No.408815

第1話 幸せの時間 - 機動戦士ガンダムOO × FSS

ジョーカー太陽星団に突如出現した一隻の宇宙船と巨大人型兵器。それは遙か遠い銀河からやってきたソレスタルビーイングのMS支援艦トレミーとELSダブルオークアンタであった。
西暦2365年、地球。ELSとの対話を終えて地球に帰還した刹那はマリナは、わずかな時間であったが幸せな生活を送ることができた。しかし、突如魔界から現れたサタン達によって刹那とマリナ、そしてELSダブルオークアンタは絶体絶命のピンチに陥ってしまう。サタンの目的とは?西暦の地球に現れたログナーの目的とは?

この物語はクロスですが、基本的にオリジナル展開です。原作にない設定や人物も登場します。ただし、星団歴の改編に繋がらないように頑張っていきたいと思います。

2012-04-15 11:02:55 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:4017   閲覧ユーザー数:3920

第1話 幸せの時間 - 機動戦士ガンダムOO × FSS

 私はあの時の夢を見ていた。

 

 極東を歴訪のさなか、私と親友がはじめてアレ(・・)と遭遇した時のことだ。

 私はアレ(・・)の存在について以前から聞かされて知ってはいた。だけど、この目で見るまでは半信半疑だった。私の中の彼女の言うとおり、確かにアレ(・・)は実在したのだ。

 

 恐ろしいあの姿格好は何十年たった今でも忘れる事ができない。アレ(・・)の目的は私達を殺すこと。しかし、私の中の彼女が契約したという騎士(・・)が私達を助けてくれた。彼と彼のガンダムとは違う、恐るべき力を持った騎士(・・)だと彼女は私に教えてくれた。

 

 思い起こせば、その時から私は意識的に彼に秘密を抱えはじめたのかもしれない。だが、もう間もなく私の肉体は寿命を迎え、私の魂は天に召されるだろう。このまま、このまま何事もなければ、彼をこの呪われた戦いに巻き込まずに済むはず。

 だからもう彼に私の秘密を話す必要はない。幼い頃から戦いに明け暮れた彼。もう争いから離れて新しい女性(ひと)でも見つけて幸せになって欲しい。それが今の私の願い。

 

――それは本当に貴女の本心なのかしら? 紅い瞳の女性が私に問いかける。

 

それは……。

西暦2365年、地球。アザディスタン王国某所。

 王国の中心部から離れた一軒家に、ある老婆と青年が暮らしていた。

 早朝、青年は寝室へ通じるドアを数回叩くと、静かにドアを開けた。

 

「おはよう、マリナ。今日の朝の目覚めはどうだ? ひとりで起き上がる事は出来るか?」

 

 この一軒家には長らく女主人である老婆しか住んでいなかったが、1年前からこの青年も一緒に住むようになった。長らく女主人の知人が週に数回は食料や生活必需品を届けに来る程度しか来訪者はいなかったのだが、1年前に女主人のもとを訪れたこの青年が一緒に住み始めたのだ。

 このことが女主人の知人が知った時、軽い騒ぎになるところだったが、幸いにも女主人からの説得と、女主人の親友からの強い推薦もあり、こうして女主人の世話をこの青年にお願いする事に決まったわけである。

 

 この館の女主人とは表舞台から姿を消し、こうして隠居の身となった元アザディスタン王国皇女マリナ・イスマイールその人である。アザディスタン復興後、表舞台から姿を消したマリナ・イスマイールはアザディスタン王国の某所にある別荘で隠居生活をおくっていた。荒廃したアザディス タンを奇跡的に復興させ、かつては世間から聖女と言われ時の人ともなったマリナ・イスマイールではあったが、隠居後はマリナの元を訪れる人は少ない。

 反アロウズ組織、カタロンの元に身を寄せていた時に世話をしていたかつての子供達か前述の外部の人間、アザディスタン王宮の人間位とマリナの極一部の友人知人しかいなかった。

 

「ふぁ……おはよう、刹那。今日は調子が良いみたい。ひとりで起きあがるから、刹那は見ていて。」

 

 青年の名前は刹那・F・セイエイ。ソレスタルビーイングのガンダムマイスターである。

 51年前、外宇宙より来襲したELS(Extraterrestrial Livingmetal Shapeshifter)「地球外変異性金属体」の地球侵攻を食い止めるため、彼は仲間であるティエリア・アーデと彼の乗機であるGNT-0000 ダブルオークアンタを駆ってELS本星へと対話の旅に出かけたのだ。

