No.395895

【腐注意】もし俺 小話07【オリジナル】

kmkさん

※こちらは男同士の恋愛を取り扱った作品なので、閲覧の際はお気を付けください。
ちょっと外れたオリジナルBLの小説サイドです。

未だ2月15日837時45分なのでバレンタインには間に合ったつもりです。

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2012-03-21 21:55:36 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:197   閲覧ユーザー数:197

 

CP:黒ブラ、まろさし Side:ブラ♂

 

“放課後にゃんにゃん”

 

いつの時代の秋元だと問いたいこれは、さしさんのネーミングセンスだ。“(さしさんの学校帰りの)放課後(にネコ2人=)にゃんにゃん(でお茶をする会)”という意味らしい。彼らしいといえばらしいのかもしれないが、余りにも直球で微妙な気持ちにさせられたのは記憶に新しい。どうせなら放課後ティータイムとかにしてくれればもう少し親しみを持てたかもしれないのに。

 

「もうすぐバレンタインかー」

 

そんな人の気持ちもつゆ知らず、さしさんは今日も通常運転だ。いつものように身体に悪そうな紅茶(だったもの)を不味そうに飲みながらダルそうにアニメを見ている。

 

「そうだねー」

 

「節分はいまいちだったよねー」

 

「え、あ、うん…」

 

俺は散々でした。あなたが俺を見捨てて帰ったせいで、散々でした。

 

「あー黒ブラはそうでもなかったよねー」

 

「な、」

 

何を言い出すんだ、この人は。

 

「いいよねー。イベント事でヤルことヤっちゃうのはー」

 

「何もしてないよ!」

 

「いいって別にー気を遣ってくれなくてもー」

 

「遣ってない!」

 

「あーはいはい。で、バレンタインはどうするの?」

 

俺が否定ばかりするから、面白くなくなったらしい。

 

「別に何も考えてないけど?」

 

「えー黒さん可哀想ー。リボンで飾ったちん○こくらいプレゼントしてあげなよー。ザーメン垂れ流してミルクポッキーで良いじゃん」

 

「伏せてないから!全然隠せてないからそれ!」

 

あからさまに言い過ぎでしょ!大体俺にもくろさんにもそんな趣味はないよ!と声を大にして主張したいけれど、そんなことを言えばどうせ揚げ足を取って「じゃあどんな趣味なの?」とか聞いてくることは目に見えている。これに引っかかった回数は両の手では足りないほどだろう。さすがの俺でも学習はする。

 

「細かいなぁ、ブラさんは」

 

「普通の反応だと思うよ」

 

「そう?」

 

「うん」

 

そこで話がいったん途切れる。既にBGMと化しているアニメは佳境を迎えているようだ。それでもさしさんは面白くなさそうに画面に目をやっている。そういえば、さしさんは何をするんだろう。まさか、リボンで飾った以下略をするのだろうか。否、彼ならおかしくないけれど、それではあまりにもまろみさんが可哀想だ。

 

「さしさんは何か考えてるの?」

 

「何も考えてない。第一オレ、チョコレートとか生クリームとか嫌いだし」

 

意外だ。まともに考えていたんだ、と思う。

 

「そういえばそうだったね」

 

「その点ブラさんは良いよね。得意分野じゃん」

 

「そうかな?さしさんも作るじゃない」

 

俺たちと違って、さしさんのトコは家事を分担しているらしい。俺はお菓子作り“は”できるけどなぜか料理は壊滅的にできない。目分量とか少々とか適量って何なの?もっと正確に書いてくれないとどれだけ入れていいのかわからないと思う。

 

「オレのはなんか違うんだよー」

 

「うん、わからない」

 

「ですよねー」

 

いったい何が違うんだろう。理由を聞いたところで明確な答えはどうせ返ってこないから、聞き流すことにする。さしさんも適当な返事をしながら、思案顔でじっとカップを見ていた。少しの時間が過ぎて何かを思いついたのか、彼は顔を上げてこちらを見る。

 

「オレ個人で作るの面倒くさいからさ、一緒に作ろうよ。お菓子」

 

「え、」

 

「嫌なら別に良いよ?リボン買うだけだし」

 

「嫌じゃないよ!むしろ一緒に作ろうよ!2人で作る方が楽しいよ!」

 

だから変なフラグ立てるのやめて!

