No.411166

IS-W<インフィニット・ストラトス>  死を告げる天使は何を望む

第11話 未来を見せるシステム

2012-04-19 22:50:59 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:7198   閲覧ユーザー数:6925

上空からのビルゴⅡ10機が放つメガビーム砲やビームライフルの雨をウイングゼロは無傷で避けながら上昇していく。それは普通の人間ではありえない反応速度でかわしていた。

そして、ビームサーベルでビルゴⅡの1機を一撃で真っ二つに切り裂いた。

 

ゼロシステム………

正式名称「Zoning and Emotional Range Omitted System」。直訳すると「領域化及び情動域欠落化装置」というのだが、分析・予測した状況の推移に応じた対処法の選択や結末を搭乗者の脳に直接伝達するシステムで、端的に言うと、勝利するために取るべき行動をあらかじめパイロットに見せる機構である。

コクピット内の高性能フィードバック機器によって脳内の各生体作用をスキャン後、神経伝達物質の分泌量をコントロールすることで、急加速・急旋回時の衝撃や加重などの刺激情報の伝達を緩和、あるいは欺瞞し、通常は活動できない環境下での機体制御を可能とする。更に外部カメラ、センサーによって得た情報を、パイロット自身の視聴覚情報として伝達することも可能である。このため、通常のモニター機器は補助的なものでしかなく、基本的にコンソール中央部の球状レーダーおよび周囲壁面に表示されるエネミ-マーカーのみで戦闘行為を行う。

ただし、これはMSの時の話である。ISとなった今はシステムのオンオフができるようになり、そしてシステムがオフのときは目で敵を捕らえていた。今はシステムが起動してるので脳に直接伝わってくる。目でレーダーを見ているだけだ。

そして、このシステムは時に自分や他人の未来、過去まで見せることもある。

ただヒイロはこれを今まで使わなかった理由は今さっきのビームサーベルを見てわかるだろう。そうすべてが一撃で殺傷できるほど武器の威力が上がっているのだ。そもそも、ゼロシステムが提示する戦術とは、基本的に単機での勝利を目的としたもので、目的達成のためであればたとえ搭乗者の意思や倫理に反する行為も平然と選択する。状況によっては搭乗者自身の死や機体の自爆、友軍の犠牲もいとわない攻撃など、非人間的な選択が強要されることもあり、これがパイロットの精神に多大な負担をかける。そのため、ただゼロシステムを使うだけでは、システムに命令されるがまま暴走するか、もしくは負荷に耐え切れず精神崩壊・廃人化を招く恐れがある。そのため、このシステムを使いこなすには、自身の感情をコントロールし、かつシステムの命令を押さえ込むだけの強靭な精神力が要求されるのだ。ゼロシステムの特性で敵は殺すものと判断されるので強制的にすべての武器のリミッターが外れ、一撃で大けが、或いは死に至らしめる可能性があるのだ。

 

 

ヒイロがサーベルで次々とビルゴⅡを破壊していく中、ヒイロの後ろのビルゴ3機は同時にメガビーム砲を3方向から放つ。

 

「ヒイロ危ない!!」

 

地上で一夏を抱きかかえたままの鈴が叫ぶ。しかし…

 

「フッ…」

 

とヒイロは鼻で笑い、体を少し動かす。

すると、そのことによってできた3か所の隙間からビームが抜けそのままヒイロの目の前にいたビルゴⅡにむかう。急なことによりヒイロの前にいたビルゴⅡはプラネイトディフェンサーを展開する前に当たり損傷、その隙にヒイロはすごいスピードでサーベルで倒す。

そのままものすごい勢いでビルゴを破壊する。ビルゴの攻撃をただ避けるのではなく避けたまま違うビルゴに攻撃をし、破壊する。まるで未来が見えているような動きをしていると鈴やセシリア、皐月は思った。

ヒイロは実際にゼロシステムでビルゴの動きを完全に予測していた。

勝つための未来を見せる力…これこそがウイングガンダムゼロが最強と呼ばれる所以だった。

 

