No.416542 博麗の終 その16shuyaさん 2012-04-30 23:22:17 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:555 閲覧ユーザー数:535 |
【識者の思惑と幼子の真心と】
レミリア・スカーレットが、声をあげて泣いている。
少しだけ上を向いた顔からは、ぽろぽろと溢れ出す涙がぽたぽたと滴っている。両腕はだらんと垂れ下がったまま、無警戒で無防備な様を曝け出している。
八雲紫は、レミリアに言葉をかけた時からずっと、顔を伏せていた。
『今なら誰でも、私でなくとも、致命傷を与えることができるのに』
そんなことを思いながら、ただ時を待っていた。
レミリア・スカーレットが動き出すその時を待っていた。
どれだけ泣き続けるのか。
子供ならば、泣き喚いて感情を発散したら終わりである。レミリア泣き様は幼いようではあるけれど、だからこそ子供ではないのだろう。
長かったのか、短かったのか。
ずっと盛大に泣いていたレミリアの声が、ほんの少しだけ小さくなってきた。
『動く?』
紫は体勢こそ変えてはいないけれど、いつでも動けるように気持ちの準備はできている。全ての仮定も推測も消し飛んだ今、予想不能な状況には臨機応変に立ち回らねばならない。
レミリア・スカーレットをこの部屋に招き入れた意味を、果たしてもらわねばならない。
紫の行動は、読めない動きをする吸血鬼によって振り回されている。
先読みができない状況は、思惑のある者に厳しい。
レミリアは、まだ泣いている。
横たわる博麗霊夢の方を向いたまま、布団の傍で泣いている。
レミリアが、泣いたまま動き出す。
八雲紫は顔を伏せたまま、緊張を表に出さないよう努めている。
『霊夢へ向かうか、私へ向かうか』
吸血鬼化か、怒りか。
レミリア・スカーレットは一歩を踏み出そうとして、やめた。
霊夢の方へと身体を向き直して「楽しかったわ。本当に、ありがとう」と、聞き取れないほどの泣き声で言った。
そして、ゆっくりと一歩を踏み出した。
ままならない足取りで、一歩一歩、障子の方へと向かって行った。
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親しい者のために泣ける、大切なことです。