No.403568

真・恋姫†無双~恋と共に~ 外伝:こんな暖かな日

一郎太さん

という訳で、アンケート1位に輝いたのは、やっぱりこの娘でした。
いやー、メインヒロインの力は凄いね。

季節も春という事で、ほんわかなお話。
どぞ。

2012-04-06 15:04:04 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:8673   閲覧ユーザー数:6421

 

 

こんな暖かな日

 

 

四月初旬。

半年以上同じ事の繰り返しではあるが、まだ陽も昇らぬうちから、俺と恋の1日は始まる。

 

「――――――朝だぞ、恋」

「……zzz」

 

抱き着いたまま寝息を立て続ける恋の身体を何度か揺すり、そして諦める。着替える為に立ち上がれば、胸に巻きつけられていた恋の腕は腰の辺りまで下り、海老反りのような体勢で恋は引き摺られ、箪笥に辿り着いたところで、ようやく目を覚ます。

 

「くぁ……おふぁょ……」

 

小さな欠伸。目を開かぬままなんとか立ち上がり、もぞもぞと服を脱ぎ出す恋。最初のうちはその光景にドギマギしていた俺も、今ではもう慣れたものだ。

 

「はい、ウェア」

「ん……」

 

共同の箪笥から2人分のトレーニングウェアを取り出し、揃って着替えを済ます。

 

「じゃ、行くか」

「おー」

 

気合の(ない)声を発する恋を引き連れ、俺は外に出た。

 

 

 

<pf>

 

 

 

ランニングと朝の鍛錬を終え、家族4人で婆ちゃんの朝食を食べる。

 

「はい、今日のご飯はこれでおしまい」

 

ニコニコ顔の婆ちゃんが、恋に山盛りの米を手渡す。左手に抱えた御ひつは空っぽだ。

 

「かぁっ!また恋の一人勝ちかっ!」

「なんで張り合ってんだよ。太るぞ」

 

爺ちゃんは何故か恋の大食いに対抗意識を燃やし、俺は既に食事を終え、茶を啜りながら軽くたしなめる。それを見ながらニコニコ顔で、婆ちゃん手製の漬物と共にご飯をかき込む恋。そして、爺ちゃんと恋の分も茶を用意する婆ちゃん。いつも通りの姿がそこにあった。

 

「いってきまーす」

「……いってきます」

 

歯を磨き、制服に着替え、2人揃って出発する。いつものように元気な爺ちゃんの声と婆ちゃんの優しい声に送られて、俺達は学校へと向かった。

季節は春。本日より新学期。学年も最上級生に変わる。空は青く、朝なのに陽射しは暖かい。ゆったりと歩く俺達の他にも、通学路には小学生たちが駆けている。

 

「おはよーっす」

「おはようございます。一刀さん、恋さん」

 

途中、同じくフランチェスカに向かう及川と、妹の流琉ちゃんと出会う。

 

「おー、そういえば流琉ちゃんも今年から中学生だったな。入学おめでとう」

 

見れば、流琉ちゃんは私服にランドセルではなく、近所の中学の制服に、通学鞄を抱えている。

 

「えと、ありがとうございます。制服って、なんだか変な感じですね。ちょっと大きいです」

「そうか?よく似合ってるよ。な、恋?」

「ん……流琉は、可愛い」

「ワイの妹やからな」

 

照れて赤くなる流琉ちゃんは、見ていて微笑ましい。隣の眼鏡が何か言った気がしたが、俺と恋はいつものように無視をする。

 

「流琉ーーっ、こっちだよー!」

「それじゃ、此処で」

 

既に入学式で仲良くなったのか、桃色の髪をした活発そうな少女と共に、流琉ちゃんは中学校の方へと向かった。

 

「流琉は可愛ぇやろ?」

「そうだな」

「手ぇ出したらあかんで?」

「死ね」

「ひどいわー」

 

そんな遣り取りをしつつ。

 

