No.415770

真・恋姫†無双 雛里√ 鳳凰一双舞い上がるまで 第四章 5話(前編)

TAPEtさん

人を殺すこと?ただそれだけならまだいいかもしれない。
何故人を殺すのか。それは自分が相手より強いことを証明するため。
そして殺すことによって、自分の強さを相手に刻みつけるため。

まあ、どっちにしろ狂っていることは同じだが。

2012-04-29 13:42:08 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2998   閲覧ユーザー数:2660

一刀SIDE

 

真っ二つの切れた『氷龍』の姿を見て、僕は折れた刀を触ってみた。

もう触っても何かの衝動が襲ってくることはないらしい。

でも、まだ安心は出来なかった。

大体これが白鮫の時の違う『氷龍』だとすれば、こんなものが何本もある可能性も考えられる。

そうと思えば……

 

「一刀さん、大丈夫ですか?」

 

雛里ちゃんがそう言って気がついたら、氷龍の柄を握ってる手が震えていた。

 

「…大丈夫」

「……」

 

僕がそう言っても、雛里ちゃんはまだ安心できない顔でこっちを見上げる。

それとも、雛里ちゃんも不安になって来ているのかもしれない。

どの道、説明が必要だった。

誰かの説明が……

 

「周泰」

「は、はい」

「手間かかせると思うが、今から甘寧を探しに行ってもらえないか?できるなら、早く彼女の安全を確保した方が良い」

「一刀、どうしたの?まさか思春に何か…」

 

蓮華がそう聞いた。

蓮華はこの剣を恐ろしさがどんなものかはっきりとは分からない。

でも実際にあの剣を相手にしてみた甘寧や周泰は、僕の思惑が分かると思う。

 

「常識内の状況なら甘寧一人でおいても別に心配はしない。でも、コレが関わってることなら、まだ安心できないんだ。万が一のこともあるからな……」

「分かりました。呂蒙さん、私が居ない間蓮華さまのことをお願いします」

「は、はい」

 

周泰はそう言って直ぐに外へ行こうとした。

だけど、

 

「いや、待て!」

「え?」

「……やっぱ僕も一緒に行く」

 

もし本当にそうだとしたら、周泰だけ行かせるのは無意味かもしれない。

 

「一刀さん、危険です」

「雛里ちゃんたちは全部ここに残ってくれ。直ぐに戻ってくるから」

「あの、私には皆さんが何をしているのかいまいちわからないのですが…」

「私もよ。一体何をそう不安に思ってるの?もう剣は壊したんでしょ?」

 

魯粛さん、そして蓮華がそう聞いた。

僕が話そうとしたけど、雛里ちゃんが先に声を出した。

 

「この剣は、私たちが知っている限り、人の欲望を操る力を持っています。そして、この剣を持っている人が異常なまでその欲望のために動きます。最初に、私たちはこの剣がひとつしかないものだと思っていました。なのに、こうして二本目の剣があるということは、どこかにまだこういう剣が存在する可能性だってあるということです」

「それが、思春を探すことを急いでるのとどんな関係があるの?」

「……魯粛さん、徐州で張闓が悪政をし始めたのはいつ頃ですか?」

「…確か州牧の陶謙が病になった頃…半年前からよ」

「時期的にも大体合ってます……もしかすると」

 

そう、どうしても、考えたくもないけど念頭に入れてしまう。

 

ここ徐州にも、また『氷龍』がある可能性。

そして、今それを持っている者が張闓だとすれば……

 

僕たちの旅はまたもや危険なものと変わっていくだろう。

 

 

思春SIDE

 

あまりにも容易く人の命を奪ったその非道な人間を目にして、私は思わず体を震わせた。

いや、こいつはもはや人間ではなかった。

 

人を殺す時、こいつがしていた目には人間として人間を殺すことに何の罪悪感も持たない、まるで修羅のような目。

イカれている。

部下の頸を切り落とした血を拭くこともなく、奴は剣を持ったまま牢屋の門を開けた。

 

