No.413454

<短編>ひぐらしのなく頃に~鬼訐き編~

izumikaitoさん

 昭和58年4月、とある一家が雛見沢村へと引っ越してきた。
 とある神が信仰されているこの土地で奇怪な事件が年を通じて起きていた。
 そんな事件に立ち向かうひとりの少年がいた。
 彼は果たして無限の世界で奇跡を起こすことができるのか……

2012-04-24 11:16:02 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1032   閲覧ユーザー数:1021

前書き

 怖がらなくてもいい、怯えなくてもいい。

 自分を罵ろうが、嘆こうが。

 私は、僕は君を許すから。例えその世界が君を許さないとしても……

 

 真実とは何か、求めるものとは何か。

 霧に隠された真実に手を伸ばそうとも、それは霞のように指の間からすり抜けてしまう。

 君は誰だ、お前は誰なんだ……

 

 どうしたら許してくれますか? 私のことを……

 どうしたら知ることができますか? その悲しいまでの真実を……

 教えてください、教えて欲しい……

 どうかこの迷宮から出るための導を教えてください……

 

OP:ひぐらしのなく頃に

 

本文

 昭和58年、4月――

 ここ雛見沢村にとある一家が引っ越してきた。狭い道は田んぼに囲まれており、ギリギリ車が二台左右を通れるくらいだ。

 黒い小型の車がゆっくりとその道を走っていく。それに乗っているのは夫妻と後ろの席に一人の少年が横になって眠っている姿が見える。

 黒い服はおそらく学生服、この田舎村ではほとんど見かけない服装だ。何せ中学校というものが存在しない。小学校というものもなく、今は分校という小さな学び舎があるくらいだ。

 少年の名前は高城直也。ここから遠く離れた都会から引っ越してきた中学三年生だ。このような自然に囲まれた環境に引っ越してくることになったのは彼の父親である高城和也が警察官の仕事上ここから少し離れた興宮に仕事を回されたのだ。所謂左遷のようなものだ。エリート街道を突き進んでいた彼にとってはかなりショックの出来事であっただろうに今はすっかり立ち直っているようで、耳うるさい騒音に悩まされることもないし、今までにないくらいゆっくりできるとむしろ喜んでいた。

 普通ならその言葉に対して文句などを言うのが当然だ。

しかし直也の母親である菜緒はそのことに対して何も言わなかった。今まで仕事詰めで夫婦間、家族間に溝ができていたのを感じていたのでむしろよかったと言っていた。

 確かに今までよりも収入は減るだろう。しかしそれ以上に家族の時間を得ることができた。

 そんな家族のひとり息子である直也の夢は父親と同じ警察官になることだ。当然父親からは期待とともに不安を吐露された。自分と同じような警察官にはなるなと、ただ目の前のことばかりを盲目的になり、周りを見るのをやめることを決してするなと。

 父和也隣にはいつも家族がいた。

 しかし彼はそれを見ようともしていなかった、見ているつもりでいただけだったのだ。だからこそ知らず知らずの内に溝を作ってしまい、もはやあの時気付かなければ今頃こうして三人が揃うことなど永遠になかったかもしれないのだ。

 だからこそ周りを大切にし、そして夢を追うことにしていた。

 だがそれもなかなか難しい。ここに来た理由のもうひとつは直也が受けていたイジメだ。元来生真面目であり、警察官の父を持っていたために周りの小さな悪さということに対してもかなり神経質だったのだ。

 最初はまたかというくらいですまされていたものも、繰り返されるたびに鬱陶しくなり、最後には口では正論に勝てないので実力行使になったのだ。だが直也自身小さな頃から夢のためということで武道を習ってきていたために並の大人でも普通に勝てるだけの実力はあった。だが数で攻められればとてもじゃないが勝てるはずもなかった。

 イジメはそれだけに終わらなかった。直也に対するクラスメイトたちからの評価というのはかなりギリギリのものだった。真面目で、顔立ちもよく、少なからず好意を抱いている異性だって存在していた。