「そんじゃ、クラス替えでも見に行こかー」

「そうだな。今年こそはお前と別だったらいいんだけど」

「……恋は?」

「恋とは一緒がいいな。及川はいらないけど」

「ひどいわー」

 

こんな遣り取りをしつつ。

グラウンドの一角にある、人だかりの出来た場所へとやって来た。掲示板には各クラスごとにその構成員がリスト化され、生徒たちを一喜一憂させている。ゆっくりと人の流れに乗って前に進み、俺達3人はようやく掲示板の前へと辿り着いた。

 

「さて、クラスは……」

 

3人で並んで掲示板を見上げ、名前を探す。だが、数分もしないうちにそれは見つかった。

 

「あった。俺1組だ」

「恋も、見つけた……一刀と、同じ……」

 

自分の名前。次いで3年1組の女子の欄を見れば、恋の名前。

 

「今年は一緒だな、恋」

「ん……嬉しい」

 

微笑み、俺の手をきゅっと握る。少しばかり気恥ずかしいが、周囲の人間は誰も俺達の事なんざ見ちゃいない。俺も、そっと彼女の手を握り返した。

 

「かずピー!ワイも同じクラスやで。これで3年間一緒のクラスやな」

「残念な事にな」

「いかんのいを、表明したい……(←漢字で書けない)」

「ひどいわー」

 

結局、昨年度の後半は昼休みにしか見られなかった光景が、今年度は一日中見られるらしい。さて、これは喜んでいいのかね。

 

 

 

 

 

 

『かずピーと恋ちゃんのカップルは有名やからなー』

 

俺と恋が付き合いだし、2年生の2学期が始まってしばらくしてから、及川がそんな事を言った。その時は何をバカな事をと相手にはせずに流した。高校生のカップルなど、そう珍しくもないだろう。それがたとえ、フランチェスカのような男女比に著しい差があるような学校とは言えども。そう思っていた。

 

「……どうなってんの?」

 

だが、その認識は数か月の時を経て、覆される事となる。

 

「いやー、まさか、北郷夫妻と同じクラスになるとは思わなかったよー」

「えぇ。クラス替えの掲示板を見た時は、本当に吃驚したわ」

「これからよろしくね、奥さん」

 

恋を取り囲むように女子が輪を作り、恋に話しかけている。それを遠巻きに眺めて茫然とする俺に、及川が声を掛けた。

 

「やっぱ、かずピーと恋ちゃんは有名やな」

「……なんで?」

 

俺とは対照的に、何かに納得しているようにうんうんと頷く及川に問う。

 

「そら、高校生のくせに同棲しとるカップルなんておらんやろ」

「前にも話しただろ。うちの爺ちゃんが恋の後見人になった、って」

 

及川だけには2学期が始まってから、(それと不動先輩には夏休みの部活で)恋の抱えていた事情を軽く話してはいた。その時は血涙を流しながら迫ってくるコイツを殴り飛ばしたな、などと現実逃避をする俺に、及川は言葉を重ねる。

 

「せやけど、噂は一気に広まっとったで?」

「マジで?」

「マジで。『魑魅の宴』でも、数回に渡って議題に上がっとったらしいし」

 

なに、その恐ろしげな名前。というか、なんて読むの?

 

「……お前の行く『魍魎の宴』とは違うのか?」

「あっちは『魍魎の宴』の女子バージョンやな。ワイらが学校の女の子の情報を集めとるように、向こうでは学校の男子の情報を収集しとるらしいで」

「……」

「ちなみに、議題に上がった回数はかずピーが1番多いとの事や。死ね」

 

なんとも恐ろしい。

 

「まぁ、不動さんはあんまそういう事を言う性格やなさそうやし、陸上部から広まったんやろな。恋ちゃんなら、聞かれたこと全部答えてくれるやろし」

「……」

 

その発想はなかった。剣道部では不動先輩の令が発せられた為、あまり踏み込まれる事はなかったが、考えてみれば陸上部は恋1人だ。及川の言う通り、恋ならばどんな質問に対してもぽんぽん答えてしまうだろう。だって恋だし。

