No.415391

黒髪の勇者 第二編 王立学校 第九話

レイジさん

お久しぶりでございます&すんませんでしたー!

他に色々やることがあって全然投稿できませんでしたお。。
GW中は極力書いていきたいと思っております。。

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2012-04-28 21:07:52 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:485   閲覧ユーザー数:485

黒髪の勇者 第二編第一章 入学式(パート9)

 

 今週末からの盗賊退治を約束したところで、ビアンカ女王の一行は王都アリシアへと帰還することになった。

 時刻は丁度正午を回った所である。詩音とフランソワがビアンカ女王の一行を正門まで見送った所で、フランソワが口を開いた。

 「ねぇ、お昼にしましょうか。」

 「そうだね。」

 そう答えて、二人は寮棟へと向けて歩き出した。ミッターフェルノ広場には午前の講義を終えた生徒たちで溢れている。どうやらランチを外で食べる生徒も多い様子であった。詩音は未だ経験してはいないが、理想のキャンパスライフと言ったところであろうか。

 と、その時である。

 「お姉さま!」

 快活な、良く通る明るい声がミッターフェルノ広場に響き渡った。声の方向を見れば、小麦色の髪をポニーテールにした、フランソワよりも幾分幼く見える少女の姿があった。

 「セリス。」

 フランソワが少し驚いた様子でそう言った直後、セリスと言う名をもつらしい少女はそのまま、フランソワの懐に飛び込むように抱きついた。

 「お姉さま、ご無沙汰しておりました!私も今年から王立学校に入学致しましたので、早くご報告しなければと思っていたのです。」

 「ついさっき、フレアさんから聞いたわ。」

 抱擁を解きながら、フランソワがそう言った。

 「お母様から?では、アレフお義兄様もいらっしゃったの?」

 「ええ。ビアンカ陛下の護衛としてね。」

 「それなら私もご一緒するのでしたわ。何しろお義兄様は最近殆ど屋敷に戻っておりませんでしたから。」

 不貞腐れるように頬を膨らませながら、セリスはそう言った。

 「最近は色々と忙しい様子ね。」

 宥めるように、フランソワがそう答える。おそらく盗賊対策にかかりきりになっているせいだろう。

 「ところでお姉さま、こちらの殿方は?」

 そこで漸く詩音の存在に気付いた様子で、セリスが詩音の姿を視界に収めながらそう言った。

 「シオンというの。私の大切な友人よ。」

 「友人、ですか。」

 むす、と顔をしかめながらセリスがそう言った。そのまま、舐めるように詩音の姿を観察してゆく。

 「まさか、不埒な理由でお姉さまと同行されている訳ではありませんよね。」

 「何を言っているの、セリス。」

 呆れた様子でフランソワがそう答える。

 「お姉さま、重々お気を付けてくださいませ。男と言うものは油断ならないと私、日々痛感しておりますわ。シオンとやら、もしお姉さまに手を出された時は、このセリス=ロックウェル=ロックバードの剣で・・。」

 「落ち着きなさい、セリス。」

 腰に佩いた剣の柄に手を掛けたセリスを押しとどめるように、フランソワがそう言った。どうやらこの少女は剣を武器としているらしい。彼女の体格からは似つかわしくない太刀を装備したセリスの姿に違和感を覚えながら、詩音はセリスに向かってこう言った。

 「よろしく。」

 「宜しくお願いされる筋はありませんわ。第一、どうして貴方はお姉さまと仲睦まじく歩いていらっしゃるのかしら。見たところ剣士でいらっしゃるようですけれど。」

 「護衛役、という所かな。」

 どうしてこの少女はここまで俺につっかかってくるのだろうか。

 「ごめんね、シオン、この子少し先走るところがあって。」

 フランソワが詫びるようにそう言った。ビアンカ女王といい、アレフといい、このセリスといい、アリア王国の貴族連中は少し変わった人間ばかりなのだろうか。

 「先走ってはおりませんわ。現に私、先程気味の悪い殿方に声を掛けられましたもの。先輩後輩の関係とはいえ、私がそう軽々しく殿方からのお誘いを受けるとでも思ったのでしょうか。」

