早速出来上がった【呪符・蒼焔】を発動させ、威力確認を行った後。
【呪符・蒼焔】の圧倒的威力に呆然としていた二人が辛うじて再起動を果たし後、二人によって『この呪符はよほど命の危機がせまる状況でない限りは使用を控えるように』と厳命されてしまった。
いわゆる本当の意味での最後の切り札としてのみ使用するという、いわば禁呪扱いにされてしまった【呪符・蒼焔】。
俺自身も自分で威力の程が理解できたので、多少がっかりしつつもそれに納得し、後始末をし終えてその日を終える。
……そして翌日。
❝魔力文字結晶❞
「……聞いていたとはいえ……まさか本当に出来るだなんてね……」
「ね? すごいでしょう? お父様」
呆気にとられるオキトさんの目の前で、浮かび上がる16枚の呪符に同じ【魔力文字】が刻まれていく。
そう、フォウリィーさんがオキトさんに報告していた、俺の呪符の同時作成を見せていたのだ。
実際に見てみたいというオキトさんの希望通り、俺は呪符の作成を実行し─
ー【呪 符 完 成】ー
こうして出来上がった呪符をオキトが手に取り、呪符の【魔力文字】に込められた魔力……呪符力の強さや出来栄えを確認する。
「……驚いた。16枚という数を同時に作成してもなお、私たちの作るものと代わり映えしないなんてね」
「本当よね……ねねジン? これって私たちにも出来るのかしら?」
「? 出来ると思うよ。俺が出来るぐらいなんだし……先んじて【
ー『…………』ー
素直に俺がそう思った事を口にして話しかけると、フォウリィーさんもオキトさんもひどく微妙そうな顔をする。
「……これって何気にプレッシャーだよねフォウリィー」
「ええ、そうねお父様……これで出来ないだなんていったら、その……師匠としての面子が……!」
なにやら二人で顔を見合わせて会話をした後、力強く頷いて妙に気合を入れた顔で俺に複数作成の手順と方法を尋ねてくる。
「ええと、そうですねまずは─」
そこで俺が【
1.【呪符】の呪符力の容量限界
呪符にはその形に応じて呪符力の容量がある。
これは【魔力文字】を刻み込む広さという面の意味もあり、当然書き込む面積の広い【高速呪符帯】や【
そして、通常の呪符はその限定された力をより強化するため、複数起動という形で出力を補う。
また、この容量限界は呪符を作る際にこの世界に存在する事象・経験・歴史からイメージを想定して【魔力文字】が作られるためであり、それはこの世界にない常識・知識を持っていない事も原因の一つである。
つまり、俺の知識……二人も蒼い炎なんて見たことがない、という言葉から分かるように、知りえない事はイメージできないという事だ。
そういう意味でも俺の作った【呪符・蒼焔】は禁呪といえるだろう。
2.【
次にあげられるのは、今までの呪符は一度につき一枚という【
恐らく、始祖から続く初期の【
今現在では、呪符を作るための【魔力文字】というイメージが存在するため、明確に捉えられるようになった呪符の力。
それでも尚、『呪符は一度につき一枚』という常識の元、僅かな時間を割いて呪符を作り続けていたのだ。
それ故、それを破った俺はまさに異端者的扱いを受けるのも当然なのだろう。
一番のネックは、この考えを崩せるかどうか。
これを覆せない限りは複数作成は不可能だろう。
3.【魔力文字】のイメージ固定・複製。
呪符を作る際、イメージを元に作られる【魔力文字】。
このイメージを固定化し、コピーして隣に同じ【魔力文字】を作り上げる。
これは呪符の同時起動と同じように、呪符にどれだけ【魔力】と精神力による分割制御を振り分けられるかという術者の技量が大きく作用する。
呪符に対する容量を見極め、それに見合った【魔力】を注ぐという点を見極め割れれば、更に一度に作れる呪符の数も増えるだろう。
また、これらの微調整には俺が毎日行っている【魔力運用】による魔力操作が大きくかかってくる。
【魔力】の出力調整から【魔力】の精密操作までを出来るようになれば、それだけ呪符一つにかける余分な【魔力】を減らすことができるようになるからだ。
それにこれは精神力を鍛える事にも繋がるので、親しいオキトさん達には是非教えておくべきだろう。
例として現状の【
通常の【
10の力を持っていると仮定するなら、たとえ呪符の容量が1の札にでも5ぐらいの力を注ぎ、余分な【魔力】は霧散、そして時間は一枚分の作成時間を取られるといったところ。
フォウリィーさんぐらいになると、限りなく1に近い力で作れるようになるのだが、結局一枚分の時間を取られてしまう。
対して俺は、【
効率化を極めた作り方といえるだろう。
これも、俺の記憶に残っている現代社会・大量生産方式から考案したやり方である。
「……ジン、簡単に言うけど……意識の細分化や【魔力】操作って早々簡単に出来るものじゃないよ?」
「ええ、そうね……これは……言いたくないけれどジンが特殊なんじゃないかしら?」
俺のやり方を聞いてひどく困惑した表情で顔を見合わせる二人。
「むむ、それじゃあ基礎の魔力循環を見せますよ! これを見ればきっと分かると思います!」
最初から無理だなんていってたら出来ませんよ~! とちょっと怒りつつも、俺は【魔力】を漲らせ、いつものように体内に循環させる。
「?!」
「!! な、何それ……え? なんで放出しないで駆け巡ってるの?!」
そして、そんな俺の様子に驚愕する二人。
そんな二人に自分で思った【魔力】に関する力の練磨と、これによる魔力操作の恩恵を話す。
はじめは俺だけの特殊な能力と割り切っていた二人も、その表情に真剣見を帯びていき─
「──なるほど、それは理にかなっているね」
「…………それなら、【魔力】が少なくて禄に呪符を扱えない【
(あ、あっれ~? 本当に才能による【魔力】のみで【
何度も頷いて思考するオキトさんと、俺を抱き上げてくるくると回るフォウリィーさん。
カイラも俺のやり方に驚いていたし……俺ってそこまで非常識な事をやっているんだろうかと、自分自身に不安になる俺だった。
そして暫く俺の練習に付き合い、循環までは行かなかったものの、どうにか放出を停滞に持っていけるようになった二人。
「……これは、何というか……すごいね。安定感が違うよ。これなら【魔力】による身体強化の恩恵もまともに受けられるだろう」
