No.408393

恋姫異聞録136 -点睛編ー

絶影さん

ちょっとだけ、時間が出来たので頑張りました><

Ocean様、皆川亮二先生の作品は大好きなんですよー
    秋蘭の行き着くとこはあれかなーとか思って使わせました^^

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2012-04-14 19:20:24 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:7520   閲覧ユーザー数:5814

咄嗟に足元に楔のように床に突き立てた二振りの刀、桜に踵を付けて、劉備の突進を押さえ込んだ昭

 

ぶつかる視線、櫓から響き渡る叫び声

一つは怒号のような、地面を響かせるような、重く獣の咆哮に似た雄叫び

一つは叫び声のような、空気を震わせ、金属を切り裂くような高い絶叫

 

歌声のように二つの声は重なりあい、戦場に居る全ての者へと響き渡り、剣戟の音を叩き鳴らす兵達は、その異様な音に振りかぶる武器を止めた

始めは、自分たちの将の身を案じて振り向いた兵達だが、櫓を、音の中心を見た瞬間、男たちの表情は固く、強張ったモノへと変わる

 

一人は恐怖で、一人は異様さで、一人は気持ち悪さで、またある一人は、無言で喉を鳴らす

 

まるで言葉に出来ぬ感情を飲み込むように

 

あれほど怒気と熱気と殺気で埋め尽くされた戦場が、敵を睨みつけていた瞳が、一斉に櫓の中央に集まる

 

兵達の視線の中心に有るのは、剥き出しの殺気

 

ただ「殺す、殺す、殺す、殺す」と繰り返される言葉のみが埋め尽くし、支配する空間

 

自分たちが、いま目の前で繰り広げていた光景を、凝縮したかのような光景に、兵達は視線を絡め取られていた

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

「うわあああああああああああああああっ!!!」

 

叫び声を上げ続ける二人は、互いを睨みつける

一人は錆びてボロボロの、切れ味の悪い、突き刺すためだけにある獣の牙の様な殺気

一人は美しく研ぎ澄まされた刃。されど、その刃は赤く、数多の血で濡れている様な殺気

 

一人の小剣は、敵の掌を刺し貫き、首の皮一枚に突き刺さる

 

もう少しで、もう少しで敵を殺せる。後一押しだ、後一押しで敵を殺すことが出来るっ!

 

一人の掌は、敵の剣をずらし、もう一つの掌で敵の首を力の限り握り締める

 

後少し、あと少しで敵の首を折る事ができる。もう少しだけ、絞め続ける事が出来ればっ!

 

互いの思考が交差し、互いの手に力が篭る。もう少しでと

 

拮抗した闘争

 

だが、それは直ぐに崩れだす。一人が膝を床に着き、もう一人の圧力で更に首に、剣の切っ先がゆっくり刺さりはじめる

 

「うがあああああっ!!」

 

それは地力の差。もとより力なく、才能も無く、何も持たぬ者。持った力といえば、手の握力、龍佐の眼、そして舞

研鑽し、努力し、積み重ねようとも、超える事のできない肉体と言う名の壁

 

握り締められる首に、指先をねじ込んで一つ一つ男の拘束を外していく劉備

 

鍛えれば、高めることを望めば、容易く目の前の人間を超える、この地に生まれし将は膝を着いた男へ、更に力を込めて剣を押し出す

 

知でならば超えることは叶う。だが、殺し合いにおいて、今のような単純な闘争において、知が何の役にたとうか

何も役に立ちはしない、小賢しい策に逃げ、一瞬でも気を緩めれば、劉備の剣が男の首に突き刺さるで有ろうから

 

「だからこそ・・・だからこそ風たちが居るんですっ!お兄さんに歌をっ!!」

 

悲痛な風の叫びに、目の前の光景に縛られていた地知は、まるで呪縛から解放されるように立ち上がり

一瞬、武器を、男の腰から剣を抜き出して劉備に斬りつけようと考えるが、劉備の体から流れる殺気に植えつけられるイメージ

剣に手を伸ばした瞬間、攻撃を地知へと変えかばう男、諸共斬り殺される光景がその手を止めた

 

かまうものか、かばおうとするなら私が更に前に、劉備の剣を体で抱きしめてっ!

 

劉備の殺気に怯まず、地知は覚悟を決め、前へ出ようとするが、足が止まる

身体が動かない、恐怖でも無い、怯えでもない、なにか、もっと大切なものが足を、身体を止めていた

 

違う、違うっ!私はそんな事をっ!剣を持って、人を殺すために此処に居るんじゃないっ!

