No.396627

仮面ライダークウガ New Hero Unknown Legend[EPISODE09 経始]

青空さん

第10話となります。『小説家になろう』様では、EPISODE08までしか投稿しておりませんでしたので、これは初公開となります。

2012-03-23 08:01:53 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:772   閲覧ユーザー数:771

一条の重々しい発言に、会議室の空間が一層静けさを増したように感じた。

 

フル稼動しているパソコンの起動音などは何処かへと消え去り、自分達を包み込む空気に含まれる酸素や水素さえも動かなくなったかのように感じる。

 

どの音も聞こえなくて、逆にシーンという擬音が聞こえてくるような感覚。

 

それは、あまりにも現実離れした感覚だった。

 

「九郎ヶ岳……だと……」

 

まさに異空間と成り果てそうだった空気に、杉田がやっとのことで振動を与える。

 

何秒、何分、何時間に感じた一瞬の静寂が終わると、一条は眉間に寄せた皺をより一層濃くした。

 

 

――――九郎ヶ岳遺跡

 

 

雄介の体内にあるベルト――――アークル。

 

雄介と共に戦う飛行物体――――ゴウラム。

 

古代の民族達が残した碑文。

 

そして、全ての未確認生命体が封印されていた場所――――まさに、未確認生命体事件の全ての始まりの場所。

 

この最も謎に包まれた土地に事件が発生するよりも前に出没したこの未確認は、クウガや第0号同様、未確認生命体事件の中でトップクラスの謎を秘めた可能性がにじみ出てきた。

 

その事実を前に、一条と杉田の2人はどうしようもない焦燥を抱いていた。

 

「こいつ……本当に何者なんだ……?」

 

パソコンを睨みつけながら、杉田は呟く。未確認生命体の事件と関わって、何百回、何千回と繰り返し、呟いた言葉。その中でもこの言葉は、一番の重みがあった。

 

『今まで戦ってきた未確認とは比べ物にならないくらい強い』

 

未確認と唯一対峙した雄介が一条に言った言葉。それを、一条も杉田も理解できた。

 

だが――――この写真から判ることもそれだけだった。

 

「しかし、せっかく手に入った手掛かりがこれだけとは……」

 

心底残念そうな声でぼやく杉田に、一条も苦々しそうに相槌を打つ。

 

亀山から送られてきた映像は、残念ながらこの1部のみ。概形のみでは具体的な捜査方針に移ることも出来ず、この九郎ヶ岳遺跡付近に手掛かりが残っている可能性もあるとは言いにくい現状だった。手掛かりがほんの少しでも手に入ったからこそ、もっと手掛かりが欲しいという自身の貪欲さに呆れながらも一条と杉田の口から大きなため息が漏れる。

 

「亀山、大至急さっきの地区の近くの防犯カメラの映像を入手して、こちらに送ってくれ。それと、九郎ヶ岳遺跡の発掘チームに遺跡で変わった点がないか確認、もしあればその詳細と影像を直接こちらに運んでくれ、頼んだぞ」

 

ぼやいていても埒が開かないと判断した一条の行動は早かった。

 

一方的なやり取りの連絡を長野県警の亀山に携帯で連絡すると、次には携帯のアドレス帳を開き、対象の人物の電話番号にたどり着く。宛先を軽く確認し直した後、一条はその電番号に電話をかけた。

 

 

 

AM10:08 長野県警 第二資料室

 

大量惨殺事件の情報提供を依頼された桜子は、この資料室で事件現場の写真を見ていた。

 

直接見た方が確実な情報を得られるものの、現役の警察官ですら吐き気を覚える現場は素人である桜子には刺激があまりにも強すぎるための考慮なのだが、間接的に見ても、気分は悪い。

 

古代の文字が見つかるかどうか、写真を1枚1枚確認しては、小休止の繰り返し。その小休止の最中、携帯が振動した。

 

「はい、沢渡です……」

 

『沢渡さん、一条です』

 

「あ、すいません……まだ、こちら連絡出来ることは何も……」

 

