人には誰しも闇を持っている。他の誰にも言えない深く暗い闇を・・・この物語は、主人公である一般高校生の幻想的な人生経験を綴った、ちょっと切ないファンタジーストーリーである。
第壱章~異世界~
ピピピピッピピピピッ
「う~ん……」
やかましいくらいの目覚ましの音で目が覚めた。……あんまいい起き方じゃないな……
俺の名前は((神宮護|かみやまもる))、どこにでもいる高校二年生だ。特に特技もなく常の生活をボケ~っと過ごしている。そんな俺には頼りになる”アネ”がいる。
「護くん、もう起きてる~?朝ご飯できてるよ~。」
「ありがとうかぐねぇ、今いくよ。」
~神宮家リビング~
「おはよう、かぐねぇ!」
「おはよう、護くん。今朝は随分と元気ね。」
このひとは有澤神楽、俺の一個上の幼馴染。親がいないこの神宮家の生活面の面倒を引き受けてくれてる俺のお姉さん的存在の人なんだ。
「あんまいい起き方じゃなかったけど……。でも、なんか今日いいことかなんかがおきそうな気がするんだ。」
俺が渋そうな顔をしながらかぐねぇに言うと、かぐねぇは微笑みながら、
「あらあら、でも今日の護くんなんかいつもと違う感じがする。もしかしたら、ほんとに何かあったりして。例えばそうね…〟異世界に飛ばされちゃうとか〟♪」
「まさかぁ、冗談にも程があるよかぐねぇ。それよりほら、せっかくのかぐねぇの朝ご飯がさめちゃうよ。」
「うふふ、そうね。」
まさかこのかぐねぇの言葉が実現しようとは、この時の俺は全くもって知らなかった……
~通学路~
俺はかぐねぇと同じ名門亜紗華(アサガ)高校に通っている。
…が、かぐねぇは生徒会長の仕事があるため、俺より一足先に学校に向かう。そんな俺はというと、いつも遅刻ギリギリに裏の超近道を使って登校している。もちろんかぐねぇに内緒で……。しかし、その時事件は起こった。
『タスケテ!』
「ん?何だ今のは……」
『タスケテ!アナタノチカラガヒツヨウナノ!』
「ぐっ!あっ…頭が……」
突然聞こえた謎の声、それに反応するかのように鳴り響く頭痛。状況整理をしようと思うのに、この半端ない頭痛のせいで……
(だっ、だめだ、意識が朦朧とし……)
~??????~
「………………っつ!」
(……ここは…どこだ……)
俺は意識を取り戻したとき、さっきいた場所とは全然違う場所にいた。視界がはっきりしだすと、俺はゆっくりと体を起こして辺りを見回す。同じ地球上にいるかは定かではない。…が、一面は明らかに市街地の外れにある砂漠らしき場所だった。
「国内…は無いな、じゃあソト、アラブかイラン、定番でいえばエジプトか……。」
しかし、その時…
「グルルルルル。」
「なっ、なんだ?蒼い……トラ?」
俺の目の前に現れたのは蒼い炎のようなものを纏ったトラらしき生き物だった。その威勢に腰を抜かした俺は、迫ってくるトラを目の前にしながら、その場からはピクリとも動くことができなかった。
「グルルルルル、グルォォォォ!」
「やっ、やられる!」
もう死んだ…そう思った瞬間、まさに一瞬のできごとだった。俺が少しの間だけ目を瞑っていたその瞬間に、例のトラはもう…いなかった…。
「おいおい、〟ブルータイガー〟一匹狩れないとは情けないにも程がある!」
呆然としている俺の前に一人の少年が立ち尽くしていた。パッと見…僕と同じぐらいの年齢っぽいな。
「すっ、すまんが…おまえは誰で、ここはどこだ?」
俺がそんな質問をすると、少年は目をギョッとさせながら答えを返す。
「まだこの世に俺の存在を知らん奴がおるとは……。いいか、俺の名前はレデスト=アルストラーデこの『レヴェスタ』国の騎兵隊〟ジャガー〟の隊長をしている。ちなみにいうと、ここは『レヴェスタ』の外れにあるヘリッシュデサーム。お前ホントにわからないのか。」