 

わずか1分…それもサーベルだけでビルゴⅡを20機破壊したゼロをモニタールームで千冬と真耶は驚きを隠せなかった。二人はこの動きの原因がヒイロによって秘匿されたあの「Zoning and Emotional Range Omitted System」の力だとすぐに理解した。

 

「か…勝つための未来を見せるシステム。もしそんなものがあったら…」

「…これが……『告死天使』の力……」

 

千冬は戦場で舞う天使の力に恐怖さえも感じていたのだった。

『告死天使』の由来はのちに明らかになるだろう。

 

 

 

 

ヒイロがいまだに戦闘を続けているとついにビルゴⅡの1機がセシリアの方に攻撃をしようとしてきた。セシリアはブルー・ティアーズで攻撃するが、このビルゴⅡは単機でプラネイトディフェンサーのフィールドが自身を覆うぐらいの全方位に展開できるので防がれていた。しかしヒイロは援護しようとしない…なぜなら…

 

(やはりな…)

 

ヒイロはそう思った。

ここで強力なビームがビルゴを飲み込み、破壊まで行かないが一撃でプラネイトディフェンサーをダメにした。そうそれをしたのは片腕をなくしたあの謎のISだった。

 

「おかしいわね」

 

皐月がそうつぶやく、セシリアもそれに同意した。

 

「ええ…おかしすぎますわ。なぜいきなり守ってくださったのでしょうか」

「そいつは守ったわけではない。ただ今のターゲットの優先順位がビルゴと俺に変更されているからだ」

 

ヒイロは増援で40機増えたビルゴⅡを相手にしながら通信でそう言う。ではなぜそうなったのかセシリアがそれを聞こうとしている時に通信が入る

 

『ヒイロ!!聞こえるか!?』

「箒か…どうした?」

 

箒が通信(オープン・チャンネル)で話しかけてきた。ヒイロはいまだにビームサーベルで戦っていた。ヒイロは箒の通信を待っていたのだった。

 

『たった今、生徒全員の避難が完全に完了した。残っているのはモニタールームにいる織斑先生と山田先生、それと入り口付近にいる教師部隊だけだ。どうやらアリーナ内に入る扉だけ解除されてないらしい』

「そうか…わかった」

 

ヒイロは箒との通信を終えると今度は千冬に向けて秘匿通信(プライベート・チャンネル)を開く。

 

「千冬…今すぐ教師部隊を下がらせろ。今度こそバスターライフル…及びツインバスターライフルを使用する。巻き込まれるぞ」

『だ!だめですよ!!ユイ君。今から先生たちが解決させますからここは早く逃げて』

 

と真耶は言うがヒイロは続ける。

 

「訓練用のISではビルゴⅡのプラネイトディフェンサーは突破できない。千冬…約束を破った俺が言えるセリフではないが…俺を信じろ!」

 

ヒイロは真剣な声ではっきりと言った。

千冬は腕を組み、目をつぶって考えた。そして…

 

「山田先生、教師部隊に撤退命令を…ここはヒイロ・ユイに一任する」

『織斑先生!!』

『ヒイロ…後は頼む』

 

そう言って千冬の通信を終えるのを確認すると、ゼロが未来をヒイロに見せる。それは千冬と真耶が脱出する映像だった。

 

「…これより、バスターライフルを使用する」

 

ヒイロはビームサーベルをしまうと主翼から格納されていた長大で無骨なデザインの大型ライフルを両手に一丁ずつ合計二丁再び出した。

鈴たちは初めてバスターライフルをしっかりと見た。

 

「あれ…さっきの戦いじゃ使ってなかったわよね」

「そうですわね」

 

鈴とセシリア不思議に思った。さっきの戦い…それこそクラス代表決定戦でヒイロがこの武器を使っていたらもっと優位に進めていたはずだ。なのにヒイロはなぜ使わなかったのか。その疑問に皐月が答えた。