 教師からの評価は逆にかなり高く、信頼も厚かった。だからそんな直也がイジメに遭っているなどと思うはずもなかった。

 クラスメイトの中で根に持っていた者や気に食わないと思っていた者たちは周りに指示していわゆるシカトを始めた。

 あまりにも幼稚だと完全に無視を決め込んでいた直也。

周りの生徒たちもそのイジメの中心の人間が怖いために、自分も標的にされるのが怖いためにしぶしぶ従っていた。そんなこともどうでもよかった。

 しかし嫌がらせはエスカレートするばかりだった。シカトに始まり、物を隠すなどの行為が後を絶たなくなった。変な噂も立つようになり、かなり学校内ではへんな視線で見られるようになった。

 教師もイジメについて言及することはなく、本当にそんなことはしていないだろうなとうわさのことを聞いてくるばかりだった。

 気にするな、無視しろ――しかし無意識の内に胸の奥にたまっていくはストレスという名の不満と怒り、そして苛立ち。

 何故こんなにも幼稚な行動をしてくる、何故堂々と自分に対して意見してこない。直也は群がることでしかこのようなことができないクラスメイトたちに対して不満と苛立ちを抱いていた。

 まるで犯罪を犯す者たちと同じだと思うこともあった。

 そんな者たちとは違い、堂々としている自分は正しいのだと思うことで立っていられた。それが無意識の内の防衛行動だったのかもしれない。

 だが逆に気付いてほしいという気持ちもあった。クラスメイトたちに自分がどうして注意するのかということと、教師や両親に自分がイジメられているのだという事実に。

 そして限界は意外にも早かった。

 真面目ゆえに吐き出し口がなかった直也。当然表面には出ずともそれはずっと溜まり続けていたのだ。少しずつ、少しずつ……まるで熟成するかのように。

 キッカケはまた小さなイジメだった。下校前に教室から離れていた直也の鞄から教科書などを抜き取っていたクラスメイトたち。今までは上履きや体育着などですんでいたが、今回はいつも足早に下校してしまう直也が珍しく鞄を置いてどこかに姿を消したために大正を変更したというわけだった。

 そのクラスメイトたちは体育館の裏に向かい、そこで抜き取ってきた物を破り捨てたり、持ってきていたライターで燃やしたりする。メラメラと燃えるその炎はゆっくりと大きくなる。まるでここにはいないイジメの対象の直也の何かが大きくなるかのように。

 そして現れた――呆然とした表情を浮かべ、無機質な瞳を彼らに向けた高城直也が。それからは一瞬の出来事だった。いつも一緒にいるはずのメンバーがいないために少ない人数の彼らでは直也に歯が立つはずもなかった。物の数分で地に沈められた彼ら。騒ぎを聞きつけて現れた教師たちと数人の生徒たち。拳から血を滴らせている優等生と思われていた直也の姿を見せ、誰もその口から言葉を発することができなかった。

 車の走っている道が悪いためか時々上下気大きく弾むことがあった。それを何度もされてしまってはおちおち眠っていることもできない。

 大きくあくびをした直也は顔に光を遮断するためにおいておいた学生帽子を取り、頭に被り直す。

 久しぶりに嫌な夢を見たな――そう思う直也は眠っていたはずなのに酷く疲れた表情を浮かべる。

 既に家々が立ち並ぶ様子が向こうに見えてきた。そして丁度車が長い石段の近くを通ろうとした時だった、突然車を父和也が止める。一体どうしたのだろうと助手席の母とともに視線を向ける。

 すると後ろを向いた父が言う。

 

「直也、お前少し歩いて来い」

「えっ? どうしてですか?」

「運動だよ。どうせまだ眠気が抜けてないんだろ? 家につけばすぐに準備があるんだから今の内に身体、動かしておけ。それにこの辺りだとちゃんと身体を動かせないともやしっ子って言われるぞ?」

「別に僕は遊ぶつもりなんて――」

「いいからさっさと行け。それとちゃんと挨拶だけはしておくんだぞ? この村は狭いんだからうわさなんてすぐに広がって当たり前になるんだからな」

「……仕方ありませんね、分かりましたよ」

 

