真・恋姫無双 二次創作小説 明命√
『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割拠編-
第百二十六話 ~ 厚き雲に覆われし月は、悲しき決意の詩を詠む ~
(はじめに)
キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助
かります。
この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。
北郷一刀:
姓 :北郷 名 :一刀 字 :なし 真名:なし(敢えて言うなら"一刀")
武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇
:鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)
習得技術:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)
気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)、食医、
神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、
(今後順次公開)
月(董卓)視点:
「はぁはぁ…しゅ、朱里ちゃんお待たせ。戦況はどうなってるかな?」
物資の補給と兵士達を鼓舞するために、最前線近くまで行っていた桃香さまが息を切らせながら僅かな兵士を連れて戻ってくるなり、戦況を確認するために息を整えずに朱里ちゃんに問い掛けます。
だけどそんな僅かな時間を惜しんだとしても、戦況は聞くまでも無く芳しくないのは誰の目にも明らか。
戦力差は紫苑さんの所の兵士が加わったとは言え、約二万五千 対 一万二千と二倍以上と不利なのは分かっていた事。
その上無理な長旅で疲弊しいるのはついて来てくれた民同様に、…いいえ、それ以上に溜まっているはず。
しかも防衛ではなく此方から攻め込むとなると、短期決戦以外に取る道はありません。
だと言うのに、此方の兵士の大半が先の袁紹さんとの戦によって傷ついた者達ばかり。
あげくに敵は紫苑さんが、自分と同等かそれ以上と言う相手とその愛弟子さん。
幾ら愛紗さん達と言う名高い豪傑がいようとも、この条件では厳しいと言わざる得ません。
それでも…。
「押されてはいますが、大丈夫です」
「愛紗が敵の騎馬隊の将とやり合ってるからね。運が向いて来たわ」
誰一人として絶望している人は此処にはいません。
朱里ちゃんと詠ちゃんの言葉に、桃香さまは大きく安堵の息を吐きます。
"吐いて見せる"では無く"不安を隠して吐く"んです。
その様子を見ていた周りの臣や兵士達が必要以上の緊迫を解き、それが更に周りの人達に広がって行く。
演技では無く何気ない自然な動作でもって、周りの人達を安心させる事が出来る事は、桃香さまの凄い所。
「白蓮さんの部隊が敵の騎馬隊に相手に足止めを受けているように見えますが、実際は反対に巧く相手の騎馬隊を足止めしながら戦線を誘導してくれています」
「もっとも此処からが一か八かの賭けになるんだけどね」
「はわわっ、大丈夫です。鈴々ちゃんならきっとやってくれます。
ううん、愛紗さんも星さんも紫苑さんも白蓮さんもいるんです。きっとできます」
そう賭け。
今の状況では賭けに出るしかありません。
いいえ、最初から確実に勝てる戦などない以上、戦そのものが賭けと言えます。
それでも
紫苑さんの言うとおり厳顔さんや魏延さんが強い人ならば尚更の事。
せめてもう少し可能性があるならば…、可能性を作り出す事が出来たなら…。
「桃香、朱里、此処に居る残りの兵の殆どを準備させておいて」
「えっ、でも此処に残っているのは殆ど動けない人達だよ」
詠ちゃんの言葉に桃香さまは驚きの声を上げる。
それでも詠ちゃんは真っ直ぐと桃香さまを見る。
いいえ、強い意志を込めた瞳で射抜く。
……詠ちゃん。
「……動かすならギリギリまで相手を引き寄せてください」
「分かってるわ。 皆に無理をさせる以上、長く持たない事は承知の上よ。
でも貴女達ならそれで十分。違う?」
「はい。必ずや期待に応えて見せましゅ」
まだ迷っている桃香さまよりも先に、筆頭軍師である朱里ちゃんが決断を下す。
詠ちゃんの望む事を呑めば、此処に居る僅かな兵士達以外の予備兵が命を散らしてしまうと理解していて尚、朱里ちゃんはその迷いや葛藤を周りの臣下や兵に見せる事無く決める。
きっとあの人達は命じられれば、ろくに動かせない身体に再び命を吹き込み槍を持つでしょう。
家族を守るために…、残していく者達が安心して暮らせる国を作るのだと、消えゆく蝋燭が最期に強い灯を放つように、その命の最期の輝きを放つ。
少しでも可能性を高くするために。
自分達の最後の命の輝きが、敵の攻撃を僅かに緩める程度の事だと知ろうとも、それは変わらない。
そしてその死にゆく人達を、直接指揮を取ろうとするのは…。
「詠ちゃん私も・」
「月心配しないで。
ボクは此処で死ぬつもりなんて少しもないから」
私の掛ける言葉に詠ちゃんは私の言葉を遮って、いつも通り力強く笑ってくれる。
優しい言葉の裏に、強い意志と想いを乗せて…。
戦う力なんて無いのに…。
恐いのを心の奥底に押し込めて…。
それなのにそんな素振りを欠片も見せずに…。
何時も強がって私を…、そして私の守りたい人達を守ってきてくれた。
だと言うのに私はまた見守るだけ。
力になりたいのに…。
皆を守りたいのに…。
今の私では力になる事が出来ないと。
天水の時とは違い、今度は共にすら戦わせてくれない。
まだその時ではないと。
ぎゅっ。
自然と握りしめた拳の指先が白くなり、もう感覚が無くなりかけているのが分かる。
でもそんな事はどうでも良い事。そんな事より大切な事がある。
今、戦わないで何時戦うと言うのですかっ!
