最近変な夢を見るんだ…どんな夢かって?周りが真っ暗なんだ。夜なんじゃないかって?夜ってのもあるだろうけどね…なんて説明すればいいかな…そんな単純な闇じゃないんだ…振り払っても振り払っても纏わりついてくる闇…とでも言おうか。場所?森だろうな。妖怪の鳴き声が聞こえたからな。で、こっからがおかしいんだ。少女がいるんだ。夜の森だぞ?危ない。だから俺は声を掛けたんだ。その少女にな。ん?なに?お前そんな趣味があったのかって…?…お前が友達だからこそ俺はこの話をしたんだぞ?さっきのは冗談だからその鉈をしまえ?分かった。次はお前の首を切るからな。
で、まぁ話を戻そうか。その少女なんだがずっと歌を歌ってるんだ。それも楽しそうにな。まるで歌うことこそが存在意義だと言わんばかりにな。顔?わかんねぇんだ…思い出せないってのが正しいな。でだ、その少女がこっちを見てなんか言ってんだが一部しか聞こえないんだ。「あな…8歳…か…るよ…そく…」ってな…
俺の歳?17だよ。明後日が誕生日だ。8歳の頃なんかあったかって?んー…特にねぇわな…5歳の頃なら…いやなんでもない。とりあえずもう夜になる。妖怪が出る前に家に帰りな。続き?明日にでもまた来い。その時話してやるから。
◆◆◆◆◆◆◆
まさか本当に来るとは思わなかったな…え?土産?おぉありがとうな。両親の命日?お前どんどん質問してくるな…明日だよ。奇しくも俺の誕生日と重なってる訳だ。なんで死んじまったのか?遠慮ねぇなお前…まぁ、いい。謝るなよ。俺が虐めたみたいじゃないか。え?昨日は虐めじゃないかって?あれはお前が変なこと言ったからだろ。まぁ、死んじまった理由はだな。妖怪に喰われちまったのさ。目の前でな。5歳の頃の話さ。もう忘れかけていたことさ。気にすんな。そんな泣きそうな顔すんなよ…おっともう真っ暗じゃないか。今日泊まっていけよ。遠慮すんなって。え?夜に襲う気かって?だからぁ…そんな趣味はないっての。お前は鳥頭か…ま、いい。ところで土産はなんだ?お、鰻か。旨そうだな。
そうだ、うな重でも作ろうか。
ん?手伝ってくれんのか?ありがとな。
おぉ、この鰻美味いな。なんて鰻だ?八目鰻?あぁ鳥目に効くって鰻だな。あれってこんなに美味かったのか。今まで食べなかったから損した気分だ。
ふぅ…ご馳走様。
今布団用意するから待ってろ。
ん?誕生日おめでとう?なんだよ改まって。まぁ、ありがとな。
◆◆◆◆◆◆◆
青年は夜の森を歩いていた。
家に帰る途中だ。思ったより仕事が長引いてしまい急いでいたが途中で知り合いの少女に会い、一緒に帰っているのだ。
「今日が誕生日だね」
唐突に少女が切り出す。
「ん、そうだな…」
「でも両親も誕生日に死んじゃったんでしょ?」
「まぁな…」
「素直に喜べないね」
「あぁ…」
曖昧な返事をしつつ線香を家に置いて来てしまったことに気付く。
「ところでどの辺なの?」
「なにが?」
「両親が亡くなった場所。線香、持った来たよ」
「準備がいいな」
青年は苦笑いしつつもその場所へ案内した。その場所は家から結構近い場所だった。
「ねぇ、5歳の頃さ。両親が亡くなった以外になにかなかったの?」
「それがな…覚えてないんだ」
「じゃあさ、これでも?」
そう言うと少女は歌を歌い始めた。何処かで聴いたことがあるような…そんな歌を…
不意に青年の脳が揺さぶられる。記憶が暴れ始める。出せ、出せと脳を叩く。
そして…思い出してしまった。
◆◆◆◆◆◆
両親が目の前で食べられる。その衝撃的な場面に少年は居合わせてしまった。両親の返り血が少年の衣服を紅く染める。
