパイロットは全員イノベイターです。相手を捕捉できないわけがありません!」

 刹那の予測にミレイナが反論する。確かにミレイナの反論もわからなくもない。イノベイターの反応速度は尋常ではない。ましてイノベイターの彼らが操るMSは、イノベイター用にチューニングされたGN-X VIだ。

「ミレイナ、残念だが刹那の言うとおりだ。」

 その時、リジェネから割り込み通信が入った。ヴェーダの予測が外されたせいか、機嫌はよろしくないようだ。

「リジェネ、まさか。」

「そのまさか、だよ。交戦中のGN-Xの半数以上が堕とされた。これでは時間稼ぎにもならないよ。宇宙船は、艦載機2機を発進させた後、地球に向かっている。」 

 緊急出動要請で出撃した長距離GNブースターを装備したGN-Xが12機が宇宙船を交戦していたのだが、2機は戦艦の乗組員の救助に、10機が追撃を行ったのだがその半数、つまり5機撃墜されたというのだ。

「し、信じられないです。」

 このリジェネの報告にさすがのミレイナも動揺が隠せない。

「刹那、宇宙船が人類に敵対行動をとった今、地球連邦政府は宇宙船を敵と判断した。しかし、救援部隊を送ろうにも迎撃に間に合わない。そこで、政府から非公式だが彼らの救援と宇宙船の追撃について依頼が君たちソレスタルビーイングにあった。どうだお願い出来ないだろうか?」

 リジェネからの提案にミレイナは躊躇する。クアンタは本来はソレスタルビーイング所属機。

 公式には51年前の大戦で対話のため行方不明になった機体である。

 クアンタが長い対話の旅を終えて地球に帰還していることを知るのは政府関係者でも一握りしかいないはずだ。アザディスタン王国の王室の人間も極一部の者しか知らない。ミレイナは非常時とはいえ一時的に地球連邦の戦力として組み込まれるのは抵抗感があった。

「刹那、私が政府(彼ら)に提案したの。どうやら順番は逆になってしまったようだけどね。リジェネ?」

 更にクアンタに刹那もミレイナのよく知った人物からの割り込み通信が入った。

「スメラギ・李・ノリエガ!」

「ノリエガさん!」

 それは政府(・・)の養護施設で隠居中のスメラギ・李・ノリエガであった。彼女は隠居中とはなっているがそれは表向きの話で、裏では地球連邦政府のオブザーバーを務めている。場合によっては解散した(・・・・)ソレスタルビーイングとの仲介役も務めている。

「お久しぶりね、刹那。再会の挨拶は後回しよ。ヴェーダからの情報を分析したけど、今の連邦軍にあの宇宙船と渡り合えそうなのはELSダブルオークアンタしかいないわ。」

「しかし、ノリエガさん! だけど、もし」

「ミレイナ、もう良い。スメラギ、リジェネ、了解した。」

 ミレイナは食い下がろうとしたが刹那は快諾する。――もし、クアンタが敵わない敵だったらどうするんですか! その言葉をミレイナは飲み込まないといけなかった。

「ごめんなさい、刹那。いつも貴方ばかりをアテにして。」

「かまわない。いつもの事だ。」

「君ならそう言ってくると思ったよ。でも、安心したまえ。君達の存在はヴェーダで消し去る。」

「ミレイナ、この分の報酬はしっかり貰うから心配しないで。良いわよね? リジェネ。」

「……もうノリエガさんに全部お任せするです。」

 

 