逃げるなら今しかない。

 

そう隙を見ていた私を奴はその巨大な体で牢屋の門をくぐり抜いて中に入ってきた。

 

「はぁーっ!!」

 

奴の目が私から離れている隙に、私は素早く立ち上がって奴の頸を狙って脚を蹴った。

奴は鈍い体のせいで対応できずそのまま横に倒れて、私は開いている牢屋の門をくぐり抜けた。

 

「止まれー!」

「ちっ!」

 

逃げる先を塞がっている槍を持った兵士が二人。

武器は一切なく、手は封じられていた。

でも今は傷の一つや二つぐらいどうでも良い。

早くこの場から逃げ出したいという気持ちだけで、私は前に突っ込んだ。

 

「ふっ!」

「ぐあっ!」

 

一気に槍を持った兵士の一人の懐に入ってそのまま男の急所を蹴りあげた。

そして悲鳴をあげる仲間が一緒に居たせいで私を攻撃できなかった反対側の兵士に向かって手錠ごと拳をぶつけて気絶させた。

 

「…逃がさん」

「!!」

 

その時、後ろから寒気がして私は本能的に前へ転んだ。

牢屋の中で倒したあいつが何時の間にか付いてきていた。

 

「役立たずどもめ」

「ひ、ひぃ!」「お、お許しを…」

「死ね」

「ひやあああああああたすけ…!」

「……っ!」

 

まただ。

再び何の訳もなく、奴は私の攻撃で倒れた兵士二人を殺した。

 

「何者だ…貴様は……それでも人間か!」

「……」

「何故殺す!お前が欲しいのは私だろ!」

「…楽しいからだ」

「何?」

「貴様もそう思うだろ。『鈴の音』」

「貴様、何故その名を……」

「…人間を殺す楽しさ。お前なら分かるはずだ。その恐怖に満ちた顔が堪らないんだ」

「……化物が!」

 

だけど、今こいつを相手するのは愚の極み。

ここは逃げなければ…

 

「逃がさない」

「何っ?!」

 

巨躯と似合わない素早い剣捌きに、一瞬でも下がるのが遅かったら私の体は他の奴の剣に殺された連中のようにされたかもしれない。

そして、その思いが頭をよぎった瞬間感じた感覚、

 

恐怖。

 

「っ!!」

 

ありえない。

武人である私が、

単に武器がないからと言って、

体が自由じゃないからと言って、

 

相手に怖がっているだと…!

 

「そう…それだ、その顔…最高だ」

「っ!!」

 

脚が……動かない。

 

「そのまま死ね」

 

蓮華さま……

 

「はぁあああっ!!」

 

 

次の瞬間、後ろから現れた影がなければ、私は死んでいた。

 

「北郷!」

「周泰!甘寧を連れて逃げろ!」

 

 

一刀SIDE

 

「大した警備はないな」

「よかったですね。おかしなことですけど…」

 

あれほど人から財宝を奪っている奴なら、警備が厳重だろうと思ったのだが、城の警備は割りと薄かった。

 

「お言葉ですが、一刀様はあまりこういうことには向いてませんから」

「どういうことだ?」

「肌と髪色、白くて直ぐにバレちゃうんですよ」

「あぁ……」

 

確かに褐色の肌に黒い長髪の周泰は、服の色も暗くて、夜良く見えにくい。

に比べ僕なんて、白い髪に肌も真っ白で、とてもじゃないが武人には見えない。

昔は焦げてたのだけどな……髪も黒かったし。

 

「とにかく、早く行くぞ」

「はい、牢屋なら普通こっちの方のはずです」

 

周泰に付いて生きながらも、やっぱり奇遇であって欲しいという気持ちもあった。

なにせあんな剣が何本もあるとしたら堪らない。

これ以上旅することを再考した方がいいかもしれない。

 

「ひやああああああ!!」

 

悲鳴!