いやぁ、そんなこと言われてもな……ってか、
「あの~、『レヴェスタ』ってなんだ?俺、日本生まれなんだけど……」
「お前……日本ってなんだ?」
「……え……」
一瞬にして視界から色が消えた…。それと同時に俺は確信した。認めたくはないが、俺はかぐねぇの言うとおり“異世界”に来てしまったのだ。
質問に答えず、その場でただ呆然としていた俺にレデストは、
「と……とにかく一回宮殿に来い。“お義父さん”なら何か知っているかもしれない。」
「あっ、あぁ……。」
かくして俺は、レデストに宮殿に連れて行ってもらうことに
~宮殿内~
「国王陛下、レデスト隊長がお戻りになりました。」
「わかった、報告ご苦労。」
「それともう一つ、お戻りになったレデスト隊長の他に何やら不審な人物が一緒についておられますがいかがなさいましょう?」
「構わん。レデストと共にいるのなら、そんなに害のある輩でもないだろう。そのまま通せ。」
「はっ!」
すると一人の騎士がその部屋から退出していった。なにやら豪華な雰囲気を醸し出している椅子に座っている人物は深くため息をつくとぼさっとこうつぶやく、
「はぁ、早く探さねばこの国は……。しかし、いったいおられるのですか…勇者様…」
~護サイド~
『うっわ~、アニメとかでよく見る感じだ。なんか自然と背筋が伸びる……』
「マモル、大丈夫か?さっきと比べて顔が真っ青になっているぞ…。」
「ん?あっ、あぁ大丈夫さ。あはっ、あははっ、あはははぁ……。」
吐き気がやまねぇ…大丈夫かな俺。
「マモル、見えたぞ。あれが王室の扉だ。」
レデストに声をかけられてふと顔を上げる。するとそこには、もう見るからにお偉いさんが先にいそうなどでかい扉が俺の目の前に聳え(そびえ)立っていた。あわあわとしている俺を横にレデストがその大きな扉に手をかけ、ゆっくりと開き始めた。そして、中の光が俺の目に集まっていき、あまりの眩しさに目を瞑ってしまう。
「行こうマモル、ジャック国王がお待ちだ。」
目を閉じたままの俺を引っ張っていくレデスト。目ぇ瞑ってるから少しよろけちゃったじゃんか、かなりはずいんだぞこれ……
「国王陛下、レデストただ今帰還しました。」
「ご苦労だった、レデスト。して、今回の収穫は?」
「はっ、西の『ガバレオル砂漠』にて“例の”組織のものと思われる者と接触。撃退はしたものの、捕獲に失敗。逃走を許す形となってしまいました。」
ぺらぺらと国王さんに報告を進めるレデスト、こう見てるとやっぱ騎士のお偉いさんだって感じがするな…、こんなしっかり者が俺と同い年なんだよなぁ……信じらんねぇ……。
「報告ご苦労、レデスト“もうよいぞ”。それからひとつ聞きたいんじゃが…お前さんの横におる者、いったい誰じゃ?」
「その件だけど、義父(とう)さんならわかるんじゃないかなって思って連れてきたんだ。マモル、自己紹介。」
えぇっとぉ……、とりあえず…これは突っ込むか、
「なぁレデスト、あの人国王だよな。そんな喋り口調でいいのか?というより、さっきまでもろ敬語だったよな……。」
「はっはっはっ。それもそうだ、彼は私の娘の婚約者(フィアンセ)なんだよ。」
なん…ですと……。レデストが、国王の娘さんの婚約者…だと…。そんな奴と俺は肩を並べて喋くってたのか……
「あっ…えぇと…その……。とっ、とりあえず自己紹介ですね。自分、神宮護っていいます。そのぉ…“地球出身”です。」
「ッ⁉」
“地球出身”俺がその単語を発した途端、国王が何やら血相を変えた。やっぱこの世界、俺の住んでる世界じゃないんだ。そら変なこと聞かされたらそんな顔もしますわな……。
「キミ、いやマモルよ。今“地球”と申したな。」
「へっ⁉もっ、もしかして知ってるんですか、地球を!」
「うむぅ…私も代々言い伝えられている一部にその単語が入っておるんじゃよ。」