 GN-X部隊は必死に宇宙船の艦載機と戦っていた。

 GN-X VIとイノベイターで構成されたエリート部隊であったが、宇宙船から発進した2体の敵性物体の前になす術もなく次々と味方機を失っていたのだ。

 3番機が高速にランダム機動を行う敵艦載機に向かってGNビームライフルをフルオートで発射するが当てることができない。

 イノベイターのエリート部隊でさえ敵艦載機を追尾しきれないのだ。いや、正確に言うとGN-Xが追従できないのだ。

 逆に独特のフォルムを持つ敵艦載機が手にするライフルから反撃の一撃がGN-Xを襲う。

「隊長! き、機体が制御できません。」

 糸の切れた操り人形のようにGN-Xがコントロールを失うと、二射目が胴体を射抜く。

「3番機! 今すぐ機体を捨ててすぐに脱出しろ。」

 3番機のパイロットはコアファイターで脱出を試みるが、敵艦載機はコアファイターごと真っ二つに叩き切ってしまった。

「3番機……こ、この『悪魔』め!」

「隊長!奴ら、は、速すぎます! TRANS-AMでも捕捉できません。隊長だけでも離脱して下さい」

 2番機がGNブースターのハードポイントに取り付けられている多連装GNミサイルポッドからGNミサイルを一斉発射する。

 GNミサイルの大軍が敵艦載機2機に襲いかかるが、手にするライフルをバルカンモードに切り替えると次々と撃ち落とし始めた。

「そのミサイルは貴様らへの牽制だ。今です! 離脱して下さい。」

 突如、敵艦載機の周辺をスモークが覆う。GNミサイルの中に粒子攪乱ミサイルを紛れ込ませてあったのだ。

「副隊長、離脱はお前も一緒だ。馬鹿なことはやめろ。」

「私が時間を稼ぎます。我々の仇を必ずお願いします!」

 副隊長は隊長機に敬礼をすると、長距離ブースターを切り離し、GNビームサーベルを抜刀してスモークの中に特攻する。

「TRANS-AM!」

 隊長機は自機後方の煙の中で小さな爆発と大きな爆発が数回起きたのを確認すると無意識のうちにコックピットを叩いていた。

 それには部下を見捨てた自分への怒り、悔しさ、無念、敵への憎悪、様々な感情が籠められている。

「クソ! クソ! クソ! 『悪魔』共め、部下の命の代償は必ず償って貰うぞ。」

 しかし、突然GNブースターが撃ち抜かれ爆散する。爆発により機体バランスを失うが幸いにも大きなダメージはなかったようだ。

「な、何!攻撃だと!?どこから?」

 正面モニターを凝視する。そこにはライフルを構える敵艦載機の文字通り悪魔のような姿があった。

「奴は、先回りしていたというのか? 信じられん、何というスピードだ。ぐあッ。」

 機体が激しく揺さぶられる。後方から攻撃され肩に装備されていたGNシールドを吹き飛ばされたのだ。

「ク、後方からも。副隊長、やはり駄目だったか。」

 ついに追撃部隊のGN-X10機が隊長機を残して全て敵性物体によって壊滅させられてしまった。

 わずか2体の悪魔(サタン)の仕業である。

 敵艦載機は余裕を見せつけるようにゆっくりとこちらに近づいてくる。挟み撃ちにするつもりだ。

「『悪魔』共、来るならこい!この命に代えても部下の敵を取らせてもらう!」

 隊長機は擬似GNドライヴの出力をあげるとGNバスターソードの切っ先を悪魔に向ける。

 残りのGN粒子を全てTRANS-AMに回し、特攻を行うつもりだ。

 2体の悪魔は隊長機の覚悟をまるで小馬鹿にしたように腕を組みこちらの様子を見ている。前方の1体がその手にしたライフルとソードを兼ね備えた物体をわざとゆっくり構え始めた。まるで射的の的を射るように片手で構え挑発してきたのだ。

「どこまで我々を馬鹿にしたら気が済むのだ! だが……その余裕も今、終わりにしてやる。TRANS-AM!」

 GN-Xが爆発したような加速でGNバスターソードを振りかぶり悪鬼達に切りかかる!

 しかし、悪鬼の1体がライフルでGNバスターソードを易々と受け止めると、何とGNバスターソードを弾き飛ばしてしまった。

「かかったな。それは囮だ!」

 GN-Xの腰にマウントされたビームサーベルを抜き去り素早く悪鬼の脇腹へと突き刺す!

 トランザム中の高出力ビームサーベルはどんな装甲でも貫き通すのだ。

 まるで巨大な針を突き刺された生き物のように苦しみもがく。

 突き刺したビームサーベルを引き抜き、トドメの上段からの一撃を振り下ろす。

「これでトドメだ!」

 悪鬼が真っ二つに斬られた!

 

 ……ハズだった。

「な、何!?」

 GN-Xのビームサーベルからビームが出ていなかったのだ。ビームサーベルの束だけを振り下ろした形だった。

「これは……どういうことだ!?まだ粒子切れにはならないはずだ」

 突然の事態に一瞬呆然とする。

 異常事態を把握できずにはいたが、危険を察知してすぐにGN-Xを離脱させる。

 しかし、トランザム中であったハズの機体が重い。いやトランザムが解除されていたのだ。

 突如コックピット内にアラームが鳴り響く。操縦桿を動かすが機体が反応しない。

 悪魔が動かなくなったGN-Xを睨みつけると怒り狂ったようにライフルを構え、斬りかかってきた。

 死を覚悟した。

「……俺は部下の仇を取ることも出来ないまま死ぬのか……。」

 そのライフルが振り下ろされようとしたその瞬間、粒子ビームが悪魔を撃ち抜き上半身を吹き飛ばした!