そう口にして叫びたかった。
剣を、槍を、弓を取り、騎馬に股がって飛び出したかった。
だけど…。
月、月の
何時かの晩の詠ちゃんの言葉が、今にも飛び出そうとする私の心を押しとどめる。
詠ちゃんが、私に気付かれないように夜中にこっそりと抜け出した晩…。
あの人の所から帰って来た詠ちゃんは、眠った振りをしていた私に、そんな言葉を投げ掛けてきた。
天幕の入口の隙間から刺し込む月の光を背にしているため、表情すら窺えない暗闇の中で…。
乾いた声で…。
感情を無くした声で…。
だと言うのに、暗闇の中ですら感じる事の出来る強い意志を込めた瞳で…。
背筋を…、肌を震えさせるほどの真剣な想いを乗せて。
だから私は踏み止まる。
自分の軍師の言葉を。
誰よりも私の事を想ってくれる者の言葉を。
家族である者の言葉を信じれなくてどうすると言うのです。
私なんかとは比べ物にならないほど頭が良くて、大陸でも屈指の軍師である詠ちゃんが、今私が出る時ではないと言うのなら私はそれを信じます。
洛陽で取り返しのつかない失敗をし、己が無力さと挫折を経験しながらも、それでも力強く歩んでみせる親友の言葉を信じます。
一時の感情にのまれて、詠ちゃんが必死に掴もうとしている指し示す道を…。
私が本当に歩むべき道を、踏み外すべき時ではないからです。
それでも…。
「分かりました。 詠ちゃんの部隊が無事なうちは、此処で詠ちゃんの帰りを待っています」
「まったく穏やかな顔で、何時も厳しい注文を付けてくれるわね」
「詠ちゃんなら出来ると信じていますから」
「当たり前でしょ。ボクを誰だと思ってるのよ。 大陸に名を知らしめた賈文和よ」
「ええ、もちろん知ってます。 この大陸で誰よりも信頼できる私の軍師ですもの」
「じゃあ、ちょっと月の期待に応えてくるわ」
そう軽口と笑顔を残して詠ちゃんは駆けて行く。
いいえ、駆け行こうとしたときでした。
一人の兵士が青い顔をして駈け込んできます。
そして、息も絶え絶えに…。
「報告します。後方より謎の兵団がもの凄い勢いで近づいてきます」
兵士の報告に騒然とする本陣。
まさか伏兵による背後からの強襲っ!?