 そして去年、50年の歳月をかけて自らもELSと融合する事により対話を達成させ、長き渡る対話の旅から戻って来たのだ。そして、ここアザディスタン王国で隠居の身となったマリナ・イスマイールと再会したのだ。

 

 あの日以来、刹那は年老いて光を失っていたマリナに寄り添っていた。いや、正確に言うと刹那ともう一人、いや一機と言った方が良いのだろうか? 刹那と共に対話の旅から帰還したダブルオークアンタもマリナのもとにいた。ELSとの対話の道中、様々な世界の技術・生物と融合したダブルオークアンタである。

 刹那とダブルオークアンタが今のマリナの唯一のロイヤルガードである。

 隠居した今、マリナの命を狙うような暗殺者は居ないだろうが、もしも「そのような事態になっても」刹那とダブルオークアンタはマリナを守りきるだろう。

 

 一軒家の朝の寝室に話を戻そう。先に起きて朝食の支度を終えたエプロンを身につけたままの刹那がマリナを起こしに来たのである。もっともマリナも、マリナに気を使って毎日こっそり起きる刹那に合わせて一度は起きているのだが、刹那がそれを知っているのかはわからない。

 

 刹那が寝室に入ると今まさにマリナが起き上がるところだった。マリナがベットに取り付けられた手摺りを探そうと手を動かすと、ベットに半分埋め込まれた 赤い球体がグルグル回り出して、ベットの手摺りがせり上がり、手摺りの方がマリナの手に近づいていく。マリナは自動追尾してくる手摺りに捉まると弱々しくも立ち上がろうとする。

 

 刹那はマリナを信用しているが、体が万が一を考えマリナの前に先回りをしていつでも支えられるように素早く体勢を整える。しかし、

 

「刹那、今日は大丈夫よ。」

 

 そんな刹那の気配を察してマリナが釘を差す。

 人間は光を失うと別の感覚が研ぎ澄まさるというが、イノベイターである刹那の動きを気配で感じ取るとはマリナとは何者だろうか。マリナは刹那の気配を察したのではない。刹那なら必ず支えようとするだろうと思っていたからだ。それは何故か。そんな野暮な事で字数を割くのは勿体ないので割愛させていただく。

 マリナはついにベットから立ち上がり一歩目を踏み出す。二歩、三歩とマリナの歩みは続く。

 

 刹那は内心ハラハラしながらもマリナの歩みを見守る。そんな刹那の心情を刹那に融合したELSも共有している事をマリナは知らない。

 

「確かに今日は調子が良いようだな。」

「フフ、ありがとう刹那。」

 

 刹那はマリナの手をとり寝室の一角に設けられているドレッサーの前に誘導すると、ベッドに埋め込まれていた球体が自発的に外れてこちらに転がって来た。

 

「マリナ、着替えが終わったら教えてくれ。ハロ、マリナのサポートを頼む。」

「マカサレタ、マカサレタ、マリナ、キガエテツダウ」

「ハロ、今日もお願いしますね。」

 

 球体の正体はソレスタルビーイングでサポートメカとして使用していたハロである。

先ほどのマリナのベッドに半分埋め込まれていたのもマリナをサポートするためだ。マリナの生活用品の一部にはこうしたハロによるサポートが行われる製品が使用されている。

 

 刹那はマリナに着替えを手渡すと寝室から一旦退室する。年老いたとはいえマリナも女性である。刹那らしい気の使い方であったが、当のマリナとして刹那の優しさに感謝する一方、本音では刹那に甘えたいという気持ちも少なからずあったりするのだが……。

 そんなマリナの気持ちを刹那が知らないのかは定かではないが、寝室の扉の外では両目を輝かせ脳量子波による通信を行っていた。通信先は別荘外のダブルオークアンタである。

 

「今朝のマリナの状態をデータ送信してくれ。」

 

 これはハロがマリナの健康状態をモニタリングしており、ダブルオークアンタ経由でモニタリング結果を別の場所にデータ送信しているのだ。このデータ送信は毎朝の日課で、健康状態のモニタリングもデータ送信もマリナも承知済みである。するとデータ送信完了後に今度はダブルオークアンタ経由で刹那の元に通信が入る。

 

「おはよう、刹那。今日もマリナさんの健康状態は変わっていないわ。」

 

 ダブルオークアンタを経由する理由は通信傍受を防ぐためと、ソレスタルビーイングの仲間同士での通信の為である。

 そう、通信の相手というのは……

 

「おはよう、フェルト。そうか。」

 