「……友軍機? 誰だ?」

 モニターに映る友軍機のGN粒子の輝きを見て目を見開いた。

「あの粒子の色は、純正GNドライヴだと!」

 

 もう一体の悪魔が粒子ビームの方向にライフルを発射するが、緑の粒子を放つ『それ』は鮮やかに全て回避する。

 二発目の粒子ビームが放たれた。悪魔もGN-X以上の機動力で回避運動を取るが粒子ビームは吸い込まれるように曲線を描きながら正確に右腕をライフル共々吹き飛ばす。

 

「……超高速移動中の標的を一撃で仕留めるだと!? 信じられない命中精度と威力だ。誰なんだ一体?」

 

 首を動かすことすら出来なくなったGN-Xの目の前を緑のGN粒子を放つ『それ』が凄まじいスピードで駆け抜け悪魔を追撃する。

 ELSダブルオークアンタが51年ぶりに戦場に舞い戻ったのだ。それも対話の使者ではなく、戦う者として。

 

「ダブルオークアンタ、目標を駆逐する!」

 

 

「コマンダー、例の騎士が現れました。すでにこちらは一人倒されました。予想以上の戦闘能力です。」

「くたばりぞこないの女の加護を持つ騎士が現れたか。」

 

 ナイル級戦艦にラム戦をしかけ撃沈させた宇宙船のブリッジである。

 

「しかし、巫女の加護により我々の力が通用しません。コマンダー! 私に出撃の許可を下さい。」

「それは許可できない。仲間を殺されて悔しい気持ちは私も同じだ。私が行こう。私が奴の息の根を止める。貴様は予定通り攻撃を仕掛けろ。」

「コマンダー……了解しました。仲間の無念を晴らしてください。私は破壊砲(・・・)の射程に入り次第、攻撃を開始します。」

「頼んだぞ。このチャンスを逃すわけにはいかない。何としてもあの女の魂の輪廻転生を阻止するのだ。」

 

 

 刹那とサタンが戦いを繰り広げる宙域へ更に(・・)参戦するため、急行中の航空機があった。その大きさはMA(モビルアーマー)からMSの中間の範疇になるだろうか。航空機の右舷には巨大な大砲が括り付けられていた。それは空中戦で使うにはあまりにも巨大で物々しい大砲であった。

「マスター。ドウターより入電。ダブルオークアンタとサタンが戦闘を開始した模様です。」

「なに! ティータ、会敵予想時刻より随分早いぞ!?」

「現在のダブルオークアンタは以前よりも機動性能が大幅に向上していると考えた方が良いようです。」

「噂に聞く量子ワープという奴か? だが、だからといってサタン(奴ら)に易々と勝てるとは思えん。我々が行くまでどうか持ちこたえてくれよ。」

「フルパワーで宙域に向かいます。」

 航空機は更に加速する。そのスピードは地球連邦軍のMSの速度を遙かに超えていた。

 

 逃げる悪魔の翼をGNソードVの一撃が貫く。

 戦場では信じられない光景が繰り広げられていた。あれほどGN-X部隊を翻弄し常に優勢を保っていた悪魔が、たった一機のMSの参戦で形勢逆転したのだ。

 悪魔は片翼を失いバランスを崩したところで、最後の一撃を見舞われてしまう。

「こいつらは何だ? MSのような機械でもなかった。それにあの姿形は?」

 この時、刹那はダブルオークアンタと自信に起きている不思議な現象とマリナの危篤をまだ知る由もなかった。

 

第3話完。

次回予告

遂に刹那とマリナの前に姿を現した悪魔(サタン)達。

刹那とマリナは悪魔達にどう立ち向かうのか?

それとも悪夢が現実のものとなるのか?

後書き

某所で掲載していた時よりも姫様分と司令分が多くなりました。

次回はクアンタとサタンコマンダーの一騎打ちです。そして、あり得ないラストを迎えることになります。

ところでGN-X 4番機と7番機のパイロットの生体反応が無くなった=死亡した件ですが、サタンに一睨みされて魂を飛ばされてしまったからです。

 

2013.2.7 カーレル・クリサリスの表記を卿から公に修正。

2013.2.7 粒子ワープを量子ワープに修正。

 


 
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