「そうねお父様。……これなら、もしかしたら私でも……【
「……フォウリィー?」
「……いえ、何でもないわお父様」
【魔力】の鍛錬を終えた二人。
ふと呟くフォウリィーさんの言葉に、オキトさんが疑問を浮かべ尋ねるが……それを被りをふって流すフォウリィーさん。
俺が毎朝これを行っているというと、それならこれからの朝の日課にこれだねとオキトさんとフォウリィーさんが頷く。
俺達の朝の日課にラジオ体操ならぬ朝の基礎鍛錬が加わることになった瞬間だった。
そんな日々が過ぎ、朝の鍛錬・食事・呪符作成・呪符使用ときて、ついに本格的に実戦形式での呪符の模擬戦が俺の修行に加わる事になった。
最初は呪符を呪符で打ち消す長距離戦が主体だったのだが、『今の【
なぜか執拗に接近戦での呪符で挑んでくるフォウリィーさんに疑問を覚え、その理由を尋ねると─
「……なんてことはない、ただの我が儘なのよ。ただ、ただ……私の中で最高の【
結婚もしてるのにね、と苦笑しながら俺の頭を撫でるフォウリィーさん。
(……そっか、オキトさんが倒された事をずっと悔やんでいたんだ……。それで自分の【
言葉を紡ぐ際の複雑な表情で察した俺は、そのフォウリィーさんの望みを叶えてあげるべく、呪符交じりではありながらも格闘よりの模擬戦をする事で協力をする事にした。
そして─
「フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザーが符に問う!」
「ジン=ソウエンが符に問う!」
ー『答えよ! 其は何ぞ!』ー
ー【発動】ー
より実践的にと地下練習場から外へと場所を移し、厳重に呪符が張り巡らされた結界の中、今日も俺とフォウリィーさんとの一対一での真剣勝負が始まる。
どちらかが参ったというまでか、気絶するまでという条件化の下、始まったこの勝負。
これは俺にとっても、フォウリィーさんにとっても、実戦経験を積むのにまたとない相応しいものとなっていった。
❝『我は炎 紅蓮の炎』❞
❝『我は氷 穿つ氷』❞
離れた位置から始まる今回の模擬戦。
まずは互いに様子見の遠距離呪符からスタートとなった。
❝『陽炎の如く沸き立ち』❞
❝『氷を槍となりて』❞
ー【魔力文字変換】ー
並走しながら徐々に間合いを詰めつつ─
❝『貴公の敵を焼き尽くす者也』❞
❝『貴公の敵を貫くもの也』❝
ー【呪 符 覚 醒】ー
俺の【氷槍】とフォウリィーさんの【紅蓮】がぶつかり合い、氷が蒸気になって視界を遮る。
俺がそれに便乗して一気に間合いを詰めようと、蒸気を突き抜けようとした瞬間─
❝『我は風 吹きすさぶ風』❞
ー【魔力文字変換】ー
「……ッ!」
それを待っていましたといわんばかりに狙い撃ちしてくる、フォウリィーさんの呪符。
❝『不可視の弾丸となりて 貴公の敵を弾き飛ばす者也』❞
ー【呪 符 覚 醒】ー
ドン、という音と共に発動された【風弾】の呪符。
風を圧縮した弾丸が放出され、蒸気と俺を一気に吹き飛ばすために放たれた不可視の衝撃が迫る。
風の弾丸が弾け、蒸気が霧散して視界が一気にクリアになる。
俺は弾ける勢いに任せ、ややフォウリィーさんよりの場所に進みながら、【風弾】に背中を押される形で弾き飛ばされる。
「ッ?!」
そんな無茶な間合いを詰めてきた俺に対して驚愕を浮かべるフォウリィーさんに、俺は加速をつけた浴びせ蹴りを逆袈裟に放つ。
咄嗟に呪符を持って【詠唱破棄】による【守護障壁】を張るフォウリィーさん。
ー【呪 符 発 動】ー
そして【魔力】の壁と俺の蹴りがぶつかって空気が振るえる音が響き─
「くらいなさい!」
「こっちも【詠唱破棄】か!」
ー【呪 符 覚 醒】ー
ー炎 刃 斬 火ー
蹴りを弾かれ、後方宙返りをしながら間合いを離した俺に対し、【詠唱破棄】で発動された【炎刃】が迫る。
ー【呪 符 覚 醒】ー
ー氷 刃 斬 凍ー
着地と同時にこちらも腰のホルダーから呪符を抜き出し、フォウリィーさんの【炎刃】を迎え撃つ。
互いの呪符が相殺される中─
「フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザーが符に問う。答えよ! 其は何ぞ!」
「ジン=ソウエンが符に問う。答えよ! 其は何ぞ!」
ー【発 動】ー
相殺された呪符を掻い潜り、応酬される俺の右足の逆風からの蹴り上げでの牽制と、それを打ち払おうとするフォウリィーさんの右肘打ち。
左手の指の間という間に呪符を挟みこみ、それを発動させるフォウリィーさんと、同じく両手に呪符を展開する俺。
❝『我は刃 白い刃』❞
❝『我は雷 白き雷』❞
ー【魔力文字変換】ー
フォウリィーさんの手に発動される呪符が風を纏い、薄く延びる刃となる。
俺の両手の呪符もまた、変換されて雷撃を帯ていき─
❝『霞の如く舞い降り 貴公の敵を切り裂く者也❞
❝『雷撃となりて 貴公の敵を縛る者也』❞
ー刃 雷 交 差ー
風の刃が俺の左手から放たれた電撃を切り裂き、絡みこむ中……俺はもう一方の右手の【雷撃】の呪符を振るう。
「時間差?! くっ!」
ー【呪 符 発 動】ー
それを防ぐ、フォウリィーさんの腰に巻かれた【高速呪符帯】による【守護防壁】の防御膜が【雷撃】を散らす。
それを目くらまし代わりに利用し、俺はフォウリィーさんの死角へと周り込み─
「はっ!!」
「え?!」
【電撃】を弾き終わり、発動を終えた【守護防壁】の合い間を縫い、再び発動する前に体を滑り込ませるようにフォウリィーに近づき、【魔力強化】を乗せた全力のストレートを腹部に突き出す。
慌ててフォウリィーさんが【詠唱破棄】の【守護障壁】を展開しつつ【
ー障 壁 破 壊ー
「ッああ?!」
俺の拳の威力が障壁の力を上回り、パリンという何かが割れるような音と共にフォウリィーさんの腕に拳が突き刺さる。
そこを基点とし、弓形に弾き飛ばされ、両手から【守護障壁】の呪符が零れ落ちる。
何度か地面をバウンドし、後方にある樹木に激突しようとした瞬間─
ー空 間 歪 曲ー
突如フォウリィーさんの飛んでいった方向の空間が歪み─
「まったく……。君の無茶にはいつも驚かされますね……心臓が止まるかと思いましたよ……」
「……ッう……えっ……あれ? あなた?! あなたなの?!」
「お久しぶりです。ポレロさん」
そこにはポレロさんがフォウリィーさんを受け止める姿があった。