 

首を振り、殺気に当てられ引きずられた心を振り払い、地面に落ちた昭の包帯を拾い上げ、流血する左腕に巻きつけると再び足を開き、胸を張る

 

「何を望むのっ!?」

 

「五行と五獣の歌をっ!四神ではなく、五獣。それも、玄武の歌をっ!」

 

五獣と聞いて天和と人和は顔を見合わせてしまう。何故ならば、自分たちの歌にそんなモノは存在しないのだから

 

だが、地知は眼を閉じ、一瞬で詞を創り上げる。

 

五行、五獣。様々な想いを、時には複雑な言葉で、時には真っ直ぐに、そして時には深く謎めいた詞で伝えるため

知識を詰め込んだ地知は、言葉を積み上げ、組み立てていく

 

たった一人の為の、眼の前で膝を着く男ヘの歌を

 

手を横に、詞を既存の音を次々に変更しつつ、指先を使い楽隊へ指揮をして音を紡ぎ、曲にする

姉と妹の声をハミングで合わせバックグラウンド・ヴォーカルとして配置させはじめた

 

 

 

歌うは五行、五獣の詩

 

 

木を表す春の将、誇り高く力を表す蒼き龍

 

学び成長するその姿、雄々しく育つ大樹の如く、その名は魏武の大剣

 

火を表す夏の将、烈火の如き、民の怒りを持つ朱雀

 

怒りその身に携えて、紅き翼を広げる赤帝、その名は三夏

 

土を表す魏国の王、民を保護せし慈悲の麒麟

 

時に厳しき母の如く、民を信じ民を育て四神を統べる大地の神獣、その名は魏の武王

 

金を表す秋の将、知と勇に優れし白き虎

 

悲しみを爪に持ち、厳格にして冷徹、驕り無く婉麗なる白帝、その名は知勇の雷光

 

 

 

先ほどよりも強く、全てを支配してしまうようなその歌を目の前の唯一人の為に、全霊を持って歌う

 

歌が耳に届くたびに男の手には力が宿り、押し込まれる剣を止め、劉備の口から雑音の様な息が漏れ出す

 

 

 

水を表す雲行雨施の冬の雲、未来を見通し大地を支える黒き亀

 

其の身に力を表す蛇を巻き、背に背負うは金剛盾

 

盾に刻まれし数多の傷は、我等民の想いと願い

 

心を守りし魏の大盾、その名は慧眼の舞王

 

玄武よ、玄舞よ、矛を収し武(舞)を持つ獣よ

 

今こそ舞えよ豊穣の大地を、我等の育てし金色の野を舞い踊れ

 

支えよ子の住む大地を、守れその大盾で、我等の愛する子たちを

 

胸に携えし盾を掲げよ、背負いし大盾を天に掲げよ

 

足りぬならば、我等の想いも盾にし掲げよ

 

我等は一つ、我等は玄武と共に有り

 

共に金色の野を舞い踊ろう、共に大地を支えよう

 

共に行かん、我等が望みし世界を築く為に

 

起ち上がれ、我等と共に、玄天上帝よ

 

 

 

見開く男の瞳。剥き出しの牙、錆びた刃を連想させる紅蓮の殺気は、男のもつ本来の大盾の気迫に切り替わり

今にも音が聞こえてきそうな程に噛み締められる歯

劉備の躯に堅牢で巨大な城壁が圧しかかるかのような感覚が襲う

 

「五獣!?な、なんですか五獣って?」

 

「四神を知っているかしら?四方を表す四神、その四神を統べ中央に座す龍を含めて五獣というの

大地を表す【黄龍】、または【麒麟】を入れて五獣となるわ」

 

五獣という、初めて聞く言葉に李通は司馬徽を見あげれば、司馬徽は相変わらず妖しく美しい笑を見せた

四神ならば、家を建てるときにも良く聞く神獣の名前だ。其れこそ、城を建てるときにすら方角を見極め四神の特性に習った城を作る

だが、五獣は聞いたことはない。黄龍や麒麟を単独で聞くとこはあるが、五行に当てはまる事など李通には解らなかった

 

「黄龍と麒麟」

 

「五行は五獣に当てはめることが出来るの。木は青龍を、火は朱雀を、土は麒麟か黄龍、金は白虎

そして、水は玄武。玄武は彼を表すには最もだと思わないかしら?」

 

司馬徽の説明に李通は妙に納得してしまった。彼、独特の盾の気迫。逆に、荒々しい紅に染まったボロボロの刃を感じさせる殺気は蛇

水行の胎内は様々なものを生み出した知識、霊性は天を

 

「何よりも、彼が水行であり玄武であるのは曹操殿を土行、麒麟に当てはめた時によく分かる。彼を御する事ができるのは

土行の土剋水。水は土には勝てず、全てを統べ、土を意味する麒麟に玄武は従い支える。彼女にしか扱えないのよ、夏侯昭と言う人間は」

 

見れば、自身の天命の歌を聞き、風の狙い通りに体は限界以上の力を搾り出し引き出され、劉備の剣を止めてみせた

 