 

「まぁ、認めてもらえてよかったやん」

「帰ろうかな……」

 

それはともかくとして、一気に恋がクラスに馴染んだ事だけは、喜ばしい。皆に囲まれ、笑顔で応える恋の表情に、陰はない。

 

「北郷くーん、奥さんが呼んでるわよー!」

「……」

 

俺の心には、翳が差したが。

 

 

 

 

 

 

退屈な始業式も終わり、放課後となる。俺と恋はそれぞれ部活がある為、婆ちゃんの弁当を机に広げていた。

 

「邪魔するでー」

「却下、する……」

「ひどいわー」

 

帰宅部のはずの及川もそれに加わってきた。

 

「またアレか?」

「せや、『魍魎の宴』や。今日の議題はひとつしかあらへんけど」

「どうせ、春休みの間に彼氏が出来た女子がいないか、とかだろ?」

 

弁当の包みを開き、早速箸を手にする恋を抑え、水筒のお茶を恋に注ぎながら問う。しかし予想外な事に、及川は首を振った。

 

「甘いで、かずピー。ワイらは始業式やったけど、それよりも大事なイベントがあるやろ」

「そんなんあったっけ?」

「(もきゅもきゅもきゅ)……入学式」

 

恋の答えに、及川は片目を瞑ってサムズアップをする。ぶっちゃけ、キモい。

 

「その通りや!新入生の女子のリサーチ結果をそれぞれ発表するんや」

「またキモいことを」

「……だから、彼女出来ない」

 

恋の辛辣な言葉に肩を落としながらも、及川はもしゃもしゃと購買で買った惣菜パンを頬張りながら続ける。めげない奴だ。

 

「その彼女を、新入生に求めるんやろ。3月までは中学生だった女の子たちや。右も左も分からないカワイ娘ちゃんを、ワイが優しく導いて……ウハウハやな」

「いや、まず出会いまでどうやって行くんだよ?」

「……どーせ、出会い系に走って、流琉に怒られる」

「いやいや、今は携帯没収されとるからな。流石にそれは出来ひんわ」

 

没収されたのかよ。

 

「まぁ、犯罪には走るなよ?」

「たまには、面会に行く……」

「ひどいわー」

 

そんな昼下がり。

 

 

 

 

 

 

部活も終え、俺と恋は家路に着く。紅く焼けた空が地面に長い影を落とし、東の空はその蒼を広げている。

 

「同じクラスでよかったな」

「ん……でも、恋の……勉強出来ないとこがバレる……」

 

少し困ったように笑う。少しずつ、恋の表情も豊かになっている。とはいえ、俺や爺ちゃん達以外には、いまだ分かり難いようだったが。

 

「そんなの気にするな。これから一緒に頑張って、同じ大学に行くんだろ?」

「……頑張る」

 

軽く繋いでいた手を、指を絡ませるように握り直す。

 

「あったか……」

「あぁ、暖かいな」

「ん…」

 

ゆっくりと、陽に暮れる街を歩いていく。周囲の家々からは夕飯のいい匂いが漂い、俺達の食欲を刺激する。

 

「おなか、すいた……」

 

現に、恋は走り出したそうにしているほどだ。だが、2人の時間も大切なのだろう。急いで帰りたいけれど、もっとゆっくり帰りたい。そんな表情が見てとれる。

 

「じゃぁ、走って帰るか」

「ん……」

 

だが、時間はまだまだたくさんある。夕飯を終えれば2人で鍛錬をし、あるいは勉強をし。風呂に入って、一緒の布団で寝る。そんないつも通りの日常が待っているのだ。

 

「勝った方が、おばあちゃんのおかずゲット……」

「俺、道着があるんだけど!?」

 

早速走り出した恋。俺は道着袋を担ぎ直し、その背を追った。

隣に並べば、恋は走りながら笑顔を向けてくれる。

 

