No.400809

時には子犬のように(下)

お待たせしました。ようやく下ができました。とはいえ、なんかかなりイマイチなできになってしまいましたが……コレジャナインダヨナー。キャラクターが勝手に動いてくれなかったし、途中から心理描写も風景描写も投げ出してただ会話を繋げただけになっちゃったし。ちゃんと着地点を考えなかったのが問題かな。設定自体は気に入ってるのでそのうちリメイクする機会があればちゃんと作り直したいところです。

2012-03-31 23:57:27 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:375   閲覧ユーザー数:375

「あ、そのミニハンバーグちょうだい」

「お前の弁当にも入ってるだろ」

「もう食べたー」

「そう言いながら人の弁当に箸突っ込むんじゃねえ!」

 2人のそんなやりとりを見ながら、里子はただひたすらにパンに齧りついた。

里子はあんぱんが好きだ。特に舌触りの滑らかなこしあんを好む。学食のパンは学校が契約しているパン屋が出張販売しているのだが、そこのあんぱんのあんはしっとりとしたなめらかさがあり、里子の嗜好と非常にマッチしている。

「そのハンバーグはわたしに食べて欲しがってるんだよ。だからわたしが食べる権利がある!」

「んなわけねえだろ!いい加減にその箸を止めろっての!」

 幸せそうにパンを齧りながら、それにしても、と里子は思う。

いつもは一人で昼食を取っていたので、もくもくとあんぱんの味を楽しむくらいしか食事に楽しみがなかった。

 ちらり、と栞をうかがう。

執拗に太一の弁当からご馳走を頂こうとするその表情はとても活き活きとしていた。まるで食事中の主人の足元で食べ物をねだる子犬みたいで、見ているだけでもなんだか楽しい気分になる。

こういうじゃれあいも悪くないかも。

そう思っていると、隣から「だーもう!」と迷惑げな声があがった。

「いい加減にしろ!そんなに欲しかったらなあ欲しいなりの要求の仕方があるだろ」

 太一はそう言うなり、一口大のハンバーグを箸で摘むと、左手を栞に向かって差し出した。

「……?」

 太一の意図が読めずに、里子は困惑した。要求の仕方、というのにされるようが手を差し出すというのが理解できない。

しかし次の瞬間、その疑問はすぐに氷解した。

「はい、お手」

「わん」

「ぶっ!?」

 栞が躊躇せずに右手を太一の左手に乗せる。それはまさしく犬に躾ける「お手」そのものだった。

「おかわり」

「わん」

「伏せ」

「わん」

 次々と太一の指示をこなす栞はまさしく犬のようである。それも楽しんでやっているようで、もししっぽがあれば勢い良く左右に揺れているであろう。

「ほいよ」

「あむ」

 最後にハンバーグを差し出すと、栞はパン食い競争さながらに食らいついた。

 おいしそうに頬張る栞をよそに、里子は未だに呆けていた。

 こんな犬みたいなことをして平気なのか?

いつもこんな感じなのか?

 そんなことをぐるぐる考えているうち、ふと太一と目が合った。

「ん……」

「……?」

 太一は弁当箱からハンバーグをもう一つつまみ出すと、今度は里子に向けて差し出した。

「お手……あだだだだ!?」

「きゃあ!?」

 差し出した右手を栞が思い切り噛み付いた。

「ふぁにふぁとこちゃんにふぁでふぇをふぁふぃてるのふぁなーむっふりスケベ(なに里子ちゃんにまで手をだしてるのかなーこのむっつりスケベ)」

「いや、日暮さんも欲しいのかなーとつい……あだだだだ離せ離せー!」

「ふぇ!?」

 再びずぽん、と音が鳴る勢いで栞の口が離された。

「だからってお手させることないじゃないの。あれやっていいのはわたしだけ。他の子にやるのは失礼でしょ?」

「ま、まあそうだが……そうだな。すまん日暮さん」

「え……ああ、いいですよ。大丈夫です。平気ですから」

 そうは言ったものの、里子はまだ動揺していた。それに、「お手」がどうのこうのではなく、いきなり水を向けられたことの方が驚きであった。

里子はこうした友達付き合いをしたことがまったくない。だからこういう時にどう話せばいいかがわからなかったのだ。

その後も栞と太一でやいのやいのと騒いではいたが、里子はなかなか会話に参加できずにいた。何度か栞が話を向けてくれるものの、気が付くとすぐに栞と太一の2人へと会話の中心が移ってしまう。