拮抗する男と劉備の姿を見ながら、司馬徽は己の元に風が来たことを思い出す

条件として、全ての情報を自分に渡すようにと言った時、最も多かったのが男の情報。その腕が消える事の原因を調べるために

あらゆる事を調べ、最後は五行思想から五獣に行き着いたと竹簡には記されていた。調べれば調べるほどに、四人の関係は五行思想

五獣に当てはまる。特に、水行と玄武はそのまま男を表していると言ってもいいほどだ

亀は亀卜などでも使われるように、先を見通す力を持ち水行は死も意味する。死したものは天に返る。ならば天の御使いと言うのも納得する

更に言うならば、道教における太陽神、西王母を足元で支えるのは亀山であり

日輪である曹操を支える夏侯昭に此れほど当てはまる獣は居ないだろう

 

だが、此れほど調べても結局は何の打開策も見出すことが出来なかった。だから、程昱は賭けたのだ

五行に当てはまり、金である夏侯淵と結ばれた水であるならば、新たな術を産み出すことが出来るはずだと

ここで行われた雨乞いの儀式も恐らく繋がっているのだろう

水の心を生み出させ、彼自身が性質を変え水行に当てはまったならば危機を前に必ず産み出すはずだと

 

【己をこの地に縛り付ける術を】

 

特に戦で身体が消える頻度が上がっていた。この戦でも消える可能は高い。ならば、狙うならここ

 

「けれど、まさかこんな土壇場で消えるとは思わなかったでしょうね。劉備殿も来ることは計算外、フフッ」

 

楽しそうに羽扇で優雅に仰ぎながら背後の劉備の姿を見ていた。雄々しいという言葉が相応しいその姿を

 

突然動かなくなる剣。幾ら押しこんでも動かず、再び力強く締められる首

首を折られる事だけは防ぐ事が出来たが締められ、圧迫される気道に息が続くか無くなり、剣よりも男の握り締める指を外すことに力を注ぐ

 

握り締める男の指は、無理やり隙間を開けられると「ひゅっ」と音を立てて、一気に息を吸い込む劉備

 

酸素を取り込んだ劉備は、ここで勝負を賭けるとばかりに、遂に喉を絞め続ける男の手から手を放し、剣に両手を掛けて足を踏み込み一気に押しこんだ

 

「っ!?」

 

劉備の手が剣に戻る瞬間、男は首を切り裂きながら右手を横にずらし、劉備よりも先に体を起こして足を踏み込み額を顔へと叩きこむ

不意を突かれた劉備は、顔が弾けるように仰け反った

 

攻撃を受けてもなお閉じぬ瞳に映るのは、男の手が再び劉備の手に伸びる光景

 

そして【ブチッ】と言う何かを引きちぎる様な音

 

頭を駆け巡る予測、全身を這いまわる悪寒、電流の様に危険を知らせる緊張が全身を支配する

 

戦場を駆け続けた経験が、積み重ねた武が、劉備の体を突き動かす

 

感覚のままに、再び伸びる男の左手を自分の右手で迎え撃ち、まるで祈るように手と手が組まれ

引き戻した小剣は、男の右手に握られた倚天の剣を抑えこんだ

 

そう。男は、劉備の剣を横にずらすと共に、無理やり自身の掌を切り裂かせ、宝剣を抜き取り劉備に切りかかっていたのだ

 

切り裂いた右手からボタボタと流れ落ちる血液は、床を濡らし血溜まりを作り、その光景に鳳は驚き顔を歪めた

 

反対で陣を指揮する風も同じく驚いていたが鳳とは違う点

 

劉備の小剣に倚天の剣がぶつかったと言うのに、小剣は破壊されるどころか、刃こぼれさえおこしていないのだから

 

「驚いたかっ!あれは、朱里が蒲元と作った神刀だ。舞王の剣に対抗する為だけに生み出された三千振りの一本だ」

 

「神刀・・・」

 

凪の拳を抑えこむ魏延は、誇らしげに朱里の偉業を口にするが、秋蘭の攻撃を躱し、攻撃を返す翠は顔を顰めた

魏延が口にしたことで、神刀が一本だけだと風にバレてしまった。三千本も有るならば、何故劉備しか持っていないのか?

しかも、小剣だけ。となれば、答えは一つ。小剣しか作れなかったのだ。三千本の試作の末、ようやく出来た一振り

 

確信した風は、殺し合いを続ける昭と劉備に背を向け、動きの止まる兵達に銅鑼を鳴らして指示を出す

 

「八風を迎撃から完全防御【玄武】に変更。指揮を雲から風と鳳へ、四順を中に、四違を外に」

 

鳴らされる三つの銅鑼の音に、外側が中に、中で回り続けた強固な防御力を誇る兵が外側へ

つまりは、外側で敵を逃さぬように閉じ込める役の将が、内部へと入ることになる

 

「くっ、桃香さまっ!今行くっ!」

 