「このまま、終わる訳がない……うぅん、終わらせない」

「何か言ったか、恋?」

「……別に」

 

よく聞き取れなかったが、恋が幸せそうなので、よしとしよう。

 

 

 

 

 

 

さて、学年が変わってから数日が経過した。授業は相変わらず恋には退屈らしく、うとうとと舟を漕ぎ始める事もしばしばだ。その度に、俺は恋を起こしてやるのだが。

部活も順調で、新入部員も何人か入ってきた。やはり、全国一位の不動先輩に憧れて、という理由でフランチェスカを選んだ新入生が1番多かったが、どちらにしろ、やる気はあるので不満などある筈もない。俺のような学生が指導をしているという光景に驚いたのを別にすれば、大した問題はないだろう。

また、恋の所属する陸上部にも、多くの1年生が入部をした。秋の新人戦で優勝した恋がいるというのが、理由のほとんどを占めているとの事だ。

 

そんな事は置いておくとして。

 

「それで、恋ちゃんは――」

 

新しい環境でも、2週間も経てば、それなりに仲良しグループというものが出来始めてくる。全体的に仲が良くても、それでもよく集まる組合せというものはあるものだ。部活、出身中学、趣味、性格――様々な要素がそこには含まれる。

 

「あー、やっぱり?北郷君に似てるしね」

 

恋の場合はその性格も相まって、クラスのマスコット的な立ち位置ではあるが、それでも、その例に漏れず、3人の同級生と集っている光景がよく見られた。

 

「じゃあ、こっちのキャラとかどう?」

 

見た目は大人しげな3人のクラスメイトだが、どうもマンガやアニメが好きなようで、よく昼休み等にも1冊のマンガを広げてあーだこーだ談笑している。そこに、最近恋も混ざるようになった。

 

「恋ちゃんも仲良しさんが出来たようやな」

「そうだな」

 

窓際の最後尾という絶好のポジションにて、頬杖をつきながらその光景を見守り、ひとつ前の恋の席に座った及川と会話をする。

 

「それにしても、男子が2人いうのも、やっぱ切ないわ」

「最初は大はしゃぎしてたくせに、よく言うよ」

「まぁ、ワイらが共学化してから最初の学年やから仕方ないけどなー。でも、やっぱ下級生の方が男子の割合は多いて」

「そりゃそうだろ」

 

そんな取り留めのない遣り取りをしつつ、恋を眺める。机のひとつの辺から身体を乗り出して、1冊のマンガに見入っている。そういえば、俺はあまりマンガを持っていない。前の環境もあり、恋だってほとんど読んだ事がないだろう。興味津々なのかもしれない。

 

「今度、何か買ってくるかな」

「なんか言うた、かずピー?」

 

爺ちゃんから貰う小遣いは、ほとんど手をつけていない。恋とデートをしない訳ではないが、たいていが食べ放題に行って、そのまま直帰するくらいだ。少しずつ残った小遣いが溜まっていくのも当然といえば、当然である。

 

「なぁ、及川。オススメのマンガってあるか?」

「ワイの?せやなー……やっぱ井上よ――」

「ちなみにエロ本を挙げたら、恋を伝ってクラス中に広まるから覚悟しておけ」

「――しひ……井上〇けひことかやなー」

 

馬面の漫画家を挙げられてもなぁ。

 

 

 

 

 

 

それが起きたのは、5月の連休も近付いた、4月末の土曜日の事だった。だいぶ気温も上がり、剣道着を着る事に苦しさを覚え始めた頃だ。

いつものように午前中の部活を終え、道着から制服に着替える。先に部活を終える恋は、毎日校門のところで待っていてくれる。

 

「お待たせ、恋」

「ん……」

 

二人並んで家路に着く。毎日飽きもせず同じような会話を続けるが、実際に飽きないのだから仕方がない。

 

「……一刀」

 

住宅街と市街地の分岐の辺りに来た頃だ。恋が、俺の手を引いて歩みを止めた。

 

「どうした?」

「今日は……ちょっと、行きたいとこがある」

 

