前書き(注意書き)
・フリット・アスノ君が生まれた時から女性です
・フリットやエミリーが17歳
・小説版AGEを参考にしているため、小説版のネタバレがあります
・捏造が多い
・一番の捏造はフリットが女の子
・カップリングはウルフ・エニアクル×フリット・アスノです
・ちょっと百合っぽくなった
以上の注意書きに吐き気や頭痛などの症状が出た方はこのページから避難してください。
問題がなければどうぞお進みください。
宇宙に吊されているコロニーの一つ“トルディア”。
故郷であったスペースコロニー“ノーラ”と地形も景色も違っていたが、そこに宿る空気感は自分の知っている“ノーラ”と似ていてエミリーはこの新しい故郷が気に入っていた。
自慢のブロンドの髪を櫛で丁寧に梳く手つきは手慣れたもので、身支度を無駄な動き一つなく整えた彼女は黒くタイトなデザインの制服姿で我が家を飛び出した。
エミリーが駆けていく先は学園の敷地内にある学生寮であり、女子学生に割り当てられている区画だ。
三階の北側最奥がエミリーの目的地。そのドアの前で彼女は数回ノックをしてみれば、予想通り返事は無い。
「フリットー!いるんでしょー」
数年前より大人びた声で呼びかけるも、返事はやはり無かった。
エミリーは再度呼びかけたが、中の住人から開けて貰うことを諦めて以前無理矢理奪ったスペアの鍵カードを学生鞄から取り出して、ドアの横に設置された認識機にスライドさせる。
程なくしてドアが厚紙を擦り合わせたような音をさせて開かれた。
「軍の仕事から解放されて昨日からこっちに戻ってきてるの知ってるんだからね」
住人に直接言うでもなく、エミリーは拗ねたような小声で祖父から聞いていた情報を口にする。
「フリット?」
小さなリビングまで足を運んでも住人は見つからず、この時間なら起きていそうなものなのにとエミリーは壁時計を確認する。
すれば、寮の食堂はもう間もなく開かれるであろうという時間だ。
またプログラムを深夜まで組み立てていたんだろうと諦めにも似た吐息が漏れる自分をエミリーは止めもしない。
寝室への入り口はドアノブ式で、エミリーはノックもせずに勢いよくドアを開けた。
「起きなさい、フリット!」
案の定、枕元にいくつか配線を繋げて口部分を開きっぱなしのハロがおり、その横で布団に丸まっている固まりがあった。
エミリーの良く通る声にもぞもぞと固まりが動き、柔らかな草色の髪が顔を出す。
「エミリーか…おはよう」
「なにがエミリーか、よ!また夜中までプログラミングしてたの!?」
エミリーのお節介は鬱陶しく感じるが、徹夜して今日一日まともな生活が送れるのかと正論を述べられているわけでもあって、この部屋の住人であるフリットは苦い思いを抱く。
言葉を発しないフリットに図星かとエミリーは溜息を飲み込んで、彼女にベッドに腰掛けるように指示すると今朝鞄に入れてきた櫛を取り出した。
自分はベッドの上に座り込み、長くなったフリットの髪を毛先から優しく梳いていく。徐々に上から梳いていくことが出来るまでにエミリーはひどく絡まったりしない髪にちゃんと自分が言ったとおりに髪の手入れをしていてくれたのだと関心する。
「トリートメントとかすぐ面倒くさいって止めると思ってたわ」
本心からそう言ってみるが、フリットも自分と同じようにお年頃の女の子なわけであって、あの人のことを気にしているのかもしれないとエミリーは考える。
「伸ばしたら伸ばしたで手間が掛かるってことは身にしみたよ」
「切らないの?」
「……うん」
フリットの決意が固いことをエミリーは知っていながらも、やはり問わずにはいられなかった。
エミリーは直接会話をしたこともない少女のことを思い出す。
あれはかつての故郷“ノーラ”にかつてUEと称していたモビルスーツ型起動兵器が攻めてきた忘れられない日。フリットは試運転もしていなかったガンダムに乗り込んでUE…現在では火星圏国家ヴェイガンと言う組織によるMSを撃退していった。
“ノーラ”の住民達は限られた時間で避難をしなければならず、逃げ遅れたユリン・ルシェルという少女をフリットは助け出していた。
戦艦ディーヴァのAGEビルダー制御室から見知らぬ黒髪の艶やかな少女がガンダムのコクピットにフリットと共にいたことは僅かに覚えている。それに、泣いていたフリットに自分の髪を結っていたピンクのリボンを差し出していたこともそっと見守っていた。