三者三様の言葉を紡ぎ、挨拶を交わす俺達。
呆然としたフォウリィーさんが、涙目になって抱きつくのを苦笑しながら見守り、フォウリィーさんの背をポレロさんの手がぽんぽんと優しく叩く。
「お久しぶりですねジン君。お元気そうでなによりです。さて……何はともあれ……一息いれませんか?」
そう柔らかい笑顔と共に、俺に向けて手にもったバスケットの中のハーブを見せるのだった。
「……なるほど、義父さんの敵討……というよりも腕試しといった所ですか?」
早速ポレロさんを伴ってオキトさんに挨拶した後、俺はポレロさんが持ってきてくれたハーブ各種を元に、ハーブティーとジンジャークッキーを作りあげる。
「ええ……。お父様を倒した【
そんな会話をしつつも俺がクッキーを焼き上げる間、自然治癒力にまかせるためと、無茶をした罰としてフォウリィーさんを薬草の湿布や傷薬を傷口で怪我の治療をするポレロさん。
『呪符に頼りすぎると自然に回復する治癒力が落ちるから』と言い聞かせながら処置をするポレロさんを涙目でぐっと唇をつぐみながら見つめるフォウリィーさんが可愛かった。
そして、出来上がったクッキーとハーブティーをテーブルに運ぶと、大分マシになってきた書斎の書類を処理していたオキトさんを呼びにいき、久しぶりの家族団欒とあいなった。
再びきっちりとした挨拶を交わし、俺の作ったクッキーとハーブティーを楽しんだ後、オキトさんが足早に書類を持って出かけていく。
そう、身体も治ったということもあり、今日は午後から【
自分の報告と、近頃活発になりつつある隣国【ソーウルファン】の関与が疑われる事件に対しての意見交換もあるとの事で今日・明日は泊まりとなり、明後日には帰ってくる予定だとか。
ゆっくりできない事をポレロさんに告げて謝るオキトさんにハーブクッキーを持たせてあげつつ、去っていく背中を見守る俺達。
そして先ほどの会話となり─
「なるほど……そこまで強い決意なら、私は反対しません。 ですが……約束してください」
「えっ?」
「決して無茶をしないこと。そして絶対死なないこと。これは大事な……とても大切な【約束】です。できますか? フォウリィー?」
フォウリィーさんが軽い腕試しなどで【
父親の名誉を思う行動なのだと思うと、下手をすれば命に関わる危険がある。
それ故、止めはしないものの……その想いを瞳に込めて真剣に見つめあう二人。
「ええ……。【
そうポレロさんの瞳を見ながら誓うフォウリィーさんを見て、その真剣な表情を崩して優しい微笑みで頷き、フォウリィーさんを抱き寄せるポレロさん。
そして、そのポレロさんの胸に頭を預けるように、もたれ掛かるフォウリィーさん。
愛し、愛される者達が発する暖かで犯しがたい雰囲気を察した俺。
(そ~っと、そ~っと)
気配遮断を駆使し、空気のように静かに、そっと二人の邪魔をしないようにとその場を後にしようとして─
「あ~、いや。そこまで気合を入れて空気よまなくてもいいんですよ? ジンくん」
そんな俺を見つめて苦笑して顔を見合わせ、こちらを見る二人に声をかけられる。
(な?! そ、そんな馬鹿なっ……空気読み、失敗だと……?!)
何気に失敗したことにショックを受け、邪魔をしたことを申し訳なく思い、うなだれていると─
「気を使わせてしまったようですいません。……ああ、そうだ。ジンくん、君に渡したいものがあるんですよ」
俺にそう謝りつつ、思い出したように先ほど空間から出てきたときに持ってきていた大きなカバンを開けるポレロさん。
そしてそこには─
「魔導理論書や、他に知識になりそうなものを見繕ってもって来ました。本来聖地ジュリアネスから門外不出と言われる本なのですが……ジンくんは一瞬で読み終わると聞きましたので2日だけという期限付きで貸し出してもらいました。よかったら読んでみて下さいね」
その容量の半数を占める書籍が十数点と、なにやら袋に包まれたもので埋まっている姿があり、そこから書籍を次々とテーブルに並べていくポレロさん。
「あと、料理が上達したとフォウリィーがいっていましたので、これはハーブとスパイス、そしてそれの苗木、あと種子ですね」
そういって袋を持ち上げ、その袋をまとめていた口を開く。
その中から薫る様々なハーブやスパイスのいい香りと、さらに小分けにしてある苗木や種の袋。
「こんなにお土産を……ありがとうございます!」
「いえいえ。また会いに来るといっていたのにこんなに時間がかかってしまいましたし。そのお詫びもかねて、ということで」
俺の喜ぶ顔に一瞬胸を押さえた後、落ち着くためにハーブティーを飲みながら軽くウィンクするポレロさん。
和やかな雰囲気が漂うようになったテーブルで、ハーブティーを入れなおして飲みつつ……俺は早速【
【魔導理論】という分厚い書籍を手にし、いつものようにパラパラとページを捲って読み進める俺。
「君の話には聞いていましたが……実際に見るとすごいですね。……本当にそれで読めているんですか?」
「ええ、読めているのよ……。うちの書庫の本を読んでいるときに、読み終わった本から適当に問題をだしてみたらそれを完全に答えていたもの」
そんな俺を呆れたような、感心したような顔で見つめる二人。
次々と読み進める書籍のラインナップは以下の通り。
『魔導理論』……これは【
【
『自然知識理論』……『自然には意思がある』という理論を下に、【
『薬学【極】』……これまでに薬草に認定されているものの姿形、効能などが書かれた本。
実際に混ぜて薬にしたときの効能まで事細かに書かれている。
『医療技術大全』……この世界の医療技術、病気・病原菌などの対処方法が載った本。
基本的な消毒から切開・切除・縫い合わせまでを図式で描いているのが特徴的な本だ。
『医療的観測から見た魔導力』……これは【
失われた四肢や目などでも、時間を置かなければ修復可能であるという実用例も書かれている。
『呪符を応用する医学』……呪符をつかって治療を行う方法と、その影響力を記した本。
自己治癒能力・新陳代謝を強制的に促す呪符による、後の自己治癒能力の低下などがあげられている。
『人体の構成・その理論』……人体構成を事細かに書き記した本。
【
(おおう……これはすごいためになるな……さすがポレロさん、ナイスチョイス!)