 フェルト・グレイス。ソレスタルビーイング、宇宙航行船プトレマイオスの元オペレーターである。

 刹那がELSとの対話のために地球を去ったELS戦後、アザディスタン王国復興に奔走するマリナを影からささえていたのだった。ソレスタル・ビーイング解散後は、時々マリナの元を訪れ精神面・健康面の両方を支えている。マリナとフェルトは刹那に対しては、それぞれ想う気持ちがあったが今ではこうして交流があるのだ。

 

「それでも、以前診てみた時よりも進行はゆっくりにはなっているわ。」

 

 ゲリラの少年兵として、ソレスタルビーイングのガンダムマイスターとして世界に変革をもたらすために多くの命のやりとりをしてきた刹那でも、フェルトからの返信にやりきれない気持ちになる。

 

「私もそちらに伺う予定だから、その時に詳しく診察するわ。」

「わかった。ありがとう。」

「ああ、刹那。それとダブルオークアンタも診察の対象だ、そうです。」

「うん? それはどいう」

 

「刹那、着替えが終わりました。」

 

 刹那がフェルトに問いただそうとしたとき寝室から刹那を呼ぶ声明るい声が聞こえた。それはフェルトにも聞こえるほどであった。

 

「マリナさんが呼んでいるわよ。迎えに行ってらっしゃい。」

「キガエオワッタ、セツナ、ムカイニコイ、ムカイニコイ」

「また後で詳しい話を聞かせてくれ。」

「それではまたね。」

 

 刹那はフェルトとの通信を切り上げると寝室の中のマリナを向かいに行った。

 

(刹那、ただの人間である私達は貴方と一緒に居られる時間はそう長くはないのよ。貴方それをわかって?)

 

 通信が切れた後、フェルトは目を伏せながら独語していた。

 

 刹那は着替えを終えたマリナを鏡台の前に座らせるとマリナを髪を梳かし始める。レディの身だしなみは大切なのである。

 どこでそんな気配りや技術? を身につけたのか? 察しの通り、フェルト達元ソレスタルビーイングの女性陣である。刹那にレディと対話の方法を頑張って教え込んだのだ。それでも、現在のダブルオークアンタのメインメカニックの女史曰く赤点ギリギリだという。

 

 刹那はマリナの手を取りながら食卓にエスコートする。その様子をかつての仲間が見たら「刹那、お前は本当に変わったなぁ」と冷やかしの対象になる位、エスコートは板につていた。

 食卓には朝食のトーストにハムエッグ、コーヒー・ミルクが並べられている。刹那がガンダムマイスター時代に教育された最低限の調理技術から用意できる朝食のレパートリーは決して多くはないがそれでもマリナの口に合うように調理されていた。手の込んだ食事はマリナ指示の元「作成」することも出来るが、朝食は刹那単独で行うのでだいたいが簡単である。

 

 朝食が進むとマリナの方から刹那に話しかけてきた。

 

「刹那、私はもう良いから、私の分も食べて。」

「いや、駄目だ。きちんと食べないと力がつかないぞ。」

「もう、それなら刹那が食べさせて?」

「それは・・・尚更駄目だ。自分で出来ることは自分でする。」

 

 端から見ると仲の良い祖母と孫のやりとりに見えるが実体は老夫婦である。二人とも夫婦の自覚はないのがポイントである。そんないつもの朝食の光景が繰り広げられていた。

 朝食を片付け終えると、一日の日課のはじまりである。

 とはいえ、隠居後は特に日課というものもないが、刹那が地球に帰還してからというもの、マリナを外に連れ出す機会が多くなった。場合によってはマリナの気分転換にと「ちょっと遠くに」連れ出したりもしていた。

 

 今日のスケジュールはお弁当を持ってマリナと共に家の周りの散策、場合によっては「少しだけ」足を伸ばす予定である。ダブルオークアンタで「ちょっと遠くに少しだけ」といえば大凡どれくらいの距離か予想できるだろうか。

 

 一軒家から歩いて10分の道のり。そこはかつて荒廃し多くの人間の血が流されたが、アザディスタン復興の証のように今では様々な花々が咲き乱れてる。

 マリナの新たな光となった刹那は、彼女の手を取りながら花々のなかを歩いていた。

 

「少しペースを落とそうか?」

「いえ、これくらいでないとリハビリにはなりません。」

「そうか、もう少しで座れる所に着くから、頑張れ。」

 

 やはり、ここでも刹那はマリナに気を遣いながらエスコートする。「座れるところ」に案内すると、マリナが甘えたように両腕を刹那に突き出す。刹那はやや困ったそぶりを見せるがマリナの上半身を優しく抱きかかえる。

 

「ゆっくり腰をおろせ、そう、そうだ。」

 

 刹那はマリナの上半身を抱きかかえながらマリナを「座れるところ」に座らせる。

 