 

「うん、ありがと」

 

じゃあ材料は買ってくるよ!と良い笑顔で言われたのだけど、嫌な予感がしたから明日一緒に買いに行ってから作ることにした。せっかくだからラッピングとか選んでみたりしたい。

 

早く明日になればいいな。

 

【07-1 バレンタイン2日前】

 

(よかったね、まろみさん。フラグ回避おめでとう)

(いったいブラさんと何の話をしてきたん)

 

CP:黒ブラ、まろさし Side:ブラ♂

 

シェル トルテ ホロー

パンワーク ボンボン ロシェ

ガナッシュ ドラジェ フィレナワール

 

どれも甘い響きがする。これは全部チョコレート菓子の名前。それぞれ違う種類のお菓子なのだけれど、どれもチョコレートをメインにしている。チョコレートは溶かすだけで色々な形に変えることができるから、お菓子の材料としては使いやすいと思う。今回作るガトー・ショコラは、元々フランス語で『チョコレートのお菓子』っていう意味だから、スポンジよりも硬くてクッキーよりは柔らかいケーキはブラウニーと呼ぶのが正しいらしい。

 

インターネットで仕入れた新しい知識を誰かに伝えたくて、さしさんに話をしてみたのだが、彼の興味は擽られなかったらしい。「ふーん」と簡単に聞き流されてしまった。少し哀しい。

 

今俺たちは、昨日決めたことをさっそく実行しようと、さしさんと2人で買い物にきている。材料を先に買ってしまうと荷物になるから先にラッピング用品を見に来たのだけど、さしさんはあまり乗り気でなさそうだ。最初にここに来ようとした時も露骨に嫌そうな顔をしていた。彼は可愛いものが好きなのに、「別にタッパーでよくない?」などという男らしいというか雑な部分を持ち合わせている。そんな彼を説き伏せて連れてきたのだが、何せバレンタインは女の子主役のイベント。浮足立った女の子がありえない密度でバレンタインコーナーに集っている。それを見て「やっぱオレ、タッパーで良いわ」と引き返そうとする彼を必死に食い止めて、女の子の群れへ突入した。

 

我先に、より良いものをと思う気持ちは誰も同じなのか、品のある可愛らしいものはほとんど残ってはいなかった。ケーキ用の箱みたいなものが有ればよかったのだけど、適当なものは見つからない。仕方ないのでシンプルな正方形の箱に中にレースカットをされたキッチンシートを敷くことにした。それだけでは淋しいので、表装にはリボンをかけることにする。何センチいるかなんて見当もつかなくて、さしさんに相談をしたら「知らない」と一蹴にされた。一刻も早くここから出たそうにしている。ようやく決まったものをレジまで持って行き会計を済ませると、彼は詰めていた息を吐き出すかのように大きくため息を吐いた。

 

「ブラさんはさー、本当に女子力高いよね」

 

「え、むしろ低いと思うんだけど。家事出来ないし」

 

「家事とかじゃなくて、あの群れで悩むことができることがすごいと思う。愛の力なの?」

 

「そういうのじゃないよ?選ぶのが楽しいだけ。喜んでもらえたらいいなって」

 

「それが女子力高いんだよ。オレそういうの無理。面倒くさいし女子怖い」

 

彼のロリータ服を買いに行くのは良くて、バレンタインコーナーが駄目な理由が分かったような気がした。

 

「人それぞれだと思うけど?さしさんのそういうサバサバしたとこ格好良いよ」

 

「うん、ブラさんはそうだよね」

 

何かに納得されてしまう。何がそうなのか気になるけど、聞いたところではぐらかされるだろうから敢えて聞かないことにする。

 

ラッピング用品は揃ったから、次は肝心の材料だ。さしさんがキッチン借りるからお礼にと夜ご飯にハンバーグを用意してくれることになったので、その材料も一緒に買うことにした。しかし、普段全く冷蔵庫の中身を気にしていないものだから、何を買えば良いのかわからなくて困ってしまった。どうしようかとワタワタ慌てる俺と違ってさしさんは冷静で、とりあえず絶対必要と思うものだけ買って、後はその場で考えることになった。

 