だけどそんな様子は無かったし、近くの砦や街に潜ませている細作からの報告もなかった。
国を逃げ出してきた私達に援軍などありません。あるとしたら敵軍以外考えられません。
この状況下においての完全な不意打ち。
…おかしい。
ただでさえ勝ち目の薄い戦いだと言うのに…。
多くの犠牲を払って、圧倒的な不利な戦況の中、僅かな隙間を抉じ開けてやっと引き寄せた希望が断ち切られようとしているのに…。
青い顔を、慌てふためいているのは、桃香さまを初めてとするこの場にいる兵士や臣下達だけ。
それすらも朱里ちゃんの『はわわっ、桃香様大丈夫です』と言う、何時聞いてもあまり大丈夫そうに聞こえない口調の言葉で落ち着いた桃香さまの言葉と、朱里ちゃんの言葉を信じる桃香さまの態度に、周りの臣下と兵士達も次第に落ち着きを取り戻して行きます。
何一つ答えを示されていないと言うのに、不意打ちを受けると言う緊張の糸がしだいと解れて行く中。
「必ず来ると信じてたわよ」
安堵の息と共に言葉を漏らす詠ちゃんの言葉に…。
そして徒歩にも拘わらずに急速に近づいてくる兵団の姿に…。
なにより遠目からでも分かる兵団の先頭に立つ人物の姿に…。
私は己が眼を疑う。
だけどそれは一瞬の事。
戦場では例え、信じられない事であろうとも、それを疑えば死に繋がってしまう。
多くの兵を…、そして民草を死に追いやってしまう。
それが例えどんなにあり得ない事であろうとも…。
どんな理由があろうとも、あってはならない事であっても…。
事実を受け入れなければいけない。
「詠ちゃんっ!」
「……」
冷たい血の色の瞳でもって睨みつける私を…。
ついさっきまで信じると言ったばかりの親友を叱責する私の声を…。
生き物に恵みをもたらす母なる大地の瞳の色でもって…。
全てを呑み込む強き意志の光をその瞳の奥底に揺蕩えて…。
詠ちゃんは黙って私に訴える。
いいえ、逆に私を叱責する。
『月の言いたい事は分かるわ。
でも、そんな事は後回しにしなさいっ!
今この瞬間にも兵は必死に戦い。その命を散らしているよっ!』
分かっていますそんな事はっ。
ですが、それでもこれはあってはならない事。
私達にとって、それは決して犯してはならない禁忌。
約束したから…。
誓ったから…。
『その代わり真名に誓って欲しい。 勢力を集める事はしないとね』
己が真名でもってあの人に。
私と詠ちゃん、そして霞さんとあの人しか知らない盟約。
だけどその誓いを違えると言う事は、己が真名を穢すと言う事。
地獄に落ちる事以上に怖ろしい事。
例え己が抱えた罪によって地獄に落ちたとしても、それは己が犯した罪による苦しみ。
言い返れば生前に犯した罪を、苦痛と言う名の洗礼でもって洗い流す事。
だけど真名を穢すと言う事は魂そのものを穢す事。
地獄の洗礼を浴びようとも、その穢れは永久に清める事などできない。
ましてや自ら穢したならば尚更の事。
穢れた魂は何度転生しようとも穢れたまま。
その穢れ故に次第に魂は転生する事も出来なくなってしまう。
穢れによる苦しみを抱いたまま、転生する事も出来ずに永久に輪廻の外で苦しむ事になってしまう。
それはこの天地に住まう者達にとって最大の恐怖。
それが分かっていながら何故っ!?
だけど非情にも、それを考える時間すら世の中は待ってくれない。
彼女はあんな遠くからでも私の姿を見つけ、今まで以上の速さでもって駆けつけて来てくれる。
青みの掛かった銀髪を風に揺らしながら…。
軽装と言えるほどの戦装束を身に着け…。
一般兵では数人がかりでも持ち上げる事の出来ない己が相棒を、まるで棒切れかのように軽々と肩にひっさげながら…。
共に天水の地と民を守った時のように…。
彼女の生き方そのものを表す様に、何処までも真っ直ぐに…。
日に焼けたその白い肌を、興奮のため僅かに上気させながら…。
私の前で己が獲物を地面に置き。
「董卓様っ。私を始め千五百名の兵、ただいま馳せ参じました」
息を乱したまま駆けつけたと言うのに…。
それでも少しも乱す事の無い言葉で…。
華雄さんは昔と少しも変わらずに私に臣下の礼を取ってくれる。
何処までも真っ直ぐに力強く。その事に何の疑いも持たず。
もう相国でも太守でも無い私に…。
侍女の服に身を包んでいる事に気がついていながら…。
以前寸毫違わない忠義を私に掲げてくれる。
……違います。
よく見れば、華雄さんの衣服のあちこちが傷つき解れ、そして日焼けしてなお綺麗な肌のあちこちが擦り傷でいっぱいです。
短いながらも柔らかく綺麗な髪には、木の葉や木の枝の欠片が沢山ついています。