「義父さん、もしかしてあれには続きがあったの⁈いったいどんな内容?」
「最初から言うぞ、《封(と)ざし刻(ひ)より百の年月が過ぎし日の満ちた月輝くころ、魔の力は蘇り、再びこの地に災厄をもたらすだろう。》」
「なん…だって。その百年目ってまさか…。」
「そう、ちょうど今年の年末の夜。その日が、この言い伝えの百年経った満月の日なんだ。」
そんなこの世の窮地な時に来ちまったんだ、俺は…。そもそも俺は地球人、“異世界”の人間なのに…
「そしてここからが、私しか知らん続きじゃ、《救いの鍵は勇者(ひとり)の血、地球に住みし影無き血を持つものが、この災厄を打ち払い、明日(ひかり)を守るだろう…。》」
「影無き血…ですか?いったいどういう意味なんだろう。」
「私もいろんな可能性を考えたのだが、どれもしっくりこないものばっかなんじゃ。」
「………。」
“影無き血”なんだ、意味不明な言葉なのに、俺何故かは知らんが知ってる…いや、“聞いたことがある”んだ。いったいいつ、どこで、だれから……
「ん?マモル、どうしたそんな難しい顔して。なんかあったか。」
「あっあぁ、大丈……」
『いいか、護?これから父さんの言うことをちゃ~んと覚えておくんだぞ。』
「ッ⁉」
なっ、この声……父さん!なんで今⁈父さんは関係な……
~十年前~
「護、どうしたんだその傷。」
「…友達が、隣町のやつにいじめられてて。俺腹が立ったからそいつらに言ったんだ、《いじめをする奴は自分が弱いのを隠すためだ!》って」
「うん、それで終わりか。」
「そうしたら、そいつらが俺に殴り掛かってきて、俺目いっぱい戦った。でも負けて、すっごく悔しかった。」
「えらいな~護は、勇敢に戦ったんだろ?負けて悔しいならもっと強くなれ!誰でも守れるくらいにな。」
俺は昔、何か出来事が起きるたびに父さんに報告をしていた。この日もそうだった、頑張った俺を父さんはいつも
『頑張ったな』褒めてくれた。……だがこの日、父さんは後の俺にとってとても重要な言葉を残す…。
「いいか、護?これから父さんの言うことをちゃ~んと覚えておくんだぞ。」
「うん!それでなんなの?父さん。」
「俺たち神宮家の男たちは代々“ヒトリ”なんだ。」
「えっ、ひとりって僕お友達できないの?」
「そういう意味じゃない。ヒトリっていうのはほかの自分がいない、ちょっと難しいこと言うと、“影無き血”な
んだよ。」
「かげなきち?父さん意味わかんない。」
「ははっ、そのうちわかる日が来るさ、お前にもな。」
~現在~
……そうだ、父さんから昔聞いた言葉だ。父さんから“引き継がれた”言葉。俺が…勇者…なのか
「おい、マモルしっかりしろ。どうかしたのか?」
「俺、知ってる。」
「この言葉をか⁉どこだ、どこで聞いた!いったい誰から!」
「父さんから受け継がれた、お前の血は“影無き血”なんだと…。」
そう、俺の人生はもう決まっていたんだ。生まれたその瞬間に、勇者という人生が…
「でも、だからといってあの“影無き血”の意味は全く不明なままなんですけど……」
「ううむ、いったいどういう意味なんじゃろうか。それとも、大したことのない言葉なのか。」
「……っ⁉そうだ、なんで今まで忘れてたんだろう!」
「どうしたんだ?レデスト。」
「俺の親父の古い知り合いにかなりマニアック?な考古学者がいるんだよ。あの人ならこの言い伝えの意味が分かるかも。」
「ふむ、ならばレデストよ。マモルと共にその考古学者の下へ行って来い。マモルも、分かったな。」
「「はい!」」
かくして、俺たちはレデストの叔父に会うために、町はずれの山奥に行くこととなった。
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