 

「今のは」

「こっちです」

 

周泰と僕は声のする方へ近づいた。

城には本当に人が居なくて、静かな城の中で確かに聞こえた悲鳴がまるで幽霊の声に聞く人の心を恐怖づけた。

 

・・・

 

・・

 

 

悲鳴がした所に向かうと、誰かの影が見えた。

 

「思春殿」

「本当か?」

 

後ろに尻もちついていた。

そして、その前に居る巨躯の男の上がった腕に見えたものは……

 

「甘寧!」

「あ、一刀様!」

 

まずい、アレに掠り傷一つでもできたらおしまいだ!

 

「はあああっ!!」

 

『鳳雛』の刃が男が持っていた『氷龍』にぶつかった時、僕はその力に一瞬押された。

なんて力だ……白鮫の時と同じだ。

やはりあの刀も……

 

「周泰!甘寧を連れて逃げろ!」

 

後ろを見ると、甘寧は完全に戦える状況ではなかった。

顔がらしくもなく恐怖に満ちていて、脚もしりもちを付いていたわけではなく、力が抜けて震えていた。

 

「周泰!」

「はい!一刀様は…!」

「僕も行く」

 

今じゃ分が悪い。

一対一で戦って勝てる相手じゃない。しかもここは相手も縄張りだった。

いつ援軍が来るかわからなかった。

 

「せいっ!」

「うぬっ!」

 

巨躯の男の刀を流した途端、僕は後ろを向いて逃げた。

甘寧を連れた周泰がもうあそこまで行っていた。

雛里ちゃんたちの所に行ってちゃんとした作戦を立てて挑まないと……

 

シュッ

 

「っ!」

 

その瞬間、逃げ切ったと思った時、脚に短い矢が刺さった。

痛みにそのまま転んだ。

 

「…逃がさん……良くも俺の獲物を…」

「っ!」

 

巨躯の男は手に小さい弓が持っていた。

こいつ、矢も使えたのか……!

しかもコレは……

 

「死ね」

「ちっ!」

「一刀様」

 

その時、後ろから声と共に月光を反射する手裏剣が飛んできて巨躯の男に当たった。

 

「……っ」

「一刀様、今です。早くこっちに」

「あぁ」

 

麻痺毒が塗ってある周泰の手裏剣を何本も打たれた巨躯の男はそのまま前に倒れた。

と言って自分の脚で立とうとしたが、直ぐに脚から力が抜けて倒れた。

やっぱり…毒が。

 

「一刀様、大丈夫ですか?」

「はぁ……甘寧は…」

「安全な場所に置きました。一刀様と私だけ行けば良いです」

「…そうか…」

 

ちっ、息が辛い。

ただの麻痺毒ではないようだ。

 

「一刀様」

「僕は良い。奴の剣を奪え」

「そんなことより今は一刀様です」

 

僕の言うことを聞かずに周泰は僕を支えて立たせた。

くっ、絶好のチャンスを…

 

「僕は良いから…『氷龍』を…」

「駄目です!あいつを仕留めようと一刀様を犠牲にしたとなれば、私と思春殿は帰れなくなります。蓮華さまや雛里さまのことを考えてください」

「……っ」

 

周泰を話を聞いていたら、僕はどんどん意識が遠くなって、周泰の言葉が終わる前に意識の糸が切られた。

 

 

 

 

雛里SIDE

 

「二人とも遅いです」

「まだ出て行ったばかりよ、落ち着いて、鳳士元」

「落ち着いていられないんです」

 

一刀さんがああ焦って一人で動く時には、いつも良くないことが起きるんです。

周泰さんと一刀さんが帰ってくるのが遅くなればなるほど、その悪い予感が当たりそうで不安になります。

 

