No.403642

本日、お稲荷日和。~たけのこっ~

竹林へ筍を掘りに出掛けた蓉子と橘音さん。そこには山といえば名物のアレが居て・・・・・・?

第1話 http://www.tinami.com/view/403151
第2話 http://www.tinami.com/view/403636

2012-04-06 18:41:37 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:396   閲覧ユーザー数:396

春の穏やかな風がほのかに青竹の香りを鼻先に運び、柔らかな日差しが彼女を頬をやさしく撫でる。

 

天気は快晴。すっごく爽やか。

 

なのに彼女の表情はすっごく険しかった。

その理由は誰の目にも明らかだ。

 

だって……、ねぇ?

 

「ぬあんじゃこりゃあぁ!?」

 

真っ赤なジャージを着込んだ橘音の眼前に広がっていたのは、青々とした竹林……の地面に無残に転がる残骸だった。

 

ぷるぷると震える手で橘音がソレを拾い上げる。

 

それは春、そして竹林といえば言わずと知れた”アレ”だった。

 

皆さん、ご存じの『タケノコ』

 

橘音が拾い上げたのは、確かにタケノコだった。

但し一番、軟らかくて美味しい部分だけが食べられた……。

言い換えれば硬くて美味しくない部分が残った「残飯」。

 

握り締めたタケノコの残骸を橘音の右手が握りつぶす。

そして吼えた。

 

「覚悟せいや、猪ども!!」

 

ここに前代未聞のお稲荷様と猪の抗争が始まった。

 

「嘘を言わないの!」

 

すいません、調子に乗りました…。

 

「ほら、おばーちゃんも!食べられたものは仕方ないでしょ」

 

本気で地団駄を踏んで悔しがる橘音に蓉子は呆れた。

ちなみに蓉子も橘音とお揃いの赤いジャージを着ていた。

 

それにしても、せっかくタケノコを掘りに来てこれではガッカリもする。

 

だから気持ちはわからなくもないが、ちょっとオトナ気ないと蓉子は思う。

 

タケノコは探せばいいのだ、探せば。

 

「ほら、ちゃんと探す!」

 

「えぇ~!?」

 

盛大にぶ~たれる橘音を引きずって、蓉子は竹林をタケノコを探して彷徨うのだった。

 

 

「見つけたぁ!!」

 

竹林に橘音の声が木霊する。

ついでにヤマビコも響き渡った。

何度も何度もしつこく。

 

「ホントに!?」

 

鍬(くわ)を担いで蓉子が駆けつける。

橘音がビシィィ!と指差した先にはタケノコの穂先が僅かに覗いてた。

 

ついでに、だいぶ離れた地点に80cmくらいの焦げ茶色の物体も見つけちゃってた。

 

「猪!?」

 

蓉子の声に反応したのか、ゆっくりと猪が方向転換。

そして、ロックオン。

もちろん標的は橘音と蓉子。

 

「後はよろしくね、蓉子ちゃん!」

 

「ちょっと!おばーちゃん!?」

 

一目散に逃げ出す橘音。

冒頭の威勢はドコヘ行ったのか…。

 

「ナレーションうるさい!」

 

あんたもな。

 

「喧嘩してる場合じゃないでしょ!!」

 

橘音に追いついた蓉子がツッコミをいれる。

 

その間も猪は猛スピードで突進中。

ふたりとの距離はどんどん狭まってゆく。

つまりは追いつかれそうになっている。

 

「おばーちゃん、何とかしてよ!」

 

蓉子がたまらず叫んだ。

 

「無理」

 

あっさり言った。

当たり前じゃんって感じでさらりと。

 

「こんの役立たずー!!」

 

平穏な山野に、蓉子の絶叫が響き渡った。

 

 

西の空が茜色に染まる頃、とぼとぼ歩く蓉子の姿があった。

猪との壮絶なデッドヒートをあまねく全身で物語っている。

 

「し、死ぬかと思った…」

 

全身ぼろぼろの蓉子がポツリと呟いた。

 

「スリル満点だったわねん♪」

 

対照的に満面笑顔の橘音。

すごく、清々しいです。

 

お稲荷神社へ続く長い長い石段を登りきって我が家に到着。

そこには、すっかり顔馴染みの老人達がスタンバっていた。

ジョージとハチだ。

 

「おー!やっと帰ってきたか、お嬢」

 

「おかえりなサーイデス!」

 

「た、ただいま~……」

 

ハイテンションのふたりを相手にする気力もない蓉子。

 

「なんでぇ、バテバテじゃねぇか」

 

「ちょーどよかったデース!」

 

嬉々としてジョージとハチが見せびらかしたのは、獲れたて新鮮の猪。

 

「今夜は鍋だぜ、嬢ちゃん!」

 

「スタミナつきマース!!」

 

「肉!肉っ♪」

 

テンションMAXではしゃぐ老人達と橘音。

 

「もう、猪はイヤ……」

 

蓉子の呟きは、気紛れな風に掻き消されたのだった。

 

 

 

本日のお稲荷神社は宴会場と化しましたとさ。


 
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