「満潮、西村艦隊より帰還しました。第八駆逐隊に復帰します」
「了解しました。朝潮型三番艦『満潮』の復帰を認めます」
「おっかえりー」
「傷は大丈夫?」
「私よりも隣部屋の緊迫感の方が気になるわ。どうなっているのよ」
「『霞』にね、準備しておくようにって連絡がきたの。初春型の方にも伝えているんですって」
「この前、ちらっと阿賀野型の人を見かけたよ」
「たぶん『花の二水戦』の枯れ頃や、”最後の一航戦”が集められているんだと思う」
「そう。後は”晩秋の月”を待つばかり、……なのかしら」
◆*◆
大洋にて深海棲艦の大軍を認む。
全艦、大規模戦闘準備。艦隊決戦を想定し、戦列を構築せよ。
しかし、続く報告が威勢を崩しにくる。
「別働隊による強襲です。台湾沖で発生した敵艦隊が北上。既に沖縄本島を通過。本土上陸まで時間がありません」
「あの島からということは、レイテすら囮だったというのか……」
「比島を防衛できたので多号以降が短縮された。それだけは良かったと思うべきでしょうかね」
しかし、この奇襲は当時の大本営発表を利用された形になっている。
状況だけは歴史通りに進んでいる。
「再編成中の体制を崩さすに動けるのは私だけです。行かせてください」
「しかし……」
「間違えました。”私たち”なら戦えます。知ってますか? 意外と帰ってきた子が多い戦いなんですよ」
「お前を”沈めるため”の戦いだったからな。……大井参謀を呼んだ方がいいか?」
「意地悪を言わないでください。……提督、御決断を。大丈夫、『大和』は必ず貴方の元に戻ります。約束します」
天一号改め、人二号発令。
「持っていけ」
「えっ? だってこれ……」
「今の私より貴様の方が使いどころがあるだろう」
「そうだけどさ。本当にいいの?」
この一心は、妹の代名詞とも言える秘蔵の宝物だ。
「貸すだけだ。必ず返せ」
「うん。ありがとう。大切に使うね」
そっぽを向く妹に頭を下げて感謝を示した。
編成および出撃辞令。
帝国海軍連合艦隊総旗艦にして大和型一番艦、沈まぬ戦艦と讃えられた超々々孥級戦艦『大和』を旗艦とせよ。
旗艦に続く本土防衛隊の名を以下に上げる。
阿賀野型軽巡洋艦三番艦『矢矧』
朝潮型駆逐艦十番艦『霞』
陽炎型駆逐艦八番艦『雪風』
初春型駆逐艦四番艦『初霜』
秋月型駆逐艦三番艦『涼月』
航空母艦の居ない、名目だけの一航戦。
戦いの場は死地、坊ノ岬。
前夜。
特型駆逐艦二十二番艦は日本海に背を向けて羅針盤を確認、南西に顔を向けた。
そこには本州があり、進むべき航路は見えない。
「また、取り残されたのか……」
人二号の発動は、自分が舞鶴の防衛に再編成された直後だった。
相変わらず、自分の幸具合が良いのか悪いのか判らなくなる。
夜空に穿たれた穴のような月を見上げ、作戦の成功を願う。
祈ることしか出来ない身だが、祈ることを辞める訳にはいかなかった。
出立前、海軍式敬礼。
最新鋭軽巡洋艦が鉄筋のごとく背を伸ばし、はきはきと喋る。
「この矢矧、身命に換えても旗艦を護ります」
「無茶はやめて。私はみんなが無事に戻ることしか考えていないわ」
「しかしですね」
「そうだ。作戦が終わったら沖縄に行きましょう。半舷中はなんでも奢っちゃうわよ」
「ご自分で
天海を穢す水底の群れ。
その最奥に立つのは、黒鉄の城塞。
「敵艦隊『姫』級三隻を確認。敵旗艦、判明……。戦艦棲姫です!」
両脇に装甲空母を従えた超々々孥級戦艦。付随艦を含めれば彼我の差など数えたくなくなる。
「ある意味、一番起こって欲しく無い歴史分岐に入ったのかしら」
史実の空母部隊に加えて、控えの水上打撃艦までもが合流している。
だが、味方旗艦の超々々孥級戦艦は笑っていた。
「武蔵には悪いことをしたかな。私の方が先に、暴れられるんだから!」
空を覆い隠す大量の敵艦載機。
絶望を前にして、恐怖に震え、大粒の涙を零し、鼻水を垂らす陽炎型八番艦。
それでも主砲を手放さなかった。ふらつく脚を、前に出した。
鼻声で叫ぶ。
「今度こそ、絶対に、艦隊を、お守りぢばぁずっ!」
ここで戦わなくては陽炎型の名が廃る。姉妹艦たちに顔向け出来ない。
背に負った仲間たちに、自分は最後まで戦い抜いたと、自信を持って、胸を張って向き合うために。
「雪風は、じずびばせぇぇんっっ!!」
『奇跡の不沈艦』は大泣きしながらも、脚を止めなかった。
「数が多すぎっての! うざ過ぎよ!」
霞が空に向かって罵りと一緒に対空弾を撃ち上げる。
並ぶ初霜も両腕の両用砲を掲げた。
「援護するわ。今日の私は絶好調なんだから!」
二人は、とにかく、ひたすらに、敵機が飛ぶ空に向かって撃ちまくる。
西村艦隊のスリガオ海峡夜戦に続く、艦娘たちの追憶、第二幕。
『海を見上げて、手を繋いで』
再現されるのは沖縄水上特攻。
『大和』艦隊が
大和は敵砲撃を防御して折れた番傘を投げ捨てた。
「白兵装備、御出でませい!」
背負う巨大艤装から日本刀の柄が二つ現れる。左右の手でしかと握り取ると、天地天空の刀を抜き放ち五輪に従って構えた。
「天下無双と謡われた我が
そして、人の願いを叶えた『大和』は、二天を一にする柱と成る……。
*
所謂嘘予告です。秋月型が未実装ですし。
駆逐隊は寄せ集め感が欲しかったので、同型艦無しで一隻づつです。
ゲームだと大和、矢矧、冬月、涼月、自由枠2で収まりそうですけどね。
秋月型の二人が実装されたら、誰か書いてくれないかなー。ちらちら。
とはいえ陽炎型と夕雲型が揃うどころか、他にもまだ沢山の未実装艦があるし。当分先かな。
我が鎮守府では追加のレア駆逐艦が一向に拾えないから、今後も嘘予告のままです。
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艦これSSの嘘予告
本編はこちら:
『西村艦隊の長い一日』
http://novel.syosetu.org/16154/