プロローグ
「・・・遅かった・・みたいですね・・・。」
その声は、暗く、広い空間に透き通るように響く。
長い階段を下り、幾重にも入り組んだ道を無我夢中に走り、ここにたどり着いた。
だが、間に合うことは無かった。
そこには、疲労感しか残らない。結構走ったのだが。
とにかく、僕はすでに何も無いその場所を見据え、次にするべき事をした。
「コマンド3からセクター1へ。目的地に到達。目標は、すでに逃走したものと思われます。」
「やはりな。毎度毎度、逃げ足だけは速いな、まったく。状況は?」
無線からは、ため息混じりにそう聞こえた。というか、間に合わないと分かっていたら別働隊をまわしてほしいものだ。どうして僕一人だけなんだ?
「損害状況は軽微。負傷者は出なかったようですが、セキュリティ関係の、一切が動作しなかったようです。ケースは破損。禁書は、なくなっています。」
「そうか。もしや、と思ってレプリカを出しておいて正解だったな。助かった。」
レプリカだったなんて聞いていませんよ、とつっこむ前に、無線から声が聞こえてきた。
「禁書が偽者だと分かったら、次は本館に行きそうだな。よし、コマンド3はその場で待機、後続の部隊と合流してくれ。後続と合流次第、メインストリートに進行しろ。その後、連絡があるまで待機。俺達もそろそろ出る。」
「・・・先輩。一つ、聞いていいですか?」
「セクター1だろ?コマンド3。何回言ったら分かるんだ?」
「しかし、呼びづらいんです。セクター1って。」
「まあいいさ。それで、何だって?」
「今回の事件。僕たちではなく、機動隊が処理する類の事件じゃないんですか?」
「それは俺じゃ分からない。仕事をよこすのは上だからな。ま、何かしら裏があると見て間違いないだろう。今コマンド2に調べさせてる。と、そろそろ別働隊が到着するぞ。任務に戻れ。」
「了解。コマンド3、任務に戻ります。」
「―ふぅ」
無線のスイッチを切り、一息つく。外に出る前に、改めて部屋を見渡した。禁書が安置されていたガラスケースとそのガラス片が散乱している。それ以外に、この部屋を象徴するものは無い。広すぎる空間。窓も無く、足元を照らす蛍光灯だけが僅かに瞬いている。僕達が担当する任務は、最近このようなものばかり。暗いところは、苦手なんだけど。そんな空間の中で、一つ思い出した。この空間は、最初にあの人に出会った場所に似ている、と。
あの日は、急に雨が降ってきて、それから―――
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だいぶ前に書いた小説を
新しく書き直したものです。
プロローグだけです。