内部へと入る真桜と一馬を見て、翠は更に攻撃を繰り出し秋蘭を引き連れたまま、劉備へと走る体勢をとろうとした

だが、目の前に立つ秋蘭は、先ほどと全くの別人と言っても良い程に、その淡麗な顔を歪め、解りやすい怒りに染めていた

 

風で流され、飛んできた男の外套をその身に纏い、先ほどから放っていた極寒の殺気は、正反対の爆炎の殺気へと切り替わる

 

「私の手に傷を付けたな。大切な、この世でたった一つの私のモノに」

 

抑える事に集中していたはずの秋蘭は、急に接近戦から距離を取り、立ちふさがる翠へと異常な速射をはじめる

異常を感じた翠は、劉備へ駆け寄ろうとする足を止め、秋蘭の射線を躯で塞いだ

 

「皆の者、私に矢をっ!!」

 

回りの弓兵に、矢を渡すよう指示すると更に速射を早め、ガトリング砲の様に次々と打ち出される鋼の矢

 

「!?」

 

距離を離したならば、自分の槍の距離だと踏み込もうとするが、先ほどの速射術で矢が襲いかかる

だが、威力も矢の数も段違い。まるで一本の槍が絶えず突き出される感覚を受ける翠

 

投げられた矢筒を足で弾き、矢を放つと同時に宙に浮かせて素早く腰へ付け替えると更なる速射を繰り出す

 

幾ら弾き、砕いても、矢が途切れる事無く襲い掛かり続けるのだ

しかし、強烈な矢の速射は秋蘭の指を削り出す

 

夫より贈られたユガケは破れ、皮がめくれ指先から血が流れ出し始めていた

 

「確かに凄い。でも、抑えじゃなく攻撃に切り替えたなら・・・」

 

あたしの勝ちだ。そう呟くと、腰を落とし手を槍の中程へ、全身の筋肉が緊張し、呼吸が細く絞られる

次の瞬間、放たれる無数の槍撃。李通の槍よりも早く、厳顔の豪天砲よりも重く、剣山のように放たれる韓遂の槍が秋蘭を襲った

 

 

 

 

押さえ込んだ倚天の剣を神刀で押し返し、逆手で抜き取った倚天の剣の切っ先は、男の体に傷を作る

だが、組んだ手は男の力によってメキメキと音を立て、手から走る激痛に今度は劉備の膝が折れた

 

苦悶の表情を浮かべる劉備は、歯を食いしばり己の神刀を押し込んで、倚天の剣を男の脇腹へと喰い込ませていく

 

ゴキィッ!!

 

歪な音を立てる劉備の左手。再び劉備の首を掴む男の手

最早、首を折ることを邪魔する事はできない。腹に突き刺さろうと、この首は必ず砕く

 

瞳に強い意志の光を灯す男、同時に劉備も同様に強い光を灯す

 

首を締められ、手を潰された劉備は、倚天の剣を持つ負傷した男の手を神刀の柄で叩き、剣を落とさせ

潰された手をそのままに右腕を男の首に絡ませ、己の方へと引きこむ

 

咄嗟に負傷した右手で劉備の左腕を掴むが、力が完全には入らず徐々に首に剣が突き刺さる

 

まるで抱きあうようにして、殺しあう二人

 

いずれ、このまま二人は同時に命を落とすのでは無いかと、皆に予感させる

 

食い込む切っ先、締め付ける手。いま、二人の命が同時に失われる。そう誰しもが思った時、櫓の楽師たちから声が上がった

 

櫓に響く楽師の声に、嬉々として反応する鳳。騎馬に乗る一馬が到着したか、流石は疾風と、昭の方を見れば

 

そこには騎馬の姿ではなく、義兄の服を染めた蒼いベストを纏う将の姿でもない、全身を血で濡らす修羅が一人

 

巨大な得物を携えて、躯を紅く染め、外れた簪をそのままに長い髪を乱し、武器を昭へ振り下ろす厳顔の姿

 

鳳の指揮する陣の前線では、なだれ込むように攻撃を繰り返す迷当。陣の内部に入ろうとした所を、決死隊を組んで

敵陣に体ごと喰い込ませた羌族の兵達に足止めをされていた

 

鋭く、鋼の刃のように鈍く光を放つ厳顔の瞳

 

「此処とは、御屋形さまの御座す場所。受けた命は、御屋形さまを御護りすることだっ!!」

 

振り下ろされる轟天砲の銃剣。響く金属音、切っ先は肉に食い込み空に血を舞い上げた

 

「花郎っ!!」

 

忍び寄る厳顔を見た李通は、昭の危機に自分の耳を塞ぐ司馬徽の手を外し、地知の歌を無理やり自分への歌であるかのように耳を向け

凪の様に限界を超えた動きで、司馬徽の腕から脱し躯を滑りこませていた

 

「・・・?」

 

しかし、体に何の衝撃もなく、痛みも苦痛もその身に襲いかかることは無い

遠くで叫ぶ一馬の声、愛する者の身を案じた声。覚悟を決め、己の身を賭して白刃の前に身をさらけ出したはず

だが、己の体は何処にも傷はなく、それどころか豪天砲の切っ先は自分の体に少しも触れていない

 