少女がフリットと別れ、輸送艇に向かって小走りしていくときにエミリーは少女とすれ違っていて綺麗な子だとちょっとした嫉妬心と羨望心を覚えたりもした。
フリットとユリンという少女の間にどんなことがあったのか詳しくは知らないけれど、少女が宇宙という戦場で散ってしまったのではないだろうかと、ガンダムの足下で泣くフリットから感じられた。
しかし、それがエミリーには怖かった。ただ、怖かったのだ。
何かに取り憑かれてしまったかのように敵を倒すことばかりに生きている意味を見つけたようなフリットが。
「今日も三つ編みにする?」
「お願いしていいかな」
「いいわよ。じゃ、じっとしてて」
あれから三年という時が経った。ユリンという少女と同じように髪を三つ編みに編み込んで、編み始めの首の高さにあのピンクのリボンを蝶蝶に結べば、似てもいないのに今はいない少女と重なる。
エミリーは常にフリットの側にいられない。フリットに重なるユリンの姿に、私の代わりにフリットを守って欲しいと願う。
ユリンが頷いたような気がして、エミリーは驚いた顔を一度したけれど、彼女はフリットを連れていってしまう人ではないと、すぐさま笑顔を取り戻す。さっき抱いた恐怖を吹き飛ばすほどに。
「やっぱりエミリーにやってもらったほうが上手に出来てる」
三つ編みを肩に掛けてフリットはそれを眺めながら感心する。
「自分じゃやりにくいものね」
「それもあるけど、バルガスやラーガンの親切はお断りしたいよ」
三つ編みに悪戦苦闘するフリットを見かねてエミリーの祖父や兄貴分であるラーガンが世話を焼いたのであろうが、彼らは女の子の身だしなみに器用であるとは到底考えられない。
その時の情景が浮かんでエミリーはくすくすと笑い出した。
「笑い事じゃないよ、エミリー」
「ごめん、ごめんってば。でも、可笑しくって、フフ」
勘弁してほしいと言わんばかりのフリットであったが、いつしかエミリーにつられて笑い出す。
ハロを配線地獄から解放しながらエミリーに時間を聞けば、ホームルームが始まるまで時間はあるが、食堂で食事をする時間はなさそうだと逡巡する。
しかし、そこまでお見通しだったエミリーはバスケットを開けて母親に作って貰ったサンドイッチトーストを見せてみせる。
「私も食べてないから一緒に食べましょ」
「ありがと。おばさんにもお礼言わないと」
「お礼なら今度家に来たときにラジオの調子を見て欲しいってお母さん言ってたわ。お父さんはそういうの疎いし、おじいちゃんはこっちにまだ帰れないみたいだし」
「良いよ。それにしても、エミリーのお母さんは相変わらず懐古趣味だよね」
シャツにハーフパンツというラフな寝間着からエミリーと同じ黒い制服を着用して、フリットはエミリーと共に食卓につき、朝食を頂くことにする。
ホームルームが始まるまで少し余裕のある時間は多くの学生が学園に登校してくる時間帯である。
寮生はぎりぎりの時間に出ていく学生が大半であるが、好んで慌てて登校するよりはゆっくりと歩きたいフリットとエミリーは自宅通いの学生が多い時間帯に一生徒として普通に登校しているつもりであった。
何かが可笑しいと先に気付いたのはエミリーだ。
「ねぇ、フリット。なんか見られてる気がしない?」
フリットはエミリーの小声に周囲を一度見回してみるが、エミリーが見られていることはしょっちゅうである。
“ノーラ”に住んでいる時からエミリーは学校で男子から人気があり、この学園でもマドンナ的存在であることはフリットも知るところだ。
「エミリーにとってはいつものことだろ?」
「私じゃなくて、フリットが見られてるのよ!」
「それはないよ」
エミリーの言を冗談だと受け取ったフリットは尚も言い続けるエミリーを置いてさっさと学園の校舎に向かってしまう。
エミリーは頬を膨らませ、大声を発するために音がするほど大きく息を吸った。
「フリットのバカァ―――!!!」
「ちょっと、エミリー!?」
先行していたフリットを追い越して走り去っていくエミリーをフリットは慌てて追いかける。
教室に辿り着くまでにはエミリーに追いつき、追いついてみればエミリーは機嫌を悪くしている風でもなくて拍子抜けだ。
