~登場人物紹介~
・ラインホルト・フォード――エリート嫌いの管理局本局デバイス科局員。
・ユーノ・スクライア――時空管理局本局・無限書庫の司書。
・オリヴィエ・ゼーゲブレヒト――古代ベルカの姫騎士。最後のゆりかごの聖王。
・クラウス・G・S・イングヴァルト――古代ベルカの国シュトゥラの王。古代ベルカ最強の『男』。
・ミレイ――悪趣味な謎の修道女。
・トウコ――スーツ姿の謎の女性。
――――聖杯戦争。
七人の魔術師がそれぞれ
その起源は、マキリ、遠坂、アインツベルンという三人の魔術師が、この世の全てを知ろうと聖杯を降霊させたことにある。
しかし、なんとか聖杯を降霊させた三人だったが、そこで問題が発生した。聖杯が叶えるのは、ただ"一人"の、ただ"一つ"の願いのみ。
あらゆる叡智へと至ろうとした協力関係は、すぐに見るも無惨な殺し合いへと発展した。
以降、この聖杯を降霊させる儀式は、魔術師が一つの祈りをかけて殺し合う物となり、その名を「聖杯戦争」と改めたのだ。
最初の聖杯降霊から数百年が経った今、またここに、一つの聖杯戦争が始まろうとしていた――――。
―――二年前―――
「聖杯戦争、ねぇ………」
次元の海に浮かぶ時空管理局本局、その一角にある、超巨大データベース・無限書庫で、ラインホルト・フォードは見つけた本の内容に、心の中で歓喜していた。
(実力勝負の殺し合い………これは、練習の成果を試す時だ。エース・オブ・エースだろうがなんだろうが、オレの幅広い魔術でこてんぱんにして……)
彼の目は、「聖杯戦争」の周期が六十年であること、そして、その周期が二年後には巡り来ることを示す、その一文に向いていた。
「あのー、そろそろ無限書庫を一旦閉めちゃんですが、残ってる人は居ませんかー」
本の内容を追っていた彼の耳に、無限書庫の司書であるユーノ・スクライアの声が届く。
腕時計を見れば、なるほど本局内の時間は午後十時。閉館時刻ちょうどだった。
「あぁすいません。今出ますから」
ラインホルトはユーノ司書の方へ向けて言い放った。
「分かりましたー。……おっと、借りたい本があれば今受け付けますけどーっ」
本を棚にしまいつつ、彼は近付いてくるメガネの優男――ユーノ司書の声に、苛立ちを覚える。
「いえ、読むものは読みましたから。結構です」
「そうですか。それではお気を付けて」
にこやかに挨拶をする司書に愛想笑いで返し、ラインホルトは近くの出口へと向かった。
(ユーノ・スクライア………考古学調査の下請けなんぞをしてたスクライア一族で、無限書庫の司書か。大出世だよな)
右親指の爪を噛みながら、彼はあの優男のイライラする笑顔を、頭の中でぐちゃぐちゃにしてやった。
(オレが聖杯を手に入れたら、あんなネズミ野郎、いや、あの教導官……高町のババアだって、オレに跪かせられるんだ)
途中すれ違った局員に笑顔で会釈をしつつ、そんな下卑たことを考える。
彼は、典型的な「エース嫌い」だった。
それは幼い頃、古代ベルカの研究をしていた両親から受けた、教育という名の虐待のせいだったのかもしれない。はたまた、ジュニアハイスクール時代に威張っていた市長の息子に、散々虐められたからなのかもしれない。
だが、いつしか彼は歪んで、優秀な者を憎むようになったのは確かだ。
自室に入った彼は、机の引き出しから一冊のファイルを取り出し開いた。
「…………」
それは言ってみれば、彼の憎悪の対象をまとめたファイルだ。
「不屈のエース・オブ・エース」と名高い、本局武装隊・航空戦技教導隊第五班の高町なのは一等空尉。
管理局のエリート執務官、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。
海上警備部捜査司令、八神はやて二佐。
他にも、何人もの管理局員の名前、特徴、略歴が、手書きで網羅されていた。あえて手書きなのは、このファイルの中身がうっかり漏れて、プライバシーの侵害だのなんだのと言われないためだ。
そう、これは「持たざる者」の、「持つ者」への正当な裁きのための資料。何人もこれを否定したり、持ち去ったりすることは許されない。
「待っていろよ、聖杯………」
暗がりの中、彼の視線はファイルの資料ではなく、中空に浮かぶエースの幻影を見ていたのかもしれない。
手の甲に浮かぶ三画の痣に気付くこともなく。
―――古代ベルカ―――
「クラウス、貴方は『聖杯』という物をどう思いますか?」
ベルカの強国・シュトゥラにある王宮で、留学に来たベルカ本国の姫騎士、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトは、傍らに立つ男に聞いた。
「『聖杯』? それは、かの初代聖王陛下の『聖杯』のことですか?」
男――シュトゥラの王、クラウス・G・S・イングヴァルトは、唐突なオリヴィエの言葉に戸惑いつつ、訊き返した。
「はい。その通りです」
「はぁ………」
もちろん、クラウスとて聖王の教えを守るシュトゥラの王だ。初代聖王の持っていたという当の聖杯について、知らないわけがない。
また、その聖杯にまつわる伝説も、現実味がないとは言え承知していた。だから、
「聖杯を手に入れることができれば、この戦乱を終えることだってできるのでしょうね………」
逢う度に形容しがたい胸の高鳴りを覚えてしまう、そんな相手が、まさかと思っていた与太話を口走ったことに、驚きと憤りを隠せなかった。
「オリヴィエ、貴女は何を仰っている! そんなあるはずのない物を求めるなど、」