『いえ、それよりも別件をお願いしたいのですが、宜しいでしょうか……?』

 

突然の一条からの連絡に、申し訳なさそうに言う桜子だったが、一条から返って来た言葉は桜子にとって想定外のものだった。

 

「別件……?」

 

『実は……』

 

疑問の表情を浮かべる桜子に対して、一条からの簡潔な説明が行われた。

 

今回の事件の主犯格らしき未確認が、九郎ヶ岳遺跡付近で発見されたこと。

 

その未確認生命体が、クウガや第0号と同等の謎に包まれた存在の可能性が出てきたこと。

 

これらの説明を受けた後、桜子が一条から言われたこと。

 

それは――――

 

「遺跡発掘チームとの、合同調査……?」

 

一条からの話によると、まず主犯格である未確認生命体が過去にどのような存在だったのかを知ることができるかどうかを知りたいらしい。

 

クウガの力の核であるベルトについての情報が少なからず碑文に記述されていたことを考えると、それと同等の謎に包まれたと仮説されている主犯格の未確認についても、何らかの記述があるかもしれない。

 

出土品の中から新しい記述が手に入る可能性があるならば、未確認に関する情報が手に入る可能性もある。迅速な情報収集が必要とされる現在、古代文字の翻訳に最も長けている桜子の協力は必須--これが、一条から依頼された内容の概要である。

 

『現在、発掘チームの方々には新しく発掘されるものはないか調査してもらってます。その最中に、また新しい文字が見つかる可能性もありますので、桜子さんにはこれから九郎ヶ岳遺跡の方へと向って頂きたいのですが……』

 

「……分かりました。ただ、準備には時間が……」

 

『それは問題ありません。こちら側も合同捜査の手続きなどに多少時間を要しております。もちろん、調査に必要な機材と設備は可能な限り準備させていただきますので……』

 

「はい……」

 

『では、よろしくお願いし……』

 

「あの……!」

 

電話を切ろうとした一条を、桜子は呼び止めた。

 

弱々しく、不安に震えるかのような声が、一条の意識を受話器へとさらに集中させる。

 

『どうしました……?』

 

「五代くんに、何か悪いことは起きませんよね?」

 

意を決して、桜子は問う。

 

「アマダムや第0号と同じくらい謎な未確認が相手だとしたら……今度こそ、五代くんが死んじゃうってこと……ありませんよね?」

 

――――桜子は、雄介がクウガとして戦うことを反対していた。

 

現実からあまりにもかけ離れた存在であるアマダムが体内にある彼は、いつ、どのようなことが発生するか判らない。それが起こしうる最悪の結末--雄介の死を脳内に描くのは、自身の残酷さを覚えるほど簡単だった。

 

雄介は、その爆弾を体内に抱えながら戦っている。そんな心配を常にしている中、未確認生命体との闘いは次第に激化していき、挙句の果てには碑文には記述されていない金の力を手に入れてしまった。尋常じゃないほどアマダムを疲弊させるその力は、雄介自身にも強い影響を与えていた。

 

また激しく傷ついた時でも、その傷を常識では考えられないほどの時間で回復させる。雄介の体が崩壊してしまいそうなほど、迅速に--雄介の意識を無視して。

 

そう考えただけで、目の前が真っ暗になると言うのに、今度の未確認生命体はアマダムや第0号と同等の謎に包まれた存在--それと戦っているだけで、桜子は不安に胸を押しつぶされそうになるのだ。

 

『……』

 

不安げに問い詰める桜子に対して、一条は無言だった――――否、どう応えるべきかを迷っている様子だった。

 

桜子だけではなく、一条もそれを心配している。

 

一条自身が言っていたことだが、雄介は一条自身によく似ているらしい。

 

いくら止めようとも、彼は自分の足で戦地に赴く。たとえ、自身の手足が砕けていても、意地でも向うことを、よく知っていた。

 

同じだからこそ、一条は彼のことを心配している。それは桜子も理解しているが故に――

一条がどのような思いでいるのかを不安に感じている。

 

