No.400778 機動戦士ガンダムSEED白式 09トモヒロさん 2012-03-31 23:07:30 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:3746 閲覧ユーザー数:3636 |
宇宙の傷跡
アルテミスから脱出し、アークエンジェルへと帰還した一夏は、その後、マリューとナタルに艦長室へ呼び出され、また険しい顔のナタルと対面していた。
「さて、織斑 一夏。ザフトとアルテミスのおかげで、うやむやになってしまったが、今度こそ、話してもらうぞ」
「話すって…何をです?」
「とぼけるな!あの白式の事だ。あんなものが貴様個人で作れるとでも思っているのか?あれは今の我々の技術を超えている」
「…どういう事です?」
「いかなる武装や電子機器にも対応できる能力に、ビームにも耐えられる装甲。こんな馬鹿げたMSなど組織立って作らなければ到底できるものではない!」
「一夏君…あなたは本当に何者なの?」
一夏は俯いて黙り込む。自分は異世界から来た人間だ。しかし、その事を話してしまっていいのか一夏は悩んでいた。すると、突然、艦長室のドアが開いた。
「一夏は異世界なんだとよ」
「ムウさん!?」
「「フラガ大尉!」」
入ってきたのはムウだった。通路から流れる様に入ってきたムウは一夏の横に立つ。ナタルの険しい視線はムウへと移り変わる。
「大尉!こんな時にふざけないでください!」
「少尉、俺はいたって大真面目だぜ?それに、こんなMS今の技術力じゃ無理なんだろ?」
「ムウさん、どうして?」
「まぁ、いずれ分かっちまう事だ。だったら、今話して信用してもらうのが一番だと、俺は思うがね」
一夏は何故と言った顔でムウを見上げるが、ムウは一夏の頭にポンっと右手を置く。ナタルに関しては、未だに納得していない表情だった。ムウはそれに苦笑しやれやれと言わんばかりに肩を竦める。
「論より証拠。一夏、お前の白式を見せてやろうぜ」
「でも、本当にいいんですか?」
「艦長達なら大丈夫だ。それにお前も疑われたままじゃ息苦しいだろ?アレを見せれば、一発でOKだ」
「大尉は私達に何を見せるつもりですか?」
マリューは首を傾げ、その表情を見たムウはイタズラ好きの子供のようにニヤリと笑っていた。
「そりゃ~見てっからのお楽しみという事で」
*
ムウが先導し、MSデッキへマリューとナタルを引率する。一夏はまだ宇宙に慣れないのか、その後ろをあたふたと追いかけるのにやっとだった。実際、ここに来る途中で2、3回曲がり角で止まれず、通り過ぎ、その度ナタルに怒られた。
MSデッキのドアが開き、マリューとナタルの頭の中に共通の疑問が浮かび上がる。
「ッ!?、白式がない?!」
「フラガ大尉、白式はいったいどこへ?」
(何で俺に聞くかねぇ?)と内心思いながらも、自分と同じ反応を示すであろう二人にニヤケ面で肩を竦める。因みに、コックピットの中でストライクのOSの整備をしていたキラは、その様子を見ており、ムウの魂胆を見抜いて、はぁ、っとキーボードを打ちながらため息をつく。
その事に気付かない一夏はガントレットに手をかざし、ムウに準備OKの視線を送る。ムウが親指をグッと立てると、一夏は目を閉じ、ガントレットに意識を集中させる。そして、ガントレットからまばゆい光が放ち、一夏の目の前に白式が現れた。
…もちろん、マリューとナタルの反応は。
「「きゃあ!!?」」
「!?わわ!マリューさん!ナタルさん!」
案の定、驚きのあまり、無重力状態のMSデッキに浮かび上がり、 しかし、ソレを一夏が引っ張り戻す。ギリギリ一夏も引っ張られそうになるが、靴底のマグネットが意外と強力だったので、何とか巻き添えをくわずにすんだ。
「あ、ありがとう…」
「すまなかった…」
「二人とも下がスカート何ですから気を付けてください」
「あ、あまりそういう事は言わないの、一夏君!」
一夏のスカートと言う言葉に顔を赤くするマリューとナタル。一応、スカートの下にタイツを履いているものの、はっきり言ってそれだけでは、確実にその下のものが透けて見えてしまう。
ムウにいたっては、ちょっと残念そうであった。
「それにしてもこれは…一夏君のガントレットがMSになったみたいだけど」
「だから言っただろ?一夏は異世界人だって。こんな事、この世界じゃ、こいつだけだろ」
「そうですね…」
そして、三人は白式へ視線を移す。この場の誰もが、そのオーバーテクノロジーの塊に目を奪われる。
