季節は春。
穏やかな日差しと共にリリーホワイトが通り過ぎたのもつかの間、ここ数日を通して暴風雨が幻想郷を襲っていた。
大粒の雨が博麗神社の屋根瓦を叩く。雨戸は強風で弾けんばかりに揺れ、聞く者の不安を煽っていた。心なしか神社全体も揺れいている気がしてくる。
「ねえ霊夢。この神社倒壊したりしないよね」
「するわけないじゃない。これでも博麗大結界の総本山よ。こんな嵐程度、屁でもないわ」
不安そうに言う萃香に対し、霊夢はつまらなそうに答えた。
「それよりも境内の方が心配よ。せっかく花見ができると思ったのに……これじゃ散っちゃうじゃない」
「あー、それは心配だねぇ」
例年なら境内の桜が満開を迎えると共に近隣の人間妖怪魑魅魍魎がわらわらと集まって花見を行う。霊夢と萃香は押し寄せる花見客のために料理の下ごしらえをしていたのであったが、この嵐のために花見は延期。暗い室内で痛みやすい宴会料理をちまちま食べる日々が続いていた。
「まったく、いつ止むのかねぇこの嵐は」
伊達巻をつまみ、瓢箪の酒を呑んで萃香は一人ごちる。霊夢はお茶を啜ると、テーブルの脇に置いた文文。新聞を引き寄せた。
「河童の天気予報によるともう数日は嵐が続くみたいよ」
「やれやれ。嫌になってくるよ本当」
再び瓢箪を呷ると萃香はごろん、と寝転がった。それと同時に穏やかな寝息が聞こてくる。
そうして、しばらくは雨粒が屋根を叩く音と風が戸を揺らす音だけが辺りを支配していた。が、ふと思い出したかのように萃香は「あ」と声をあげて起き上がった。
「そういえば春の嵐なんていうけど、この嵐もリリーホワイトの仕業だったりするのかな」
「そんなわけないじゃない。彼女は単なる春告精よ。そんな芸当……」
言った直後、霊夢の頭に妙な感覚が走った。
妖精や精霊などの存在は自然の発露であり、意思を体現した存在だ。だからこそ氷の妖精は冷気を操ることができるし、太陽の妖精は光を操ることができる。
なら、春を連れてくる妖精は、春の嵐も連れてくることもできるのではないか。
霊夢は何とはなしに立ち上がると、ガタガタと揺れ続ける雨戸に近づいた。そして戸にぴたり、と耳をつけて外に感覚を向ける。
雨と風がそこかしこを打つ音が聞こえる。風の勢いに木々が枝を擦り、まるで騒霊が酷いコンサートでも催しているかのようであった。
「何か聞こえるかい、霊夢」
「……」
沈黙する霊夢に習い、萃香も戸板に耳をつける。2人はしばらく黙ったまま外の音を聞き続けていた。
と、風雨の音に混じってかすかに人の声のようなものが聞こえてくる。
「……る…よー」
「来た!?」
「し!黙って萃香」
遥か遠く、風に混じって聞こえた声はだんだん近づいてくるように感じられる。やがてはっきり「春ですよー」と聞き取れるようになってきた。
「リリーホワイト……こんな嵐の中を飛んでるっていうことはやっぱり」
「ちょっと待って霊夢。なんか様子がおかしい」
しばらく「春ですよー」という暢気な声が聞こえていたが、不意に途切れたか思った次の瞬間。
「我が世の春が来たーーーーーーー!!!」
とても少女のものとは思えないほどの野太
い声が響き渡った。
「な、なにいまの……」
「知らないわよ。でも」
ダン、と大きな音をたてて霊夢は雨戸を開ける。荒れ狂う嵐が室内に侵入し、服の裾は翻り、スカートは波をうつようかのようにひらめく。髪の毛も風にあおられて逆立ち、まるで鬼神のようである。
「ちょ、れ、霊夢?」
「アレが原因なのは間違いないようね。とりつかれてるのか何なのかわからないけど、花見をする以上、一度懲らしめないと」
苛立たしげにお払い棒を手にとると、雨に打たれるのも構わず外へと飛び出していった。
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うぽって見る前あげようと思ったら忘れて視聴してそのまま寝てしまったでござる(m´・ω・`)m ということで日曜の朝あげ。さて、先週何も言わずにうpするのサボっちゃいましたが、なにをしてたかというとmtgの「アヴァシンの帰還」が発売されまして、それにあわせてカード手に入れてたりデッキ作ってたりしたら一週間過ぎちゃったというわけです。いやー一週間早いねー……。