No.395697

世界を渡る転生物語 影技5 【力と命を知るもの】

丘騎士さん

 火の後始末の後、カイラ達【牙】族が扱う技である【リキトア流皇牙王殺法】の説明を受け、【気力】と【魔力】というこの世の万物が持つ力の流れをカイラが俺の体に直接流すことによって教えてくれる。

 【((進化細胞|ラーニング))】の効果のおかげで、通常、【リキトア流皇牙王殺法】の見習い闘士が3~一週間、完全に掌握するまで一ヶ月はかかるという力の流れの操作過程を数時間で終え、突然カイラが俺の頭をつついて森に隠れるという悪戯に俺は逃げつつカイラを探し……俺は凶悪で大きい狼と出会ってしまう。

 どんどんと狼に追い詰められ、致命的なダメージを負った俺は、目の前に迫る明確な死のイメージが迫る中、カイラの悲痛な声を聞いて【リキトア流皇牙王殺法】を使い、狼を撃退する。

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2012-03-21 12:41:32 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2466   閲覧ユーザー数:2237

 ……うっすらと意識が覚醒する。

 

 体に感じる倦怠感と、柔らかな温もり。

 

(あ……れ? 俺はどうなったんだっけ)

 

 ぼんやりと考える俺の頭を撫でる優しい感覚。

 

 視線をあげると、俺を優しく見つめるカイラの顔がすぐ傍にあった。

 

「あ……カイ……ラ?」

 

「……ん。やっと起きたにゃ、ジン」

 

 俺を抱き締めながら頭を撫でていたカイラの顔を見つめて……ようやく意識がはっきりとする。

 

(っ! そうか、俺は……助かったんだな)

 

ー恐 怖 激 震ー

 俺の記憶に蘇る……俺を食いちぎろうと眼前に迫るあの狼の大きな口と牙。

 

 命を奪わんと俺に迫っていたあの光景に死の恐怖を感じ、俺の体はガタガタと震えていた。

 

 そして、そんな俺を大丈夫といいながら、頭を優しく撫でながら抱き締めてくれるカイラ。

 

 俺があんな絶望的な状況でも、恐怖で怯むことなく冷静な判断をし、【リキトア流皇牙王殺法】を出すことができたのは……より強い殺気をこの身に受けたことがあるからだ。 

 

 そう、カイラと出会い、尋問された時の……あの時の殺気。

 

 あの殺気を感じたことがあるから、俺はあの狼の殺気を浴びても恐怖で竦んで一撃で捕食されるという事なく攻撃を避けることが出来たし、逃げ出す事が出来たのだ。

 

 そう、あの経験こそが俺を生かしてくれた。

 

 俺の心は、出会いこそ理不尽であったものの……俺を生かしてくれたカイラに感謝の気持ちが湧き上がる。

 

「……カイラ」

 

「……ん?」

 

 このカイラとの出会いがなければ、いずれ俺は森を出る前にあの狼や別の獣に食われ……死んでいただろう。

 

 あるいは運よく外に出ても……。

 

 そう思い、俺は─

 

ー力 強 抱 締ー

 抱きしめてくれるカイラに、俺自身も抱きつき返しながら、俺は顔を上げてまっすぐカイラを見つめる。

 

「……ありがと」

 

「……ん」

 

ー顔 擦 抱 締ー

 そんな俺の言葉を、気にするなという風に柔らかく微笑みながら、その抱き締める力を強くして顔を擦り付けてくるカイラ。

 

 震える俺の体が落ち着くまで、カイラは抱き締めたまま俺の背中をあやすように軽くたたき続け、俺はその優しい時間を体の震えが止まるまでの間……カイラと一緒に過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 そうしてしばし時間がたった後。

 

 外から入る朝日を感じ、日をまたいだことに気がついた。

 

 気絶してからの経過が分からなかった俺は、俺が気絶した後の事と、あの狼がどうなったのかをカイラに尋ねる。

 

 カイラは、俺の傷がふさがるのを確認した後で、俺を背負ってあの狼……【灰狼(グレイウルフ)】という種らしいが……を引きずって温泉までいき、俺の体の血を洗い流て綺麗にしつつ、温泉の排水口のほうに【灰狼(グレイウルフ)】の血抜きを行って放置してきたのだとか。

 

「……え? 血の匂いで他の獣が寄ってくるとかいう事はないの?」

 

「大丈夫ニャ。【灰狼(グレイウルフ)】はこの森だと結構強い部類に入るから、その血の匂いをかぐとむしろ離れていくニャ。それでもよってくるというのは……それよりも凶悪で強い魔獣の類になっちゃうニャ よっと」