読み進め、吟味する中……治療系の知識の多さが俺を理解してくれているなと感じるラインナップであり、俺はすこしほっこりとしながら次の本を読み進める。
『植物大全』……何科、何属という区分で分類される植物がついた辞典。
食用に向く植物なども紹介されていて、実にサバイバルに役立ちそうである。
『森の生物たち』……森や自然界に潜む生物たちの生態系や、【
カイラにすら教わらなかった事がかかれていて実に興味深い内容だ。
『水中の生き物達完全ノーカット版』……川や湖、海に生息する生物たちの生態系、種別ごとに分けられた図鑑。
これもまた食べるとおいしい魚や、毒物を含む魚など、種類別に掻き分けられた書物になっている。
(……ん? まあいいか……これはこれでためになるし!)
魔導・医学ときて自然知識と、これも【
『今日から始める!ガーデニング 初級編』……庭に草木を植えるコツ、庭を綺麗に見せるちょっとしたテクニックが書かれた本。
『植物の世話のし方』……植物に与える栄養素や、与える水分量、温度などが細かく書かれた本。
『ザ・ガーデニングマスター』……初級編から更につっこんだ内容の本。
隣に何を植えると映えるか、という事から、植物の相互干渉などという事までかかれている本。
『庭木の剪定 達人編』……増えすぎた枝の選定基準や、より枝や葉を伸ばすための手法が書かれた本。
道具一式の説明やその手入れまでが書かれた本である。
「…………って、後半のはポレロさんの趣味ですよね?!」
「何をいっているんですジンくん! ガーデニングとは自然を知るのには大切なんですよ!? まだまだ理解が足りていませんね! そもそも─」
いつもの優しくほわほわとした雰囲気をかなぐりすて、ずいっと俺に顔を近づけつつ真剣な表情で語りだすポレロさん。
いつにも増して饒舌なその口調からもたらされる情報は留まる事を知らず─
─1時間後─
「─なんですから! さらに【ドリュアルク】の砂を土に混ぜ込むことにより、植物の成長が高まり 自然力が増すんです! そうなってくると─」
俺が口を挟むこともできず、さらにヒートアップしていくポレロさん。
そしてその後ろから『ごめんね、付き合ってあげて頂戴』と手を合わせて謝ってくるフォウリィーさんが視界に映る。
─2時間後─
「─ハーブはこまめに手入れをしないとすぐ虫がついてしまうんです。かといって虫も自然の一部。なので殺さないように虫が嫌がる成分を開発して、植物にも影響がないものにするまでに大分かかってしまったんです。これにより─」
未だ衰えることないポレロさんの熱弁。
次第にげんなりとなっていく自分の表情をどうにかするのに四苦八苦し、それを見たフォウリィーさんが苦笑する。
─3時間後─
「─という感じなんですよ。わかりましたか?ジンくん?」
「…………はい」
ようやく開放され、だる~んと机にたれる俺。
その肩に伸びる、慰めるよな、労うようなフォウリィーさんの暖かい手。
(うう~……ポレロさん話ながいよお~……)
得るものは大きかったが、精神的ななにかがゴリゴリと削られたのを悟った俺だった。
「……おや? もうこんな時間。少々話し込みすぎましたかね? 今日は早めに休みましょう」
一人明るい表情で至極ご満悦なポレロさんが、夕食を準備してくれたフォウリィーさんにそう提案しながら三人で食卓を囲む。
暖かい具沢山のスープが、俺の体に優しく染み込んでいくのを感じ、おいしさに頬を緩ませている中─
「ジンくん、明日は【
そう困った表情であやまってくるポレロさん。
「あやまる必要なんてないですよ! さっき読んだ本で魔導理論は一応頭に入ってますし、教えてもらえるだけでもありがたいです!」
そんなポレロさんに慌てて顔をあげるように頼み込む俺。
なんせ……この世界に現存する、たった11人しかいない魔導技術の頂点、【
たった一日とはいえ、世界広しと言えどもこの幸運、そしてその知識を是非ともものにしたいものである。
ポレロさんの提案通り、いつもより早い夕食を済ませ、いつものようにフォウリィーさんと一緒にお風呂に入れられ……いよいよ就寝。
本日は久しぶりに一人で寝られるとの事で、いつもより大分早いものの自室のベッドに横になる俺。
ぽふっと俺の体を受け止めるベッドに体を預けしばし─
すると、隣のフォウリィーさんの部屋から両人の話し声が聞こ始めた。
『ねえあなた? その、今日は一緒に……』
『フォウリィー……寝るのが遅くなってしまいますよ?』
『ジンがいたから大分マシだったけど……寂しかったのよ……お願いあなた』
『……朝まで寝られないかもしれませんよ?』
実にアダルティーな会話であった。
このままではよろしくないなと、自身の思考をフル回転させると……俺は服のポケットから呪符を取り出す。
「……ジン=ソウエンが問う! 答えよ!其は何ぞ!」
ー【発動】ー
❝『我は空気 静かなる空気』❞
呪符数枚を四方八方に飛ばし、壁隅に貼り付け─
❝『汝の周りを包み込み』❞
ー【魔力文字変換】ー
呪符同士の魔力が互いに結びつき、四角い力場を作り出す。
❝『汝を静寂に導くもの也』❞
ー【呪符発動】ー
ー遮 音 空 間ー
こうして展開されたのは【静寂結界】。
盗聴などの間者に対して使用される結界であり、音を遮断するという……いわば究極の空気を読める結界なのだーー!