 

「使わなかったじゃないのよ。…使えなかったのよ」

「「え?」」

「さっきはあの謎のISもエネルギーを集中させてたからまだ緩和できたのね…」

 

皐月が意味深なことを言った時だった。どこからかものすごい爆音が響いた。鈴とセシリアは音の方を振り向くとアリーナの遮断シールドどころか観客席に人一人分が通れるぐらいの大穴が開いていた。

 

「「え…」」

 

そして、その射線上にいたビルゴ10機が一気に爆発した。何機かのビルゴはプラネイトディフェンサーを張っていたが一瞬で突破されていた。

 

「バスターライフルはISの絶対防御を突破して人にも大けがさせれるほどの威力なのよ。一般の試合に使えるわけないわ」

 

鈴とセシリアは開いた穴から目を離せなかった。ISの協定で兵器レベルのものを作ってはいけないのだがこんなものは今のどこの国でも作ることはできなかったからだ。謎のISの攻撃もすんなりとかわし、ヒイロは無視しながらビルゴだけ倒し続ける。バスターライフルを照射し続けながらうごいたりして残りビルゴを25機になるまで殲滅した。バスターライフルの射線上にあった壁はもう穴が開きまくっていて煙が立ち上がっていた。

殲滅の天使…まさにそのように思えた。

 

「…この隙に上から離脱しろ」

 

そう言われたので鈴は一夏を、皐月は一夏が破壊した謎のISを抱え上昇した。セシリアは近づこうとするビルゴに『ブルー・ティアーズ』のミサイルタイプの方で牽制する。しかし、プラネイトディフェンサーで防がれてしまう。そうしながらも何とか上の入り口付近で待つヒイロのところまできた。

そこでセシリアが疑問を言う。

 

「ヒイロさん。どうして自分が開けた穴から出るように言わず、ここから出るように言ったんですか?」

 

そう、ヒイロが開けた穴から脱出すればいいのだがなぜか上からヒイロは脱出するように言った。

 

「…理由は二つある。一つはこいつをセシリアに運んでもらう」

 

そう言ってヒイロは横から近づいてきたビルゴⅡの頭を振り向かずにバスターライフルでそこだけ打ち抜いた。そしてヒイロはバスターライフルを持ったまま破壊したビルゴⅡの手を持ってセシリアに投げた。セシリアは慌ててライフルをしまって受け止める。

 

「何かわかるかもしれんからな。そして二つ目だが…こいつらが上に来るように仕向けるためだ」

 

そう言うと残りのビルゴⅡやその後ろから謎のISがセシリアたちを追って上昇してくる。

そう、これがヒイロの狙いだった。

 

「戦術レベル、効果最大確認…」

 

そう言うとヒイロは両手のバスターライフルを自分の真上に持っていき、連結させて構える。そう…ツインバスターライフルの発射体制に入ったのだ。

 

「ターゲット…ロックオン」

 

そして、平行連結された銃口に光が集まり、

 

「ツインバスターライフル……発射!」

 

次の瞬間、ツインバスターライフルの銃口から山吹色をした膨大なエネルギー量の極太ビームがアリーナに向かって発射した。直径がIS2機分あるそのビームはかすめただけのビルゴさえも爆発させ、謎のISを地上に叩きつける。地面でぶつかるビーム。その瞬間、爆発し、光がアリーナすべてを飲み込む。

鈴たちは唖然した。あの皐月もさえもだ。

光がなくなったときにはアリーナは跡形もなくなくなり、IS学園が誇る5つあるアリーナのひとつが大きなクレーターになってしまった。

そして謎のISもビルゴも跡形もなく完全蒸発させてしまったのだった。

ヒイロはその光景を目にした後、ツインバスターライフルをしまい言った。

しかしそのセリフは鈴たちの予想を裏切る、叫び声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…俺の……俺のミスだァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