雄介の身を思う者同士だからこそ--そんな彼が今どのような考えなのかを、聞きたかった。

 

『……正直、五代くんの身の安全は保障できません。これから、何が起こるのかも……』

 

苦しそうに息を飲み込むと、一条は受話器越しにそうつぶやいた。

 

否定もせず--安域な憶測も述べない。

 

生真面目な彼らしい答え。

 

だが--桜子はそれで十分だった。

 

「……そうですか」

 

雄介のことを、憎むべき未確認生命体だとも、ただの戦闘兵器だとは思っていない。彼は、雄介のことを1人の人間として、純粋に心配していた。

 

同じ思いで、戦っている人がいることを再確認できた桜子は、ほんの少し安堵の息を漏らした。

 

『……すいません、こんな答えしか出せなくて』

 

「……いえ……あの、一条さん」

 

『はい?』

 

「頑張りましょうね」

 

雄介は雄介の場所で。

 

一条は一条の場所で。

 

そして、桜子は桜子の場所で、精一杯頑張るしかない。

 

少しでも行動できることがあれば、行動する。それが今出来る最大限の行動なのだから。

 

『……はい、よろしくお願いします』

 

「はい、では失礼します」

 

その発言を最後に、一条からの連絡が途切れる。

 

「五代くん……一条さん……気をつけて……」

 

桜子は戦地に赴く友人達に静かにエールを送ると、目つきを真剣なものへと一変させる。必要最低限のデータをまとめようとするため、資料室のパソコンを起動させようとする中でも、胸中で渦巻く雄介への不安は大きくなりつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

PM03:37 東京都 霞ヶ関駅前

 

駅前の街道の信号機が青へと変わる。

 

それを機に、街道にごった返していた人々が溢れんばかりの勢いで交差点に解き放たれる。

 

ある人は、途中で靴紐を結ぼうと座り込めば、周りの人は迷惑そうにその人を見ながら避け。

 

時計を見て、慌てて走り出す人は人混みのせいで結局歩くしかない。

 

そんな在り来たりで、当たり前な光景の中、普段とは、異なった光景がひとつ--

 

『たった一人の私の息子が、未確認生命体にさらわれて、もうすぐ10日経とうとしています。皆様、何か御存知のことがあれば、御連絡お願いします。どうか、ひとつでも多くの情報をご提供下さいますよう、宜しくお願いします……』

 

40代半ばの初老の女性が行き交う人々に向けて、ビラを配りながら情報提供を呼びかけている光景だった。

 

実は、彼女――――主犯格の未確認生命体の最初の被害者であり、現在も行方が判らない青年の母親である。

 

人が集まりやすい駅前ビラを配って情報提供を呼びかけることが出来る、という目的のもと、彼女は警察とは別に情報を独断で収集しようとしたのである。本来、警察の許可無しにビラ配りを行うことは不可能であるのだが、警察側は申請がなかったにも関わらず、その行為を黙認していた。

 

だが、彼女のビラ配りはあまりうまくいっていなかった。多くの人が行き来する駅前でビラを配っているのにも関わらず、彼女の手元には大量のビラが未だに残っている。誰も、ビラを受け取らずに、彼女の声を聞かずに、通り過ぎていってしまったからだ。

 

既に、何時間も叫び続け、ビラを懸命に配り続けていた彼女の顔には疲弊が浮かび上がっており。

 

今にも泣き出しそうに見えた。

 

そんな、彼女の様子を車道から見つめる者が1人――――否、2人。

 

「……」

 

「……」

 

ビートチェイサーに乗った雄介と渚でだった。

 

懸命に、自分の息子の情報を得ようとビラを配ろうとする彼女を、非常に苦しそうな目で見つめていた。

 

これからの用事がなければ、無条件で彼女の手伝いをしたいのだが――――これからやらなければいけないことが非常に重要であるため、唇を噛み切る思いで、ビートチェイサーのグリップを強くひねる。アクセルが勢い良く音を鳴らすと、2人を乗せたビートチェイサーは彼女から見る見るうちに遠ざかっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後、雄介と渚は警視庁に到着した。