唯、安心してしまう心地良い雰囲気だけが背中から伝わり、肩越しに背後を見れば昭の姿

 

青釭の剣を盾にして、李通の体に覆いかぶさるようにして銃剣を体に喰い込ませていた

 

「こら、李通・・・だめじゃないか、危ないぞ」

 

男は流れ落ちる血は地面にポタポタと血の斑点を作り、躯に食い込む刃に押されるままに膝が折られそうになるが

無理やり膝を持ち上げ、ふたたび立ち上がる。豪天砲の刃が深くその身に突き刺さっていこうが構わずに

 

「昭様っ!!」

 

優しく自分を叱る昭の姿に李通は直ぐに理解した。何故なら昭の首は深く切り裂かれ、血が流れ落ち体を染めていたのだから

 

厳顔が豪天砲を振り上げ、李通が体を滑りこませようとした瞬間、男は劉備の頬に優しく左手を付けた

触れられる頬に劉備の表情が蒼白に変わり、絡みつけた腕を外し突きつけた剣を放し、距離を取った

右の瞳から血を流しながら

 

男がしたのは目突き。頬に手を当て、親指を無理やりねじ込もうとしてきたのだ

 

今の劉備であれば、右目を失いながらも男の首に剣を押し込む事が出来ただろう

だが、劉備は己の体を突き動かす警告のままに男から体を外した

 

劉備の頬を冷たい汗が落ちる

 

近づき過ぎた。もし、あのまま受けていれば目突きをしたまま自分の頭を掴んでずらし、さらけ出された首筋に歯を突き立てるつもりだったはず

選ばされたのだ。自分が死に、敵将を一人殺すか、自分も敵将も死なないか

 

劉備は後者を選んだ。だが、ただでは終わらせない。剣で引っ掻くようにして首を切り裂いた

それでも男は、己の身など気にすることもなく青釭の剣を腰から抜き取り李通に覆いかぶさった

厳顔の一撃を、剣を横に担ぎ、盾のようにして背中で受けていたのだ

 

「昭様っ!首がっ!!」

 

「大丈夫。それより力を貸してくれ、行くぞっ」

 

剣を抑えこまれた厳顔は顔をしかめ、肩口に剣を喰い込ませる男は頷き手を添える李通と共に剣に力を込め押し返す

 

勢い良く押し返され、体勢を崩す厳顔。同時に押し返した男の体はがら空き

其れを逃す劉備ではない。右の瞳から血を流しながら、小剣を握りしめて体を起こし、地面を蹴り駆た

 

「殺らせるかぁっ!!よくも隊長をっ、きずつけたなああああああっ!!」

 

櫓に響く怒号。駆け上がった真桜は、男の前に盾のように立ち、首の傷を見た途端、眼を鋭く細め怒りのままに叫ぶ

 

「合わせてっ、桔梗さんっ!」

 

螺旋槍を前に、劉備は真桜の怒気を受け流し、神刀を構え真桜の武器をズタズタに切り裂いて行く

声を聞いた厳顔は、体を紅に染めながら口元を笑に変え、気を詰め込んだ轟天砲の銃口を李通と昭へと向けた

 

「やれ、李通」

 

「はいっ!」

 

目線を合わせた男は、即座に厳顔の思考を読み取り、李通と共に放つ蹴り

リーチの差がある二人は打点をずらす。男は厳顔の足を掬う水面蹴り、李通は向けられた轟天砲を天高く蹴り上げ

貯めこまれた気は天に吠える

 

「秋蘭っ!」

 

男の動きは止まらず、突き刺した刀を厳顔へと投げ飛ばし、続けて武器を削られる真桜へ青釭の剣を投げ渡し秋蘭の名を叫ぶ

 

肩に食い込みよろけるように後ろへ一歩、二歩と下がるが武器を支えに躯を起き上がらせる厳顔

 

「・・・ガハッ・・・まだ、儂は終わりでは・・・・・・」

 

血を吐き出し武器を構え、肩に突き刺さった刀を乱暴に引き抜くき、次の攻撃に備え視線を男へと向ければ、冷たい視線で此方を見つめる男

凡そ、人とは呼べないほどその瞳は冷く氷塊を思わせる

 

「戻って来いっ!俺の半身っ!!」

 

声が櫓に響く、地知の歌声すら叩き伏せる圧倒的な咆哮

眼前の厳顔は、せめて一撃を見舞おうとするが、既に限界の体は気を練るどころか男の発する重圧に躯の動きが鈍る

 

途切れること無く、怒りのままに矢を放つ秋蘭に対峙する翠は、無数の槍撃を放ち、血で滑り矢を番える事が遅れた秋蘭へ大きく踏み込む

秋蘭は、舌打ちを一つ。冷静に矢を番え直し、翠の脳天に照準を合わせ殺気で誘導、虚実を混ぜ合わせた

 