実に静寂に包まれた空間の中。
「おっし、それじゃあ……おやすみなさい」
俺は今日も頑張ったな~と【
しかし……音は聞こえなかったものの、揺れと振動までは遮断することはできなかったことを記しておく……。
そして翌日、部屋を照らす朝日、太陽の光によって目を覚ました俺。
いつものように朝の鍛錬を行うものの、今日から付き合うといっていたフォウリィーさんが目覚めてこなかったので、一人で一連の鍛錬を終える。
まあ、朝食にはと思い、キッチンへと向かうが……こちらにもまたフォウリィーさんは顔を出さなかった。
どうしたんだろうという疑問を浮かべつつも、とりあえず3人分の朝食を準備するため、パンを焼き、スープを作り始める俺。
ぐつぐつと温まるスープの出来栄えに満足しつつ、サラダ用の野菜を刻み終えてボゥルに盛り付けた時。
「んんっ、おはようございますジンくん。朝食の準備中申し訳ありませんが……フォウリィーが呼んでいるので部屋まで来てくれませんか?」
咳払いをしながらキッチンに入ってきたポレロさんがそう、俺に呼びかけてきた。
心なしか頬がげっそりし、目の下に隈が見えるポレロさん。
(……うん、がんばりましたね)
「おはようございますポレロさん。……フォウリィーさん、どうかしたんですか?」
「あ~、その、ちょっとね。フォウリィー、入りますよ?」
『ええ、空いているわ』
俺の質問に対して言葉を濁すポレロさんに苦笑しつつ、移動してフォウリィーさんの部屋へと入ったのだが─
「あ~……うん。おはようジン。あのね……ちょっとあって、その……、午前中の家事とかお願いできないかしら?」
妙に肌に張りとつやがあるフォウリィーさんが、そう言いながら俺に手を合わせ、困り顔で頼んできたのだ。
きのうはおたのしみでしたね、という言葉が浮かび……なんというかほんとがんばったね、ポレロさん!
という言葉が感想として持ち上がるほどだった。
そんな事を考えつつ、ポレロさんとフォウリィーさんに交互に視線を送ると、二人共恥ずかしそうに俺の視線をそらして頬を指でかいていた。
案外、似たもの同士なのかな、などと考えつつ……フォウリィーさんの朝食を部屋へと運び、俺はポレロさんと一緒に朝食をとりながら今日のスケジュールを組み立てていた。
「幸いにしてこの傍には樹齢500年を超える古木が存在します。この森の長老たる彼の力を借りて、【
「はい、ポレロさん」
先生、とか師匠、と呼ぼうと思っていたのだが……実質ポレロさんがそれを拒み、当初どおりの普通の呼び方でポレロさんに呼びかける。
「ジン君……本当に料理が上手になりましたね」
「あはは、ポレロさんが持ってきてくれた調味料も使ってるんですよ?」
「やはりそうですか。これはもってきて良かったですね」
互いに笑顔で微笑みあい、ほんわかとした気分での食事が進み、やがて食後のお茶を飲んだ後。
早速とばかりに俺達はこの森一番の古木が存在する森の奥へと足を踏み入れる。
出掛けにフォウリィーさんに出かける趣旨を伝え、励ましの言葉を貰いつつも、俺達は歩み続け……その歩みはまるで自然に導かれているかのように迷いなく、真っ直ぐに突き進んでいく。
やがて─
「ここがそうですね。……うん、この樹がこの森だと一番の古株みたいです」
「ですね、やっぱ大きいな~…………」
そこにあったのはこの森で一際高い背の巨木。
カイラの家に使われていたあの巨樹ほどではないが、どっしりと地面に根を下ろし、天を覆い隠すように広がる枝葉は見ていて壮観である。
やっぱりこちらの自然はすばらしいな、と内心思っていると、ふとポレロさんの視線を感じ─
「──やはり、君はいい素養を持っている。自然を敬い、敬意を表せる人々は……今の世の中にはそう多くない。闘いが、闘争が心に余裕をなくし、さらにそれらが相乗して国がすさみ、大地が穢れていく。それが今の世の中なのです。その中でも君は……その自然体の状態で自然に溶け込むような素養さえ持ち合わせている。……失礼、つい嬉しくなって長くなってしまいましたね」
俺をひどく透明で柔らかい視線で見つめ、褒め言葉を送ってくるポレロさん。
照れる俺と柔らかい雰囲気をかもし出しつつ……ポレロさんは【
1.【魔力】が扱える事。
これは大前提であり、【
2.【
自らの力を呼び水として、自然界に漲る膨大な力、【
自然と一体化し、その力を借りるようなイメージであるとされ、この【
3.強い精神力とイメージ力。
【
これにはその強大な力を束ね、コントロールする強い意思と、精密なイメージが重要。
自身が思い描けない奇跡は術式として起こす事が出来ない。
「……なるほど、やっぱり【
「ええ、そうですね。【
オキトさんがそう言いながら懐を探り、片手からちょっとはみ出すぐらいの……ちょうどナイフぐらいの大きさの【
「そして、【
そういいながらポレロさんがに魔力を注ぐと、【
「今から、私がここに来る際に使っている【神力魔導】……【
ー【神 力 魔 導】ー
ー空 間 歪 曲ー
【
ー転 移 開 門ー
門の人型がポレロさんの【
そして空間と空間が繋がり、その門の中に見える風景は……よく剪定され、整地された美しい庭。
緑溢れる庭と、すぐ頭上に見える白い雲。
幻想的な景色が目の前に存在していた。
そして、やがてポレロさんが【魔力】を切ると共に門が閉まり、空間が元の形へと戻っていく。
再びポレロさんの手に戻った【
「いかがでしたか? ジン君。─これが【
そう言いながら、傍にあった岩に腰をかけるように示唆され、俺とポレロさんが向かい合う形で座る。
バスケットからお茶を取り出し、互いに静かな一時を楽しむかのようにゆったりとした時が流れ─
「ジン君、君は……我々にはない技術、体内にある【魔力】を循環させ、【魔力】を鍛えるという稀有な方法を思いついたとか?」
