作戦を立てるために部屋に集まった専用機持ちたち。
「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう。」
「即ち、暴走ISをあたしたちで止めるわけね。」
「その通りだ。それでは作戦会議を始める。意見があるものは挙手するように。」
「はい。目標ISのスペックデータを要求します。」
「わかった。ただし、これらは二ヵ国の最重要軍事機密だ。」
千冬の機密という言葉に一夏が反応する。
「織斑先生、こんなときに機密もなにもありませんよ。まさかあなたは俺たちにノープランで作戦を遂行させるつもりなのですか?」
「確かに。スペックがわからないと作戦の立てようがない。」
ロックオンはそれにと付け加えて専用機持ちたちを見る。
「ここにいるみんなはこの事を口外したらどうなるかぐらいわかっていますよ。」
ロックオンの言葉に全員が頷く。
「ふ、愚問だったな。ではスペックデータを開示する。」
千冬は満足気に頷いた後スペックデータを開示、意見を出しあって作戦を組み立てる。
さすがにラウラも今回はおとなしく輪の中に入り作戦を考える。
「ターゲットは広域殲滅を目的とした特殊射撃タイプ。あたしやセシリアのティアーズと同じでオールレンジ攻撃を行えるみたいね。」
「攻撃と機動を両立した機体ね。厄介だ わ。しかも、スペック上ではあたしの甲龍を上回ってるから、向こうの方が上ね・・。」
「恐らく第三世代でもトップクラスの性能だな。」
銀の福音は一対多を想定した機体で攻撃と機動を両立したものだ。
しかしまだ問題点が上がる。
「このデータだけでは相手の格闘性能がどんなものかわからない・・。」
「うん、更識さんの言う通りだね。・・織斑先生、偵察はできませんか?」
「・・無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。最高速度は時速2450キロを超えるとある。アプローチは一回が限界だろう。」
それを聞きロックオンは作戦を組み立て、提案する。
「よし、作戦は一撃で福音を落とす。」
「アプローチの事を考えるとそれしかないか・・。で、誰が行くのだ?」
「行くのは強力な一撃を持ち、なおかつ超音速飛行ができる機体・・。該当するのは一夏のダブルオー、あたしのケルディム、簪のエクシアね。シャルも該当するけど今回は外れてもらうわ。」
「うん、仕方ないね。アリオスに変わってからあまり動かせてないから。」
そう、シャルは専用機がアリオスに変わった。
一次移行したとはいえ、アリオスの特性を完全に把握出来ていないことをわかっていたのでおとなしく引き下がる。
「セシリア、確か高機動パックが届いたのよね?」
「ええ、ストライクガンナーは超高感度センサーが装備されていますわ。」
「超音速下での訓練時間は?」
「20時間弱です。」
「上出来よ。インストールはティアナと協力すれば約10分前後で終わるから問題ないわね。組み合わせだけど一夏とセシリア、あたしと簪で行くわ。」
「なぜその組み合わせを?」
セシリアの疑問にロックオンは答える。
「エクシアの射撃武器はソードライフルと腕のバルカンしかないから火力が不足してるのよ。ダブルオーはある程度射撃戦もできるけど、エクシアは射撃戦があまり出来ない事とソードが作戦の要だから極力エネルギーを使わせないようにするために簪と組むわ。」
セシリアは楓戦で見せたシールドビットを思い出し納得する。
「なるほど。わかりましたわ。一夏さん、よろしくお願いします。」
「ああ、よろしくな。セシリア。」
「一夏、セシリアはあの時とは違うから安心していいわよ。」
そう、ロックオンはあの後もセシリアに訓練を施していた。
その成果としてケルディムに使うはずだったAIを搭載することでティアーズ展開中でも動く事が可能になり、完全とはいえないが偏向射撃が出来るようになった。
「ロックオンがそこまで言うのなら間違いないな。期待してるぜ、セシリア。」
「お任せください!」
「ロックオン、今回は手数を補いたいからセブンソードで出る。」
「わかった。ティアナにインストールするように伝えるわ。」
(フム、ストラトス姉は頭の回転が早い。作戦の組み立ても完璧だ。)
千冬はロックオンの頭の回転の早さに感服していた。
そこへ束が部屋に乱入。
「ちーちゃん、ちーちゃん。もっといい作戦が私の頭の中にナウ・プリティング!」
「・・出て行け。」
「聞いて聞いて! ここは断・然!紅椿の出番なんだよっ!」
「何?」
「紅椿のスペックデータ見てみて! パッケー ジなんかなくても超高速機動ができるんだよ! 」
束の言葉に応えるように数枚のディスプレイが千冬を囲むようにして現れる。
「紅椿の展開装甲を調節して、ほいほいほいっと。ホラ!これでスピードはばっちり!」
束によると白式で使われた展開装甲が全身に使われていて、それの発展型が紅椿で第四世代の目標であるパッケージ無しでの即時万能対応機らしい。
それを聞き、一夏とロックオンは心の中でこう思った。
(この天災は人をコケにするのがよっぽど好きらしいな・・!)