「てわわ、雛里お姉さん、落ち着いてください。雛里お姉さんが慌ててると言って一刀さんが安全になるわけじゃありません」

「それはそうだけど…」

「今はそれより、こっちをなんとかしてください」

 

そう言う真理ちゃんが一刀さんの鞄の前に座ってます。

 

「二人ともさっきから全然返事がありません。完全に無視です」

「……ちょっと私にやらせて」

 

私は真理ちゃんを退かせて鞄の前に座りました。

 

私が欲しいもの……

 

二人の姿を浮かべながら鞄を開くと

 

「……ー……すぅ…」

「……」

「ね…てる?」

 

そこには倉ちゃんと左慈さん(蛇)の姿がありました。

上ではこんな波乱が起きているのに、何初盤で喧嘩した二人寝ていたのか。

 

「何?その娘そこで寝てたの?」

「見えないかと思えばそんな所に…」

 

知らない二人はそういうものの、正直これから私たちがやることも含めて、どう説明すれば良いのか判りません。

 

「倉ちゃん、左慈さん、起きてください」

「………ん?」

「……ススー」

 

できるだけ感情を抑えた声で、そう言うと、二人とも目を覚ましたようです。

 

「…雛里ちゃん?」

「……」

「…雛里ちゃん、泣いてる?」

「泣いてなんかないよ…」

「……」

 

でも泣きたい。

 

一目で私の気持ちを見抜く倉ちゃんはやっぱりすごい。

そして…

 

「左慈さん、話があります。ちょっと良いですか?」

「……スー」

 

蛇の姿の左慈さんは周りを見回しました。

 

「説明は後で私がしますから、今は早く元に姿になってください」

「……ススー」

 

舌を伸ばしながら絡んでいた倉ちゃんの腕から離れて距離をとった左慈さんは、少しずつ元の姿に戻って来ました。

蛇の鱗がついた人の姿へ。

 

「なっ!」

「あっ!」

「なんと」

 

それを見た孫権さんや呂蒙さん、魯粛さんはそれはもうビックリですが、今日驚くことなんて盛りだくさんです。大盤振る舞いです。

 

「疲れているようね、鳳統ちゃん、少し休んだ方が良いわ」

「私のことは今はどうだって良いです。休みなんてさっきまでするほどしました。でも…」

「体の疲れじゃない。心の疲れよ。人をあんまり信用しないのも良いものじゃないわ」

 

そう言って左慈さんは私を抱きしめました。

 

「あ」

「一人で悩みを全部抱こうとしない。少しは周りを信じなさい」

「……娘に一言言われたぐらいで引きこもった人に言われても説得力ありません」

「うぐっ……忘れる所を…」

 

私を離した左慈さんは今度は真っ二つになった剣の方へ行きました。

 

「なるほど、二本目の『氷龍』ね。これは厄介なことになったわ」

「あなたは、以前一刀が倒れた時に現れた女ね。一体何者なの?」

「孫権さま、危険です」

 

孫権さんと呂蒙さんが左慈さんを警戒しながら言いました。

魯粛さんは何も言わず部屋の扉の近くで様子を見てましたけど、驚いていることには変わりありません。

 

「私に関して疑問を持つのも無理ではないけど、今はもっと異様に思うべきものがあるじゃない。この剣の存在。確かに一本目は折られたままあの時の洞窟に埋まったから、実際に皆が氷龍をこんな間近で見るのは初めてになるわね」

「何故『二本目』が存在するんですか?」

「以前言ったことがあると思うわ。『氷龍』という存在は単純な剣じゃないわ。それは『氷龍』という生き物、その生き物の力。その生き物が自分の力を分けて剣の姿に変えたのが、今のこの『氷龍』という名の剣よ」

「…わかりやすく説明してください」

「つまり」

 

その次、『とても分かり易い』説明をされて、私と真理ちゃんは息を呑みました。

 

「この『氷龍』を大陸中にばら撒いている奴が居るってことよ」

 

 

 

 


 
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