この叫び声に鈴たちはアリーナを破壊したことだと思っていたが実際は違う。

ヒイロが叫んだ理由は、千冬との約束を守れなかったことに対してだった。一夏を守るという約束を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っぅう……ッ?」

 

刺す様な鋭い痛みが全身を走り、一夏は目を覚ました。

目に映った天井は、寮のそれとは違っていた。

 

「ここは………保健室か?」

 

自分がベッドに寝かされている事に気が付き、鼻腔をくすぐる消毒液の臭いや横から見える包帯やガーゼっと言ったもので、そこが何処かを理解した。窓からは太陽の光が差し込む。

 

「あの後、どうなったんだ……?」

 

再起動した無人機に向かって雪片を振り下ろした―――そこからが思い出せない。

 

「――あの後、再びあのISとロボットが現れたがすべてヒイロが倒した」

「……っ!? 千冬姉ぇ……痛ぅ!?」

 

仕切りのカーテンを引いて、姿を見せたのは千冬だった。思わず、一夏は体を起こそうとしたが背骨に激痛が走り、ベッドに倒れこんだ。

 

「全身打撲だから、無理に動くな。衝撃砲の最大出力を背中で受け止めた上にあのビームの中に自ら突っ込んだんだ。それだけで済んだ事を幸運に思え。しかもお前絶対防御を解除していたそうだな?よく死ななかったものだ」

「千冬姉ぇ、他のみんなは……」

「心配するな。みんな無事だ」

「そうか……良かった…………」

 

安堵の息を漏らす一夏に千冬はいつもよりずっと柔らかな表情を向けた。それは、世界にたった二人だけ家族にだけ見せる表情だった。

 

「お前も無事で良かったよ。家族に死なれるのは目覚めが悪い」

「……その……ゴメン、心配かけて」

 

なので一夏は謝る。自分が無茶をして心配をかけたのは間違いないからだ。

千冬は一瞬きょとんとした後、優しく笑った。

 

「心配などしていないさ。おまえはそう簡単には死なない。なにせ、私の弟だからな」

 

変な信頼の置かれ方だが、それは千冬の照れ隠しの一種だとわかっているので一夏には気にはならない。それに一夏は気づいていた。ヒイロが自分を守ってくれていることを。そしてそれは千冬が頼んだか、ヒイロを動かせるようなことを言ったんだろうと…

 

「では、私は後片付けがあるので仕事に戻る。お前も、少し休んだら部屋に戻っていいぞ。一夏…よく頑張ったな」

 

実質、最初のあのISを止めたのは一夏だろう。そう考えるとISに2か月ぐらいしか触れていない一夏があそこまでできたのは驚異的だった。だから千冬は最後に一夏に聞こえない程度に褒めたのだった。

それだけ言い残すと、千冬はすたすたと保健室を出ていった。

千冬が出ていったのを感じ、一夏は瞼を閉じた。

 

(強くなろう…もっと…もっとだ。俺に関わる全てを…守れるように)

 

そう思ってそのまま眠りに入った。

それからどれ程かの時間が経った頃、一夏は顔の間近に人の気配を感じてうっすらと目を開いた。

視界一杯に入ってきたのはツインテールが特徴的な少女――(ファン) 鈴音(リンイン)の顔であった。

鈴は目を閉じて、鼻先三センチの距離まで一夏に迫ってきていた。

 

「……………………?」

「………………ッ!?」

 

バッ! と、とてつもない勢いで一夏から離れる鈴。その動きはまるで漫画でよく見かける咄嗟に誰かのおやつを食べて隠そうとする程に速かった。

 

「鈴か………どうかしたのか?」

「いや!? 何でもないわよ!?」

 

声が裏返っているが、寝起きでボ〜っとしている一夏には理解出来ない。

起きていても理解できたかと言われるととてつもなく怪しいと思われるだろうが…。

 

「あー、そういえば試合はどうなったんだ? やっぱり無効試合か?」

「え、ええ。当然でしょ。あんなことが起きたんだから」

 

恥ずかしさと気まずさを誤魔化すように、鈴は早口で答える。

 