「え? あ、はい。……てっきりみんなやってると思ってたんで、なんとも思わないでやってたんですけど……この世界で【魔力】に目覚めるっていうのは、【魔力】を放出し、押さえられるという出力制御の事でいいんですかね?」
「ええ、その考えで間違いありません。それ故、強大な力を扱う際に足りない力を補うため、【
(……なるほど、それじゃあ……【魔力】や【気力】を体に留める、という技術もまたリキトアの闘士独特の技術だったのかもしれないな……)
オキトさん達にも教えちゃったけど大丈夫かなあ~……などと考えつつ、ポレロさんの話に耳を傾け続ける。
「……ジン君、よろしければそれを見せていただけますか?」
「? はい、いいですよ」
ポレロさんがそう言うので、俺はその言葉に答えて─
ー魔 力 循 環ー
瞬時に俺の体に纏われる【魔力】の奔流。
俺の体を覆う蒼い【魔力】の光は、練り上げられる段階でどんどんとその透明度を増し、その流れをより流動的に滑らかに流れていく。
「……ッ!!! な、何と言う……こ、これが一個人が持つ【魔力】、だというのですか?!」
ポレロさんが珍しくその表情に驚愕を浮かべ、俺の【魔力】を覆う【魔力】の質と強さ、量を見て驚愕の声を漏らす。
「……すいませんジン君。その【魔力】を……この古木に流してもらえますか?」
「? はい」
ポレロさんが考え込むように俺にそう呼びかけ、俺はその言葉に頷きながら、【リキトア流皇牙王殺法】の容量で、しかしながらただ樹に溶け込むような形で【魔力】を流し込む。
俺の【魔力】は木々に浸透するかのように枝を、葉を、根を、幹を淡い緑色へと輝かせる。
イメージなしの【魔力】を受け、やがてその力に促されるように木々が成長をはじめ─
「……ッ! やはり……君の【魔力】は……自然に受け入れられているのですね。通常の人々がそれを行っても……【魔力】は流れても反応はしないのです」
(……なるほど、これがカイラが言っていた【牙】族の特性……。自然に近いといわれる理由か。【魔力】が元々自然への融和が高い事で生まれたのが【リキトア流皇牙王殺法】なんだろう。……そういう感じで言えば……【リキトア流皇牙王殺法】も【神力魔導】に近いといえるかもしれないな)
もういいですよ、というポレロさんの言葉に従い、俺は【魔力】を押さえていく。
やがて古木もその輝き失っていくが─
最後の最後で、まるで俺にお礼をいうかのように、緑色の輝きが俺の体を包みこみ、消えていった。
「……間違いない。君は間違いなく【
俺のやることに驚きまくっているポレロさんが、ようやく落ち着いたかと思うと、非常に真面目な表情になって俺に語りかける。
「さて……ここからは補足説明な感じになってしまいますが、この世界には太古より息づく偉大なる樹があります。世界創造より今日まで 揺るぐことのない樹世界を作り上げた樹とされる、自然そのものの象徴。その偉大な樹の名前を、【
(あ、カイラから聞いたことがあるな。【牙】族でも偉大なものとして崇められ、半ば信仰に近い思いを抱く樹なんだっていってたっけ)
そんな説明をしながら、ポレロさんが懐から大事そうに取り出したもの。
それは……小枝の一振りになっても、その身にはちきれんばかりの【魔力】を纏った一振りの枝。
「そしてこれがその【
どうぞ、と言う言葉と共に、恭しく差し出される力持つ枝をそっと受け取ってみると─
「うわっと!」
ー魔 力 融 合ー
突如俺の内部に注がれるその枝から溢れる【魔力】。
俺はその【魔力】を自分の【魔力】と混ぜ合わせるように調節しながら、再び循環させると……まるで枝が自分の体の一部のように魔力循環のうちに入っていた。
そしてそれは周囲に漂う力にも反応を示し始め、やがて俺の体の回りに、磁石が砂鉄や鉄を吸い寄せるかのように緑色の輝きが集約されはじめる。
「やはり! ジンくん、君は【
その周囲の……【
「おっと、ガラにもなく興奮してしまいました……ジン君、その枝に自分の血をたらし、自然に力を貸してくれるように……そうですね、ジン君のイメージしやすいところで言えば、【
「はい」
俺はそのポレロさんの指示に従い、指先を少し噛んで血を流し、逆の手に持っていた枝にそっと血をたらす。
すると─
ー輝 光 枝 体ー
枝と俺の一体感がさらに増し、俺の蒼い魔力が緑色の魔力へとその色を変えていく。
俺はそれを自然に受け入れ、自身の力としつつも、枝を呪符に見立ててお伺いを立てる。
「ジン=ソウエンが……【
枝を天に掲げ、そう呼びかけると─
ー天 地 神 流ー
遥か彼方。
その力は俺の呼びかけに答え、その距離を、その存在を超えて俺の傍の古木より現れる。
ー【神 力 魔 導】ー
「?! っ~~~~~!」
❝『我は加護 自然の加護』❞
古木はその一瞬、その偉大なる樹木……【
❝『我等の愛しい御子に』❞
俺はその枝より注ぎ込まれた【
やがてそれが二の腕に留まり、輪状になると固形化して腕輪となり、その腕輪を残して輝きが俺の内部へとしみこんでいく。
❝『我等が力を与えるもの也』❞
ー【契 約 完 了】ー
俺の中の【魔力】と、腕輪から注がれる魔力が融和し、繋がるような感覚と共に……一時の幻想が目覚め、現実の世界が戻ってくる。
ー発 光 散 解ー
偉大な樹の姿が薄れ、元の古木の姿になり……それと同時に腕輪に文字が刻まれる。
そしてそこには何事もなかったかのように静まり返った大地と、【
唐突に注ぎ込まれた【
「……馬鹿な、そんな……まさか……枝としての触媒機能ではなく……【
本当に呆然とした表情で俺を見つめて呟くポレロさん。
(……力強いのに穏やかな力の流れ。……これが【
徐々に馴染んで自身の力となる、自然の力である【
純粋なその力の流れは、今は俺の中で魔力として存在するが……これはカイラが言っていた【流動】……魔力を気力に変換し、気力を魔力に変換するという、それの作用そのものだった。
