No.408869

<短編>Infinite・S・Vestige 1

izumikaitoさん

十年前、ひとりの科学者――少女によって生み出された宇宙進出のためのマルチスーツ、その名も「インフィニット・ストラトス」。通称ISが生まれてから数年後、ひとりの少年の運命をそれが変える。傷を背負いながらもISによって運命を変えられた少年がひとつの舞台に立つ。少年の見出す未来とは一体……

2012-04-15 13:26:53 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:758   閲覧ユーザー数:746

 

 今から十年ほど前に世界に向けてセンセーショナルな登場で注目を集めた存在がある。それの名前は「インフィニット・ストラトス」。通称「IS<アイエス>」と呼ばれるものだ。

 それを開発したのは当時中学生といわれる少女、「篠ノ之束<しののたばね>」だった。彼女が生み出した最初のISである「白騎士」。それが始めて登場したのは世界十数カ国の軍事システムに何者かがハッキングによってミサイル発進システムを暴走させられ日本に向けて二千発以上のミサイルが放たれたのだ。

 それらが日本に着弾することはなかった。

 それは普通から見れば奇跡でしかない。それを可能にしたのがISであり、「白騎士」であった。ほとんどのミサイルは日本本土に向かうよりも前に海に着水したようであるがそれ以外のミサイルはまさに日本に着弾する予定だった。

 ほとんど迎撃は間に合わない。その日、日本が終了するはずだった。

しかしそれを「白騎士」が覆したのだ。たった一本の刀剣だけで凄まじいスピードでそのミサイルが着弾するよりも前に全て切り捨てて見せたのだ。

 それだけではない。当然未確認であるために「白騎士」を捕獲するために上位の国家から送られてきた軍の戦闘機や戦艦を次々と落としていったのだ。その中で死者は奇跡ともいえるのか、それとも「白騎士」に殺す気はなかったのかゼロだった。

 それから世界各国に対して篠ノ之束が生み出した四百六十七個のISのコアが送られたのだ。

その時から当然のように各国はその時の現代兵器をも凌駕する力を見せ付けたISの研究に躍起になり始めた。各国の思惑は、いずれ来るかもしれない大きな戦争の軍事力のために強力なISを生み出すということだった。

 しかし数は僅かな数しかなく、一国に多くて三つまでというくらいだった。そのためにISのコアを解析する事ができればいくらでも絶大な力を得ることができると考えた。しかしそれを解析することはその時の技術では不可能だったのだ。それは十年ほど経った今でもまったく進展は見せていない。

そのために国際連合のように発足した世界IS協会はISの生みの親である「篠ノ之束」を重要人物として補足するように世界各国に通達したのだ。

 そんな世界の注目の的となったIS。それを研究する者たちは多くいた。少年の両親もそうだった。

 少年が幼い頃、両親はほとんど構ってくれなかった。アパートには滅多におらず、ほとんどはそこから少し離れた研究所に入り浸っていた。もともと人付き合いが得意ではなかった方であるために、少年にはほとんど友達はいなかった。

 いつもひとり家で遊ぶしかできなかった。食事はいつもお金を手渡され、それで近くのコンビニで購入するだけ。妹と二人虚しく箸をつつくだけしかできなかった。

 数年が経ち、「世界大会モンドグロッソ」などというものまで行われるまでになったISというもの。どう見てもスポーツというくくりには入らないものであろうに、世界IS協会はアラスカ条約というものによってISの軍事使用を禁止していた。それがISの性能に対する危惧というものなのかもしれない。

 各国は自分たちの国の地位向上のために総力を上げて選手とISの強化に国力を注ぐようになった。

 日本の研究者たちもまた日本のためということで研究に熱が入っていた。少年の両親もそうであり、前に比べてほとんど会話も無くなった。挨拶すらも碌にしていない。偶に会うくらいで、ほとんど一言二言で済ませてしまう。

 そんな両親の研究所では第一世代に変わる第二世代のISの研究が進められていた。そんなある日だった。偶々両親の誘いで研究所に妹と二人で来ていた時の事だった。少年がこの研究所に入るのは初めてだ。知らない白衣を着ている男女が慌しく仕事をしているのが見えた。

 何故こんな鉄屑のために一生懸命になっているのか。その時の少年にとっては家族を奪ったものであるとしかISを認識していなかった。それはあまりにも子どもじみた考えであるが、寂しかったあの時には仕方の無いことかもしれない。

 迷惑を掛けたくないという、きっといつかは二人が自分を見てくれると思ってずっと我慢していたのだ。

しかし二人が見ているのはISという鉄屑。むしろISの方が我が子のような眼差しで見ている二人を見て少年は嫉妬を覚えた。何で意志を持たないお前が両親に愛されて、自分は愛されないのか。二人が目を離した時、少年は憎悪のこもった視線でISを見つめていた。