虚であるフェイントに騙されるものかと、冷たい殺気を纏う矢の幻影に恐れず踏み込めば、背後から躯に突き刺さる黒炎の矢

 

「う、後ろからっ!?」

 

背後にこれ程の殺気を放つ弓兵は居なかったはずだと、背が焼かれる様な感覚に振り向けば

視線の先に恐ろしい瞳で睨みつけ、秋蘭とは正反対の殺気をぶつける男の姿

 

躯に突き刺さったはずの矢は何処にも無く、躯を焦がす感覚は男の異常すぎるほどの殺気、遠当であると理解したと同時に

翠の横を通り過ぎる秋蘭の姿。溢れる怒りをそのままに、秋蘭は男の言葉に従い、矢を三つ置土産に放ち男の側に立つ

 

「おかえり」

 

「おのれっ!よくも私の手をっ!!」

 

怒りを溢れさせ、劉備を睨みつける秋蘭を男は優しく抱き寄せた

すると、先ほどまで溢れんばかりの熱い業火のような殺気を放っていた秋蘭は、その身の業火を吸われるように何時もの冷たい殺気を放ちはじめ

男の首を見た秋蘭は歯を鳴らし首に包帯を巻き付け、右手を自分に抱き寄せて、素早く手の傷を塞ぐように包帯を巻き、優しく抱きしめた

 

「詠っ!頼むっ!!」

 

「解ってるっ!」

 

秋蘭の声を聞き敵をなぎ払い、追いついた沙和は詠を引き連れ直ぐ様、真桜と劉備の横を通り過ぎ男の元へ駆けよって首の治療を始めた

衛生兵を呼び寄せ、治療をはじめる詠。沙和は、直ぐに厳顔に放った気弾を昭へと送り込んでいく

 

「衛生兵っ!集合しろ、僕の手は使えない、指示に従い施術を行え。気功を使えるものは沙和に合わせ昭の意識を保て

血を生産させろ。鍼を使えるものは、直ちに経穴の開放を行え。陰交穴、気海穴、石門穴、関元穴を刺激し体力を上げろ

体内に入り込んだ病魔を排出、覆滅させつつ傷の縫合を行う。術式は、前回舞王が傷ついた時と同じ術式だ、訓練を思い出せ」

 

武器を構え、劉備と撃ちあう真桜の背後では、立ったままの男に沙和が全身の力を送り出す様にして気を絞り出し

衛生兵たちも手を合わせて首の傷を治療し始めた。その隙に、翠は体勢を立て直して一度は男へと槍を向けたが

男の視線と、鋭く反応する指先に顔をしかめて劉備の側へと駆け寄る。下手に手を出せば、夏侯淵の矢が飛んでくると

 

「申し訳ありません、お兄さん。劉備さんが来たことは計算外。風の失態です」

 

「いいや。それよりも有難う、もう消えることは無さそうだ」

 

穏やかな瞳で風に微笑みかける男に、風もまた怒りを表情に現した。己自身に対する怒りと、劉備に対する怒り

そして、何よりも扁風に対する怒りが風の眠たそうな瞳を細く、鋭いモノへと変えていった

 

「隊長、しばらく借りとくで」

 

「ああ、俺には秋蘭がいるから大丈夫だ」

 

螺旋槍をボロボロにされた真桜は、青釭の剣を手に劉備と打ち合い、弾けるようにして男の元へと下がる

劉備もまた、身を寄せた厳顔と共に武器を構え男達を見据えた

 

 

 

 

「さて、劉備殿。貴女の業は其れか」

 

そういって指を差すのは、先ほど厳顔を傷つけられ怒りのままに噛み締めた手に巻かれた包帯

男は深く切り裂かれた首から血を流し、包帯を紅く染めながら穏やかな瞳で見つめ、劉備は男に強い瞳を返す

 

「此処で、貴女の重荷と共に業を刈り取ってやろう」

 

握り締められる右手が、新たに巻かれた包帯を紅に染める。ボソリと呟くように吐き出された言葉、髪の毛が総毛立ち、血が逆流するような怒りを表情に表す

何時もの男ならば烈火のように怒り、その身も厭わず切りかかっていたはずだが、男の心は逆に何処までも冷たく凍りつく

 

「門を閉じる。圧力を掛け、退路をふさげ。劉備の首を取るのは雲の役目」

 

風が指示を出すと同時に、蒲公英が体を起こし劉備に駆け寄り声をあげていた

 

「行くよお姉様っ!退路が無くなるっ!焔耶は桔梗を」

 

「無理なんだね、これ以上は」

 

「見誤っちゃダメ、櫓に将が揃たら勝てない、逃げる。フェイっ!!」

 