今の一瞬で魔力の桁があがったかのように俺の力が増したのを感じ、これは今までの以上の修練が必要だなと苦笑しながらも、俺はどうにか力を修めることに成功した。
未だに体から湧き上がる魔力をもてあましながらも、ポレロさんにこれでいいのかを尋ねようと顔を向けると─
ー臣 下 拝 礼ー
ポレロさんが俺に片膝をついて胸に手をあて、頭を下げている姿が俺の目に飛び込んできたのだ。
「ちょ?! え?! 何?! 何事?! ど、どうしたんですか?! ポレロさん!」
意味が分からずパニックになり、思わずポレロさんに声をかける俺。
そんな俺に対し─
「ジンくん。いや……ジン=ソウエン殿。貴公は今の【
丁寧な口調でそう呼びかけるポレロさん。
その表情は真剣そのものであり、それが事実であることを告げていた。
(いや、いやいやいや、ただ得た力の大きさだけでそんな事を言われても……使い方がまだわかっていないっていう……それに……俺そういうの好きじゃないしな~……折角ポレロさんと仲良くなれたのに……)
俺は困惑した表情でポレロさんと見つめあい、この状況をどうしたらいいのかを考える。
……そして─
「あのポレロさん。それって辞退できませんか? 俺今まで通りがいいんですけど」
ポレロさんだったら素直に頭を下げてお願いすればいいという単純な結果が思い浮かび、俺はそれを実行して頭をさげてお願いをする。
「なっ……! ジンくん! 【
そんな俺の言葉に絶句し、まさに驚愕という顔で立ち上がり、俺の肩を掴むポレロさん。
「と……言われても……そんな肩書き、こんな歳でもらっても邪魔なだけですし、……何より周りの人に気を使われたりするの好きじゃないんですよね……。心配・優しさじゃなく、よそよそしくはれものを扱うように扱われるのは一番好きじゃありませんし……」
「し……しかし……」
俺のお願いに困惑し、その表情を曇らせるポレロさん。
しかし、今のは俺の嘘偽りない言葉である。
折角仲良くなったのに、ここでポレロさんに気を使われるようになってしまえば、オキトさんやフォウリィーさんにもきっとそんな態度を取られ、ギクシャクしてしまうに違いない。
「俺が守るべきなのは……名声や名じゃないんです。俺は自分の大好きな人たちを傍で守りたいんです。肩書きでも守れるかもしれないけど……それで離れる事になるなら、俺はそんなもの要りません。俺は俺としていたいんです。……こんな力をもってしまったからこそ、今は余計にそう思えるんですよ」
自分の思いを吐露し、ポレロさんに直接ぶつけて懇願する。
俺が、俺であるために。
「……ふふっ、そうですね。君はそうだった。うん。あるがままが君の一番なんでしたね。」
暫く考え込んだ後、ふっといつもの優しい笑顔を見せるポレロさん。
そう……カイラもポレロさんもフォウリィーさんもオキトさんも……そしてこれから出会う、まだ見ぬ親愛なる人々も。
俺は空の上から見守るのではなく、手が届く範囲で傍にいて守りたい。
そう思うからこそ、【
「……ああ……私はジン君が得た力の大きさに目がくらんでいたのですね……私としたことが……これでは【
その顔に苦笑を浮かべながら、俺の頭を撫でるポレロさん。
「えと……あのポレロさん? これで一応【
「ふふ、【
そういうと、誰かを思い出したのかふと目を閉じて悲しげな表情になるポレロさん。
人の魔力では届かない、人の魔力では成しえない、奇跡のような現象を起こすのが【神力魔導】。
それならば……その力を振るう時、自然の力というのはどのように集められるのだろうか。
(すこし……やってみよう)
俺が左腕につけられた腕輪に魔力を通すと、腕輪はその魔力を持って周囲の【
自身の魔力ではなく、他者の……【
それならば─
ー【神 力 魔 導】ー
俺が天に手を翳すと、俺のイメージを汲み取るように……周囲の【
黒く分厚い雲が、局所的に空を覆い、そして─
ー豪 雨 招 来ー
「っ! 天候操作……! なるほど、確かにこの森は少々乾いていましたからね」
自然に干渉するという事は、こういう事も出来るという事であり、自身の魔力もほとんど使わずに、雨を降らせるという奇跡的な事が出来た事に驚きを隠せなかったが─
ー軋 轢 世 界ー
その瞬間、まるで世界が悲鳴を上げるかのような音が俺の頭の中に響き渡り、腕輪を通して遠くのイメージが俺の頭の中に流れ込んでくる。
それは─
今まさに雨が降ろうとしていた乾いた土地で、急激に天候が変化し、晴れ渡る空になるイメージだった。
「?!」
ー雲 散 霧 消ー
咄嗟に頭上の雲を打ち消し、先ほどのイメージに浮かんだ部分に返却するように、今度は自身の魔力を用いて【神力魔導】を行使する。
一気に膨大な魔力が持っていかれる感覚にふらっとくるのと同時に、イメージ先で消えた雲が再び現れ、やがてその雲が雨を降らせ……大地に降り注いでいく。
(…………今のイメージは、【
「? どうしました? ジン君……大丈夫ですか? 顔が真っ青ですが……」
「あ、いえ……急に魔力を使ったからちょっとふらっときちゃって」
「魔力を? 周囲から【
「いえ……なれてないからですかね。あはは……」
それはいけません、と俺の前で屈んで俺を背負うポレロさん。
すいません、とポレロさんの好意に甘んじる中……俺は先ほどの現象について考え込む。
(【
使ってみて初めて分かったこの力に、俺は内心絶句する。
つまりこの意味は……風上の雨、風下の日照りのようなものだろう。
水が少ないと強引に雨を降らせるために、周囲の雨雲を集め、その部分だけ雨が降る。
しかしながら、強引に集められたその雨雲はそもそも周囲に振るはずだった雨雲であり……当然、雨を奪われたその土地は干上がる。
そういう事だろう。
要するに、この【神力魔導】という魔導は、自然の流れを強制的に借り入れて使用される力であり、その借り入れ先では自然のバランスが大きく崩れるという、自然の流れに歪みをもたらす魔導だったのだ。