 「先輩後輩?」

 フランソワが首を傾げながらそう言った時、セリスがあからさまに眉をひそめた。

 「話をすれば、ですわ。」

 「これはこれはフランソワ殿。再びお目にかかれて光栄です。」

 見ると、先程入学式の前にフランソワにちょっかいを出してきた男子生徒であった。ついでに、顔ぶれの変わらない取り巻き連中も。

 「何の用かしら、ギリアム。」

 嫌悪を隠さないままに、フランソワがそう言った。

 「お姉さま、こいつですわ。先程憚りもなく私に声を掛けてきた気色の悪い男は。」

 続けて、セリスがそう言った。直後に、ギリアムと呼ばれた男子生徒の表情が歪む。見た目からも分かるが、どうやら相当にプライドの高い人間らしい。

 「セリス殿、私の誘いを断った女子生徒は貴女が初めてですよ。」

 そのまま、ギリアムは吐き捨てるようにセリスに向かってそう言った。そのまま、言葉を続ける。

 「ま、貴女に冷静な判断力が備わっていれば、私かフランソワ殿か、どちらが優れているかなどすぐにご判断出来ると思いますけれど。ねぇ、科学科のフランソワ殿?」

 その言葉に、フランソワは再び言葉を失った。

 「哀れですよね。魔術さえ使えれば、貴女は今頃堂々と魔術科に入学できたというものを。まあ、仕方ありません。家柄や努力ではどうしようもない壁というものが人間社会には必ず存在していますから。」

 「その辺にしてもらおうか。」

 ギリアムの言葉が終わるか終わらないかと言うところで、詩音はフランソワを庇うように一歩前に踏み出した。

 「ふん、平民風情が。」

 鼻を鳴らしながら、ギリアムがそう言った。

 「いいから、さっきの続きをしようか。お前は一回ぶっ飛ばす。」

 「魔術師相手に、その貧相なタチ一つで戦うと?」

 「フランソワを侮辱する事は許さない。」

 詩音がそう言いながら、再び徒手空拳とばかりに構えた。その詩音に対して、ギリアムが小さく鼻を鳴らす。

 「光栄に思うが良い、平民。このギリアム=ランス=プロヴァンスが直々に相手してやるというのだからな。」

 「後悔するなよ!」

 詩音は短くそう叫ぶと、力強く大地を蹴った。そのまま拳を振り上げて、ギリアムとの距離を縮めていく。その詩音をギリアムは口元を歪めながら哂い、懐から古木のワンドを取り出し、上空へと振り上げながら短く叫んだ。

 「グラキエース。」

 直後に、ワンドの上空に拳ほどの大きさを持つ氷塊が現れ、詩音目掛けて一直線に落下を開始した。思わず脚を止め、咄嗟に左方向へと飛び跳ねる。成程、魔術とは厄介なものだ、と詩音が考えた直後。

 「シオン、危ない!」

 フランソワの絶叫が響いた。目の前には同じく拳程度の大きさを持つ、今度は火の玉が迫ってきている。それを手の甲で無理矢理にはじいた所で、詩音は奥歯を噛みしめながら唸った。

 「卑怯者!」

 火の玉を放った魔術師はギリアムではない。取り巻きの一人であった。

 「戦において、卑怯など存在しない。数が多い方が勝つ、これが真理だ。」

 軽く火傷を起こしたものか、ひりひりと痛む左手を握った詩音に向かって、ギリアムが冷酷そのままの口調でそう言った。

 「ならば、こちらも助勢があってしかるべきですね。」

 そう言ったのはセリスであった。既に彼女自身の太刀を抜き放っている。

 「セリス、流石に真剣は。」

 思わずそう言った詩音に対して、セリスが語気を強めながら答える。

 「相手が本気だというのに、こちらが本気にならない理由はありませんわ。殺さない程度に痛めつけるだけです。シオン殿も、小言を仰っている暇があるならすぐにそのタチを抜き放つべきですわ。得意としている訳でもない徒手空拳で勝てるほど、魔術は甘くありません。」