 

ー軽 々 背 負ー

 俺自身、怪我は治ったものの血までは回復した訳ではなく、未だ血が足りてないないのか歩くにも支障をきたし、ふらふらしてうまく動けなかった。

 

 そんな俺を見て、無理しないのと笑いながら俺を背負い、小屋の外へと出るカイラ。

 

ー連 跳 樹 躍ー

 そして迷うことなく小屋から飛び降り、隣の木々へと飛び移り、木々の上を飛び越えて真っ直ぐに温泉へと進んでいくカイラ。

 

 カイラの背中の温かさを感じながらも……俺はふと自分の怪我が治っていることについて気がついたことがあった。

 

 そう、【進化細胞(ラーニング)】の作用で、傷が在り得ない速度で回復していくのを見られたはずだからだ。

 

 俺は、内心の恐怖を隠しながらも……隠し切れず、恐る恐るカイラに話しかける。

 

「……ねえ、カイラ」

 

「ん? 何だニャ?」

 

 何? とごく普通に話し返してくるカイラではあったが……俺の【進化細胞(ラーニング)】を見た時の衝撃は計り知れないものだったのではないだろうか。

 

 ありえないほどの速度で修復されている体……それはそう……まるで【化け物】のように……。

 

「あの……ね? 俺……その……傷が、すぐ治ったでしょ? だから……」

 

 風を切って木々を飛び移る中、俺は……やはり遠慮がちな言葉になりながら、話しかけ続ける。

 

(やっぱり……そんなに一瞬で傷が治るなんて……気持ち悪いよな……)

 

 落ちないようにとカイラの首にしがみついていたその服をつかむ手に……力がこもる。

 

 見られた事である程度の覚悟はしてはいるが……ここまで親しくなった相手に拒絶されるかもしれないというのは……転生して初めて出会い、仲良くなった人という意味合いもあってかなり精神的にきつい。

 

 そんな暗鬱に沈む気持ちを抱えつつ、カイラの返事を待ちながら、横を通り過ぎていく木々を視界に写していると……服をつかむ俺の手に、暖かい感触と共にカイラが手を重ねきた。

 

ー小 手 包 暖ー

 やわらかく暖かい感触がゆっくりと、わずかに震える俺の手を包み─

 

「……ん~……まあびっくりしたけどニャ。ただそれだけニャ。高々傷の治りが早い程度(・・)で……あたしは……我ら【牙】族は身内と認めた人を見捨てるような人間じゃないニャ。もっと半端ない治り方をする【月の王】なんてのもいるしにゃ~」

 

「……え?」

 

 その言葉を聞いて俺は衝撃を受け、唖然としてしまう。

 

 思わず声をあげ、思考を停止した俺に対し─

 

「えって……なんだニャ? ジン。もしかして……たったその程度でアタシがジンを捨てるとでも思ってたのかニャ? ……だとすればそれは……アタシをなめすぎだよ、ジン!」

 

ー力 強 握 手ー

 優しく俺の手を包んでいたカイラの手が、俺の言葉を聴いて怒り、俺の手を握る力が強くなった。

 

 カイラの声に怒気が混じり、俺を責める荒っぽいしゃべり方に変わる。

 

「だ、だって……だって!」

 

 気味悪がられると思っていた。

 

 嫌われると思っていた。

 

 捨てられると思っていた。

 

 そう思っていたところにカイラのあの言葉だ。

 

 戸惑ってしまうのも無理はないというのに─ 

 

「だってもなにもない! アタシはあんたを一人で生きていけるように育てるって約束したんだよ! その約束を果たすまで……あんたがアタシを嫌だっていっても離してやるもんか! この【四天滅殺】【リキトア流皇牙王殺法】カイラ=ル=ルカ! 一度立てた誓いをそんな事で反故にするほど腐ってないんだよ!」

 

 怒った顔で、怒ったあの獣の瞳で俺を横目で強く一瞥した後、ぷいっと顔を背けて前を向くカイラ。

 

「……うん……うん!」

 

 怒った声でありながらも、カイラのその言葉には俺を心配する優しさがあふれていた。

 

 その誓いの言葉は、俺の恐れを感じていた心に直接、柔らかく、しみこむように響き、溶け込んでいく。

 

ー涙 流 嗚 咽ー

「……あ~もう! 終わり終わり! こんなくだらない話はこれで終わりだよ! ほら、泣くんじゃないよまったく……!」

 