せっかく高校に進学して、周囲の環境も変わったのに。また昔と変わらないのか。

ずっと、1人でいるのか。

……それは、いやだな。

 2人のやりとりを聞きながら、なんとか会話に混じれないかと糸口をさがす。

とはいえ、同じクラスの栞はともかく、太一とは初めて会ったばかりだ。その上、栞と太一は昔からの馴染みで会話に遠慮がない。

これに自分も馴染むにはどうすれば……と考えたところで、栞を見た。

今、栞は太一に文字通り噛み付いている。また太一が栞の機嫌を損ねたのだろうが、もう太一の腕には数ヶ所の噛み跡ができていた。

(あんなに噛みついてる……)

 噛み癖でもあるのか、栞はなにか腹立たしいことがあるたびに太一を噛んでいた。太一も痛がってはいるが、別段迷惑というわけでもない。

仲がいいからこそ噛みつくし、噛みつかれているのだろう。それを真似れば、あるいは……。

 かたん、と椅子が鳴る音に、太一と栞は同時に目を向けた。

「?」

「里子ちゃん?」

「……」

立ち上がった里子はふら、と太一の後ろに廻る。

「あ、あの、日暮さん?」

 そして。

かぷり、と。

太一の頭に齧りついた。

「ちょ、里子ちゃん!?」

「えっと……なにこれ?」

 太一は別段痛くもない刺激に困惑し、栞は普段の里子からは考えられない行動に混乱していた。

 そんな2人を他所に、里子はひたすらあむあむとかぶりつく。

そして、はっと気が付いたように目を見開くと「うきゃぅ!」と、子犬の鳴き声のような声をあげて太一から離れた。

「ご、ごごごごごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

「いや、いいんだけどさ……」

 頭をさすりながら、太一は縮こまる里子へと近づいた。

「なんでいきなり噛みついたのかな?」

「ええっと……その」

 おろおろと挙動不審になる里子は赤面しながら、栞を見る。

やがて意を決したようにふぅ、と息を吐くと、ゆっくりと喋りだした。

「栞さんが……あの……太一さんをよく噛んでるので……」

 2人に近づけるかな……と。

「おいしいのかな……と」

「……」

「……」

 ぽかん、と。

まるで時間におき忘れられたかのように2人は固まってしまった。

そして、数秒が経ったあと。

「ぷっ」

「あっはははははははは」

 突如として笑い声があがった。

「くきゅ~~~~……」

 里子はか細い声を出して、ますます赤面した頭を隠すように小さくなった。

「いやいや、おいしくないよ。うん、おいしくない」

「そうそう。むしろこいつのは昔からの噛み癖が残ってるだけだから」

 そう言って2人が笑い合っていると、不意にチャイムの音が響いた。

「あ、予鈴。もうお昼終わりか」

「えー残念」

 むくれながらも栞は未だに小さくなっている里子を立たせる。

「ほら、里子ちゃん。そろそろ教室に帰ろう」

「く~~~~~」

「じゃあねー太一。また後で」

「ああ、また。あと、日暮さん」

「くぅ?」

 栞になかば抱きかかえられた里子は、太一の声で振り返った。

「よかったらまた来てくれるかな。こっちはいつでも大丈夫だから」

「ん……」

 また来てくれるかな。そう言われたのは初めてだった。前までは考えられなかった言葉をかみ締めながら、里子ははっきりと、こう答えた。

「は、はい!よろこんで」

 


 
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