見渡せば後ろの方に、やっと華雄さんに追いついたと言わんばかりに兵士さん達が胸を大きく揺らしながら地面に突っ伏していますが、その誰もが華雄さんと同じように土や泥に汚れている。
きっと深山乱立するこの地の山々を、深い渓谷を…、絶壁の崖を…、道なき道を文字通り真っ直ぐと駆けてきたのでしょう。
私達がこれ以上不利な戦況にならないために、少しでも敵の眼を誤魔化すために…。
知られたとしても、それより早く到着すればいいだけの事だと…。
無茶を何処までも真っ直ぐと貫いてきたのでしょう。
己が信じる将を…。
そして私を信じて…。
……詠ちゃん。
此れが貴女の指示す道なんですね。
共に戦うなんて、安易な道を歩ませてなどくれないのですね。
私に出来る事ではなく、私にしかできない道を歩めと言うのですね。
静かに…、ゆっくりと、息を吐き出す。
そしてゆっくりと息を吸い、呑み込む。
吐きだしたのは、短いながらも楽しかった侍女としての月。
己が甘い考えと、共に戦う事で力になれると言う惰弱な想い。
呑み込んだのは詠ちゃんの覚悟。華雄さんと忠誠心。そして此処に馳せ参じてくれた兵士さん達の想い。
紅玉の瞳に浮かべたのは、これからの全てを受け止めると決めた己が決意。
私は臣下の礼を取りながら私の言葉を待つ華雄さんではなく、此方に意識を割きながらも変わらず戦場に指示を送り続ける朱里ちゃんの横に立つ桃香さまの前にまっすぐと立ちます。
共にお茶を飲んだ侍女の月では無く。
戦に敗れ保護されている月でもなく。
ましてや天水の地で異民族達の侵攻を防いでいた武将であった私でもありません。
そんなものを詠ちゃんも華雄さんも求めていない。
詠ちゃんが真名を穢してまで私に求めたのは…。
華雄さんが敗戦の屈辱に耐え、身を顰めながら、誰かに降る事なくその牙を磨き続けてきたのは…。
「桃・いいえ、劉備玄徳。 私は只今を持って董卓へと戻ります」
「うん」
私の言葉に…、宣言に…、彼女は心からの笑みでもって応えてきます。
言葉の意味を理解していない訳では無く、理解した上で答えを示してきました。
やはりこの人は凄い人です。どこまでも懐の深い人。…まるであの人のように。
「良いのですか?
此処に居る私は彼方の臣下では無く、貴女と同じ王だと言っているのですよ」
「もう月ちゃん酷い。私だってそれくらいび事は分かりますっ。
だからちゃんと分かるもん。一緒に戦ってくれるって。共に皆が笑って暮らせる国を作ってくれるって」
わざわざ確認するまでも無く、彼女は呑み込んだ。
袁紹さんの政略により、魔王とさえ称された私と言う毒を己が身に呑む事を。
それが禍を呼ぶと分かっていて尚、躊躇することなく呑み込む。
私を、共に立つ王として…。
「ならば私は桃香
「ううん違うよ。例えそうだとしても、月ちゃんは影でいちゃ駄目」
「…っ」
「この天地のように昼を私が、そして夜を月ちゃんが照らすの。
民を…、皆の進む未来を…、…あはははっ、ちょっとこういう例えは恥ずかしいんだけど、うん。間違えてないと思う」
…本当、
この人は大きい。
なら私もそれに並び立たなければなりませんね。
それが私の進むべき道。
「桃香さんが太陽、そして私が((月|つき)となって国と民を照らし、二柱でもって国を支える礎となる。ですか。 とても桃香さんらしい答えです」
普通に考えれば国の中心たる王を、二人置くなどあり得ない答え。
だけど桃香さんならば、それはあり得る答え。
競い合い、相反するのではなく共に支え合う為に。
お互い足りないものを補い合う為に。
なにより良い国を作るために。
桃香さんとなら、そして私となら共に歩めると。
「「……」」
そのあいだ朱里ちゃんも、詠ちゃんも何も口を挟まない。
王の決断に臣下が口を挟むべきではないと言うのもありますが、きっと二人にはこうなる事が分かっていたのだと思う。私達には見えない未来を見ていたのだと思う。
でもそんな事は些細な事。二人は信じてくれたんです。
私と桃香さんの導き出した答えを。王として共に歩む道を。
そして決は下されました。いいえ下したんです。
なら、今やるべき事はただ一つ。
「華雄さん。残念ながら今は貴女達の忠義に礼と、感謝の言葉を言うべき時間はありません。
今、華雄さんに掛けるべき言葉はただ一つ。
行きなさい。そして戦い勝ってください」
「はっ!」
私の命令の言葉を嬉しげな笑みで受けた華雄さんは、地面に置いていた金剛爆斧を肩に担ぎ上げ、後方で地面に寝ころび、腰を下ろしながら必死に息を整えている兵士達に大きな声で命じます。
「お前ら何時まで死んでいるっ!