そして終に稼動実験が行われることになった。

 そこに呼ばれたのはひとりの代表候補生だった。各研究所ではここと同じように稼動実験などを行っているためにひとりしかいない国家代表に比べそれの何倍もいるとも言える代表候補生がテストパイロットとして呼ばれるのが良くあることだった。とはいえ代表候補生の中でもやや底辺にいる者たちである。実力の高い者たちは自分たちの訓練というものがあるためにそうやって国家代表にはやや遠い者たちが選ばれるのだ。

テストパイロットがそれ乗り込んだ。第二世代特有の後付けによって多彩な場面に対応できるということもあり背面にある取り付けの箇所にバックパックが装着された。

機動力を上げるためであろうか、四基あるランドセル型のバーニアブースタが装備され、両腰には二本のプラズマサーベルが納められている。両手にはレーザーガンとシールドが装備された。装甲は四肢が白色、胸部が黒色という配色である。

 そしていよいよ稼動実権が開始された。

 始めは順調だった。少年から見ても、テレビで見るロボットアニメのようにパイロットが確実にターゲットを銃や切り替えてのプラズマサーベルによって破壊していく。

 機動力が高いためか反撃してくるターゲットの攻撃を確実に避け、シールドで防御している。

 広い訓練所を命一杯使用し、機動力を生かして相手を翻弄する。

 そんな様子を少年は一瞬だけ憧れを抱く。自由に飛び回る姿を一瞬ではあるが望んでしまったのだ。こうも狭く閉じられた世界から救ってくれるのではないかと。

 だがすぐにそんな望みを捨て、そう一瞬でも考えてしまった自分を嫌悪した。あれは自分から両親を奪った存在なのだと。自分をこんな狭い世界に閉じ込めた憎き存在なのだと。

 相変わらず素晴らしい、想定以上の成果を見せているそれを見て研究者たちは、そして少年の両親は歓喜の声を上げていた。

 いよいよ実験も終盤に差し掛かっていた。

 そんな順調に行っていた稼動実験であるが、突然慌しくなるのが少年の耳に入ってきた。訓練所を見ると素晴らしい動きを見せていたISがまさに暴走とも取れる動きをしていたのだ。搭乗している女性は完全に振り回されている状態でどうすればいいのか分からないというように表情には困惑の色が濃く見られた。

 両親をはじめとする研究者たちはその暴走を止めようと外部からシステムを止めるために動いていた。そして突然そのISが登場していた女性を無理やりに弾き出したのだ。高高度にいた女性。唖然とした表情のまま数秒間滞空し、そのまま重力という魔の手に捕まり地面に叩きつけられた。

 グシャリという肉が潰れる音が耳に入ってきた。プレスで潰されたように、彼女はもはやヒトカタの形を留めていなかった。血の海とも取れるそれの中に溺れて死亡していたのだ。

稼動実験は急遽中止されたはず。しかしそのISは無人でありながらまるで人間が操縦しているようにターゲットを慈悲も無く蹂躙していく。そしてゆっくりとそのカメラがこちらの管制室に向けられたのだ。ギラリと光るその光は確実にここにいる者たちを捉えていた。そして次の瞬間、こちらに向けてレーザーガンの銃口を向けると躊躇いも無くトリガーを引いてきたのだ。

 当然のように透明な強化ガラスに徐々に皹が入っていきついには管制室に銃弾が飛び込んできた。少年はそこに響き渡る阿鼻叫喚を聞きながら管制室の隅に避難する。少年の両親も我が身可愛さに息子を放って管制室から逃げ出そうとする。この管制室には今日の稼動実験のために全ての研究者たちが集まっていた。一応広いスペースはあるのだが、我先に飛び出そうとすれば当然のように入り口付近は狭くなる。十分に出られるスペースもギュウギュウ詰めになってしまい誰ひとり逃げ出すことができていなかった。

 そんな管制室の強化ガラスを割り、中に入ってきたIS。逃げようとしていた者たちに対して次々と悪魔の爪を付きたてるようにしてレーザーガンを撃ち込んでいく。血しぶきが舞い、白く清潔な壁に覆われていた研究所が赤い部屋へと数秒で変貌していく。恐ろしい銃声が少年の耳に入ってくる。ただただ怯えているしかできない。

 ただ恐怖から泣き始めてしまった妹を抱きしめるしかできない。胸にその妹を抱き寄せ、肩越しに今後ろで起きている惨状を見つめるしかできない。

 腰から抜き取られた柄から飛び出すプラズマサーベルで研究者たちを焼ききっていく。肉は焼かれ地は蒸発する。一瞬の痛みで者たちは地に伏していく。

 その中には少年の両親の姿もあった。研究において主任であった彼らが肉塊と化した中にただ呆然として立っている。返り血を浴びたために白衣はすっかり赤く染まってしまい、二人の表情には恐怖しかない。