 

主犯格と見られる未確認生命体の姿を確認した一条から連絡を受けた雄介は、その姿が雄介が以前に見たものと同等であるかの確認を受ける、という目的で雄介は呼び出された。明らかに異質のもの、かつこれまで見たことのない未確認生命体だからと言って、まだそれだという確証はなかったため、その可能性を確実なものにするためであった。

 

渚は健康状態が非常に良好であるために、一度本格的な事情聴取をすることとなった。記憶を喪失しているため、催眠療法を用いた事情聴取を行う予定であるが、彼女自身が防衛反応を起こすまで行う予定はなく、あくまでも彼女の心身が健全である状態でのみ、実行する予定らしい。本来、彼女の担当医である椿と脳外科医の担当の医者の監視の下、行う予定だったらしいが、両者とも増加し続ける未確認生命体の被害に対応しなければいけないため、不参加となった。その2人にはしっかりと許可を取り--現在に至る。

 

ここに2人を呼び出した一条がまだ玄関口に現れていないため、ビートチェイサーを道路脇に止めると、2人は近くの花壇に腰掛けた。

 

「……」

 

「……」

 

一条が現れるまでの間、2人の間には、ひたすら沈黙がながれていた。理由は言うまでもなく、先程の女性のことである。

 

必死に声をあげているのに、誰も彼女に手をさしのべていなかった。それはおろか、彼女が今にも泣き出しそうになっているのにも関わらず、それを見向きもせずに、ひたすら歩いていく--あまりにも、残酷すぎる光景だった。

 

「……雄介……」

 

「ん……?」

 

渚が、重く閉ざした口を開いた。その口調の重さを肌で感じた雄介の表情には、いつも渚に向けている笑顔を浮かべていなかった。

 

「……どうして、あの女の人のこと……誰も、助けてあげなかったのかな……」

 

「……」

 

「ほんの少しの言葉だけでも……せめて、紙を受け取るだけでも出来たかもしれないのに……どうしてかな……」

 

「……」

 

渚の独り言に近い問いかけを、雄介は黙って聞いていた。

 

――――雄介は、その理由についてなんとなく察しがついていた。

 

あのビラを受け取れば、少なからずとも未確認生命体と関わる可能性が出てくるのだ。

 

主犯格の未確認生命体がこれまでのそれらと全く異なった行動をしているとは言え、自分達と全く同様の外見、言葉、生活知識を身につけているということ、そして、『未確認生命体に会った』という、あまりにもシンプルすぎる理由で殺されるということを日本中の誰もが知っている。

 

『未確認生命体と関わりあいそうな件には首をつっこまないでおく』

 

未確認生命体から自身を守るための唯一の方法--それが、女性の前を通り過ぎていく人々の心情の表れであることは十中八九違いないであろう。

 

そんな彼らの心情を、雄介は痛いほど理解していた。今や、社会現象とまでなるほどに広まった未確認生命体への恐怖は尋常ではない。好き好んで未確認生命体に関わる、死に急ぐような行為をするような愚かな人物はいない――――いなくて、当然なのだ。

 

だが――――その当然さが、どこか哀しかった。

 

「……そうだよね……」

 

雄介自身は、ため息を漏らすように、自然に呟いた。

 

「……きっと、みんなそうした方がいいって分かっていると思う。手を取って、助け合えることができたらいいって思っているよ、きっと……」

 

――――それでも、今は出来ない。

 

雄介は、ほんの少しそう思ってしまった。それでも、言わなかった。

 

――――言ってしまえば、認めてしまうことに他ならないから。

 

「……」

 

未確認生命体が、あまりにも恐ろしい存在である以上、助けたくても助けられない人々がいるということも、雄介は知っている。

 

その存在に対して、人々がどれほどの怒りを抱いているのかも、知っている。

 

その2つの思いがぶつかりあっていて、どうしようもなく苦しんでいることも、それを実現することがどれほど難しいのかということも、雄介は知っている。

 

