拝啓
桜の花も咲きそろい、心躍る頃となりました。厚木様はいかがお過ごしでしょうか。
そちらの図書館でも桜は見れるのでしょうか?
私めは今―――
「あちらァアア!!あのクソ餓鬼をぶっ殺すぞ手を貸せぇエエ!!!」
―――殺人事件の共犯を強要されています。
「ははは待ってろよォ?前頭葉の風通しを良くして余計なことを覚えていられないようにしてやっからなァ?ぎゃははははっははっははははっははっはははははっははははははっはははははは!!!!!」
▼その人は何処にいった?
「
「あーつまり秘密の趣味を見られた挙句、みんなの前ですっぽんぽん、と?」
「すっぽんぽん言うなッ!!!」
しばらくして正気に戻った彼女に事情を説明され、簡単にあらましを纏めると怒られた。
この長谷川千雨という少女は一風変わった趣味を持っている。
普段は人見知りをし、伊達眼鏡まで掛けて自分と世間を遮っているのにコスプレが趣味なのだ。
しかも唯のコスプレではない。
持ち前の情報処理技術をフルに活用して写真を加工・修整し自前のブログにアップするのだ。
―――ネットアイドル・コスプレイヤーちうの爆誕である。
なにげにネットアイドルの中でも1、2を争う人気っぷりである。
加工・修正しなくても自前の美貌で十分に通用するのだが、そこは譲れないらしい。
この少女は変なところで自分に自信が無いのだ。
なのでこの趣味に関して彼女は徹底して秘密にしている。
それが子供先生に漏れた。おまけに大勢の前で恥まで晒した。
普段、冷静沈着なクールな女を気取っているが本質はかなりの激情家だ。
プッツン切れてその場を猛ダッシュで逃げ出して、服を着替え、その足で我が家に殺害依頼をしに来たと言う訳だ。
だが悲しいかな。ここは本屋で暗殺斡旋屋でなく、私はただの司書見習いだ。
「まあ就任時から今までの話を聞く限り、彼は少しお子様な所はありますが基本的に善良で良心的です。言いふらすということは無いでしょう。」
「ぐぐぐ、ぬ・・・くッ!」
彼女も冷静になれば頭の回転はかなり速い。
一連の騒動にあの子供先生の悪意が欠片も無いことなんて分かっているのだ。
すべてはクラスで浮いている彼女とクラスメイトの交流を深めさせようという善意の裏返しだ。
分かっているし理解できる。
しかし感情が納得できない。
そこまですぐに感情の切り替えが上手く出来る程大人でもないのだ。
彼女にはまだしばらくの時間が必要だった。
「私は少し買い物をして来ます。今日はご飯はここで食べていきなさい。
あなたの好きな料理でも作りましょう。」
「・・・わかった。」
彼女もあんな事があった後ではすぐには寮に戻りたくないようだ。
私の提案を呑んできた。彼女自身もインターバルが必要だと感じたのだろう。
私の淹れたココアの啜っている。
「では留守番よろしくおねがいします。」
そう言って私は部屋を出て商店街に向かった。
今、ネギ・スプリングフィールドはとても落ち込んでいた。
クラスで浮いている存在であった長谷川千雨をなんとかクラスに溶け込まそうと宴会に連れ出したが、見事に裏目に出て彼女を怒らせてしまったからだ。
謝ろうにもすぐに彼女は走り去ってしまったし、どうやら部屋にも帰っていないようだった。
長谷川千雨が強制ストリップをする羽目になった原因に大変心当たりのある神楽坂明日菜はその事態にカンカンになって怒っていた。
彼女の場合、もちろん義憤もあるが、自分がそうなった当時の事を思い出して怒りを思い出していたというのもある。これは彼が知る由も無いが。
副担任であるスザク・神薙・フォン・フェルナンドにも責められた。
曰く。
婦女子の部屋に無断で侵入するのは何事だ。
英国紳士として恥を知れ。
教師が生徒のプライバシーを侵害するなど以ての外だ。
しかも本人が秘密にしている趣味を暴くとは。
衆人環視の中で未熟な魔法で一般人を辱めたのは、マギステル・マギ以前の魔法使いとしてのモラルの問題だ。
などなど。
余りに正論で厳しい言葉にネギ・スプリングフィールドに半分涙目になってしまい、彼の言った言葉の中に違和感があるのにも気付かない。
ネギ・スプリングフィールドとスザク・神薙・フォン・フェルナンドは同じ出身とあるが、別にフェルナンドはウェールズ出身ではない。六年前の雪の夜、突然現れて村人の石化を魔眼で解いて回ったのだ。
恩を感じた村人たちは戸籍が無いという彼を住人として迎え入れた。
ネギともそれ以来の付き合いだがあまり仲は良くない。
といってもネギは大好きな姉の恩人ということで慕っており、嫌っているのはフェルナンドの方だけであったが。
話が逸れたが叱責と若干の嫌味と自己嫌悪でネギ少年の心は暗く沈み、物事を悪い方悪い方に考える負のスパイラルに陥っていた。
「だめだ、なんてだめな先生なんだボクは。せっかく正式な先生になれなのに。もうこうなったら誰にも迷惑を掛けない様にウェールズに引っ込んでポテトでも作るんだ・・・」
もし金髪の吸血鬼が聞いていたら計画が台無しになると卒倒していただろうが、運が良いのか悪いのか公園のベンチの周りにはネギ少年の雰囲気を恐れて人が近寄ってこない。
さらに思考は悪い方に進み、ネギ少年が闇の魔法習得まであと一歩という所で彼を引き止めた人がいた。
「少年、顔が死んでますよ?」
買い物袋ぶら下げ、「まほら書店」と書かれたエプロンをかけた男が立っていた。
「少年、顔が死んでますよ?」
少年に話しかけてみると、少年は俯かせていた顔を上げてこちらを見た。
鮮やかな赤毛。
かわいらしい顔立ち。
鼻の上にちょこんと乗っている眼鏡。
そして身の丈ほどもある杖。
話に聞いていた通りの容貌だった。
確かにこれでは可愛い物好きの中学生には大人気だろう。
しかしその可愛らしい顔は今暗く沈んでいる。
どうやら随分と先ほどの出来事が効いているらしい。
私は知らぬ顔で少年に訊ねた。
「たい焼き食べませんか?」
少年のその時の顔は見物だったと言っておこう。
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いったいフェルナンドは何者なんだー(棒読み
※本作は小説投稿サイト『ハーメルン』様でも投稿しています。