昔々の昔、ある所に親と二人で暮らす男が居りました。
この男は大変な親不孝者で、大人になり一人前に働くような歳になっても何もしませんでした。
親がなんと言っても聞く耳を持たず、日がな一日を寝て過ごしました。その内、男の親が死んでしまいました。
「やれやれ、これで奴もちったぁ性根を入れ替えるだろう」村人達は互いにそう言い合いました。
ところがこの男ときたら、性根を入れ替えるどころか親が残してくれた畑やら牛やらを売っぱらってますます自堕落になったものだから、村人たちは呆れ果てて物が言えませんでした。
男は、どうした事か、眠りの神様と大変親しい間柄の友達になりまして、よく眠りの神様を自分の家にお招きするようになりました。
眠りの神様は必ず昼にお越しになって、夕方には慌ただしくお帰りになります。
どうしてなのか、怠け者は気になって尋ねました。
「それはね、ぐうたらさん」欠伸をなさりながら眠りの神様はお答えになりました。
「私の仕事があるからだよ」
どんな仕事をしておいでか、怠け者は気になって尋ねました。
「それはね、ぐうたらさん」目を擦りながら眠りの神様はお答えになりました。
「世界中を眠らすのだよ」
仕事をお持ちだと聞いて、怠け者はとても驚きました。
「そりゃあね、ぐうたらさん」こっくりこっくりとうたた寝をなさりながら眠りの神様はお答えになりました。
「私だって神様方の末席に身をおいてますからね。何にもしない訳にはいきませんよ」
ある日、とうとう起き上がるのも億劫になった怠け者はどうにか、ずっと怠けて暮らしていく方法は無いものかと、眠りの神様に相談しました。
「では、私の兄さんに頼んであげよう。兄なら多分、ぐうたらさん願いを叶えてあげられますよ」
それを聞いた怠け者は大変喜びました。
数日ののち、いつものようにやってきた眠り様は怠け者に、こうおっしゃいました。「お喜びなさい、ぐうたらさん。私の兄が貴方の願いを叶えてくれるそうです」
そのときの怠け者の嬉しさといったら! まるで天にも昇れそうな心持でした。
「本当はねぇ、いけないのだけれども、ぐうたらさんの願いを叶えても特に誰もなぁんにも困らないから特別だそうですよ」
兄は真夜中に来るから、布団の中で待ってなさい。そうおっしゃって眠りの神様は、夕闇に去ってゆきました。
怠け者は眠り様のお兄さんをわくわくしながら待ちました。何といっても、これでもうずっと怠けていられるんですからね。
次の朝、冷たくなった怠け者が布団の中に居りました。
眠りの大変まじめなお兄様が、約束どおりいらっしゃったのでしょう。
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創作童話2作目。
眠りの神様と仲良くなったニートの話。
世界各地の様々な伝承や民話で死と眠りは兄弟だとされる事が多いですね。
何となく自分は死の方がお兄ちゃんで真面目なイメージが有りましたがニール・ゲイマンの『サンドマン』読んで衝撃を受けました。
お薦めです『サンドマン』
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