思っていたより時間を食ってしまったが無事に買い物も終わり、家に着いたら早速用意をすることになった。

 

チョコレートとバターを湯煎にかけ、メレンゲを用意する。卵黄と砂糖を混ぜたものに湯煎にかけたチョコレートとバター、生クリームを加えてよく混ぜる。さらに薄力粉とココアパウダー、メレンゲをサックリ混ぜて180℃のオーブンで焼いたら完成だ。分量さえ量り間違えなければ混ぜて焼くだけだから、俺でも安心して作ることが出来る。

 

本当なら一人でも簡単に作ることの出来るようなお菓子だから、2人で作るとなればほとんどすることなんてなくて、さしさんはメレンゲを用意してからはずっとハンバーグを用意してくれていた。

 

「さしさん、これじゃ俺が作ったお菓子をまろみさんに渡すことになるよ?」

 

「あー。良いんじゃない?オレメレンゲ用意したし。一緒に買い物もしたから作ったことになるでしょ」

 

タマネギを炒めながら気にしないように言う。お菓子作りとハンバーグ作りを同時にしてるから、不思議な匂いが漂っている。さしさん曰く、甘い匂いばかりしているより全然良いらしいが、俺は正直微妙な気がする。

 

いよいよ焼き上がり、粗熱も取ったところで包装をすることになった。さっき材料を買う前に選んだ箱2つ取り出して、レースペーパーを敷く。箱の大きさに合わせて小さめのホールで焼いたケーキにパウダーシュガーをかけて、箱に入れて蓋をする。

 

リボンをかけて完成!という段階まで来て、問題が立ちはだかった。

 

「さしさんっ」

 

「そんな気がしてたよ」

 

リボンの長さが全然足りなかった。50cmもあれば十分だと思ってそれにしたのだが、あと30cmくらい必要だ。2人分を足せばどうにかなるけれど、それだとどちらかが箱だけになってしまう。それではあまりに味気ない。

 

「どうしよう、さしさん。まだ売ってるかな?」

 

「売り切れてるかもねー。あんなに人がいたし。」

 

せっかく用意したのに、ここまで出来ててドジるなんて。自分らしすぎて気持ちが落ち込みそうになる。

 

「オレ、リボンいらないから、ブラさんが使いなよ」

 

「ええ!駄目だよ!新しいの買いに行くよ!」

 

「もし同じのなかったら勿体ないじゃん。」

 

「そうだけど、」

 

「何なら帰りに別の袋買うから、使って良いよ」

 

「そんなの悪いよ。俺ばっかり得することになる」

 

夜ご飯まで作って貰ったし。

 

「んー。じゃあさ、貸しにしておくから、オレのお願い1つ聞いてよ」

 

「そんなことで良いの?あ、でも、俺に出来ることしかしないからね?」

 

「うん、ブラさんにしか出来ないことだから」

 

「何すれば良いの?」

 

「それは後で電話する。もうすぐまろみさん帰ってくるから、そろそろ帰らなきゃ」

 

気づけばもうそんな時間だった。くろさんももうすぐ帰ってくる。作ったお菓子を急いで隠さないといけない。

 

「わかった。じゃあ、電話待ってるね」

 

「うん、また後でね」

 

作ったお菓子と自分で持ってきた荷物を持って、さしさんは帰って行った。彼のお願いの内容が気になったけど、そんなことはすぐに記憶の端に追いやってしまい、目の前のお菓子の隠し場所に思考が移る。

 

後になって、安請け合いした自分の行動に後悔することになるのだけど、このときの俺はそれを夢にも思っていなかった。

 

【07-2 バレンタイン前日】

 

CP:黒ブラ Side:黒玉♂

 

今日のブラさんはソワソワと落ち着きがない。時計を見たり、携帯を見たり、オレをじっと見てきたり。理由は分かっている。バレンタインだから何か用意してくれていて、それを渡すタイミングを見計らっているのだろう。本人は隠しているつもりなのかもしれないが、昨日帰ってきた時点で部屋中チョコレートの匂いが漂っていたし、キッチンを預かっているのは自分だからわからないはずがない。それでも一生懸命隠そうとしている彼の仕草が可愛くて、気付かないふりをしてあげている。

 