「――やっぱりか。あ、そういえば……あの賭けってどうなるんだ?」

「ふえっ!? し、試合は中止だし……む、無効でいいんじゃない?」

 

そういえばそうだったと鈴も思い出したのか、顔を赤らめて慌てる。が、夕焼けが保健室全体を赤く染めてくれていたお陰で一夏には分からなかった。

もう完全に日は沈み、ただ赤い空が広がるのみだ。ふと、その夕焼けの赤で鈴と約束した時のことが蘇ってきた。たしか、小6のときだ。場所は教室。今みたいに夕暮れに染まっていた。

 

「正確には『料理が上達したら……あたしの酢豚、毎日食べてくれる?』だったけ。で、どうだ? 上達したか?」

「え、あ、うぅぅ〜〜」

 

さらりと口走られた言葉に、鈴は夕焼けの赤では誤魔化せない程に顔を赤くして、鈴は右へ左へ視線をやったあと、うつむいた。

決死の想いでした告白を言った相手にリピートされるとか、どんなプレイだ。

 

「なぁ、あの約束ってもしかして、”違う意味”だったのか?俺はてっきりタダ飯を食わせてくれるって事だと思ってたんだけど―― 」

「ち、違わない! 違わないわよっ!? ほ、ほら、誰かに食べてもらったほうが料理って上達早くなるでしょ!? だから、そう、だから! そういう事よ!」

「た、確かにそうだよな。別の意味じゃ『毎日味噌汁を〜』なんて事になっちまうもんな。いや、深読みしすぎだろ、俺。恥ずかしいな。ヒイロに聞いてもわからんって言われるしな」

「へぇっ!? そ、そうね! 深読みしすぎじゃない!? あは、あはは、アハハハハハハ!!」

 

引きつった顔で、鈴はやけくそ気味に笑う。というか完全にヤケになっている。

 

「こっちに戻ってきたってことは、またお店やるのか?お前の酢豚だけじゃなくて、また親父さんの料理も食べたいぜ」

「あ……。その、お店は……しないんだ」

「え?なんで?」

「あたしの両親、離婚しちゃったから……」

 

……え?一夏の口から間抜けの音が洩れた。そんな一夏かり視線を外し、鈴は窓の外を見遣った。その表情は普段の快活として物とは真逆の暗く沈んだ物だった。

 

「あたしが国に帰ることになったのも、そのせいなんだよね」

 

今にして思えば、あの頃の鈴はひどく不安定だった。何かを隠すように明るく振る舞うことが多く、一夏はそれが妙に気になっていた。

気前のいい親父さんの顔を思い出す。活動的なおばさんの顔を思い出す。家族がバラバラになる。それは絶対にいいことじゃない。けれど、そうせざるを得ないくらいの、何かがあったのだろうか。

一夏にはそれらしい原因が思い浮かばなかった。

けれど、鈴に訊けることではない。一夏はそこまで子供ではないのだから。

 

「家族って、難しいよね」

 

鈴の溶けて消えてしまいそうな小さな呟きに一夏は答えることが出来なかった。

一夏にとって家族は姉である千冬だけだ。両親の事は知らないし、知りたいと思った事もない。だから、鈴の言葉の重さを知ることは出来ない。しかし…

一夏は無言で鈴を自分の胸に引き寄せた。

そして優しく頭を撫でる。手を動かす度に痛みが走るがそんなの気にしない。

 

「泣きたいときに泣かないと心が辛くなるぞ。…だから泣け…鈴。そばにいてやるから」

「………ひっぐ…ぐす…」

 

鈴はここで初めて本当の意味で泣けた気がした。

鈴の泣き顔を見ない様に気を遣い天井を見上げる一夏。保健室にはいつまでも鈴の泣く声が哀しく響いていた…。

ヒイロは外で腕を組んで保健室の扉の前で寄りかかってその様子を目をつぶって聞いていたのだった。そして、そのまま一夏たちに会わず,そして何も言わずに歩いて去って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園の地下、五十メートルの位置に存在する隠された空間。