喜べ、命は下されたっ。我等が董卓様は健在だっ。
旗を揚げろっ! 気勢を上げろっ!
我等董卓軍、此処に在りと世に知らしめろっ!」
「「「「「応ぉぉぉーーーっ!!」」」」」
華雄さんの言葉に、兵士さん達は飛び上がり声をあげる。
さっきまで必死に息を吸っていたと言うのが嘘のように。
道なき道を駆け抜け、疲労で意識が朦朧としていたでしょうに。
それでも空高く、戦場中に響き渡らんかの勢いで声高に叫ぶ。
命じられるままに次々と旗を揚げる。
漆黒の布に鮮やかな白糸で『華』の一文字を描かれた牙門旗を…。
紫電の布に鮮血の赤字で『董』の一文字を描いた一際大きい大将旗を…。
そして先程以上の勢いでもって、砂塵を空に舞い上げる。
「……月。大丈夫だから。
月の真名は穢れてないから。信じて」
戦況を切り開くために駆け行く華雄さん達を見送る私の後ろから、詠ちゃんがそう声を掛けてきます。
その言葉の意味に…。
私は更に胸を締め付けられる。
その意味に私の手は震えてしまう。
詠ちゃんにそうさせてしまった自分への怒りに…。
其処までして私の事を想う詠ちゃんの悲しい決意に…。
「……今は聞きません。後で…後で聞かせてくだ…さい」
此処は戦場。弱みを見せては駄目だと言うのに、震える声を抑えきれない。
それでも何とか紡ぎだした言葉に詠ちゃんは答えてくれる。
「…うん、全部終わったら話すから。
だから今はボクを…信じて」
そんなの当たり前です。
詠ちゃんを…家族を疑うなんて考えた事はありません。
強がりでも、何でもない心からの言葉。
それでも魂まで凍る想いに躰が震える。
真名を、魂を穢していないと言う言葉の意味に…。
それが何を意味しているかが、分かってしまうから…。
「今迄詠ちゃんを疑った事なんてありません。
それは此れからもです」
共に過ごし、共に歩んだ親友は…。
喜びも悲しみも共にした家族は…。
もう私の下に居ないのだと。
私の元に戻る事は無いのだと。
「ありがとう月。ボクも月を疑った事は無いわ。そしてそれは此れからもね」
その言葉に、私はもう一度覚悟を呑み込む。
親友の想いを。
家族の想いを。
決して裏切る訳にはいけない。
例えこの先、本当に魔王と呼ばれる事になろうとも、私は親友の指し示した道を歩む。
私が一番私らしく歩める道を。
つづく
あとがき みたいなもの
こんにちは、うたまるです。
第百二十六話 ~ 厚き雲に覆われし月は、悲しき決意の詩を詠む ~ を此処にお送りしました。
今回は前回の話の裏側。前々回の月視点の続きとして、月が再び董卓として立つまでを描いてみましたがは如何でしたでしょうか?
在ってはならない出来事。決して違えてはならない誓い。
それを覆すような展開に月は顔を蒼白にしながらも、親友の想いを裏切らない為にも董卓として立たなければ行けない決断を迫られ。その親友の想いが分かるからこそ、自分の本当に立つべき場所へ立つ決意を呑み込んだ月の王としての姿を描きたかったのですが……難しいですよね。自分の力の限界を感じながらも、切磋琢磨しながら書くしかありません。
この戦いにもそろそろ終止符を打ちたいと思いますが、どのような展開になるかは次回をお待ちください。
え?あの晩、詠と一刀の間にいったい何が在ったか書けって?
ふふっ、それはもう少しだけ秘密です♪
では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。
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『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。
陽は昇り大地を、その地に住まいしモノ達を照らし活力を与え、やがて大地へと沈んでゆく。そして次の日にはまた陽は登る繰り返す。
ならば月も高く昇るのが世の理。 大地を、そしてその地に眠りしモノ達をそっと優しき光で包み一日の疲れを癒さん。 闇夜に迷わないように旅人をそっと照らす。
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