誰もが実現したい、取り戻したいと願っている、お互いに助け合うことが出来る世界。

 

誰もが未確認生命体のせいで泣かないようにする――――クウガも、未確認生命体もいない、そんな当たり前の世界を取り戻すために、雄介はクウガとして戦い続けてきた。

 

しかし、未確認生命体の力がクウガの手に負えなくなるほど、大きくなってきたことを誰よりも理解している雄介は、それを実現する難しさ――――未確認生命体に抗う力を持っていない人々がそれを実現しようとすることが非常に難しいということも、同時に理解していた。

 

「……でも、だからこそ、自分にできることをしっかりしているんだと思う」

 

それでも、雄介は前に進まなければいけない。他の人々がもがき苦しむしかない以上、雄介だけは前に進むことを止めてはならない。

 

これから、どれほど未確認生命体による被害が増えても。

 

更に、多くの人が涙を流すことになっても。

 

それでも、雄介は目を当てることすらも躊躇うほどの現実に止まることなく、進まなければいけない。

 

いつか、ここにいる人々が笑顔で、再び支えあえる日がくるように。

 

「……」

 

酷く悔しそうに、哀しそうに話す雄介の顔を見て、渚はそれ以上、何も言わなかった。雄介が双方の気持ちを理解しているからこそ、その本人達よりも苦しんでいることが分かってしまったから--渚も、何も言えなくなってしまった。

 

「……」

 

「……」

 

再び訪れる沈黙。

 

一方は、自身の力の無さに後悔を抱きながら。

 

もう一方は、何も理解せずにいなかったことを、後悔しながら。

 

まるで、泥沼のような時間が刻々と過ぎていく。

 

「済まない、遅くなった」

 

その泥沼の空気に、警視庁から出てきた一条が言葉を入れる。空気が変わったことに、心なしか胸が軽くなったように感じた双方は、花壇から立ち上がる。

 

「一条さん、それより後、どうなりました?」

 

「なんとか、準備が整ったところだ。急で申し訳ないが、早速確認してもらいたい」

 

「わかりました」

 

会釈するなり、踵を返すまで一秒未満。そんな切羽詰ったかのような一条の行動に遅れを取ることも無く、雄介と渚は一条の後に続き、警視庁の中へと足を運んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM03:47 警視庁内 未確認生命体合同捜査本部

 

 

「これが……今回の未確認ですか……?」

 

「そうだ、君が前回見た未確認と一致しているか?」

 

合同捜査本部が設置されている部屋に通された雄介は一条から渡された資料--九郎ヶ岳遺跡付近にて撮影された謎の影の映像を見せられていた。体の半分しかない上に、人間でいう顔面の部位が映されていなかったものの、雄介は資料に映された姿を懸命に見つめ、そして結論を出す。

 

「……はい、確かにこいつです。」

 

そこに映っていたものは、紛れも無く雄介のみが目撃した未確認生命体だった。

 

「……やはり、そうか」

 

ようやく手に入れた証拠が本物であった確証を得ることが出来たため、一条も心なしかホッとした様子を見せる。が、それを一瞬にしてしまうと、一条は次の捜査方針を作り始めようとしていた。

 

「これが本物で間違いがなければ、やはり九郎ヶ岳遺跡の周辺にも異常がないか捜査をする必要があるな……」

 

「一条さん、こいつがあちこち移動している理由について、何か分かりました?」

 

「あくまで仮説の段階だが、主犯格の未確認は何かを捜して彷徨っているという可能性がでてきた。それが何かを把握するまでは仮説のままだが、奴の行動ルートに何か共通点があるかもしれない。現在、亀山と奴が出現した県の関係者に頼んで、防犯カメラの映像を片っ端から確認しなければいけないんだが……」

 

「何か、情報が手に入るといいですね」

 

「ああ……とにかく、亀山が来る前に渚さんの事情聴取を行うとするか」

 

簡単な現状報告を済ませると、次の行動が決まった。入り口の近くにある椅子に座らせていた渚の方に向い、彼女に移動するように言うと、彼女が立ち上がる。

 