そんな中パソコンに向かって研修レポートを書いていても、彼の動作が気になってなかなか集中できない。視線に気づいて顔を上げれば、目が合った瞬間顔を反らされてしまう。だからと言って手元の資料に目を落とせば、また視線を感じるのだ。彼は気付いていないだろうが、パソコンを起動させて1時間、彼の動作が気になりすぎてまだタイトルしか打つことができていない。オレとしてはそろそろこの持久戦を終わりにして、2人の時間をもっと濃密に過ごしたいと思っているのだけれど、それも彼の出方次第でいつになるかはわからない。

 

思考もまとまらないうえに、現状も進みそうにないことに少し苛立つ。冷静さを取り戻そうとコーヒーを入れているカップを手に取れば、中身はほとんど残っていなかった。はぁ、とため息を1つ吐いて立ち上がろうとすれば、不安そうな顔をした彼と目が合う。怖がらせてしまっただろうか。「コーヒー、入れなおしてくるけど、いる?」と尋ねればフルフルと首を振られた。キッチンに行って、インスタントの粉とお湯を注ぐ。インスタントは時間がかからない分らくだけど、癖のある酸味はあまり好きではない。やっぱりコーヒーメーカー買おうかな、と考えながら戻ると、ブラさんが正座をしてこちらを見ていた。

 

「ブラさん?どうしたの?やっぱりコーヒーいる?」

 

違うとわかっていて聞く自分もどうかしている。でも、彼は何故か緊迫した空気を放っていて、思わず吐いて出た言葉がこれだった。

 

「く、くろさん!」

 

オレの質問は聞こえていなかったみたいだ。それにしても緊張しすぎだろうと思う。もう一緒に住み始めて結構な期間がたっているし、そんなに緊張するような間柄でもない。もっと緊張するようなこと場面もたくさんあったわけだし、そんなに吃るほどのものではないだろう。

 

「あの、今日、ばれんたいんだから、これっ」

 

そういって差し出されたのは、ピンクと赤のリボンをかけられたダークブラウンの箱だった。大きさは15cmくらいだろうか、想像より大きくて驚いた。

 

「ありがとう。開けてもいい?」

 

彼がうん、と頷く。リボンを解いて箱を開ける。中には、パウダーシュガーのかかったチョコレートケーキが入っていた。思わず表情が緩む。

 

「コレ、ブラさんが作ってくれたの?」

 

分かっていても聞いてあげるのが紳士の嗜みだと、何かの(薄い)本で読んだ気がする。別に紳士になるつもりはないが、一応確認はする。既製品の可能性だって残っているのだから、ぬか喜びはしたくない。

 

「うん、さしさんと一緒に作ったんだ。ちゃんと2人で味見したから、多分大丈夫だと思う」

 

自信なさ気に彼が言う。普段から料理をしているさしさんとお菓子作りは得意なブラさんが作ったのなら多分と言わず大丈夫だ。例え不味かったとしても、彼が作ったものなら食べることはできる。

 

「ブラさんがくれるものなら何でも嬉しいよ。ありがとう」

 

そう言えば、彼は顔を紅潮させて俯いてしまった。可愛いけれど、この状態になるとなかなか元に戻ってくれない。どうしたものかと考えていると、どこからともなくバイブ音が聞こえてきた。音の方に目をやれば、ブラさんの携帯が電話の着信を訴えている。

 

「携帯、鳴ってるよ?取らなくていいの?」

 

「とるっ」と言って慌てている彼に携帯を手渡す。誰からの着信かなどを無断で確認するような無粋なことはしない。ほぼ無意識的にしているのだろう慣れた手つきで電話をつなぎ、耳に当てる。「渡せた」といった言葉が聞こえてくることから、多分相手はさしさんだ。長くなるかもしれないから、もらったケーキを冷蔵庫に入れに行く。今食べてもいいけれど、せっかくだから夕食後のデザートにさせていただこうと思う。夕食の買い出しにもいかないとな、と冷蔵庫の中を確認する。元居た場所に戻れば、電話をしている彼の肩が跳ねた。こちらをチラ見した後、通話口に向かって手を当てながら「やっぱり無理だって」と言っている。何が無理なんだ、と疑問符が浮かぶけど、さしさんのことだから碌なことではないだろう。深入りした方が負けな気がする。パソコンの前に座ってスリープから立ち上げれば、タイトルしか書かれていないワードが開いた。彼の電話が終わるまで進めておこうとキーボードに手を置いたところで、携帯が視界を遮った。何かと思い視線を上げれば、ブラさんが携帯をこちらに突き出していた。

