No.413301

ガンパレードオーケストラ 白の章 外伝  紺碧の復讐者 第二楽章

前回の続きです

2012-04-24 00:53:56 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:503   閲覧ユーザー数:503

一方その頃、通信室。

 

 

石田たちは到着してくる隊員らの詳細な経歴や、一番重要な顔写真を得ようといしていた。

 

が、見つかる情報はどれもこれも簡素的なものだけだった。

 

「あー、もう!全っ然見つかんない!」

端末画面に出てくる同じ検索結果に対して、菅原 乃絵留は苛立ってきた。

 

「ハルちゃんそっちは?」と菅原は、隣で作業している吉田 遥に尋ねた。

「・・・ん、駄目」とフルフルと首を振った。

 

「しっかし、これだけあちこち探しても詳しい情報が見つからないなんて、ちょっと変じゃないかい?」と村田 彩華が疑問に思い出した。

 

「うーん。確かにお姉様の言う通りかも」と菅原は賛同した。

石田の権限内で調べられる範囲全てを調べ尽したが、必要な顔写真は表示されずに名前や年齢などを簡略化された経歴だけが検索されたのだ。

 

「あーあ。せめてさぁ、後姿だけでも写ってる写真でもあれば良いのに」とボヤく菅原。

「・・・あのね乃絵留。後姿だけってどっかのスナイパーじゃないんだから・・・」と石田。

 

ふと、石田はある事を思い出した。

 

買物班が出発する少し前、岩崎が《何か困った事などがあったら、これを使って下さい》と折り畳んだメモを石田に渡していたのだ。

 

ポケットに入っていたメモを開いてみると、そこには端末に入力するコードが書かれてあった。

もはや藁にすがる思いで、石田は端末にメモのコードを入力した。

 

コードを入力し終え、映し出された画面に一同は驚愕した。

画面には[情報部 最重要機密事項]や[極秘]などといった、あまり見てはならないような文字が羅列していた。

「ちょ、ちょっとコレって・・・」

一兵卒の村田にも、いかにマズイ画面だということは感ずいた。

 

 

そして、口にしたくはないが誰もが思った。

 

 

「・・・裏コード」

吉田がボソリと恐ろしいことをつぶやいた。

 

そう、岩崎が渡したメモに書かれていたコードは、軍情報部のデータベースに入るための裏コードだったのだ。

すると、画面の隅に時間が表示された。

刻々と少なくなる数字。

 

「ちょっ、マズイ!三人とも速くプリンタに用紙セットして!」

石田は、大慌てで指示を出した。

「ねえ!どういう事なの!」と、大急ぎで用紙をセットしながら菅原は尋ねた。

「タイマーよ!情報漏洩防止の為に掛けられてる防犯システム!」

「・・あと3分45秒」

石田は、大急ぎで検索欄に名前を入力した。

 

 

>>柊 信彦

>>石島 輝明

>>春山 要

 

 

検索された経歴をコピー、同時に印刷を始めた。

「吉田!あと何分?!」

「・・あと1分50秒」

 

 

残り時間も後僅か。

 

 

「終わった!印刷終わったよ!」とプリンタの菅原が叫んだ。

それを聞いた石田と村田は、大急ぎで端末を終了させた。

 

「お、終わった・・・」

緊張の糸が一気に解け、石田と村田、菅原は気が抜けた様にヘナヘナと机に突っ伏した。

「・・・・残り45秒、ギリギリセーフ」

吉田は、少しホッとしたようにボソリと呟いた。

 

 

とりあえず必要な情報を入手することができたが、吉田以外の三人は叫んだ。

 

 

 

『岩崎のバカヤロ-!!』

 

 

 

 

 

 

同時刻、食堂調理場。

 

「?ねえ、今何か変な叫び声聞こえなかった?」

鍋に入れる具材を切っていた工藤 百華は、後ろで鍋のダシをとっていた横山に尋ねた。

「叫び声、ですか?いえ、聞こえませんでしたけど」

横山の答えに工藤は気のせいか、と思いまた具材を切り始めた。

 

 

 

「よし、具材はこれくらいで良いわね」

「お鍋も準備完了です」

とりあえず今ある材料で、下ごしらえを終えた。

後は、料理長である山口が戻るのを待つだけである。

 

「ねぇ、お茶でも煎れて少し休まない?」

「あ、そうですね」

 

食堂のテーブルに並べられる、二つの湯飲み。

横山は、慣れた手つきでほうじ茶をたてた。

 

 

「後は、山口さん待ちですね」

「そうだな、谷口達が先に食堂掃除してくれてたから助かったよな」

自分と横山以外食堂に誰もいないという事もあり、工藤は元々の性格をさらけ出した。

横山、谷口、小島、岩崎、そして石田の5人は工藤の正体を知っている。

 

 でも5人は工藤を拒絶することなく、親友として受け入れてくれた。

 