 総諦めたように言う直也はゆっくりと車の扉を開け、外に降りる。太陽の光とともに涼しげな風が直也の身体を撫でる。

 扉を閉めると車はすぐに走り出す。特に何も持ってこなかったので手ぶらである直也は仕方ないと適当にこの雛見沢村というものを眺めることにした。

 全体を眺められるにはこの石段の頂上が適しているだろうと思い、少しだけ足早にそれを登っていく。

 ようやく着いたそこには開かれた場所が存在しており、やや小さな神社のようなものがあった。

 やや坂になっているところに歩み寄り、そこから雛見沢村を眺めてみる。以前に住んでいた都会とはまったく違い、自然に囲まれた環境だ。ビルなどという余計なものは存在しておらず、本当にヒトがヒトとして生きていけるのに最低限の物が揃っているように見える。まあ、スーパーやコンビニというものも存在しているようには見えないのでここから離れている興宮まで行かなければいけないのだろうとは思う。

 すると後ろから地面を踏みしめる音が聞こえた。将来は警察官になることを夢見ている直也はその僅かな音にすぐさま反応し、口を開く。

 

「誰だっ!」

「っ!?」

 

 振り返り、視線を向けた先にいたのは白いワイシャツに、赤い蝶ネクタイ、黒いスカートをはいた一人の少女だった。黒い髪は腰辺りまで長く、前髪はパッツンに切りそろえられている。

 何故このようなところにひとりの少女がいるのだろうか。

 そもそも彼女が直也の後ろに現れるまでまるで気配がなかった。少しだけ警戒しながら少女のことを見つめる。

 純粋無垢といった視線をこちらに投げ返してくる少女。これ以上疑っても意味はないと判断し、視線を逸らす。

 

「君は、ここの住民かい?」

「はい、この古手神社の一人娘です、「古手梨花」と言います。見かけない顔なのです、もしかして引っ越してきた人なのですか?」

「うん、都会の方からね。僕の名前は高城直也、よろしくね、古手梨花ちゃん」

「よろしくなのです、にぱー」

「『にぱー』? あははは、かわいいね」

 

 古手梨花という少女はどうやらこの神社の娘らしい。

 家が近くにあるのだろうと、彼女が突然にここに現れた理由をそう予想する。

 都会から引っ越してきたのだというと彼女は知り合いの中学生にも同じくとカイから引っ越してきた人がいると言って来た。

 そうなのかと、それほど興味は持たなかった。

 気になったとのいえば彼女の独特な言い方だ。子どもらしいと、可愛く思えた。当たり前のように遣っていたのでそう言われると少し恥ずかしいと顔を赤らめる。

 

「直也は知っていますか? 「オヤシロ様」のお話を」

「「オヤシロ様」? なんだい、それ」

 

 突然話しかけてきた梨花。

 そよそよと吹いていた風もいつの間にかなくなり、無音が二人を包み込んでいた。

 「オヤシロ様」という聞きなれない単語をしているかと聞かれ、分からないと答える。別段知ろうとも思わなかったのだが、梨花がスラスラと慣れたように「オヤシロ様」について話し始めた。

 この雛見沢村の守り神であると同時に祟り神だという。そんな「オヤシロ様」を祭っているのがここ古手神社だという。そして梨花は今代の古手神社の巫女であると言う。綿流しという祭りがあり、それもここで行われるという。それは布団や衣類の綿を抜いて「オヤシロ様」に感謝する儀式だと言う。

 

「是非とも来て欲しいのです」

「っ!?」

 

 突然突風のような風が吹き、直也は思わず腕で顔を覆ってしまう。帽子が風によって舞い上がり、ゆっくりと足元の地面に降り立つ。

 ゆっくりと覆っていた腕を下ろす。先ほどまで目の前に立っていた少女の姿がいつの間にかなくなっていた。

 慌てて視線をあたりに向ける。だが姿どころか気配すらない。

 どういうことだと思わず呆然としてしまう。

 いつの間にか無音を切り裂くようにして季節はずれの虫の音色が響いていた。まるで直也のことを歓迎しているかのように。

 

後書き

 久しぶりにひぐらしの動画を見て、書いてみたくなったものです。

 ほとんど原作キャラも出ていないので話自体はプロローグでしかありませんね。

 これはオリキャラが何とかしてバッドエンドを回避しようと立ち回るお話しです。もちろんオリキャラは転生者などという存在ではなく、その世界に住んでいるただひとりの人間です。

 またネタが纏まったら投稿するかもしれません。

 その時はまた、ご感想を一言二言でも構わないので書いていただけると嬉しいです。

 それでは!!

 

ED:why, or why not


 
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