そこは、レベル4権限の持った者しか入れない場所である。

一夏やヒイロ達によって破壊された謎のIS…その本当の名『ゴーレムⅠ』とビルゴⅡはそこにすぐさま運び込まれ、解析が続けられていた。

千冬はモニターに映る戦闘映像を繰り返し見続けながら真耶の報告に耳を傾けていた。

 

「謎のISはやはり無人機でした。コアも、登録されていた物ではありませんでした」

 

世界中で開発が進むISのそのまだ完成していない技術。遠隔操作(リモートコントロール)独立駆動(スタンドアローン)

更に、467機存在するコアは全てが登録済み。つまりは、誰かがコア作った可能性がある。そんな事ができるのはこの世界に一人しかいない。

この事実に対してすぐさま、学園関係者全員に緘口令が敷かれた。

 

「それと、織斑くんの最後の攻撃で機能中枢が焼き切れてます。修復は不可能ですね。そして、あのオーカー(黄土色)のISですが…あれは…」

 

真耶が言葉を濁す。千冬は何故かと言うのは予測できていたがあえて真耶に続きを言うように指示した。そして放たれた言葉は…

 

「あれにはあのISとは全く異なる構造でして…なおかつ劣化版のガンダニュウム合金、そしてGコアが使用されていました」

「やはりか…こいつは一体…」

「…ビルゴⅡ………俺たちの世界で使われていたMD(モビル・ドール)だ」

 

真耶の報告を受けて、千冬が考えている時後ろから声が聞こえた。二人は振り返ってみるとそこにはヒイロが普段着の緑のタンクトップにジーンズのジャケットを羽織ってジーパンで立っていた。

 

「ヒイロ!!どうやってここに…いや、今はどうだっていい…ビルゴⅡはどういう機体だ?」

「俺たちの世界の量産型MD(モビル・ドール)だ。完全独立駆動(スタンドアローン)で反応速度が速く、集団戦法を得意とする。…俺もかつては苦戦を強いられた相手だ。どうやらISの方にはMDシステムが内蔵されてないところから見てこの2体は別々で作られたんだろう。それより…すまなかった、お前との約束を守れなくて」

 

ヒイロは頭を下げようとするが千冬に手を前に出してさせなかった。

 

「お前は約束を守ってくれている。一夏どころか、一夏のまわりのものまで守ろうとしているのだからな。これからも頼む『死を告げる天使』殿」

 

そう言って千冬が頭を下げてお願いした。

ヒイロは一瞬眉を上にあげて驚いたが、すぐに平常心にもどって

 

「……任務了解」

 

と答えた。

それを見た真耶はここで疑問を発する。

 

「しかし…何故Gコアが…」

 

そう…Gコアを搭載してるのは今のところヒイロのガンダムのみである。GコアはISコアと違い、コア人格というものがない。そして何より、誰でも操縦できると言う事だ…

つまり、Gコアが出回れば女尊男卑は終わりを告げるだろう…しかし、それは悲しくみじめな戦争の引き金にもなりかねない…

だからヒイロや学園上層部はGコアと同じぐらい危険なエネルギージェネレーターの解析は凍結したのだった。

 

(ゼロの中にはまだ見せていない他のガンダム4機のデータしかなく、ビルゴに関することはなかった…)

 

ヒイロは自身の手首についている緑の水晶が付いているブレスレット…ゼロを見た。

しかしゼロは何も答えてはくれなかった…

 

 

 

 

ヒイロは夕食を本音と食べ、再び研究室に戻ろうとしたとき、すっきりとした顔の鈴に会った。

 

「あ…」

 

鈴がヒイロの顔を見たとき、声を詰まらせた。

その原因は前のヒイロが言った言葉…

 

『俺が……殺したからだ』

 

が気になっていたからだ。鈴は何を言ったらいいか悩んでいるとヒイロから声をかけられた。

 