「ところでよ・・隊長達、大丈夫か?俺達も手伝いに行ったほうがいいんじゃないか?」

「大丈夫。咲良たちなら、きっと出来ますよ」

親友だからこその信頼。

いや、横山が寛大なんだろうな。工藤には、とても羨ましく思えた。

横山と石田、コイツらは本当に羨ましい奴らだ。

 

これだから親友《マブダチ》は良いもんだ、と工藤は心底思った。

 

 

「そうだな」

「そうです」

 

 

 

 

一方その頃、ハンガー。

 

「よし、あとは此所で最後だ。」

食堂、教室の掃除を終えた谷口らは、ハンガーの清掃作業に取り掛かろうとしていた。

とは言え、広いハンガー全体を掃除する訳ではない。

せいぜい整備用端末と訓練用シュミレーターの画面磨きや、床の作業用オイルの汚れが特に目立つ所だけモップで拭いたり、ウォードレスや小銃等の装備の整理ぐらいである。

 

 時間が足りない為、やむを得ず短縮したのだ。谷口としてはいささか不服であった。

 

「それでは、佐藤と上田は二階の装備棚の整理を頼む」

「は、はい」

「分かった、谷口先輩」

谷口に呼ばれた上田 虎雄と佐藤 直哉は、二階デッキに昇って行った。

「鈴木は、そうだな端末の画面磨きを頼む」

「ええ、分かったわ」

鈴木 真央は雑巾が入ったバケツを持って、一階の整備用端末に向かった。

 

「渡部は・・・」と言いかけた時だった。

渡部 愛梨紗は不満顔でいた。

「渡部・・。何でそう、不満な顔をするんだ?」

「不満になるわよ!どうせだったら、直哉と一緒に作業したかったぁ!」

谷口の振り分けに渡部は、不満だらけだった。

谷口もそこは理解しているが、佐藤と渡部を一緒にしたら、渡部が佐藤の気を引こうと話しかけてくるので、かえって効率が悪くなってしまうのだ。

 

「それなら、そうだな・・。こちらの作業が終わったら、佐藤の手伝いをすれば良いじゃないか」と渡部を優しく諭した。

 

「ん・・・。分かった」と谷口の説得に渡部は、しぶしぶ納得しモップを手に床磨きを始めた。

 

ヤレヤレと思いつつも、谷口は気合いを入れ掃除を始めた。

 

 

 

 

 

 

一方その頃。

「新青森-、新青森-。お降りのお客様は、荷物のお忘れの無いようご注意下さい。新青森-、新青森-。」

駅構内にアナウンスが響き渡る。

 

到着した列車群から続々と人が降りていく中、ダッフルコートを着込んだ三人の学兵はホームに佇んでいた

 

「ウッヒャー!!スッゲー寒いっスね!」

同じく、駅構内になんとも間の抜けた少年の声が響き渡った。

「お前なぁ・・・」

「石島さん・・」

学兵は呆れ返り、少女は苦笑いを浮かべた。

暖かい九州出身の少年にとって青森の寒さは未知の体験である為、間の抜けた声が出るのも無理はない。

 

ただ、声が響き渡るほどの大声なものだから、二人はなんともいたたまれない気持ちである。

 

「石島さん!ちょっとこちらへ!」と憲兵がバンダナキャップの少年、石島 輝明を呼んだ。

「あ、はい!今行くッス!」

憲兵が石島を呼んだのは、装備品受領書にサインをしてもらう為である。

 

列車後部の車両に掛けられている袰が取り除かれると、1台の戦車が姿を現した。

「戦車のタイヤなんですが、こちらで雪原用の最高の物と交換しました。ただ、今の時期ですと中途半端に解けて路面凍結している所がありますので、スリップに注意してください」

憲兵の説明を受けながら、石島は受領書にサインをした。

「了解ッス。・・っと、これで良いッスか?」

 

憲兵は受領書のサインを確認すると、部下に戦車を降ろすよう指示を出した。

「それでは、お気を付け下さい」と憲兵は敬礼をすると、何処へと走り去った。

 

「いや-、お待たせッス・・・って、あれ?アニキは?」

先ほどまで少女、春山 要の隣にいたはずの学兵の姿がない。

「あ、あのー・・・・その、これ・・・・」

春山は申し訳なさそうに石島に一枚の紙切れを差し出した。

 紙切れにはたった一文だけ書かれてた。

 

 

「腹へったから先に行ってろ」

 

 

『アニキ』が毎度勝手に行動するのは分かってはいるが、石島と春山は大きくため息をついた。

 

 

「ぶぇっくしょい!!」

 

アーケードをぶらついていた『アニキ』と呼ばれいた学兵、柊 信彦は豪快なクシャミをした。

大方、石島辺りが噂しているんだろうと思った。

 

 

柊が一人で先に行くのには理由がある・・・・らしい。

配属先の部隊の評判や市街地の様子等を探るという・・・・のは建前で、本音は待っているのが暇だということで柊一人でサッサと先に行くのだ。

 

 

 

 

 

(へぇ、市街地はそれなりに活気づいてるのか)