 

「さしさんが、くろさんに電話変わってって」

 

「オレに?何の話だろう?」

 

「わからない。けど、変わってっていうから、ここ、置くね」

 

キーボードに携帯を置いて、ブラさんは部屋から出て行った。わけがわからないけれど、携帯を取らないことには話が進まないのだろう。保留を解除して電話に出ると、異常にテンションの高いさしさんの声が聞こえた。

 

『おはやっほー!みんな元気かにゃん?』

 

「何にハマったの?」

 

『うたぷり。はやと様だよー』

 

「そう。で、どうしたの?」

 

『べっつにぃー。ブラさんからちゃんとプレゼント貰ったかなって』

 

「貰ったよ?チョコケーキ」

 

『それだけ?』

 

「それだけ?」

 

『ふーん』

 

「何?」

 

『や、何も。じゃあさ、ブラさんに伝えておいて』

 

「何を?」

 

『“約束”って。それだけ言えばわかるから。じゃあね!ばいにゃん!』

 

そういって通話が切れた。相変わらずよくわからない人だ。巻き込まれた感も否めない。でも今はそれよりも部屋を出たまま戻ってこないブラさんと“約束”が気になる。とりあえず部屋を出れば、彼は廊下で突っ立っていた。

 

「ブラさん、そこにいると風邪ひくよ?戻ってきたら?」

 

彼はこちらを見た後、その言葉に後押しされるように肩を落としてトボトボと部屋に戻った。そわそわしたり、落ち込んだり、忙しいなと思う。いつも座っている位置に座ったのを見て、そばに腰を下ろす。何を言われたのかわからないし、こうなったのは“約束”が原因だろう。言葉を選んだところで解決はしなさそうなので、直球に尋ねることにした。

 

「さしさんが、“約束”って言ってたよ?」

 

ハッとしたように彼が顔を上げる。口をパクパクとさせて泣きそうだ。別に無理する必要はないんじゃ、と言いかけたところで彼が「くろさんっ」とオレの名前を呼んだ。

 

「あの、さしさんとの約束で、でも、そういうのじゃなくて!」

 

顔を真っ赤にして、慌てたように言う。

 

「バレンタイン、もう一つあって」

 

そこで話を切って、握った手を差し出してくる。手には、先ほどもらった箱にかけられていたものとそっくりのリボンが握られていた。これは、つまり、どういうことなのだろう。

 

「俺は反対したんだけどさしさんが、くろさんが喜ぶって言ったから。約束しちゃって。俺、ぷれぜんとって」

 

その言葉に唖然としてしまう。今自分にとって物凄く都合のいい言葉が聞こえてきた気がした。気のせいだろうか。

 

「あの!さしさんも冗談で言ったんだと思うし、気にしなくていいから!くろさん嫌がるってわかってたから!」

 

何も言わないオレにブラさんが慌てて訂正する。嫌なわけがない。けど、信じられない。まさか彼がこんな可愛いことをしてくれるとは夢にも思わなかったから。耐えきれずに、彼を抱きしめる。

 

「それって、ブラさんをプレゼントしてくれるってこと?」

 

聞けば、彼はコクッと頷いた。

 

以下略。

 

【07-3 バレンタイン黒ブラ】

 

CP:まろさし Side:まろみ♂

 

バレンタインだからと言って、朝ご飯がチョコレートケーキになるとは思いもしなかった。確かに今日は熱いお茶よりホットコーヒーな気分ではあったけど、さすがに朝からホールケーキは勘弁してほしい。

どうも反応できずに用意されていく朝食を見つめる。俺にはホットコーヒーとチョコレートケーキなのに、なぜかさしこさんは典型的な日本の朝ご飯が用意されている。もはやここまで徹底されてたらいじめのように感じる。彼の悪戯にはもう驚かされることはないと思っていたけど、それは自分の思い上がりだったようだ。