 「随分と野蛮だね、セリス殿。君は確か魔術科であったと思うけれど、平民と同じように剣一つで戦うのかな。」

 くつくつと哂いながら、ギリアムがそう言った。そのギリアムに、セリスが毅然と答える。

 「いいえ、残念なことに私は女子(おなご)。体力で男性に敵わないことは十分に承知しておりますわ。けれど、このような魔術も存在しているのですよ。」

 セリスはそう言うと、精神を集中させるように小さな吐息を洩らした。そのまま、短く叫ぶ。

 「ヴォティス!」

 そう言った直後、セリスの身を淡い光が包み込んだ。一体何を始めるつもりだ、と詩音が考えた直後。

 「では、参ります!」

 セリスが、信じられない速度で取り巻きの一人との距離を詰めた。そのまま、太刀の腹で相手の胴を叩きつける。ぐえ、と呻いた取り巻きの一人がそのまま地面へと膝をつき、意識を失った。それと同時に、周囲から感嘆とも驚愕ともつかぬどよめきが起こる。どうやら昼休みを満喫していた生徒たちが集まってきているらしい。

 「これは、一体何を。」

 一流の剣士でも舌を巻くような速度を見せたセリスに対して、詩音は思わずそう呟いた。

 「私の魔術ですわ。速度強化の魔術と言えばいいのでしょうか。」

 そこでセリスは楽しげに笑うと、別の取り巻きへと目掛けて駈け出した。慌てるように放たれた土つぶてはしかし、セリスの身体に触れることすらできない。強化されたその速度で、魔術の悉くを避けてしまっているのだから。

 とにかく、取り巻きはセリスに任せても問題がないらしい。詩音はそう考えると太刀を抜き放ち、再びギリアムに向き直る。

 「改めて、勝負。」

 セリスの活躍に普段の冷静さを取り戻しながら、詩音はギリアムに向かってそう言った。

 「小癪な!」

 ギリアムはそう叫ぶと、もう一度ワンドを振り上げた。もう一度、空中に冷たく輝く氷塊が現れた。否、今度は先程よりも一回りは大きな氷塊である。

 『接近戦に持ち込めば、体力では負けませんからな。』

 昨日、ビックスが放った言葉を思い起こしながら、詩音はギリアムに向かって駈け出した。

 同時に、ギリアムがワンドを水平へと向けて振り下ろす。その動きに合わせて氷塊が詩音目掛けて襲いかかってきた。ごう、と耳鳴りがするほどの速度で迫る氷塊に対して、詩音は上段に太刀を構えると、ただ真一文字にそれを振り下ろした。氷塊の表面が砕ける、鈍い音が響く。切っ先を軽く回しながら、詩音は氷塊の進路を僅かに左方向へとずらした。そのまま、自らの身体の重心を右側へと寄せる。

 氷塊はただ芝生をいくつか巻き上げただけで地面へと落下した。ギリアムまでの距離は、あと数歩。

 「小癪な、小癪な!」

 ギリアムは唸るようにそう言いながら、口元で何事かを呟き始めた。次の攻撃を行う為の詠唱を始めたのだ。だが、詩音の動きの方が遥かに早い。詠唱を終えて再びワンドを振り上げようとしたギリアムの鳩尾に、詩音は握りしめた拳を叩きこんだ。唾液をこぼしながらギリアムが膝をつく。そのギリアムの首元に、詩音は冷静に太刀を当てた。

 「降参するか?」

 既に取り巻きの五人はセリスの手によって全員が気絶させられていた。

 「・・くそ、くそ!」

 ギリアムは両手で芝生を引きちぎりながら悶えた。何度か力任せに地面を両手で殴りつけ、やがて観念した様子で脱力すると、声を震わせながら、言葉を絞り出す様に口を開いた。

 「降参だ・・。」


 
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