 何故自分たちのISが暴走したのか。まるで暴力を振るう我が子に怯えているような視線を向ける。突然伸ばされたISの腕が両親の首を掴む。ギリギリと絞められているために二人の口からは苦悶の声が漏れる。

 

「やめろ! 父さんと母さんを殺さないでくれ!」

「お前……」

「に、逃げなさい!」

 

 妹を抱きしめている少年の叫びに気付いた二人が叫ぶ。今まで構ってあげられなかった自分たちの息子と娘がそこにいた。この実験が成功すれば自分たちには莫大なお金が入ってくる。そうすればずっと悲しい思いをさせてきた二人にいろいろとしてやれる。

 そういう思いを抱きながら二人は今まで研究に没頭していた。決して二人のことを自分たちの子どもではないなどとは考えていなかった。

 一分一秒でも早く家族になりたかったから。だからできるだけ早く完成させたかった。

 なのに――どうして。

少年には何もできない。ただ見ているしかできない。両親が殺されかかっているというのに。こんなにも助けたいと願っているのに少年のこの細い体では何をすることもできない。赤子の手を捻るかのように目の前のISに殺されるのがオチだろう。

ISの手が母親に伸ばされる。こちらに視線を向けていたために母親は逃げることができなかった。

 母親の方が事切れた。涙や、鼻水、涎を垂らし、ISが手を離すとばたりと崩れ落ちる。

 そして父親も同じように事切れた。ばたりと様々な液体が混ざりあったものの中に沈む。

 ゆっくりとISが少年の方に向いた。

 殺される――ただそう思う。

しかしもう何も抵抗する気は起きなかった。

ゆっくりと腕が伸ばされる。自分も両親と同じように殺されるのだろうかと思う。顔を汚し、汚い姿となって血の海に沈むのかと。

 だが次の瞬間少年は目を疑った。ISが手を差し伸べるようにしていたのだ。まるで暗い牢獄に閉じ込められていた少年を救う救世主のように。

 両親はいないも同然の生活。小さい頃からほとんど人と接することがなかったためにどうやって輪の中に入っていけばいいのか分からなかった。だから同い年の友だちなどひとりもおらずずっと家の中でひとり遊んでいた。

 そこはまるで牢獄だった。

術を知らない少年にはどうすることもできなかったのだ。

 しかしそんな少年を救うようにしてISは手を差し伸べてきた。その手を掴めば自分は自由になれるのか。まるでISは少年の意志を尊重するように黙っている。掴まずに殺してくれと言うこともできた。

 目の前のISは両親を殺した張本人だというのに――少年はゆっくりと手を伸ばし、自由を掴み取った。

 そして時は流れ、少年――紅月飛鳥はIS学園のアリーナに立っている。目の前には飛鳥が起動させているISと同じ第二世代のISを起動させたIS学園の女教師が立っている。

 何故女性にしか扱えないISを彼が起動させられるのか、それは分からない。

 あの時ISに触れた時抱いていたのはそれに対する怒りと自分に対する無力感、そして憧れだった。

 両親を殺したということに対する怒り。

 それを守れなかったという自分に対する無力感。

 そして圧倒的な強さを見せるISという兵器としての力。敵とするものを圧倒的な力で蹂躙するその力強さ。子どもみたく誰かを守りたいなどという願望を抱いていたあの頃。その力を痛く見せつけられた飛鳥。

 あの時の後悔は今も忘れていない。

 その思いがISを起動させたのだろうか。そんな風に考えていると飛鳥を現実に戻す声が聞こえて来る。二人の戦闘を審判する女性の声だった。

 確か名前は――織斑千冬だっただろうか。

しかし彼女が世界最強だとかは今は関係ない。視線の先で銃火器を構えている女教師に飛鳥はその手に構えられている近接ブレードを両手でしっかりと握り締める。

 

「それでは試験……開始!」

 

 千冬の開始の合図と同時に装着時に流れ込んできた情報どおりにスラスターを吹かせて飛び出す。

 女教師が向けたライフルから銃弾が無数に放たれ、飛鳥に襲いかかる。それをISのマニュアルの力も借りて回避するように動く。数発の弾丸が装甲を捕らえ、エネルギーを削った。

 小さく舌打ちを零しながらも近接ブレードを握りなおし、一気に間合いを詰める。

 気合の入った叫び声を上げる。しっかりとその紅玉のような瞳は相手を捉えて離さない。

 この先にどんな運命が待ち受けているのかは分からない。それでも傷だらけの戦士は前に進んでいくだろう。

 そう――どんな試練が待ち受けていようとも。

 

 
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