 俺は顔をカイラの背に顔をうずめ、嗚咽をカイラの背中に漏らしながら……カイラのかけてくれた言葉を反芻して頷きながら涙を流すのだった。

 

 それからほどなくして木々を飛び移る音と風切り音が耳が止み、温泉のある広場へとたどり着いた俺達。

 

 その温泉の横には……小川に首をつけて横たわる、俺を襲ったあの【灰狼(グレイウルフ)】の屍が横たわっていた。

 

「……ん、血抜きは終わってる。いいかニャ? ジン。アタシら【牙】族は森の恵みを得る種族。森の中の動物達を狩ることも然り。つまりあたし達は命を狩り、糧を得るものだニャ」

 

 俺を背から下ろして【灰狼(グレイウルフ)】が見える位置に俺を座らせたカイラは、【灰狼(グレイウルフ)】状態を確認しながら俺に語りかける。

 

ー臓 腑 切 離ー

 カイラがその手にナイフを持ち、【灰狼(グレイウルフ)】の解体作業に入る。

 

(うっ……)

 

 魚ならまだしも、動物の解体というのは中々心にくるものがあったが─     

 

「それは即ち、自らがしとめた獲物に……命に感謝し、その肉を食べてその命を体内に入れ自らの糧とし、共に生きていくという事。あたし等は仕留めた命に責任を持たなきゃいけないんだ。だから……ジンもこの狼を仕留めたものとして、この狼を……【灰狼(グレイウルフ)】を食べて命の糧とし、自分の命に終わりが来るまで、これからを生きていくんだ」

 

ー皮 剥 分 別ー

 そういいながら手際よく【灰狼(グレイウルフ)】の肉と皮の間の筋を切り、狼の皮を綺麗に剥いでいくカイラ。

 

 そして次々と肉を切り開き、骨にそって肉を剥ぎ取り、肉の塊を作って剥いだ皮の上に並べていく。

 

 顔や肋骨といった骨や、内臓部分が所々粉砕されており、それが俺の【リキトア流皇牙王殺法】の打撃の後だとカイラが指摘。

 

 俺自身が振るった力をまざまざと見せ付けられ、俺は自分が振るった力の強さに恐怖を覚える。

 

「……アタシ等【牙】族は今までも、そしてこれからも自らに必要な分だけを狩り、必要な分だけを取り、自らの糧として自然と共に生きていく。それが自然と付き合っていくという事だからニャ。ジンも【牙】族ではないけれど……【リキトア流皇牙王殺法】を使うものとして、その自然に愛されるものとしての心構えとして覚えておくといいニャ」

 

 そんな俺に、諭すようい語りかけるカイラの言葉。

 

 俺はその言葉を胸に刻み、きっちりと記憶しながら、俺は気持ち悪いとしか思えなかった目の前の解体作業の手順を記憶していく。

 

 俺が奪ってしまった命に対する、責任と糧とする感謝の意を込めて。

 

(そう……だよな。襲い襲われ、食い食われ、殺し殺され。それが自然界の掟。相手が襲ってきて俺が撃退したとはいえ……俺が奪ってしまった命に変わりはない。なら、それを意味のないものとして無駄にしないためにも……俺はカイラのする作業を見続けなくてはならない。俺がまだ出来ない事を、カイラがやってくれているのだから)

 

 俺が真摯に自分の解体作業を見ているのを見たカイラが、その真摯さに自分の言葉を理解したのだと悟り……満足げに微笑みながら仕留めた動物の解体作業について、どこをどうすればいいのかを説明しながら丁寧に処理を続けていく。

 

「もっとも……これは人にも言えることニャ。人も動物も……闘争心を持っているものだニャ。縄張り争いや力比べなど、そういう事をするのは人も動物も一緒。……ただ、同族同士で誇りもなにもない、無意味な殺し合いをしたり、快楽のために殺すというのは……人特有のものだけどニャ。動物にもいないことはないけど、そういう事をした後はちゃんと食べるしニャ」

 

 内臓や砕けた骨など、日常生活に使用できないものを【リキトア流皇牙王殺法】を応用して作った穴へと埋めていき、使える部分を選りすぐっていく。

 

 土に埋めれば、それはやがて土の中で腐り、栄養として大地に還っていくからだ。

 