用意を終えた彼がエプロンを畳んで向かいに座る。礼儀正しく手を合わせて「いただきます」と言って食べ始めた。

 

「あのさ、」

 

「んー?食べんの?」

 

「なんでこんなにメニューに温度差があるん?」

 

「あー、冷蔵庫入れてたから?レンジチンする?」

 

そういう意味じゃない。そういう意味だけどそういう意味じゃない。

 

「そうやなくて、なんで俺は朝からケーキなん?」

 

「バレンタインだから?」

 

いや、聞かれてもわからない。確かにバレンタインだけど、こういうのは朝イチでするようなイベントじゃないだろう。

 

「聞かれてもわからんよ。なんでおやつとかデザートにしてくれんかったんか聞いてんの」

 

「オレ、甘いの嫌いやん」

 

確かに。彼は甘いものが得意ではない。たまに食べたいと思っても一口二口で満足してしまうらしく、俺はもっぱら処理班だ。

 

「でも、もうちょっと出し方とかあるやん」

 

「面倒だったから。インパクトあるかな、と思って。まろみさんチョコ好きだし食べれるでしょ?それとも何?オレのプレゼント受け取ってくれないの?」

 

彼には情緒というものが欠落しているのだろうか。イベント好きなくせに、扱いが雑すぎる。しかも最後はただの脅しだ。何の反応もできずにいたら、思い出したかのように彼が言った。

 

「あ、そっか。おまじないかけとく?」

 

うん。わからない。

彼はケーキに向かって手のひらを翳し、手首を左右に捻りながら「そびっ♪そびっ♪ばび~♪」と意味不明の呪文を唱えている。まるで呪われそうだ。

 

「それ、なんの呪い?」

 

「呪いやないよ!ちゃんとした作法!」

 

「何の作法なん?最近の流行り?」

 

「伊達家、出陣式之御作法」

 

何だって?

 

「ごめん、もう一回言って?」

 

「だてけ、しゅつじんしきのおさほう」

 

だてけってアレですか?伊達政宗の伊達ですか?

 

「いつの時代の作法なの?」

 

「廃藩置県前かな?」

 

「そっか、呪いじゃないならいいや」

 

「オレがまろみさんを呪うわけないじゃん!」

 

そうだと信じたいけど、彼の考えていることは本当に分からないから素直に頷けない自分がいる。何も言わずに放っておくと、さめざめと泣き真似を始めた。いつものことだから気にせず好きにさせておく。とりあえず、このケーキと戦わないと今日は進まない気がする。どう攻めていこうかと悩んでいる間もさしこさんの一人芝居は続いていた。

 

ようやく侵攻を開始しようという気になったところで、さしこさんが静かになった。目線を向ければ、今まさにフォークが刺さらんとしている部分をじっと見ている。居た堪れなくなってフォークを引けば、彼が「あ」と声を上げた。

 

「そんなに見られると食べづらいんやけど」

 

「気にせんでええのに」

 

「気になるよ。どうしたん?」

 

「いや、」

 

やっと食べてくれるのかな、って思っただけ

彼は何ともないように言った。

 

何だ。別に悪意や悪戯心でこんなことをしたのではないのか。ただ単に食べてもらいたかっただけなんだ。

 

そう気付くと、期待に沿わないと、という気になる。相変わらず熱視線は感じたけど、気にしないようにしてケーキを口に運ぶ。彼が期待に目を輝かせた。美味しい、と素直に感じたことを言えば、嬉しそうに笑った。

 

「良かった。不味いって言われたらどうしようかと思ってた」

 

ツンなのかデレなのか計り兼ねる発言をしてから、ちょっとまってて、と言って彼は席を立った。まだ何かあるのだろうか、と考えながらさしこさんの朝食の卵焼きを咀嚼していると、彼が何かの箱を持って部屋に入ってきた。

 

「実は、もう一個あるんよね。こっちはブラさんが作ったんやけど」

 

と箱を開ける。中には確かに今食べているものとよく似たケーキが入っていた。まさかと思い先手を打つ。

 

「俺は無理だよ?これだけあれば十分!そんなにケーキばかり食べれんよ?」

 

「さすがにそんなことは言わんよ」

 

言っていることはまともだが、顔が明らかに残念そうだ。自分の行動に自分自身で褒めたたえたい。

 

