No.403650

本日、お稲荷日和。~きらいっ~

夏休みの名物がやってきた!でも、なにやら橘音さんが怯えてる?


第1話 http://www.tinami.com/view/403151
第2話 http://www.tinami.com/view/403636

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2012-04-06 19:01:09 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:383   閲覧ユーザー数:383

いつも閑散としたお稲荷神社の境内がこの夏の一週間、朝限定で賑やかな場に変化した。

 

そして、いつもやりたい放題の橘音さんがこの時間だけは大人しく(布団に包まってぶるぶる震える様に)なったのである。

 

時は夏休みの早朝、朝のラジオ体操の時間。

橘音にとっては悪夢の時間。

 

たいして広くない境内からラジオに合わせて子供達の元気な掛け声が聞こえてくる。

 

その度にこんもり盛り上がった橘音の布団がふるふると小刻みに揺れた。

 

「もう、なんでウチでラヂオ体操なんてやんのよぅ!?」

 

口からだだ洩れの文句も微かに震えていた。

 

「蓉子ちゃんのばかぁ…!わたくしが子供嫌いなの知ってるクセに~!!」

 

布団のなかで控えめに叫ぶ橘音。

 

そう、この状況は間違いなく橘音の孫の蓉子によるものだ。

 

「公園で工事するから、その間ラジオ体操するのに一週間ウチの境内貸してって、町内会長さんが言ってきたからオッケーしたよ~」

 

と昨日突然言ってきたのだ。

 

お礼にと町内会長さんに頂いたのは、ご近所で評判の畠中豆腐店謹製の最高級油揚げ。

 

もちろんその日のうちに、いなり寿司にして食べました。

 

「うぅ…、子供怖い…」

 

子供達の声が聞こえなくなってからようやく涙目の橘音が布団から這い出した。

 

はっきり言って、その橘音の姿の方が怖かったりするのだが。

丸まった布団からズルリズルリと艶やかな女性が這い出て来るなど、まさにホラー映画の世界だ。

 

そのままほふく前進で廊下を進む橘音さん。

フサフサした尻尾の付け根に引っ掛かった布団をズルズル引きずりながら進む橘音さん。

 

もう何処に突っ込めば良いのかわからない状況である。

 

やっとの思いでリビングに辿り着いた橘音を迎えたのは、あまりに酷い姿に呆れ果てる蓉子と……、明らかに怯えた様子の子供がひとり。

 

子供が怯えるのは無理もない。

ギギギと壊れた人形の様に首を動かして橘音が見上げてきたのだから。

 

「なんで子供が居るの?」

 

橘音が地の底から響く様な声でぽつりと呟いた。

 

……よほど怖かったのか、この一言で子供が気絶したのは内緒の話である。

 

 

「だから、転んで怪我したから居間で手当てしてたんだってば!」

 

子供が帰った後、蓉子が孫不信に陥った橘音に事情を説明していた。

 

「で、おばーちゃん。なんでそんなに子供が嫌いなの?」

 

両膝を抱えて体操座りでいじけている橘音に蓉子が尋ねた。

ここまで意味不明に子供を嫌がる理由なんて想像できないし。

 

「だってアイツ等、全力で何するか分かんないんだもの」

 

いや、それっていつもの橘音さんだよね?

 

「耳引っ張ったり、尻尾引っ張ったり、耳引っ張ったり、尻尾引っ張ったり……」

 

壁に向かってブツブツ呟きだした橘音さん。

よほどトラウマらしいです。

 

その後6日間、橘音さんは部屋に引きこもってしまったとか。


 
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