恋から誘ってくるのも珍しい。

 

「家に帰ってからじゃダメなのか?」

「それでもいいけど……すぐ帰るから、いま行きたい……」

 

どうやら食事ではないようだ。いや、婆ちゃんの飯が待っている事が分かっているのに、食事に誘う恋ではない。では、いったい何処なのだろう。

 

「…………ダメ?」

「駄目じゃない!…………はっ!?」

 

上目遣いの恋に勝てるはずもなく、俺は頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

街の中心部へ向けてしばらく歩くと、一軒家が居並ぶベッドタウンのひとつ内側に、マンションや大型スーパーなどの林立する場所に出た。さらに中心へと向かえば、駅やデパートなどがある。街に遊びに行く時はいつも通り過ぎる筈のそこで、恋は足を止める。

 

「ちょっと、待って……」

 

スカートのポケットをゴソゴソと漁り、1枚の紙片を取り出した。

 

「……こっち」

 

どうやら、それは地図らしい。その紙と周囲のランドマーク的なものを見比べながら、進み、曲がり、そしてひとつのマンションへと到着した。

 

「んと……」

 

紙を見ながらオートロックのドアの前にある、インターフォンで部屋番を押し、住人の反応を待つ。

 

『はーい』

「んと……来た」

 

このような呼び出しをするのは、世界がいくら広いとはいえ、恋くらいだろう。ただし、これが恋をよく知る相手でなければ失礼に値する。少し教育しなければ。

 

『待ってたよ、恋ちゃん。あ、北郷君もいるんだ』

 

どうやら、インターフォンにはカメラも備え付けられているらしい。

 

「えっと……恋に頼まれてついて来たんだけど、俺は此処で待った方がいいか?恋はすぐ帰るって言ってるけど」

『んー……まぁ、恋ちゃんに貸すって事は北郷君にもバレるって事だし……いいよ、入って頂戴』

「そうか。なんだか悪いな」

『いいってば』

 

電子音が鳴り、自動ドアが開いた。

 

『じゃ、どーぞ』

 

どうやら級友の家らしい。声だけだと名前が分からない。まぁ、恋を呼び出したのなら、いつもの3人の誰かだろうと見当はつくが。

エレベーターで先ほどの部屋番を押し、目的の階に向かう。廊下に出れば広い間隔でドアが並び、(当然だが)家族サイズのマンションである事がわかる。

 

「いらっしゃーい」

「ん……」

「えっと、お邪魔します」

 

ドアが開けば、先の予想通りの人物がいた。眼鏡をかけた、黒髪で知的な雰囲気を持つクラスメイトだ。言ったら悪いが、知的とは若干遠い位置にある恋とは話が合うのか不安だが、どうせマンガを通じて仲良くなったのだろう。というか、口調がイメージと違う。

 

「あ、剣道着は玄関に置いといてくれていいから」

「それじゃ、遠慮なく」

 

言葉に従い、邪魔にならない程度に玄関の端に置く。恋はとてとてと彼女の後に従い、俺もそれに倣った。

 

「こっちだよ」

「ん……」

 

友人・恋・俺の順で進み、彼女の部屋に辿り着く。扉を開いて部屋に通されれば、

 

「すごい……」

「うぉ……」

 

壁の一面を覆う程の本棚に、ぎっちりとマンガが並んでいる。そして床に視線を下ろせば、そこそこの大きさの段ボールに、本が何冊か詰められ、段ボールのすぐ傍にもマンガが積み上げられていた。

 

「もしかして掃除の途中だったのか?」

 

そうだったら申し訳ない。早々に用事を済ませ、帰るように恋に言わねば。

だが、彼女は首を振り、笑顔で口を開く。

 

「違うよ。これはね、恋ちゃんに貸す本をまとめてたの」

「いっぱい……」

 

………………………………………………え?