正面から強い殺気をぶつける男を、一瞬だけ口惜しそうに見つめる劉備

直ぐに表情を戻すと、傷ついた厳顔を側に寄せ自身の殺気を男へぶつけ未だ続く地知の歌声から守るよう剣を構えた

 

後方では、陣形の変化で更に押され、細くなる退路を維持するために扁風が更に兵を流し込み始めていた

 

逃がすことなどさせるものかと、真桜はボロボロの螺旋槍を拾い上げ高速回転させながら劉備へと突き進む

 

「桔梗様を頼むっ!!」

 

轟音を立てて威嚇する螺旋槍の前に躯を滑りこませたのは魏延は凪の攻撃を受けつつ槍を受ける

厳顔の言葉通り、死を覚悟しなお生きる。その生き様を刻み込んだからこそなせる行動

 

拳打を受け、致命傷を避けながら真桜の攻撃を受けて見せた

 

「焔耶っ!」

 

凪の拳をまともに喰らいながら螺旋槍を全力で弾けば、背後で劉備の側に立つ厳顔から投げ渡される豪天砲

 

「儂はもう気が込められん。やれ、焔耶っ!」

 

叫び声を上げながら、受け取った豪天砲を凪へ向け、即座に気を流し込むと片手で引き金を引き絞る

 

「くらええええええっ!」

 

真正面に向けられる豪天砲の銃口。撃鉄が雷管を叩き、気の塊と共に吐き出される鉄杭

歌声のままに、獣のような動きで襲い掛かる凪は、突然持ち替えた武器に反応出来きない

 

響く爆発音。空気を叩く衝撃でゆれる櫓。だが、豪天砲が吐き出した鉄杭は天を突く

魏延の右肩に食い込むのは秋蘭の放った鋼鉄の矢。魏延の眼に映るのは、秋蘭の隣で指を此方に向けて差す男の姿

 

「ガッ!?」

 

衝撃に身体が逸らされる。豪天砲に恐れず、止まらず踏み込む凪は魏延へ気の膜を張った手刀で襲い掛かった

 

やらせるものかっ、殺らせるものかっ!!私が倒れれば、桃香様が殺されるのだっ!考えろ桔梗様が何故、私に豪天砲を渡したのだっ!?

今こそ先に散った韓遂殿へお見せする時だ、私の将としての姿をっ!!!

 

握り締められるは左手の鈍砕骨。悲鳴を上げる柄。身体を逸らしながら横薙ぎに振るわれる鈍砕骨

まともに喰らい、吹き飛ばされる凪は床に叩きつけられ、左腕を歪な形にまげたまま立ち上がる

 

更に、崩れた体勢を無理やり立ち直して速射される秋蘭の矢を豪天砲で空気を連続で叩き、真桜の青釭の剣を鈍砕骨を切り裂かれながら弾き飛ばす

まるで、厳顔が魏延に乗り移ったかのような動きを見せ、次々に襲いかかる矢を砕いていく

 

「蒲公英っ!」

 

「解ってる、お姉様は桔梗を。焔耶、殿はお願いっ!」

 

「任せておけっ!」

 

連続で放つ豪天砲の反動に右半身をボロボロにしながら、それでも壁のように砲撃で作った衝撃波を叩きこみ続ける魏延は

攻撃を繰り返す真桜と秋蘭の攻撃を防ぎ、翠は厳顔を担ぎ、蒲公英は劉備を導くようにして顔を紫色に腫らしながら金色の槍を掲げた

 

逃がすものかと、真桜は剣を構えて後を追おうとするが男に止められ、噛み締める歯から音を鳴らし劉備を睨みつけた

 

「戻れ。風、次の指示だ」

 

「はい、陣の圧力を強めてください。引き続き、秋蘭ちゃんは弓兵と共に逃げる劉備さんに攻撃を

敵は兵を大量に引き込んでいますから、劉備さんはこの陣から脱出することは出来るでしょう」

 

脱出されてしまう。そう口にする風だが、瞳は諦めの色など微塵も見せない

 

「玄武は亀甲の八陣だけでは終わりません。その身に蛇を巻き付ける獣。脱出された場合、陣形を超攻撃陣形

八首の蛇【大蛇】へ変更。定軍山、新城攻略で見せた、もう一つの陣形をお見せします」

 

風の言葉を聴きながら、膝を床に着けて体力の限界を過ぎたのだろう、いつの間にか床に倒れてか細い息をする李通の頬を撫で

安心させるように優しく微笑むと李通は無事な男の姿に涙をこぼす。男は立ち上がり、治療もそこそこに沙和達を持ち場へと戻らせようとする

 

「ま・・・っ、まだまって・・・なのっ!」

 

「大丈夫、持つさ」

 

「解ってるっ、あと二針だから」

 

詠と沙和の応急処置が終わると、足で倚天の剣を舞い上げ手に取り、再び舞い踊る。戦場全ての意識を操るような舞を

 