「…一夏と仲直りできたか?」

「え…ええ」

「そうか…」

 

鈴の返事を聞いて納得したのかヒイロはそのまま去ろうとする。

その前に鈴は

 

「ま!!待って!!」

 

と言ってヒイロの手を掴んだ。そして鈴は覚悟を決めて聞いた。

 

「なんで…アンタにとって愛しい人を殺さないといけなかったの?」

 

ヒイロは鈴の顔を見る。鈴はものすごく真剣な顔で見ていた。

一瞬の刹那がすごく長く感じる。それほど緊迫した空気に2人は包まれていた。

そして…

 

「……それしか方法がなかった」

 

ぼそっとヒイロは言った。

鈴は『え…』と言う顔をした。思わず手を放してしまう。そしてヒイロは鈴に真正面を向いて話す。

 

「…俺が行動するのが遅すぎた結果、他の手段がなくなっていた。一人のために、せっかくの好機を逃すわけにはいかなかったんだ…。鈴音…お前は、俺のようになるな…」

「ヒイロ…」

「俺のような…もっとも守りたかった奴を守れなかったような奴にな…」

 

そう言ってヒイロは寮から出て行った。鈴はヒイロも一夏と同じなんだと気が付いた。

守れない自分の不甲斐なさを引きずるって自分を自分で傷つけている不器用な人間だと…。

そしてそれを割り切ることができないほど、優しい人間だということも…。

ヒイロはさっきの言葉で思い出していた。あの最後の戦いを…

自分も最後は彼女の後を追い、死ぬつもりだった。だけど…この世界で一夏の生き様を見たくて生きている…

 

(俺も必ず後を追う…だが、もうしばらく…一夏の未来の行く末が見れるその時まで…待っていてくれ…)

 

「……リリーナ」

 

満点の星空の見つめながらヒイロは小さな声でそう言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「むー……」

 

カタカタカタカタ… とキーボードを叩く音が響く。

そこは外界から完全に隔離された空間。日の光は決して入り込まず、無造作に置かれた電子機器の画面から放たれる光のみが空間を照らしている。

その画面の一つに向かい合っている、メカニカルなウサミミを付け『不思議の国のアリス』の主人公アリスと同じ格好をした一人の女性。

自称一日に三十五時間生きる女。ISを開発した張本人、篠ノ之 束である。

 

「あのIS…じゃないね…明らかにひーくんのガンダムと同族だね~。あれ…なんで無人であそこまでの動きができるんだろ?流石は異世界の力ってこと?」

 

しかし、ここで束でも驚きなことになってしまった。

 

「マズイな~これじゃいっくんが『来たるべき戦い』の前に死ぬかも」

 

『来たるべき戦い』…これが何を示すのか今はわからない。だが束はそのために今回の事をしたようだ。

 

「やはり…近いうちにアレを届ける必要があるみたいだね」

 

そう言って束はニヤっと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

とある場所で二人の女が会話していた。

 

『そう…ビルゴは全部やられてしまったのね…』

『はい』

『それはそうと…オーギス1。あなたの機体…完成したわ』

『本当ですか!!』

『ええ、その名は『――――――――』』

『ありがとうございます。しかし、今回は何というタイミングでしたね』

『そうね。まさかISの無人機が出てくるとは…さて、下がっていてもいいわ。私はまたこの子を使ってGコアを生産しないといけないから…』

『はい』

 

そう言って女は去る。

そしてもう一人の女は目の前にあるウイングガンダムゼロと同じ大きさぐらいのあるものに目を向ける。その機体の色は赤く、騎士のような感じだった。そしてどこかガンダムに似ていた。

 

『『――――――』には「ゼロシステムVer.2.5」を搭載したからこれで慣れてほしいわ。そしていつかあなたを使えるようになってほしいわよね…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             『ねえ…エピオン』

 

 

これで1巻の内容は終わりです.小ネタを挟んで2巻に移りますのでお楽しみに


 
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