俺とメズールは孫策さん(仮)に連れられ、近くの町にある城の小部屋へと通された。
何もイスと机以外生活雑貨が置かれていないところを見ると、現代で言う応接室のようなところだろうか。
「それで?あなたたちはどこから来たの?」
椅子を引いてボスンとイスに座った孫策さんが質問を始める。
メズールと目を合わせるとコクンとうなずく。
座れという事なのだろう。
「えっと…どこから説明していいかわからないんだけど」
「ええ」
頭の中を少し整理して、切り出す。
「俺たちも、自分たちの現状がよくわかってないんですけど…多分、俺たちはこの時代の人間じゃありません。もしかしたら、世界すら違うのかも」
俺の知ってる歴史では『孫策』は男だった。
単純に歴史を逆行しただけならば、当然目の前にいる孫策は男のはずだ。
それが女になっているという事は、俺の知っている歴史とはまた違う歴史に飛ばされているんだろう。
俺の言葉を聞いた孫策さんと黄蓋さんはあきれ顔になって、
「はぁ…エイジだっけ?そんなこと言われても、『はい、そうですか』って納得できると思う?」
「…ですよね」
「何か、あなたたちが未来から来たって言う証拠はないの?」
「証拠…ですか」
俺はとっさにポケットの中を探る。
これからの歴史上起こる事件を教えてもいいけど、この世界に同じことが起きるとは限らないし、この人たちが欲しいのはもっと即時的なものだろう。
「……ん?」
ポケットの中を探っていると、数枚の硬貨に指が触れた。
「あ!これはどうですか?」
「これは?」
「俺たちの世界のお金です」
三国志の時代にはここまで精巧な技術はなかったはずだ。
孫策さんと黄蓋さんは表裏を返して、鑑定士のように目を凝らしている。
「祭、どうかな?」
「ふむ…儂等の世界にここまで細かく掘れるやつはおらんでしょう」
「だよね」
「とはいえ、儂等は鑑定眼は持ち合わせて居りません。策殿の勘がいくら優れていようと、ここは冥琳の奴にも意見を聞いとった方がいいと思いますぞ」
「本音は?」
「あとから、あやつにグダグダ言われとうない」
「あはは!うん、祭が言うならそうしよっか。誰かある!」
「はっ」
孫策さんが城中に届いたんじゃないかと思うほどの声量で叫ぶと、ものの数秒で兵隊さんらしき人が現れる。
「公瑾を連れてきなさい。大至急よ」
「はっ」
「まったく…お前たち、どこをふらふら歩いてたかと思えば…」
「まぁまぁ、お説教は後で聞いてあげるから!」
兵士さんが部屋から出て言って数分。
長い黒髪の女の人が部屋に入ってきた。……なんか疲れてるような。
孫策さんはその人の手を引いて、椅子へと座らせる。
「はい、冥琳!」
「なんだこれは?というよりもこやつらは何者だ?」
コウキンさん(?)は値踏みするような目を俺とメズールに向ける。
「えっと…はじめまして。俺は火野映司です。こっちは…」
ちらと、メズールに目線を配る。
「はぁ…メズールよ」
メズールも気だるそうに自己紹介する。
「この子がね、自分たちは未来から来たって言ってるのよ」
孫策さんは俺の両肩にポンと手を置く。
それを聞いて、コウキンさんの目が明らかにイラついている。
「はぁ…いいか、雪蓮。私はお前が城から抜け出した分の仕事をやっていたんだぞ。お前は仕事を押し付けるばかりか、その仕事すら邪魔をしたいのかっ!」
疲労のたまったコウキンさんは大きな音を立てて机をたたき、声を荒げる。
それを受けて、孫策さんはひとつ小さなため息をついて、
「落ち着きなさい、冥琳。私にはこの子たちが嘘をついてるようには見えないわ。だからと言って私の一存でこの子たちの処遇を決めたら、冥琳、もっと怒るでしょ?だから呼んだのよ」
「くっ…」
いままでお茶らけてる様子だった孫策さんの言葉に凛とした表情をしてコウキンさんをなだめる。