「こっちは学校持っていく。昼休みにでも渡したらみんな食べるやろ」

 

「でも、良いん?せっかくブラさんが作ってくれたのに」

 

「後で説明しとくから大丈夫。それよりさ、まろみさんは何かくれんの?」

 

え、と声を上げる。そういえば何も考えていなかった。

 

「ごめん、何も考えてなかった」

 

「そうやろうと思った」

 

彼はわざとらしく呆れたように言って、ニッと笑った。これは嫌な予感がする。

 

「でもだいじょーぶ!オレがちゃんと用意しておいたから!」

 

ドヤ顔で言われても嫌な予感しかしない。これはもう確実に何か企んでいる。

 

「一応確認するけど、それって昼にすること?夜にすること?」

 

「オレは別にいつでも良いんだけど」

 

「うんわかった。ホワイトデーには俺が何か用意するから、それでお互い様ね」

 

選択肢が『逃げる』しか見つからなかったというか、とにかく回避しなければならないと本能的に察した。まさかこんな返しをすると思っていなかったのか、さしこさんは舌打ちをしていた。本当に良かった。俺の思考回路gj。

 

これで完全にフラグ回避できていると思った俺は、この後油断だらけになって結局さしこさんの策に嵌ってしまうんだけど、このときはそれを夢にも思っていなかった。

 

【07-4 バレンタインまろさし】

 

CP:黒ブラ、まろさし 会話のみ

 

【07-5 黒+さし】

 

「もしもし?」

 

『おはやっほー!みんなのアイドルさしこたんだお☆』

 

「さっきぶりだね」

 

『うん。オレからのバレンタインは届いた?』

 

「無事受け取ったよ。ありがとう」

 

『あ、ブラさん本当にやったんだ?』

 

「本当に?」

 

『嫌ならしなくていいって言ってたからね』

 

「ああ、そうだったんだ」

 

『ちゃんとリボンは巻けてた?』

 

「いや、握ってただけだったけど?」

 

『えー。中途半端ー。ちん○こに巻けって言ってたのにー』

 

「そんなことするわけないでしょ」

 

『オレはできる』

 

「さしさんは特殊だと思うよ」

 

『くろさんオレに失礼ー!オレ超可哀想ー』

 

「そんなことないよ」

 

『ある!』

 

「はいはい」

 

『そういえば、ホワイトデーは3倍返しだよ?』

 

「何それ?」

 

『オレだって慈善事業でしてるわけじゃないからね』

 

「この3倍ってどうしたらいいの?」

 

『3倍の回数?』

 

「まろみさんが可哀想」

 

『黒さんそんなにがっついてるの?リアルで嫌なんだけど』

 

「変な想像しないでくれる?」

 

『あーあ。ブラさん可哀想』

 

「何でそうなるの」

 

『何となく。右って大変なんだからね』

 

「右とか言わないの」

 

『あ、まろみさん起きたから切るね。ばいばい!』

 

「え、どういう状況?」

 

 

 

【07-6 まろ+ブラ】

 

「もしもし?まろみさん?生きてる?」

 

『なんとか生きてるよ』

 

「良かった。くろさんが心配してたよ」

 

『ごめんね?大丈夫だって伝えておいて』

 

「うん」

 

『ブラさんこそ大丈夫?何かさしこさんがやらかしたんじゃない?』

 

「なっ、大丈夫!」

 

『よかった。また要らない知恵でも吹き込んでるんじゃないかと思って心配した』

 

「要らない知恵?」

 

『ううん。こっちの話。気にしないで』

 

「そっか。あ、バレンタインもらった?」

 

『うん。チョコレートケーキ貰ったよ』

 

「美味しかった?」

 

『美味しかったよ?どうしたの?』

 

「ううん、どうだったかなって思って」

 

『ああ、ブラさんが作ってくれた分は食べれてないんだ。ごめん』

 

「え?他にあったの?」

 

『さしこさんが用意してくれてたよ?』

 

「え?」

 

『ん?』

 

「んーん。なんでもないや」

 

『そっか』

 

「うん。あ、くろさんが呼んでるから切るね」

 

『わかった。またね』

 

「うん、ばいばい」

 

 

 
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