「今日はペースが早かったから少し疲れただろう? 大丈夫か。」

「大丈夫です。フフ、本当に刹那は心配性ですね。」

 

 マリナは刹那が居るだろう方向に顔を向けると微笑んだ。――本当にあなたは、という顔をしているのがわかる。刹那もマリナの隣に腰をおろすと、咲き乱れる花々を楽しむ事にした。

 

「光を失っていても、花々が咲き乱れている様子がよくわかります。」

 

 ここはマリナにとっても刹那にとってもこの場所はお気に入りの場所であった。

 

 するとグワッと刹那とマリナが腰をおろした部分が急に動き始め、大地から離れた。マリナは「彼が」そうすることを予測はしていたが、つい反射的に刹那の手を握ってしまうのであった。

 二人が腰をおろした場所、それはダブルオークアンタの掌だった。花々を楽しんでいたのは刹那とマリナだけではなかったのだ。彼、と言って良いのかわからないがダブルオークアンタに同化しているELSの事だ。

 

「今日は貴方もご機嫌なのかしら?」

 

 マリナはもう片方の掌で、ダブルオークアンタのマニピュレーターを優しく撫でる。本来、MSのマニピュレーターに人間が撫でた程度の感触を感じ取れる性能はないのだが、まるでマリナの問いかけに答えるように一瞬だけダブルオークアンタのツインアイが点滅する。

 

「そうかもしれない、な。」

 

 地上から数メートル浮かんだ場所で掌の昇降がとまる。ダブルオークアンタの装甲表面は花々に同化しており周りの風景にとけ込んでいたのだ。

 ただ、遠くから見たら花模様の巨人の掌に座っているシュールで不思議な光景であった。

 

「刹那、今日はこの間の話の続きをお願いできないかしら。」

「……マリナ、この前の続きというと……宇宙を旅する少年と女性の話だったか? どこまで話をしたのか忘れてしまったな。」

「あら、それは私の記憶力を試しているのかしら? 貴方たちが、宇宙で出会った40人の海賊達と……。」

 

 マリナと刹那の会話にも花が咲く。そんな二人の様子をダブルオークアンタとELSが観察している。

 

 心地よい風が二人の間を駆け抜けていった。

 刹那とマリナがアザディスタンでの一時の幸せにひたっている頃、別の場所では「ある事態」に対応するため着々と準備が進められていた。

 ここでは、決して少なくない数のオペレーターがコンソールを叩きながら自席に設置された中空モニターと中央天井部に設置された大型モニターを交互に睨んでいる。モニターには地球連邦軍の宇宙艦隊およびMS部隊の展開図が表示されており、その中にはヴェーダによって厳重に管理されているはずの情報も多数含まれていた。まるで、ここは何かの管制室であった。しかし、ここは地球連邦軍の管制室ではない事だけは間違いなかった。

 

「司令、クリサリス公より入電。間もなく作戦空域に到着するとの事です。」

 

 管制室前方席に座るオペレーターの一人が振り返ると管制室後方に陣取る長身の「司令」と呼ばれる男に報告する。

 オペレーターの報告が終わると同時に天井中央の大型モニターに作戦空域周辺の地球連邦軍の宇宙艦隊が表示された。その軍勢の隙間をぬうように巧妙に赤い矢印が突き進んでいた。

 

「うむ、予定通りだな。作戦空域到着後はそのまま周辺を哨戒。くれぐれも連邦軍にはみつかるな、と伝えろ。」

「了解しました。」

 

 オペレーターはすぐに指示を伝えるため再び自席のコンソールを叩くと通信を入れはじめた。どうやら、この謎の集団は地球連邦軍の宇宙艦隊をくぐり抜けるという危険をおかしてでも、彼らの定める「作戦空域」に侵入する必要があるらしい。

司令の側で成り行きを見守っていた女性、ここでは「姫様」と呼ばれる女性が口を開くと司令に話しかけた。司令は女性の顔を見ずに淡々とこたえた。

 

「もう間もなくなのですね。ところで、彼らの様子はどうですか。」

「姫様。報告では、普段通り、との事です。」

「そうですか。未だに信じられない話ですが、やはり奴ら(・・)は来るのでしょうか。」

奴ら(・・)は律儀です。間違いなく来るでしょうな。」

「彼らの運命の糸がもうまもなく絶たれる理由は、やはり……。」

「我らも準備を急いでいるところです。」

 

 謎の集団はこの場所で、刹那・F・セイエイ、マリナ・イスマイールの死後に対応する準備を進めいていたのだ。

 

第1話完。

2013.2.7 クリサリスの表記を卿から公に修正。


 
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