 

「もしかして……これ全部?」

 

100冊とまではいかなくとも、数十冊はある。

 

「ん……恋1人だと大変だから、お願いした……」

 

箱は1つしかない。俺が持って帰るのか?おい、恋。目を逸らすんじゃない。こっちを見なさい。

 

「……ダメ?」

「……………………駄目じゃない」

 

上目遣いの恋に、俺が勝てる訳がなく。

 

「あははっ、いつもはクールな北郷君でも、恋ちゃんには甘いのね」

「うるさい」

「はいはい」

 

頑張って作り上げてきたイメージが崩れる日は、そう遠くないと思った。

 

 

 

 

 

 

土曜日、うららかな午後。

 

「んぎぎ……」

 

大きさの割に重量のある段ボールを抱え、俺は歩く。

 

「……一刀、だいじょぶ?」

「だい、じょぶ……」

 

腕の中には段ボール。段ボールの上には、道着袋。

 

「なぁ、恋」

「……なに?」

 

隣を歩く、身軽な恋に問う。

 

「最初から、俺に運ばせるつもりで借りただろ」

「……そんなこと、ない」

 

こら、俺の眼を見て言いなさい。

 

「……教室で見せてもらった、本に書いてた」

「何が?」

「彼女の荷物を持つのも……彼氏の、お仕事」

 

『彼氏』という単語を言うまでに、少しだけ戸惑いが見られた。これだけ一緒にいながら、意識すると恥ずかしいのだろうか。

 

「……ダメ、だった?」

 

今度こそ、申し訳なさそうな眼で問う。片方でも俺の手が空いていたら、それは恋の頭にまっすぐ伸びていただろう。だから俺は恋に近寄り、身体を傾けて、コツっと軽く頭をくっつける。

 

「そんな事ない。恋は俺の彼女だからな」

「ありがと……それと、かっこいい」

「そっか」

「ん…」

 

季節は春。暖かな昼下がり。俺と恋は、並んで歩く。二度と帰って来る事のない、今日という日を噛み締めながら。

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

「………………(パラリ)」

 

恋が珍しく新しいものに興味を持ったという事で、爺ちゃんの計らいにより午後の鍛錬は休みとなった。

 

「………………(パラリ)」

 

俺と恋の部屋で、恋は畳に腹這いに寝転がり、借りてきたばかりのマンガに目を通している。

 

「………………(パラリ)」

 

未読の本は段ボールに入ったままで、読み終わった本は、恋の横に積み上げられていた。

 

「………………(パラリ)」

 

恋がページを捲る音だけが聞こえるなか、俺はといえば、ただ茫然としている。

 

「なぁ、恋……」

「……なに?」

 

俺の呼び掛けに、恋はページを捲る手を止めて、俺を見上げた。

 

「こいつらって……どっちも、男だよな?」

「……ん」

 

俺の手には、何気なく手に取った1冊の、開かれたページ。

 

「ジャンルは?」

「………………恋愛?」

 

まさか、恋がこの世界の大御所にまで上り詰めよう事など、この時の俺に、想像出来る筈もなかった。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

という訳で、恋ちゃんがアンケ1位でした。

suga様のコメントに、『恋人になった頃の話しが読みたいです』とあったので、こんな話に。

 

ちなみに、以下、ランキング。

1位:恋ちゃん (11票)

2位:ひなりん (10表)

3位:稟ちゃん (8票)

4位:オリジナル(7票)

5位:風ちゃん (5票)

 

………………あれ?

風って、サブヒロインだったよね?

最後は1枚絵に登場するくらい、頑張ってたよね?

 

………………………ま、いっか。

 

そんなこんなで、恋ちゃんSSでした。

 

というか、オリジナルの定義を変えないでくれw

「オリジナルの〇〇もの」とかって※があったけど、違うと思うんだ(´・ω・`)

 

まぁ、いいや。

 

そんなこんなで、これからバイトに行ってきます。

今日は6時間半と短め。

帰国してからずっと喉が痛いので、ありがたい。

 

ではまた次回。

 

バイバイ。

 

 

 


 
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