妖怪が咀嚼をやめてこちらをみる。それは狼のようだった。紅い目、鋭い牙、強靭そうな前足、尖った爪…一歩一歩近付いてくる圧倒的な死。少年は諦めかけていた。しかし目の前に何者かが立ち塞がった。小豆色の帽子、服。ピンク色の髪の毛。背中には鳥のような翼が生えていた。
それを少年は妖怪の味方だと思った。
「あのさ?なんで子供を襲うの?貴方は小物の妖怪?」
狼は不快を顔に出して退け、と言った。しかし少女は退かず…
「♪~♬~♩~♫~♩」
響き渡る歌声。突然もがき苦しむ妖怪。少年は訳が分からなくなっていた。当然だ。両親を喰われ妖怪が妖怪を苦しめている。要約するとそうなるのだから…
「君は誰…?」
狼型の妖怪が去った後少年は尋ねた。少女は笑った。
「私はミスティア・ローレライ。みすちーって呼んでね」
「じゃあ、なんでみすちーは僕を助けたの?」
「なんでって…小さい子供が襲われるのを見たくなかったから…かな?」
「また会える…?」
「貴方が18歳になったら迎えに来るよ!約束!」
そう言ってミスティア・ローレライは空へ飛んでいった…
◆◆◆◆◆◆
記憶の追体験を行った青年は知らない間に涙を流していた。
ずっと忘れていた命の恩人。
「みすちー…」
「思い出してくれた?」
青年は忘れていたことを謝った。今更謝っても仕方がないことだとミスティアは言った。怒ってないとも…
ガサガサ…ガサガサ…
音がして振り向くと見覚えのある紅い目がギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラギラ…
知らぬ間に周りを囲まれていた。
「13年前は世話になったなぁ…」
その声と姿を現したのは…
両親の敵であった。
ミスティアの方を見ると既に狼に囲まれており手が出せない状態だった。彼は何か手がないかを考えた。そのときに気付いた。里に住んでいた頃に寺子屋の先生から貰った護身用の小型の銃。弾の数を数えると12発。12発で仕留められる数ではない。
考えた結果、青年は走り出した。手に小型の包丁を持って…
◆◆◆◆◆◆
「はぁっ…はぁっ…」
青年が後ろを見ると狼が追ってくる。この先には崖で吊り橋がある。吊り橋に来ると立ち止まり後ろを見た。たくさんの狼がいる。
「鬼ごっこは終わりだぞ…」
そう狼が言った後内心で彼は「あぁ、鬼ごっこは引き分けさ」と付け足した。
確かこの崖は高さ30m。落ちたら無事では済まない。川は
昔は流れていたらしいが今は干上がったいる。それが知っていることだ。
青年は意を決して走る。そして全ての狼が橋に乗った辺りで立ち止まり両端にある紐を切った。
刹那ガクンという衝撃と同時に重力に引っ張られる。
狼を道連れに俺は死ぬ。
そして地面に叩きつけられた。
皮肉なことに骨は全身複雑骨折だろうが息をしている。目を動かすと他の狼は息をしていないようだ。頭から血が流れているのか地面が紅く染まっていった…
◆◆◆◆◆◆◆
身体に圧迫感を覚え目を覚ますとミスティアが腹部に頭を載せて寝ていた。どうやら看病していてくれたらしい。
「命を助けるはずがまた助けられるなんてな…」
フッと笑うとミスティアが起きたらしい。
「あっ!起きたー!」
そう言うと抱きついてきた。
「痛い痛い痛い痛い!」
傷にヒット!会心の一撃!
涙目になりつつ周りを見渡すと自分の家でないことに気付いた。
どうやらミスティアの家らしい。
「え?なんで俺の家じゃないの?」
「だからさ、迎えに行くって約束したじゃん」
「え、えぇぇぇぇ!!!」
どうやらまだまだ受難は終わらないようだ。
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「夜陰口遊は」を聴いててふと思い付いたSSです。ほんと即興。されど即興。前回のヤンデレみすちーはこの際忘れましょう!!