「突然走らないでよ」
「フリットは体力つけないとね。運動よ、運動」
いつもプログラムを組み立てることばかりに没頭してしまうフリットは軍属の身分だが、バルガス達の進言などもあり、上層部から定期的に学校に通うように言い渡されている。
運動神経が特別悪いというわけではなく、スポーツ全般も得意である。けれど、エミリーは同年代の友達として当たり前の振る舞いをしているだけなのだ。
二人が揃って教室のドアをくぐれば、教室の後ろ側から入った二人は次第に増える視線に瞬く。
視線の中から一人の大柄な少年が飛び出してくる。
「おい!フリット、大変だぞ!お前、今朝のテレビ見たか!?」
昔なじみの友人の一人であるディケが携帯端末のディスプレイを突きつけてきた。
「いや、見てないけど」
そう言いながら、ディケの携帯端末を受け取ればエミリーも横から覗き込む。
朝は情報番組が多いはずだから、どこかの局のニュースだと思われる映像は先日行われたモビルスポーツ・レースの中継を編集したものだ。
ニュースは途中からでレースの出場者であろう一人の若者のコメントが終わろうとしているところであり、続いて見知った人物が映り、フリットとエミリーは疑問を抱く。
『ウルフさん、連邦軍から特別枠としての出場ですが、意気込みはどうですか?』
『レースは久しぶりだが、腕は錆び付いてないぜ』
『やはり狙うのは優勝でしょうか?』
『勿論。それに、優勝したら宣言したいことがあるんでね』
じゃ、と人差し指と中指を立てていつもの決めポーズでキャスターから去っていく銀髪の青年はGエグゼスのパイロットであり、フリットも共に戦ったことがある人だ。
画面が切り替わり、どこかのスタジオで司会者とレース会場でマイクを握っていたキャスターが大きなディスプレイを挟んで座っている。
スタジオのディスプレイにレース結果が表示され、案の定一番上にウルフ・エニアクルという名前を見つけ、レースの大まかな内容をナレーターが読み上げる。
だが、ディケは携帯端末をフリットから奪い取り、何か操作すると再びフリットに突きつけた。
どうやら、このニュースはディケが録画しておいたものであるらしく、画面に映るグリニッジ標準時刻も今よりも一時間ほど前が表示されていることにエミリーは今更だが気付く。
『このウルフさんの優勝したら宣言したいこととは何ですか?』
『そちらもちゃんとインタビューしてきましたよ。今回の優勝は予想通りウルフ・エニアクルさんでしたからね。では、こちらをご覧下さい』
司会者の質問にキャスターが答えるという定番の流れから再び画面はレース会場に切り替わる。
『ウルフさん、優勝おめでとう御座います!』
幾人かの報道キャスター達が同じ言葉を投げかける。
『当然の結果だな』
『早速ですみませんが、レース直前に言っていた「優勝したら宣言したいこと」をお伺いしても良いでしょうか?』
『ああ、それな。ちょっとこれ持っててもらってもいいか?あと、そのマイク貸してくれ』
ウルフは手近にいたキャスターにトロフィーを預け、代わりにマイクを一つ手にする。 一度髪をかき上げ気合いを入れると、テレビカメラに視線を向ける。
『フリット・アスノ、聴いてるか?』
何故自分の名前が呼ばれたのか見当も付かず、フリットはびくりと肩を揺らして何を言われるのだろうかと不思議そうにディスプレイを見つめる。
神妙な顔のウルフに何故だか目が離せなくなる。
『俺はお前が好きだ。いいか、俺が好きだと言っているんだ。この一流だけを求める俺が、だ!』
一呼吸置き、言葉は続けられる。
『フリットは俺が手に入れる。他の男には触れさせやしない!いいな!!』
エミリーが騒ぎ出す声もどこか遠くのように聞こえ、司会者とキャスターが茶化す言葉さえも今のフリットには別の宇宙圏のことのようにしか思えなかった。
ディケはクラスメイトが有名人に告白されたと興奮気味でどうするんだと質問責めしてきたが、フリットは答えられる気力が持ち上がらないままホームルームのチャイムが鳴った。
A.G.118年。
一番後ろの窓際の席で柔らかな草色の髪を三つ編みでまとめている少女はアンニュイ…いや、表情が陰るほど憂鬱な顔をしていた。
ホームルーム中も他の生徒達から意味ありげな視線を向けられ、担任までもがちらちらとこちらを様子見している状況に対して。