扁風と合流した劉備たちは、背後で豪天砲を連射する魏延を殿に一直線にきた道を戻る

 

「策を示して」

 

「一度、元いた場所まで戻る必要がある。大勢を立てなおして、士気をあげたいけど長く留まることは出来ない」

 

劉備の問に蒲公英は表情を固くし、足を早めた。一刻でも早くこの場から逃げなければ劉備は殺されると

攻撃を成功させられなかった代償は大きい。負傷させたが、結局は義兄の首はとれなかった

 

こちらの将の被害は最初の厳顔だけ。だが、奥深く陣に入り込んでまった。立て直しに幾ら兵が死ぬか解らない

 

苦悶の表情をする蒲公英に、騎馬を人数分引き連れて来た扁風は劉備に竹間で大きく文字を書く「攻」と

 

「フェイ、御義兄様が怖いんだね。落ち着いて」

 

「攻めた場合、どうなる?」

 

「結局、背後からの援軍は森が邪魔で合流出来無い。向こうは距離はあるとはいえ、曹操の指揮する軍。呉を平らげて

向かってくる。時間さえ稼げれば向こうが有利」

 

劉備の言葉で彼女は攻めたいのだ、ここで義兄の命をとりたい、超えたと言いたいのだと感じとるが

冷静に状況を把握し、義兄を目の前に複雑な心を消し去ろうとそれでも攻撃を進言する扁風をなだめる蒲公英

 

「この攻めにした理由はそれか・・・」

 

「はい、攻めるなら早ければ早いほど、強ければ強いほど良い。でも、こんなに耐えるなんて・・・代償は大きすぎるかも」

 

一つの悪い予感が蒲公英の脳裏を駆る。弱いからこそ考えつく策。韓遂より教えられた知識が危険だと叫ぶ

 

「解った」

 

説明を聞き、これ以上は多くの兵を死なせるどころか負けてしまうと劉備は即座に指示を出す

 

「全軍撤退、兵を無駄に死なせることはするな」

 

「了解しました」

 

扁風の引き連れた騎馬に次々と跨り、一気に陣からの脱出を図る劉備たち。ただ一人、秋蘭の矢を捌きながら魏延を支えるべく

翠は厳顔を蒲公英の操る騎馬へ乗せ、魏延の横へ騎馬を寄せようとした時、義兄とは違う夏侯惇のような殺気を感じ

槍を構え殺気の元へと穂先を向けた

 

「・・・」

 

向けた先からは激昂と共に言葉を一言も発さず叫び声すら上げず、ただ触れれば八つ裂きにされてしまうような

怒りを瞳に表して、蒲公英の騎馬に乗せられた厳顔へと武器を向ける一馬の姿

 

一度ならず二度までも李通を危険な眼に合わせ、武器を向けて李通と義兄を傷つけた厳顔に怒りを燃やす

 

疾すぎる一馬と的盧は羌族を踏み潰し爆走する。翠は遠くでは囲んでいたはずの迷当が居た方向へ一度、視線を向ければ

旗は折られ、決死隊の姿は見えず。一人で全てを潰してきたのだと理解する

 

槍を構え、接近する一馬へ一撃を放ると瞬時に馬体が沈み込み槍を躱し、引き戻される槍と同時に的盧は横へ飛んで距離を詰める

瞬時に剣の間合いへ変化し、横に振りぬかれる血で染め上げられた七星宝刀

 

襲い来る剣に、翠は驚くほど冷静に切っ先を見つめて体を反らして避け、体を起こすと同時に覇気を体に凝縮させた

 

次の攻撃に繋げるため、躯を捻った一馬の眼に映るのは、自分の顔に襲い来る翠の反撃の槍

 

「ハァッ!」

 

無理な体勢から放たれた槍など、弾き返してやると剣で薙ぎ払おうとするが、的盧が嘶き異変を感じた一馬は

咄嗟に防御の体勢に切り替えた

 

こんなものっ!騎馬の上ならば私の方が上だ!

 

そう、気合を込めて構え押さえ込めば、躯を通り抜ける翠の槍撃。実態など無く、衝撃もない。唯の殺気の塊

 

「なっ!?」

 

次の瞬間、剣から躯に響く鉄塊を叩きこまれたかのような衝撃に一馬は吹き飛ばされ的盧の背から投げ出されていた

 

地面に落とされ、蹲る一馬を見ながら翠は一人、冷たい兄の様な氷の瞳を持ち槍を構え直す

 

「遠当と水。確かに覚えたっ!」

 

此処に来て更に恐ろしい進化をする翠の姿に、騎馬の上で揺られる厳顔はあっけに取られていた

魏延ですらようやくここまでの将に成ったというのに、目の前の馬超は敵の技を己のモノとして軽々と其れを飛び超えて行く

 

驚く厳顔をよそに、騎馬の腹を蹴り声を上げると、翠は再び焔耶の元へと騎馬を寄せた

 

 

 

 


 
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