肩で息をしながらもコウキンさんは椅子に座りなおした。
「それに、私がこの子の言葉だけを聞いてあなたを呼ぶはずないでしょう?それを見て」
孫策さんはさっきコウキンさんに渡した硬貨を指さす。
コウキンさんは手を開いて硬貨を一瞥した途端、目を見開いて固まった。
「どう?」
ややあって、孫策さんがコウキンさんの顔色をうかがいながら話しかける。
そんな孫策さんを無視して、俺たちに目を向け、
「お前、これをどこで…いや、愚問だったな。と言う事は、本当に…?」
「ねぇ!めいりーん!どうだったの?」
無視された孫策さんはコウキンさんの方を掴んで前後にグワングワン揺らす。
「ええい、やめろ!…はぁ。雪蓮、祭殿。これは現代では実現不可能な技術だ。ほかの大陸でもこのような技術ができたとは報告されていない」
「ってことは、この子たちは…」
「未来から来たと信じるだけの価値がこれにはある」
普段そんなに興奮しないであろうコウキンさんが少し鼻息荒くなっている。
…一応、スタートラインには立てたのかな。
公瑾さんは女中さんに命じて人数分のお茶を持ってこさせた。
「なるほど…約二千年後から…」
喋りつかれた喉を潤すため、お茶をすする。
話をひとしきり聞いた公瑾さんは顔に手を当て、何やら考え込んでいる。
「そう言えば、お主はどうなんじゃ?お主もこやつと同じか?」
黄蓋さんは俺が喋ってる最中ほとんど喋っていなかったメズールに話をふる。
そう言われれば、俺もこいつのことは何も知らないんだよな…
明らかに日本人の名前じゃないけど顔は日本人っぽいし…
あだ名か何かかな?
話を振られたメズールはため息をついて、持っていたお茶を置く。
「違うわ。私はこのぼうやより800年ほど前…この時代で言うと1000年後に生まれた存在よ」
「えっ」
思わず数瞬の間に瞬きを繰り返してしまう。
「お前、そうなの?」
「何を驚いているんだ?」
考え事は終わったのか公瑾さんが不思議そうに聞く。
「服装がどう見ても孫策さんたちよりは俺よりだったから勝手にそう思ってました…」
「まぁ、それはそうかもしれんな。とはいえ、お前が別の時代から来たんだ。彼女が別の時代からやってきたとしても何らおかしくはないだろう」
なるほど、そう言われればそうかもしれない。
一人納得していると、メズールは
「あなたたち、勘違いしてるかもしれないけど、私が来たのはこのぼうやと同じ時代よ」
「えっ」
今度は公瑾さんたちが目を見開く番だった。
「お前、それどういう事だよ!」
俺は隣にいるメズールに疑問をぶつける。
「800年前に生まれたのに俺と一緒にこの時代に来た?どういう事?」
「簡単なことよ。私は800年前に一度封印されてあなたの時代に蘇った。まぁ、一日もしないうちにこの時代に飛ばされたわけだけど」
「封印って、お前…」
そんな言葉、SFやファンタジーの中でしか聞いたことがない。
「ちょっと、映司。この子はいったい何者なの?」
「いや、俺にもさっぱり」
ここに来るまでの間、何を聞いてもはぐらかされてばかりで、見た目以上に知ることは何もできなかった。
メズールは孫策さんを見返して、
「あら。私の正体が知りたい?」
メズールは妖艶な笑みを浮かべて椅子から立ち上がり、
「見せてあげるわ」
そう言い放ち、一瞬の間にどこからともなく表れた無数のメダルがメズールの体を覆う。
そのメダルの奔流が消え、そこに立っていたのは
「お前、それ…」
「これが私の正体よ」
そこに立っていたのは、怪物だった。
お久しぶりです。
生きてます。
クウガの方も近いうちに、取り急ぎできたのだけアップしときます。
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オーズと恋姫のクロスです。
今回は現状把握の回です。