*
あの後、一夏はキラと合流し、ムウ、マリュー、ナタルとはMSデッキで別れた。
「本当に良かったの?一夏?」
「ええ、いいんです。ムウさんも言ってましたけど、少しでも信用してもらうために、白式を見せたんですから」
キラは一夏がマリューやナタルの目の前で、白式を展開した事に、少々冷や汗をかいていた。しかし、そんなキラの心配は裏切られ、マリューもナタルも一夏が異世界人である事を受け入れた。
そして、一夏とキラが食堂へ現れると、いきなりフレイがキラの前へ出て、深く頭を下げた。
「あ、あの、キラ…この間はごめんなさい!私、考えなしにあんな事言っちゃって…」
「あんな事?」
「アルテミスでキラがコーディネーターだって」
「…あぁ、いいよ別にそんな事、気にしてないから。本当の事出しね」
「ありがとう」
そう言うとフレイはサイを見る。サイはそれに目を背ける。一夏はソレを見て、この謝罪が上辺だけのものだと悟った。しかし、現にフレイはこうして謝り、これ以上、彼女を責める事はできなかった。
キラはフレイから視線を外すと、机の上のコップに移す。キラは今の事態を深刻に考えていた。
それは水。
アルテミスではろくに補給が受けられず、無駄足を運んでしまい、アークエンジェルでは水不足が問題となっていった。
(これからどうするんだろ?マリューさん達…)
「おい、お前達!」
キラが考えに老け込んでいると、突然、後ろのドアが開く、そこに立っていたのは、さっき別れたばかりのムウだった。
「ちょっとブリッジに来い」
*
「補給が受けられるんですか!?」
ブリッジへ集まった一夏達にムウから、朗報が伝えられる。それは、今の水問題が解決できるというのだ。しかし、ムウ本人は少し苦い顔をする。そして、やっとその重たい口を開いた。
「受けられると言うか…勝手に受けると言うか…」
「私達は今、デブリベルトに向かっています」
デブリベルト。人類が宇宙進出の時から、溜まりに溜まった宇宙のゴミの溜まり場。そして、そこに流れ着くものも様々である。
ソレを聞いたサイは絶句した。
「デブリベルトってことは…ちょっと待ってくださいよ‼まさか!?」
「君は勘がいいねぇ」
「デブリベルトって、何なんです?」
話しの流れが掴めない一夏は、手を上げ、質問する。この世界の事を知らない一夏にとっては何の事か分からない。
マリューは一夏への説明も兼ねてデブリベルトへ向かう理由を述べた。
「まさか、そこから補給しようって…」
「仕方ないだろ?そうでもしなきゃ、こっちが保たないんだから」
デブリベルトには、撃墜された戦艦なども漂っており、様は、そこから、水や食糧、機材などをかき集めてくるというものだった。トールは心底嫌な顔をするが、ムウの言うとおり、火事場泥棒のような事をしなければ生き残れない。
「分かりました」
「「「「一夏!?」」」」「「一夏君!?」」
それに真顔で答える一夏に一同は絶句した。
「たしかに、そんな墓荒らしみたいな事は、本当はよくないのかもしれないけど…。俺達が生き残る為には、必要な事なんですよね?マリューさん」
「そうね、その時には、貴方達にポッドでの船内活動を手伝って貰いたいの」
キラ達は、一瞬、一夏に視線を送り、頷くと、各々が「了解」とだけ答えた。
*
「…ッ!?」
「コレって…」
一夏達の目の前に、信じ難い光景が漂っていた。一夏から見たそれはまるで宇宙の海に一つの小さな大陸が島のように浮かんで見えただろう。
「ユニウスセブン…」
ボソっとキラの口からその言葉が漏れる。それにピクリと反応したのは一夏だった。
「ユニウスセブン?」
「この戦争の最も大きい傷跡さ…」
一夏がユニウスセブンを見つめていると。トールから通信が入った。一夏はそれに「どういう意味です?」と聞き返す。
「ここから、ナチュラルとコーディネーターとの戦争が始まったんだよ…」
「地球軍が、このユニウスセブンに核を撃ち込んでね」
トールに続けてミリアリアが答えた。一夏は絶句した。あのユニウスセブンにはたくさんの人がいたはずだ。それなのに、地球軍はあろうことか無関係な人達を殺したのだ。
一夏の手が自然と強く握られていく。
怒りに震える一夏に白式のハイパーセンサーがなのにかを捉えた。一夏はそこを凝視してみると。ボロボロの船が一隻、エンジンがやられたのか静かに漂っていた。
「キラさん!あれは?」
「民間船?撃沈されたのかな…」
beーbeーbeー!