(まさかとは思うけど織斑先生・・。)
「束、紅椿の調整にはどれくらいの時間がかかる?」
「織斑先生、まさか箒を出すのですか!?」
千冬の判断にロックオンが信じられないという声を上げ、箒は顔を明るくする。
「ん?君は見てなかったのかな?スペックは現行ISより上だよ?」
「スペックとかの話じゃない!他の専用機持ちならともかく、箒を出すのは反対です!」
ロックオンに賛同するかのように一夏も反対の声を上げる。
「一夏、そんなに不安なのか?私なら大丈夫さ。」
「・・セシリア、簪。ごめん、外れてくれないかな?」
千冬と束という後ろ楯を得たことで一向に引かない箒にロックオンがついに折れた。
そう言ったロックオンの手は震えていた。
恐らくはいろんな感情が渦巻いているのだろう。
「はい・・。(ロックオンさん・・。)」
「わかった・・。(ロックオン・・手を震わせてる・・。)」
セシリアと簪はロックオンの様子を見て仕方なく引き下がる。
「織斑先生、行くのは一夏と箒、現場指揮官としてあたし。これでどうですか?」
「え~君も必要ないと思うけどな~。」
「束は黙っていろ。いいだろう。戦術指揮はストラトス姉に一任する。では三十分後にまた集合だ。」
千冬はそう言い放ち、解散。
ティアナはダブルオーにセブンソードをインストールしている間、ロックオンは一夏と鈴とシャルと話をしていた。
「みんなごめん。箒を止められなかった・・。」
「気にするな。あの場面では言い合いが続いていただろうし仕方ないさ。」
「ありがとう。そう言ってくれると助かるわ。あとは箒だけど浮かれてるわね。」
ロックオンの言葉に全員が頷く。
箒は先程のやり取りで声が上ずっていたのだ。
本人はその事に全く気づいていない。
「確かにね。千冬さんや博士の後ろ楯を得てから何か嬉しそうだったもの。」
「とにかく、あいつは何かやらかすかもしれないから気を付けておく。」
「あたしも指揮しながら箒を気にかけておくわ。」
一夏たちはわかっていた。
箒が浮かれている事に。
それは即ち視野が狭まる危険性が高いということ。
「ロックオンの作戦を無視してあいつがしゃしゃり出てきたのだから結果を出してもらわないと。」
「僕の稼働時間も箒よりはあるけどアリオスの全てを把握してるわけじゃない。だから引き下がったのに箒は・・。」
箒は作戦に参加しなかったシャルの事を軟弱者と判断。
だがその判断は違う。
シャルは箒と違い専用機持ちとしての責任感を持っている。
今回行かなかったのは稼働時間の不足と機体の特性把握が間に合わなかったからに過ぎない。
30分後、一夏たちは海岸に集合。
「・・・。」
「行くぞ!紅椿!」
「・・・。」
一夏はダブルオーを装着するが左肩のコーンスラスターにマウントされたシールド兼GNバスターソードⅡと両ふくらはぎに増設されたハードポイントにGNソードⅢと同じ素材を使用したGNカタール、両腰にはGNソードⅡを改良、連射を犠牲にして威力を高めて射撃を強化したロング、先端部をアンカーとして射出可能、格闘を強化したショートを装備している。
これがダブルオーの一つのプラン・セブンソードである。
ロックオンは見た目こそ変わっていないがドライブ側面にビームピストルが二丁追加された。
三人が装着を済ませ、千冬の方に向き直る。
「・・お前たちには大変な事を押し付けてしまって本当に申し訳ないと思っている。だからこそ、これだけは言わせてほしい。」
三人は千冬の雰囲気に何も言えず、その場は沈黙に包まれる。
「・・この中で誰一人欠ける事なく無事に生還してほしい。以上だ。」
「・・了解、姉さん。」
千冬の言葉に装甲に隠れて見えないが薄く笑いながら一夏は小声で答え、表情を引き締める。
「先に出るぞ、一夏。」
箒は一夏たちの答えを聞かず飛び出す。
それを見て千冬は一夏たちに声をかける。
「あの様子だと篠ノ乃は浮かれているようだ。だから・・。」
「わかってます。作戦を遂行しながら一夏とあたしで箒を見るようにします。」
「すまんな、頼むぞ。」
話を終えた一夏たちは呼吸を整えて飛翔態勢に入る。
「ダブルオー!織斑一夏、出る!」
「ケルディム!ロックオン・ストラトス、狙い撃つわ!」
二人は粒子を散らしながら飛翔。
紅椿が第四世代とはいえ、ダブルオーとケルディムは現行ISを大きく凌駕しているので、すぐに箒に追い付く。
「・・!もう追い付いたのか!?」
「さて、見せてもらおうか。アメリカとイスラエルが共同開発した機体の性能とやらを。」
いよいよ始まった作戦。
三人は果たして福音を止める事ができるのか?
感想、待ってます!
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一夏と千冬の距離がほんの少し縮まった?
そんな作戦会議と出撃前。