ファンガルド星の首都・ラミナシティ。
ありとあらゆる種族が入り乱れるこの大都会、その地面の下を縦横無尽に走る地下鉄は
今日も人やロボットでごった返していた。これはそんなある日の出来事である…。
その日のブルー・ラインには現金輸送列車が運転されていた。
より安全に、確実にこうした貴重品を輸送するための手段として、
政府や市、銀行などがこうした現金輸送列車を設定しているのもこの地下鉄の特徴だった。
そしてその日運行されていたX9168現金輸送列車は、車両いっぱいに金塊を載せ、
金融街から政府の管轄下にある『ファンガルド・セントラルバンク』を目指していたのだった…。
その頃、ラミナメトロ総合指令室。
「X9168列車はいまどの辺りだ?」
指令長がX9168列車の位置を尋ねると、近くに座っていたテラナー形の女性ロボットが答える。
「はい、X9168列車は現在、ジラフ・アベニューを通過。セントラルバンクへはあと25分程度です」
「今のところ異常はないようだが…最後まで油断は禁物だぞ」
「了解。X9168、引き続き警戒を怠らぬよう」
一方その頃、X9168列車の運転室内では二人のロボットが会話をしていた。
一人はアルマジロ形のブレックスという男性、もう一人はフェレット形のサマンサという女性型のロボットだった。
「ブレックス、どうなの?」
「ああ、指令室からは引き続き警戒しろとさ。まあここまで異常はないし大丈夫だろ」
二人には自信があった。長年このような現金輸送列車を担当してきたのも一つではあるが、
今まで二人が乗務した現金輸送列車は特に変ったトラブルもなく定刻どおりに運行されていたからだった。
ましてや、こういった正確さと安全性が両立される仕事だ。こういう仕事は必然的にロボットのほうが向いているのである。
二人はすっかり安心しきった様子であった、が次の瞬間、サマンサが線路上に何かを発見した。
「ねえ、今何か動かなかった?」
「まさか。近くに潜んでいる小動物か、保線用のマリオネット(遠隔操作ロボット)だろ」
しかしその『影』はしだいに大きくなっていくと同時に一つの形を作り上げていった。人影だ!!
「…う、ウソだろ!?なんで人がこんなところに…」
慌てて列車のブレーキをかけるブレックスは、サマンサに向かって叫んでいた。
「サマンサ!指令所に連絡だ!線路に人がいる!!」
「わ、わかったわ!…こちらX9168、こちらX9168…指令室、応答願います!」
しかし、車中でそんなやり取りが行われている間に、その人影は明らかに不穏な動きを見せる。
右腕には、銃だろうか。大きな物体が取り付けられていた。
そしてその人影は接近するX9168列車に向かい…『それ』を振り下ろしたのだ。
列車の前頭部は衝撃で脱線、車体をレールとトンネルの外壁に擦り付けながら滑り続け、
およそ500メートルほど進んだところで、その車体をトンネルの中に横たえる格好で停車した。
運転室は見事に潰されており、そこにいたブレックスとサマンサも修理不能な状態にまで破壊されていた。
『X9168!何があったの!?X9168、お願い!応答して!!』
無線機の向こうでは、オペレーターが叫んでいたが、その声は二度とブレックスとサマンサの耳に届くことはなかった…。
X9168列車の内部は、脱線時の衝撃で電源を失い薄暗かった。
その内部には金塊が満載されていたが、その中に先ほどの人影が混じっていた。
人影はありったけの金塊をその異形の右腕で掴み取るや、左のポケットから通信機を取り出していた。
「…こちらシザーハンド。ロサ・ギガンティア、聞こえてるか?」
『こちらアラクル。聞こえてるよ、どうぞ』
「今、列車ン中だ。金塊をたんまりと積んだ列車のな…予想通り、中はキンキンに詰まった金塊ばっかりだ」
『金塊…?まあ、せいぜい嗅ぎつけられてボコボコにされないことを祈るよ』
「いちいち突っかかる野郎だな…。オレ様のことなら心配すんな」
『ま、期待せず待つよ。それじゃ』
そう、なにやら怪しげな会話を終えた彼女こそ、ローゼン海賊団の中でも二番目に実力を持つ女海賊「シザーハンド」だった。
シザーハンドはこの日運転されるX9168列車を脱線させ、金塊を奪うつもりでいたのだ。
彼女は、予め引き連れていたシャークロイドたちに金塊を運ばせ、列車の内部が空になったのを確認すると…。
「さて、中身を全部抜いたらこいつはタダの箱だ。もう用はねえ!!」
右腕からレーザーキャノンを出し、1両、また1両、トンネル内に横たわる車両を爆破していったのである…。
翌日、喫茶『カフェ・ラ・ヴォルペ』。
そこには、ちょうど授業を終えた『三人娘』こと九段下久遠、ジャネット・エマソン、デイジー・ハインツが、
午後のコーヒータイムを楽しんでいたのだが…。
『先日深夜、ラミナ市内の地下鉄で運行されていた現金輸送列車が、何者かに襲撃される事件が…』
「あーあ、またこんな事件起きるし…」
「本当だよね。でもさ、確かあの地下鉄ってセキュリティは万全だから大丈夫なんじゃない?」
と、空気を読まないデイジーの発言に、
「大丈夫じゃないからニュースになってるんじゃないか…」
と、クオンはツッコミを入れずにはいられなかった。
『…列車に積まれていた金塊は全て強奪され、車両は全て爆破された模様です。この事件で列車を運転していたロボットのブレックス・バートルさんとサマンサ・カーチスさんが死亡した模様で、警察は原因を究明しています…』
「やだ!爆破までしちゃうなんて…」
「ほら、だから言ってるんだよ。こんな大事になってんだから…」
と、言いかけたところでクオンの両耳に内蔵された通信機がアラート音を発する。K-9隊出動のサインだ。
「あ、また『例の着信音』?」
「う、うん…」
「大変だねクオンちゃん…代わってあげようか?」
「そうだよ、クオンちゃんはゆっくり休んで休んで」
またまたデイジーとジャネットがぶっ飛んだ発言をする。すかさずツッコミを入れるクオン。
「あのさぁ、君らは『犬』でもなきゃロボットでもないでしょ?ましてや警官でもないのに代われるわけないじゃん」
「あはは…そーでした」
「まったく…」
と、ぶつくさ文句を言いながら立ち上がるクオンは、すぐに店のカウンターのほうに向き直る。
だがその光景を見てクオンは一気に脱力した。煌月陸斗とモニカ・マルティーニが抱き合っていたのだ!!
「な、何やってんのリク君!モニカちゃんも!」
「「え!?」」
「イチャイチャしてる場合じゃないよ、出動だよ出動!!」
クオンの怒号の前に慌てるリクとモニカ。
「え、あ…、そ、そういえばそうだった!?ごめんモニカちゃん、ボク行かなきゃ」
「そ、そうだよね、出動なら仕方ないよね!」
リクが急いで準備をし、クオンのもとに駆け寄ろうとしたそのときである。
「あ、待って!」
モニカは突然リクを呼び止めると、ゆっくりとリクのほうへ近づいていく。そして…。
「ケガ、しないでね…チュッ☆」
と、リクの頬にキスをしたのである。その横ではクオンが、
「あ゛ーーーーーーーーーッ!!もうこのバカップルはーーーー!!!」
と叫びながら、地団駄を踏んでいたのだった…。
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ローゼン海賊団サイドのキャラも増えてきたので、ここらで一筆。
さあ、どう戦うK-9!!
○補足
現金輸送列車を運転していたロボットについて。
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