ストライクと白式がそのボロボロの民間船に近づこうとしたその時、コックピットにアラートが鳴り響く。民間船の陰から、一機のジンが出てきた。白式とストライクは隕石の後ろへ隠れ、トール達のポッドもその後ろへ隠れる。
「ザ、ザフトが何だってこんなところに?!」
トールはガチガチと震えた声になっていた。そこにちょうどサイのポッドが接触しており、サイがそれにこたえる。
「分からない!ここは、一旦アークエンジェルに戻ろう」
「そうですね…気づかれない様に行きましょう」
「アークエンジェルが見つかって、増援を呼ばれたらアウトだ」
そう言って一夏達は、あのジンが少し離れてくれるのを待つ。しかし…
ジンのモノアイがギロリとこちらを睨み、そのまま単発式のライフルを撃ちながら向かってきた。
「バカヤロー!なんで気づくんだよ!?」
キラはストライクのビームライフルをジンに狙いを定め、そしてトリガーを引き、銃口から放たれたビームはコックピットを直撃し、バッテリーまで貫通した。ジンは無残にも、このデブリの仲間に加えさせられた。
「あ、あぁ…ぁぁ…」
ジンを撃破し、グリップを放したキラの手は震えていた。
殺した。初めて人を殺した。今までも必死でザフトのMSを追い払ってきたが、撃破しても相手のパイロットは脱出していた。今回が正真正銘、キラ自身の手で人を殺した瞬間だった。
「キラさん…」
「一夏…。僕はぁ…人を…ジンのパイロットを…」
「…後悔。してますか?」
「……」
「ジンを撃ち抜いた時、どう思いましたか?」
「え?」
「その人差し指にかけたスイッチは、どう感じましたか?」
「……重かった」
「それが、人の命を絶つ武器の重さです」
「命を…絶つ」
「でも、後悔はしないでください」
「え?!」
「後悔すれば、その重さに振り回されます。それに、キラさんはトール達を守ったんです」
「一夏はどうして、そう言う風に思えるの?人を殺すのに何も思わないの?」
「そんなわけないじゃないですか。そりゃあ、人を殺すのは、嫌ですよ…それでも、俺の仲間を殺そうとするヤツがいるなら、俺は迷わず、剣を抜きます」
一夏の言葉を聞き、キラの震えは何時の間にか、なくなっておた。あのパイロットを殺した罪悪感はまだ残っている。しかし、キラはそれでもと言える一夏が少し羨ましく思えた。
PPPPPP!
「「!?」」
突然、ストライクと白式が救難信号をキャッチした。信号の発信現を方を見ると、脱出様のポッドがストライクの近辺を漂っていた。
*
「つくづく君達は落し物を拾うのが好きなようだな」
補給作業を終えた一夏とキラは、例のポッドを回収して帰還した。
「開けますぜ」
数人のクルーが、銃を構える。一夏は自分が救助しておいて、この光景を見る気分はよくない。しかし、もし中に入っている人が暴れ出したりしたら厄介だ。一夏は黙って、ソレを見ていた。
そして、マードックがコンソールをいじると、空気の抜ける音と共にポッドのハッチは開かれる。
『ハロ!ハロ!』
『は?!』
中から出てきたのは、ピンク色の喋る球体だった。上半分の両サイドにある羽をパタパタとさせて浮遊している。
『ハロ!ラクス!』
「ありがとう、ご苦労様です」
そのピンク色の球体に続けて出てきたのは、その球体より少し明るいピンクの髪の少女だった。
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9話