「く、クラウスっ……」
「ッ…………失礼しました、オリヴィエ」
気が付けば、彼はオリヴィエの肩を目一杯掴んでしまっていた。おまけに、彼の握力は普通の男のそれを遥かに上回る。考えられないほどの狼藉と言われても、仕方ない。
「いえ、私も最近の戦況に、どこか滅入ってしまっていたようですね。すみません」
「貴女が謝ることはない、今のは私の責任ですし、貴女の気が滅入ってしまったのであれば、我が国の軍が本国の兵たちをお守りできなかったということです。もう一度詫びを」
深々と頭を垂れるクラウスの肩を、今度はオリヴィエが掴んだ。
「違いますクラウス。本国の兵たちも、シュトゥラの兵たちも、皆頑張っているのです。それに、貴方だって外交などでも精一杯に仕事をしていらっしゃるのではなくて? ならば、その努力は認めこそすれ否定するものではありません」
「オリヴィエ……」
クラウスは、彼女がこのようなひとであるからこそ、こんなにも激しい気持ちを抱いたのだと思った。
「し、しかし、それにしても聖杯の話など貴女らしくもない。何か気を紛らわせる物を用意させましょうか」
「いいえクラウス、せっかくですが結構です。……聖杯の話をしたのは、なんでしょうね。ただ、現在の情勢をふいに、哀しい、そう感じたからでしょうか………」
「哀しい……」
クラウスは、どこか遠くを見つめる彼女の眼差しを追った。
いや、追うまでもなくその方角は、今最も酷いと言われている戦場だろう。
「家族の為、国の為、または、己の信じたものの為。それぞれに理由はあるのでしょうが、人のいのちはただひとつ。そんな尊いものが、あの場所では何の価値もないかのように、刻一刻と消えていきます」
オリヴィエはここで、クラウスを方を向いた。………その瞳には、涙が溜まっていた。
「これを哀しいと言わずして、なんと言うのでしょう」
「オリヴィエ…………」
クラウスは、彼女の涙を拭いた。
彼女の腕は今、あまり自由には動かない。聞いた話では、幼い頃に修練の場で負った怪我が原因らしい。だから、クラウスは彼女と一緒の時、努めて彼女の手の代わりと成っていた。
「クラウス、私は絶対に、このような戦乱を引き起こさない世を、築きたいのです。貴方はその時、私と共に来てくれますか?」
「何を仰るオリヴィエ、もちろんです。私はその時、必ずや貴女の刃となりましょう」
その時見せたオリヴィエの笑顔は、生涯で見たどんな絵画よりも美しかった。後にクラウスは、そう語ったという。
「ありがとう、クラウス・イングヴァルト」
―――十分前―――
ミッドチルダの首都クラナガンにある、雑居ビルの屋上。そこに二人の女性が座っていた。
「トウコ、さっさと食べなさい。美味しいわよ」
「そんなクソ辛い麻婆豆腐食ったら確実に死ぬ。要らん」
トウコと呼ばれたスーツの女性が、修道服の女性が勧める皿を突き返す。
(ったく、どうしてコイツはこんなところにまで麻婆豆腐何ぞ持ってくるんだ……)
このミッドチルダに来て、初日から事情を知るヤツに会ったのは幸先が良かったと言える。
が、まさかこんなおまけが付いてくるなんて思わなかった。そう、トウコは己の不幸を嘆いた。
「そう………」
皿を突き返された修道女――ミレイが、表情を沈ませる。
「そんな顔しても、私は喰わんからな」
「ちっ…………」
出会ってから二月ほど。トウコは、彼女の若干特殊な嗜好には飽き飽きさせられていた。
最早異常なレベルで激辛の麻婆豆腐を好物とするミレイは、他人の慌てふためくさまが大好きなのだ。そして、そのためならば多少損をしても構わないと思っている節さえある。とても修道女とは思えない。
「それより、さっきの話の続きをしろ。その如何によって、私がこの後帰るかお前に付き合うか決めるんだから。できれば帰りたいがな」
「せっかちね」
「ふん」
ミレイが麻婆豆腐を食べ終わりタッパーを鞄にしまうのと、入ってきた通信を開くのは同時だった。
「感想に困る芸当をするな、とか言わないで頂戴ね」
「そっちこそセリフを取るな」
「ミレイよ。………そう、今行くわ」
トウコは内心でなんだ無視か、と愚痴って、それから冷静に訊ねた。
「何があった」
「貴女が訊きたがってた答えかしらね。やっと五体目と六体目のお出ましだわ」
「なるほどな」
答えを聞きたがっていた、とは言っても、トウコは既に大まかな事情は把握している。
そのため、ミレイへのこれ以上の追求は無駄にカロリーを消費するだけ、と考え立ち上がった。
「で、場所はどこなんだ。すぐにでもおっぱじめるんだろう?」
「場所はあそこの森。でも、すぐに始まるかと言われれば、それがそうもいかないらしいのよねぇ。つまらない」
「あ?」
ミレイにしては歯切れの悪い言葉に、トウコは首を傾げる。
「どういうことなんだ」
「行ってからのお楽しみよ」
それだけ言うと、さも退屈そうにミレイはビルから路地裏へと飛び降りた。
「なんなんだかね……」
正直ミレイとの会話だけでわりと疲れていたが、一体何が起きているのか、トウコは気になって仕方がない。
結果彼女も屋上から、下にある協会の備品らしからぬオープンカーに飛び乗ることにした。
――――欲望の渦は、今、その勢いを加速し始めた――――
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なのは好きとFate好きが高じてこうなっちゃいました(^ν^)
※いわゆるクロスオーバーなので、嫌いな人は今すぐUターンしてくらさい。