とある病院の敷地内にて、人だかりが出来ていた。病院で中庭と呼ばれる場所で、制服を着た複数の警官隊が装備している拳銃越しに、中央にいる2つの生物を取り囲んでいた。
一方の生物が、もう一方の生物に馬乗りし、その拳を幾度となく相手にぶつけていた。ぶつけられる方は為す術もなく、その拳の餌食となっていた。
その2つの生物は人間ではなく、現在世間を最も騒がせている存在、『未確認生命体』だった。
馬乗りされている未確認生命体は、人間と同様に例えるなら漆黒に近い黒い肌と青白く鋭い瞳を持っており、最も特徴的な髪に当たる部分は白く逆立っており、簡単に人間を傷つけられるほど硬質に見える。
まるでヤマアラシが人間の姿になったかのような容姿を持つそれを、警察や世間では未確認生命体第42号と呼んでいる。
一方、第42号に拳をぶつけている生命体は上半身の大半が赤い装甲に覆われており、頭部はクワガタ虫のような天に向かう2本の金色の角と体を纏う装甲のように赤くて大きな眼がある。
手首や足首にある金色の装飾品らしき装備には、その姿を印象づける赤色の宝石らしきものが埋められいる。
そして、腰のあたりには最新の科学力をはるかな上回っていそうな技術で作られたベルトを巻き付け、その中心にある大きな宝石はやはり赤色だった。
その生命体は未確認生命体第4号、またはクウガと呼ばれ警察と共に幾多の未確認生命体を倒してきた、人間の味方と呼べる存在だ。
その人間の味方である4号が、自我を失ったかのように42号を殴り続けている。42号が口から吐いた血がついた真っ赤な拳を、いつまでも振るい続けていた。
「うああぁぁ!!」
絶叫する4号。生身の人間なら一撃で絶命してしまうであろう威力の拳を振るうことに、今の4号には迷いがなかった。
「うああぁぁ、う、うあああぁぁ!!」
殴る。
殴る。
殴る。
このまま42号の息の根をとめてしまいそうな拳の勢いを、4号はさらに加速させていく。
その光景を、その場にいる全員が身動きもせず、凝視していた。
否-全員が恐怖を覚えていた。
これでは『未確認生命体を倒す』と言う正義のための行動ではなく、『他の生命を殺す』と言った冷酷な行動と言ってもおかしくない。
立ち竦む警官隊は、恐怖で支配された精神の中に唯一残った冷静さでそのように捉えていた。
「うああぁぁ!!」
とどめと言わんばかりに、4号が大きく拳を振り上げた。その隙をついて42号が体を回転することで振り下ろされた拳を回避した。
空振りした拳は42号が直前までいた場所にたたき込まれる。しかし、42号に対する衝動が抑えられない4号は、その場から逃げようとフラフラ歩き出した42号に追いつき、再び拳を何度もぶつけ始めた。
42号を壁まで追い込み、もう一度相手を殴ろうとする。42号はなんとか両手でそれを防ぐが、4号のさらなる追撃により、大きく吹き飛ばされてしまった。
その瞬間を見計らい、4号は停車したバイク-ビートチェイサーに向かう。それに乗車すると、ハンドルに備えられた数字盤を操作する。白と青が基調だったバイクのシルエット黒と赤と金のそれに変わると、彼方から黒い装甲をまとった昆虫のような飛行物体-『ゴウラム』が飛来する。
ビートチェイサーの上空にきたゴウラムは自身を2つに分け、4号が乗っているそれに付着する。以前に解読された古代文字から『馬の鎧』と称されたそれは、まさにビートチェイサーという馬がまとった鎧に相応しい姿だった。
ゴウラムが付着したビートチェイサー-ビートゴウラムは猛烈な勢いで発進し、牙にあたる部分でふらついた42号をかつぎあげると、さらに加速し、病院から離れ始めた。
「ぐ、うぅ…」
ビートゴウラムによって運ばれる42号が苦しそうな声をあげた。視界に映る4号の気迫は、先程から放っている以上の濃密さとなっていた。
このままではマズいと感じたのか、42号が胸にぶら下げていた装飾品を引きちぎった。すると、それは鋭い針となり42号は4号の体に突き立てようとした。
しかし、4号はそれを見透かしていた。
「超変身!!」
赤い装甲が紫色に変わる。
全身の装甲がより強固なそれとなり、42号の攻撃を完全に弾き返す。ビートゴウラムの上というのにも関わらず42号を殴りつける。
それが何度か繰り返した後、4号の視界が広くなった。車道の両側に生い茂っていた木々がなくなり、一面が海になったのだ。
それを確認した4号は、ビートゴウラムを急停車させた。慣性の法則により、吹き飛ばされた42号はそのまま海面に叩きつけられた。
そのようなことに目もくれず、4号はビートゴウラムのドライバーを引き抜く。するとドライバーはその姿を紫色の巨大な剣へと変わる。
そして、4号がゆっくりと42号に向かって歩き始めた。
「ヒッ……!」
向かってくる4号に言いしれない恐怖を覚えた。装飾品を針に変え、それを投げつけて抵抗するが紫色の4号には傷一つつかない。
ベルトの宝石の部分から雷のような電気が流れ、全身をより鮮やかな紫色と金色の装甲に変わり、携えていた剣はさらに鋭く、強力なものになった。
それを見た42号は死に物狂いで4号から逃げようとするが、2体の距離はさらに縮まっていく。
「フゥ…フゥ…」
荒い息遣いが4号から漏れる。
その脳内に、様々な人物達の映像がフラッシュバックしていく。
42号により、命を奪われた人達。
その人達の死により、涙を流した人達。
「フゥ…フゥ…」
その行為を続ける理由を42号は、こう言った。
『君達が苦しんでいる姿を見るのが、楽しいから…』と。
「フゥ…フゥ…」
42号への憎しみが。
これまで募ってきた未確認生命体への感情が。
自分の中でどす黒く、大きな何かへと変わっていく。
「フン!フッ!ダァ!」
手に持っていた剣で42号を何度も切り裂く。切り裂いた箇所から赤い雷のような閃光が放出される。
剣を振るうたびに。
切り裂くたびに。
溢れてくるどす黒い何かは、その濃さを増していく。
そして、とうとう42号が倒れた。しかし、4号は間髪入れずに…。
「うおりゃああああぁぁぁぁ!!」
大剣を、42号の腹部に突き立てた。
先程よりも、強い光が2人を包み込む。そして、耐えきれなくなった42号は、大爆発を起こした。
-PM??:?? 場所不明-
遠くの方で、大きな力を感じる。
それは、雷のように強大で。
漆黒の闇のように黒く、果てしなく深い。
平和という言葉を簡単に飲み込んでしまう、嵐のような力。
目覚めるはずのなかった力が、その片鱗を現したのだ。
その片鱗を敏感に感じ取ったそれは、かすかに動き始めていた。
動き始めたそれもまた、目覚めるはずのない存在だった。
それらは互いを引き寄せるかのように、長い年月を経て再び動き始める。
『ウオオォォ……!!』
もうもうとあふれ出す紅い靄の中から、空気が張り裂けんばかりの獣のような声が兒玉する。
誰にも気付かれないような場所で、まだ誰も知らない滅びの予兆が始まろうとしていた。
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未確認生命体第42号を、怒りと憎しみの心で倒してしまった第4号-クウガ。
目覚めるはずのなかった力がその動きを見せた時、もう一つの封印されていた『目覚めるべきでなかった力』が目を覚ます。
そして始まる、最も哀しい戦い。
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