一般市民や学生が行きかうアーケードを一人散策していた。

状況が状況でなければこの風景が普通だろうなと思った。

 

ぶらついている内に段々と小腹が空いてきた。

とはいっても、そんなに腹が空いていないのでラーメンや定食みたいなガッツリ系という気分でもない。

何か良い店はないかと考えながら歩いていると、一軒の店に目が留まった。

 

 

鼻をくすぐる匂いと香ばしい海苔の香り。

もうもうと昇る湯気。

店先の幟には<名物 ホタテの掻き揚げ蕎麦>と掲げてあった。

 

(ホタテの掻き揚げ蕎麦か・・・よし、ここにするか)

ラーメンや蕎麦等の麺類が好きな柊には、魅力的な響きだった。

 

思い立ったらすぐ行動。

柊は蕎麦屋の暖簾をくぐり、店内へ入っていった。

店内は割と小奇麗で、これぞ蕎麦屋といった雰囲気だった。

有態に言えば昔ながらの蕎麦屋といったところである。

 

「へい、ラッシャイ!」

店主の威勢のよい挨拶は、柊の気分を高揚させた。

 

「掻き揚げ蕎麦、大盛一つ。あ、あとネギ多めで」

カウンター席に座ると、柊は直ぐ様注文をした。

 

 

注文してからの待ち時間。柊には短い時間であっても長い時間に感じた。

 

「それじゃ、ご馳走様」

柊よりも先に来ていた客が勘定を済ませ、出ていった。

「毎度あり!」

ほんの一瞬だったが、柊が見たところ先に出ていった客は、学生のようだった。

学校指定のダッフルコートと制服から一般学生か学兵のどちらかだと思った。

 

「はい、掻き揚げ大盛りお待ち!」

柊の目の前に現れた蕎麦。掻き揚げの香ばしさ、ネギの爽やかな匂いが柊の食欲をかきたてた。

 

まずつゆを口に含んだ。鰹節とは違った風味が舌の上を広がる。

続いて蕎麦を豪快に啜った。店主のこだわりだろうか、蕎麦は手打ちで風味がよくのど越し、こしも中々のものだった。

 

「兄さん学兵さんかい?」と店主が尋ねてきた。

「ん、まぁね」

掻き揚げをかじりながら柊は答えた。

おそらく他の学兵も立ち寄るのだろうなと柊は思った。

「へぇ、そうかい。最近は石田って隊長さんの小隊が凄いからね。ほら、今さっき出た学兵さんも石田の隊長さんの所の学兵さんなんだよ」

 

店主からの好評。

石田小隊の評判は中々良いようだ。

 

(さっき先に出ていった客、石田んとこの隊員か・・?)

そんな事を思いながら柊は蕎麦を平らげた。

 

 

会計を済ませ店から出ると、先ほどの学兵が路地裏に曲がって行ったのがみえた。

先ほどの二人だけではない。

どうも何人かが二人を囲む様に連れて行ったのだ。

柊の経験上、ああいうのはたちが悪い奴らに絡まれたと察知した。

 

「十中八九、腹ごなしの運動になりそうだな・・・」

 

 

 

 

 

 

「だからさぁ、少しだけで良いから俺達に寄付をしてくれってお願いしてるんですよぉ?」

制服をかなり着崩した長髪の学生の男が、ニヤニヤと顔に笑みを浮かべながら竹内と野口に向かって話しかけていた。

 

「冗談じゃないね。第一僕らは君達のこと知らないし、それに知っていたとしても寄付する義理なんて無いね」と野口は、あくまで冷静に反論しながら逃げる算段を立てていた。

 

「アララ?そりゃないねぇ。でぇもぉ、俺らは知ってますよぉ?あんたらがあの有名な<石田小隊>の隊員だっての」ともう一人の学兵がおどけながら反論した。

「とにかくさぁ、俺達に寄付してくれたら痛い目に遭わないで済むんだからさぁ」

そう言いながら目の前の学兵は、竹内の襟首を掴んできた。

止めて下さいと竹内が手を振り払うと、学兵は大袈裟に叫び、腕を抑えながら腰をおとした。

 

「痛てぇ!腕折れた!コイツ暴力してきた!」と仲間達にふれまわった。

「じょ、冗談じゃない!僕はただ腕を払っただけ・・・」と竹内が言いかけた瞬間、腹に鈍い衝撃が走った。

学兵が竹内の腹に膝蹴りを繰り出したのだ。

 

幾ら訓練で鍛えられていても、いきなりの不意打ちでは対処は遅く、竹内は腹を抑えうずくまった。

「な、なんて事するんだ!」「えぇ?正当防衛ですよぉ?そっちが先に暴力してきましたからねぇ」

リーダー格と思われる学兵が、ニヤニヤ笑いながら二人に向かって話した。

 

(コイツら、始めからそのつもりで?!)

 

竹内を連れて逃げようにも、既に周りは囲まれており難しい。

しかも復路小路で逃げ先は正面だけ。

野口はもう駄目かと諦めかけたその時だった。

 

 

 


 
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