「一条さん、お待たせしました!!」

 

部屋を出て行こうとしたまさにその瞬間、亀山が部屋の中に大声と共に入ってきた。

 

「来たか……」

 

「とりあえず、手が空いている警察官総動員で集められるだけ集めてきました」

 

そう言いながら台車に乗せた大型のダンボール箱を大量に持ち込んでくる亀山。しかし、それだけでは終わらず、彼の後ろから同様に大きなダンボールを数段乗せた台車がどんどんと運び込まれてくる。合同捜査本部の四分の一が埋め尽くされそうなほど大量のダンボール箱に雄介は「うわぁ……すごいな……」と素直な感想を口にし、渚もその量に驚きを隠せない様子。何とか台車を運び終えた後、ダンボールは部屋の隅にどんどんと積み上げられていった。

 

「わざわざ、済まなかった。それで、九郎ヶ岳遺跡で何か変わったことがないか、確認は取れたか?」

 

「はい……どうやら、これまで第0号による破壊が行われなかった場所で何らかの崩壊があったようです。細かいデータは、まだ調査中ですが、ひとまず瓦礫の中から出土された古代文字らしきものはいくつか入ってきています」

 

亀山からの報告を聞き、一条と雄介はさらに確信を持った。今回の未確認生命体は九郎ヶ岳遺跡の中に入って活動をしていたことは間違いない。その行動の真意は謎だが、古代のクウガと第0号が封印されていた玉座に『警告』を意味する古代文字が書かれていた時と同様に、そこにも何らかの文字が記述されている可能性は非常に高いものへと繋がるのだ。主犯格の未確認生命体と足取りを掴む手掛かりが増えてきたことに、一条と雄介はようやく確かな手応えを感じ始めていた。

 

「そうか……それで、その資料は?」

 

「確か、このダンボールの中に……あった、これだ」

 

そう言いながら、積み上げられたダンボールの山から『九郎ヶ岳遺跡 異常点資料』と大きなメモ書きが貼られたダンボールを持ち上げる亀山。

 

だが、足元が不安定であったことと見た目以上に重い重量のせいで彼の体はフラフラと揺れていき……

 

「いてっ……!!」

 

盛大に転んでしまった。それが原因で彼が抱えていたダンボール箱に入っていた書類が床にばらまかれ、亀山は更に慌てながらそれらをかき集め始めた。

 

「す、すいません……」

 

「大丈夫か?」

 

「は、はい……」

 

いつも通りと言うか、変な所でヘマをする亀山に対し、一条は少々呆れ気味に声をかけながら、書類を拾い集める。雄介と渚も一条に倣い、それを手伝う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが――――

 

 

 

 

 

 

『これから――――が、――――になる!!』

 

 

 

 

 

 

 

「う……うぅ……くぅ……」

 

渚の様子が急変した。

 

 

 

 

 

 

 

「く……あ……あぁ……!」

 

 

 

『なぜ――――お前が……っ!!』

 

渚の頭の中で、誰かの声が反響する――――1人ではない。何人もの声が、何人もの人が、渚の脳裏に浮かび上がり、消えていく。

 

ある男は、狂ったように嗤いながら近づき。

 

ある男は、今にも泣きそうな目で、こちらを必死に睨み付ける――――そんな、光景が

 

 

 

 

 

「渚ちゃん……?」

 

「渚さん……?どうかしましたか……?」

 

頭を抱えながら、渚が苦しそうに表情を歪ませているのを見て、雄介と一条の表情が一気に固まった。

 

「あ……あぁ……んくぅ……!」

 

 

 

 

 

 

『――――は、もはや――――では、ない……追放する』

 

『もう――――は、僕らと――――だよ』

 

苦しそうに呟くのは、年老いた女性の声。

 

楽しそうに叫ぶのは、純粋に楽しんでいる様子で、大量の血にまみれた両手をあげる男――――否、人間の形に似た、怪物。

 

 

 

 