(ならば……先ほど俺の中に流れてきた遠くのイメージというのは、【
【
それに……【
「大丈夫ですよジン君。 そろそろフォウリィーが起きられるはずです。きっとおいしい昼食を用意してまってくれていますよ。それを食べて元気を出しましょう」
「は、はい」
心配そうに背中越しに覗き込むポレロさんに心配をかけまいと笑顔を見せつつ、恐らくはこの世界の【
(使うにしても、自身の魔力か……仮に使用するとしても、自身の周囲に歪みが来るように調節しないとダメだなこれは……)
見えてきた家を見て安堵感を得ながら、俺は自身の考えに没頭する。
ふと、俺の目に留まった、【世界樹】の腕輪は……俺の考えに同意するかのように輝いて見せたのだった。
「ふあああっと。いけません。まだまだですね」
そんな深刻な考えを他所に、張っていた気が緩んだのかあくびをして眠そうにするポレロさん。
「…………ふふっ」
ふと……俺の張っていた気も緩み……思わず笑みがこぼれる。
(なるほど……オールナイトだったんですね、わかります)
今までの重い空気が俺の中で霧散し、そんな考えが頭をよぎる。
俺は苦笑を浮かべながらじ~っとポレロさんの顔を見つめていると……。
ん? と俺のほうを振り向いたポレロさんが、俺の視線を見て咄嗟に目を逸らす。
そうして家にたどり着き、玄関の戸をあけた瞬間─
「あ、お帰り……って、どうしたのジン?! 大丈夫?!」
「ええ、問題ありませんよ。すでに……【
「ただいま~フォウリィーさん!」
【
(力持つものの意味を知れ、力の意味を知れ……か、そうだな。力は力でしかない。それは使う人次第なのだから)
俺はその覚悟を決め、想いを固めて二人に笑顔を向ける。
「そっか……やったわねジン! さ、お昼にしましょ?」
「ええ、おいしいものを食べてゆっくりしましょうね? ジン君」
「はい!」
二人が俺の手をとり、まるで親子のようにキッチンへと向かって行く。
(そうだ……この、何より大切な繋がりを守るために。俺は心も身体もさらに強くならなきゃいけないんだ……!)
力に振り回されないようにとそう心に誓い、俺はテーブルへつく。
「正直、【
「あら、またなの? ふふ、あいかわらずねぇジンは。そうね……最近は駆け足気味だったし……久しぶりに3人ゆっくりすごしましょっか」
食事が始まり、和気藹々と3人で笑いあいながら、時は過ぎていく。
「さあ、今日は3人でお風呂にはいるわよ~!」
「いいですね。また背中流してくださいね? ジンくん」
そして……どんなに力をもっても俺のこのポジションは変わる事はないのだろうか、と……小さい我が身にうなだれながら。
『ステータス更新。現在の状況を表示します』
登録名【蒼焔 刃】
生年月日 6月1日(前世標準時間)
年齢 7歳
種族 人間?
性別 男
身長 122cm
体重 30kg
【師匠】
カイラ=ル=ルカ
フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザー
ワークス=F=ポレロ New
【基本能力】
筋力 BB
耐久力 B
速力 BBB
知力 AAA+ ⇒S New
精神力 A- ⇒S New
魔力 AA ⇒SS+ 【世界樹の御子】補正 New
気力 B ⇒B+ New
幸運 B
魅力 S+ 【男の娘】補正
【固有スキル】
解析眼 S
無限の書庫 EX
進化細胞 A+
【知識系スキル】
現代知識 C
サバイバル A ⇒S New
薬草知識 A ⇒S New
食材知識 A ⇒S New
植物知識 S New
動物知識 S New
水生物知識 S New
罠知識 A
狩人知識 A-⇒S New
応急処置 A
地理知識 B-⇒S New
医療知識 A+ New
人体構造 S New
【運動系スキル】
水泳 A
【探索系スキル】
気配感知 A
気配遮断 A
罠感知 A-
足跡捜索 A
【作成系スキル】
料理 A+
精肉処理 A
家事全般 A
皮加工 A
骨加工 A
木材加工 B
罠作成 B
薬草調合 A⇒S New
呪符作成 S
ガーデニング S New
植物栽培 S New
【操作系スキル】 New ※分類分けしました。
魔力操作 A+⇒S New
気力操作 A ⇒AA New
流動変換 C New (魔力を気力に、気力を魔力に操作する能力。【
【戦闘系スキル】
格闘 A-
弓 S 【正射必中】(射撃に補正)
リキトア流皇牙王殺法 A+
【魔術系スキル】
呪符魔術士 S
魔導士 D⇒EX New (【世界樹】との契約にてEX・【神力魔導】の真実を知る)
【補正系スキル】
男の娘 S (魅力に補正)
正射必中 S (射撃に補正)
世界樹の御子 S (魔力に補正) New
【特殊称号】
真名【ルーナ】 【
自分で呪符を作成する過程における【魔力文字】を形どる為のキーワード。
【ランク説明】
超人 EX⇒EXD⇒EXT⇒EXS
達人 S⇒SS⇒SSS⇒EX-
最優 A⇒AA⇒AAA⇒S-
優秀 B⇒BB⇒BBB⇒A-
普通 C⇒CC⇒CCC⇒B-
やや劣る D⇒DD⇒DDD⇒C-
劣る E⇒EE⇒EEE⇒D-
悪い F⇒FF⇒FFF⇒E-
※+はランク×1.25補正、-はランク×0.75補正
【所持品】
呪符作成道具一式
白紙呪符
自作呪符
蒼焔呪符
お手製弓矢一式
世界樹の腕輪 New
衣服一式
簡易調理器具一式
調合道具一式
薬草一式
皮素材
骨素材
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【呪符・蒼焔】のその後、呪符複数作成の指南。
【魔導士】の獲得と、その真実。
という内容になっています。
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