原因は分かりきっている。
連邦軍から特別枠という形でモビルスポーツ・レースに出場したのは、自分の直属の上司ではないが階級は上であり、“白い狼”という通り名を持つウルフ・エニアクル。
彼がレースに出場したこと自体は別にいいのだ。軍も許可していることなら、フリットがどうこう言うのもお門違いであるからだ。
優勝したのもウルフの実力から得た結果であり文句の付けようもない。
しかし、優勝に乗じて何故自分になんか告白なんかしたのか。
「こく、はく…やっぱり、告白と、受け取るべきなんだろうか」
午前の授業が終わり、学食で昼食を摂るのは目立ちすぎるだろうからと、エミリーとディケと三人で終わりがけの購買でパンを買い、今教室で食べ終わったところでのフリットの呟きだった。
「お前、軍の基地でたまに会ってんだろ?こう、あったんだろ?アプローチとか」
「…いや、別に思い当たらないけど」
「ディケ、フリットが大人の人からのさりげない好意に気付くと思うの?」
エミリーは三年前からウルフがフリットを視線で追っていたことに気付いていたし、あの時はフリットが十四歳ということもあってウルフも直接的な行動に出られなかったことにも勘づいていた。
グルーデックに十四という歳なら子供も作れると言われはしたが、ウルフはそこまで達観したことを言えるような歳でもなければ、そんな考えをする人でもない。
ディケも観察力は良い方だから気付いているものだと思っていたが、AGEシステムのアシスタントを任されて覚えなければならないことが山ほどあった彼はそこまで気が回っていなかったのも仕方ないだろうともエミリーは思う。
「フリットはプラグラムのことしか頭にないもんな。色恋沙汰に首突っ込むタイプでもないか」
「直接確かめてみれば?連絡手段はあるんだし」
「無茶言わないでよ。軍の回線使ったら、後で内容報告書提出しないといけないんだ。なんて書くんだよ」
「告白の確認…は、駄目よね。生存確認とか?」
告白と言った時点でエミリーはフリットにジト目を向けられて、明後日の方向を向きながら妥協案を出す。
フリット、エミリー、ディケが話し合っている同じ時刻。
連邦軍の総司令部ビッグリングにほど近い宙域に浮かぶ巨大戦艦の一つで、別の話し合いが行われていた。
携帯型通信機を開けたり閉じたりを延々と繰り返して落ち着きのない狼が一匹。
そんなウルフの傍らにモビルスーツの整備区域と通路を分ける役割をしている柵に背中を預けて肘を柵の上部に突っかけている男はバイザー越しに狼を横目で伺う。
「貴方のそんな姿、他の部下達には見せられませんね」
ウルフにそう言い放つのは、彼より年上で部下のラーガン・ドレイスだ。
獲物を狩る技術も技量も度胸もある男が、駆け引きを知らない子供に熱を上げてるうえに不器用になっているのだから苦笑せざるを得ない。
「どうとでも言え。それより、何でかかってこない」
「そりゃそうでしょ。最後まで流してる局、俺が知る限りでは一つしかありませんでしたよ」
「…マジか」
「ええ、大マジです」
あの宣言には続きがあり、これを見たら連絡を寄越せとのメッセージも含まれていた。だが、殆どのテレビ局が親切ご丁寧に全てを放送しているわけではないし、一つのニュースを放送する時間が限られているところもある。
そんなことにまで気が回らなかった自分自身にウルフは静かに沈黙した。
「……………本当に貴方らしくない」
「俺はお前が言ったとおりに行動したんだが」
「あそこまでやれとは言ってませんが、やり方は貴方らしかったですよ」
「さっきと言ってること逆じゃねぇか?」
言葉遊びがしたいわけではないラーガンは最後のウルフの呟きを無視して言葉を続ける。
「フリットは鈍いほうじゃないが、はっきり分からないと意識しないタイプですから」
ラーガンは“ノーラ”のアリンストン基地勤務になった日のことを思い出す。モビルスーツ部隊の小隊長として移動してきたが、後々には新型機ガンダムのテストパイロット有力候補としての名目も担っていた。そのガンダムの整備班第一責任者として紹介されたのがフリットだった。
小柄な少年という第一印象だったが、それが間違いであることは今は亡きヘンドリック・ブルーザー司令に続いてフリットの保護者兼上司であるバルガスの耳打ちで知らされた。