綺麗に整えられた髪をぐしゃぐしゃと搔き回し、頭を強い力で押さえつける渚。彼女の額に浮かぶ大量の汗が前髪をはりつかせ、彼女の顔色はますます青白く見える。

 

「渚ちゃん、落ち着いて!!なにがあったの!?」

 

「亀山、救急車!!早く!!」

 

事態の急変の中で、雄介は渚を落ち着かせることに必死だった。一条も亀山に救急車を手配するように呼びかけた後、雄介と共に渚を落ち着かせようとするが、過呼吸に陥りそうなほど激しい呼吸を繰り返す彼女の容態は次第に悪化していく。

 

「一体、なにがどうなって……」

 

困惑しながら、渚がこのような状態になってしまった原因を一条が考慮する。彼女の症状、呼吸、脈動を観察し、警察官でも分かる程度の応急手当を行おうと体に負担がかからない体勢で床に寝かせる。

 

 

「う……うぅ……か……あぁ……!!」

 

『――――は、お前を――――に戻す。絶対に』

 

『何も――――。お前は――――だ』

 

優しく語りかけてくる同じ声をした――――2つの全く異なった姿をした存在。

 

ある時は、自分と同じ人間の姿で。

 

また、ある時は――――怪物と同じようで、しかし、優しさを忘れない、巨大な複眼を有した、怪物と戦う姿で。

 

 

 

「あぁ……あぁぁぁアアアアアアア……!!」

 

 

 

 

 

『あぁ……あぁぁぁアアアアアアア……!!』

 

何十、何百匹もの怪物に立ち向かう、戦いを司る赤い者。時には、その姿を青、緑、紫へと変えながら、前へと進んでいく。

 

何度も怪物を殴りつけながら。

 

自身の腕を、心を痛めながら。

 

それでも、進んでいく――――救うべき者を、自身の手で倒すために。

 

『うあぁあああぁああぁああ!!!!』

 

そして、その拳が自身を捕らえようとした瞬間――――映像が途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!!」

 

突然、苦しむのを止めたかと思うと、渚はぱったりと動かなくなった。それと同時に、雄介と一条の動きが止まる。

 

 

「渚ちゃん!!大丈夫!?」

 

そう言って、雄介が渚に触れようとした瞬間、会議室の中が急に騒がしくなった。

 

「どいて!!……心拍停止、すぐに関東医大病院に運べ!!大至急だ!!」

 

会議室には亀山が呼んだ救急隊員がかけつけ、迅速な対応を取り始め、あっと言う間に渚は数名の救急隊員達の手によって運ばれていく。

 

「渚ちゃん、しっかりして!!渚ちゃん!!」

 

それに着いて行く形で雄介は一緒に走りながら、懸命に渚の名前を呼び続ける。救急隊員達には一刻の猶予もないためか、一緒についてくる雄介を無視しながら救急車へと渚を運び込む。

 

渚と雄介を乗せた救急車はサイレンを鳴らしながら全速力で警視庁を出発していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……』

 

暗闇の中で、それはじっとしていた。

 

暗闇の中で、何かを見据えるかのように輝く双眸は、目覚めた時に比べて、威圧感も輝きも、より力強くなっていた。

 

力も、大分元に戻ってきた。

 

十分に目的が達成できるほど、力は手に入った。だが、達成できるのはあくまでも、昔の話。

 

何もかも変わりきった現代の中では、まだ力が足りないことを知っているそれは、折れそうになるほど激しく奥歯をかみ締め、必死に耐える。

 

それでも、自分の目的――――長年の宿命という束縛から、解放される時が、ようやく来ることを思えば、体内から溢れ出る衝動さえも、なんとか抑えられる。

 

 

――――自分は、未だに不安定のままだ。

 

だからこそ――――自分には、あれが必要だ。

 

それを手に入れれば。

 

手に入れることが出来れば、

 

この疼きも、疲れきった精神も、ようやくの安らぎを得ることができよう。

 

だからこそ。

 

今は――――言葉だけで、我慢していてやる。

 

 

『必ず、殺す――――クウガ……』

 


 
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