馴染みのメンバーはフリットが子供でもその腕が良いのは知っているが、やはり初見の者や現場を見ない上の者はフリットを子供だと忌避する傾向にある為、性別を隠しているわけではないが、そう振る舞っているほうが楽だからということだった。
流石にもう男で通せる歳ではないから、学生服は女性用だし、髪も随分長くなって男の子には見えなくなった。
自分がそう思うのだから、目の前の男はそれ以上だろう。
「お前の読みは当たってるだろうよ。だからああやって恥を承知で全宙域放送で宣言したんじゃないか」
「恥ずかしかったんですね」
宣言後もウルフを追っていたカメラがあり、耳が真っ赤になっていたウルフの横顔は見物だったとラーガンは記憶を再生する。
この狼にそんな顔をさせたのがフリットなのだなと思うと、二人のファーストコンタクトが思い出される。
フリットは本能的にウルフが別格のパイロットであると悟っていた。だからこそ対抗心を抱いてもいた。ウルフも最初は群の掟を叩き込もうと意気込んでいたが、ガンダムを賭けた模擬戦とヴェイガンとの戦闘から戻ってきた後はお互いに何かを認め合っていたような空気があった。
何があったのかウルフに問うても、パイロット同士なら良くあることだと説明されてしまえば、同じパイロットの自分は頷くしかあるまい。
しかし、その後暫くしてからフリットを見る狼の目の色が変わった。
例に漏れず、自分と同じようにウルフもフリットを男だと思っていたわけだ。性別は匂いで判らないということが最大の驚きだったことはラーガンは誰にも言えずにいる。
女の子だと判ると、ウルフはまず模擬戦のことを後悔していた。何でもガンダムの臀部にジェノアスカスタムの股間を叩き付けたらしい。お気の毒に。
他にも色々思うところがあったのか、ウルフという人間にしては無言でいることが多くなって何となく観察していて気付いたことを口にしてみれば、相棒以上に役に立つ男だと返された。
「子供の成長は突然だよな」
「育ち盛りですからね」
「この前さ、試験でノーマルスーツ着てガンダムに乗り込むときに出るとこ出てきたなって見ててな」
「そういう言い方はやめて下さい」
ウルフの気持ちは分かっているが、自分の妹分をそんな風に見られているのは些か許容出来ない。
声に棘があったのがウルフにも感じられたのであろう、この際だから訊こうとウルフは姿勢を正す。
「お前さ、俺じゃ不服か?」
「嫌です」
おいおい即答かよ。しかもすっげぇ真顔だなお前。と、口に出しそうなのを我慢してウルフは続くラーガンの言葉を聞き続ける。
「大事な妹分です。あなたより大事にしてくれそうな人はたくさんいますよ」
だが、
「それでもフリットがウルフを選ぶようなら祝福しましょう」
相手としてウルフが役不足かと言えば人格的にはそうでもないが、それなりに女性との場数が多い男なので謹厳実直なラーガンからしたらフリットがその中の一人になってしまうのはどうしても避けたいことなのだ。
「ラーガン、お前は俺じゃなくフリットの味方ってことだな」
「こればかりは。けど、客観的意見が欲しいときは何時でもどうぞ」
しかし、告白一つにさえ手間取っている男を見捨てることも出来ず、本気の様子も見受けられることから背中を押す手間を惜しまないのがラーガンという男だ。
「頼りになる相棒だ」
会話が一段落したところでウルフが手にしている携帯端末から高いアラーム音が鳴る。
「定時の偵察時間か。先に行くぜ」
ラーガンが頷いたのを見てウルフはその場から離れる。
いつも通りの自信に満ちた背中を見送りながらラーガンは気になるなら自分から連絡を入れれば良いのにと思うが。
「いや、出来ないか」
そう納得した。
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最初pixivで連載したものになります。
HP(http://www.geocities.jp/zephyranthes19/index.html
)には同じ本編と同設定の派生話を更新中。
二話目http://www.tinami.com/view/424427
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