「無意味な殺しは自らの闘士としての誇りと、この手にある【牙】という力を汚す事になる。だから普段は絶対にしない。……でも、何事にも例外はある。相手が卑怯な手を使って命のやり取りをしている時にそういう事を言っていたら死んでしまうにゃ。だから……相手が自らの命を奪おうとするなら……全力でそれを返り討ちにする。相手が無意味に殺戮をするような下種や屑だったら、完膚なきまでに叩き潰す! 人の命を奪うという行為もまた……相手の命を背負い、相手と競いあったその技や力の上昇を己が糧にする。それが……闘士としての心構えだよ? ジン」

 

「相手との戦いをも糧とし、命を背負う……」

 

 カイラが【リキトア流皇牙王殺法】で作られた【土拳(サフィスト)】をあやつって狼の皮に肉を包み、使えそうな大きな骨と爪・牙をまとめた小さな皮の袋に包む。

 

 そういう作業をこなしながら俺に戦うもの、闘士としての心構え、狩人としての心構えを真剣な顔で説くカイラ。

 

「ジンは……本当に優しい子ニャ。だけど……優しいだけじゃいずれどうしようも無いときに冷静な判断を下せず、その命を危険にさらすことになる。ならば、その前にあたしが心構えと同時に、その体に戦いと……戦いの仕方を出来る範囲で刻み込む! まあ今の気持ちを率直にいちゃえば……【牙】族以外のそこらへんの他人より、ジンの命の重みのほうがアタシにとっては大切だしニャ。だから……まだ小さいあんたには酷だとは思うけど……しっかり意味を理解し、命を奪い糧とするものとして、闘士として……あんたをあんたらしく生きさせるために……今はこの()を糧として、明日からがんがん鍛えてあげる!」

 

ー頭 撫 優 手ー

 温泉から湧き出るお湯を使って手を洗った後、俺に教えを説きながら、不意に優しい瞳になったカイラが俺の頭を撫でる。

 

 俺のこれからを真剣に考え、親身になって教えてくれようとするその姿勢。

 

 俺を心配し、俺を見守るその優しい眼差しが……今はとても嬉しかった。      

 

 俺はカイラの言葉をきっちり胸に刻みこみ、目を閉じて反芻する。

 

 命を糧に、前へ。

 

 それが、生きるという事。 

 

 目を開いた俺の目を覗きこみ、満足そうに頷くカイラ。

 

「いや~しかし、すっかり汚れちゃったニャ~!」

 

「…………え?」

 

ー抱 締 持 上ー

 などと唐突に真面目モードを解除したカイラが俺を抱きしめつつ、俺の服を脱がしながら自らも裸となって温泉へと突入。

 

 真っ赤になる俺を、子供が照れちゃって~とからかうカイラと、のんびりとした入浴時間を楽しみ……空に浮かぶ夕日が夕方を示すまでのんびりと過ごしていた。

 

 そして、未だ動きの鈍い俺に下拵えを任せたカイラが森に入って折れた木や枯れ木・枯れ草などを集めて火種を作り、俺はそれならばとカイラが解体してくれたあの狼肉を鉄串に通して塩を振り、焼く準備を整える。

 

ー燃 焼 火 種ー

 パチパチと燃え上がる火に肉を翳し、ジュージューと音を立てて肉を焼き上げる俺達。

 

ー噛 着 噛 千ー

 口をあけて肉の塊にかぶりつき、硬く筋張って臭みがややあり、味的にはいまいちな狼肉ではあったが……俺は自ら奪った獣の命とカイラの教えのことを思い出しながらも、じっくりとかみ締め、食べ進めていく。

 

 その様子に頷き、微笑みながらワイルドに狼肉を食いちぎるカイラ。

 

 その後も、この森にいる食べるとおいしい動物ベスト5や、危険野生生物ベスト5など、この森にいる生態系における大事な事をカイラが説明していき、こと危険生物に関してはどこらへんが縄張りなのかなどをカイラが自分のいる位置を中心として方向を示したりして、話は進んでいく。

 

 そんな夕食を食べ終わった後。

 

 火の後始末を蜜にして、俺達は再び小屋へと戻る。

 

 俺は満腹感と貧血からうとうととしていた所をベッドに寝かしつけられ、後から来たカイラに抱きしめられる優しい感覚を感じながらも眠りにつくのだった。 

 

  

 

 

 

 それから数週間。

 

ー右 薙 横 蹴ー

 カイラの鋭い蹴りが、俺の眼前をかすめ空を切りー

 

ー唐 竹 爪 撃ー

 爪が目の前を通過する。

 

「ちょ?! これってなんて修羅場ぁあああ?!」

 

「へええ……結構本気出してるあたしとやりあってそんな言葉いえるなんて、ずいぶん余裕じゃないかジン!」

 

(ただいま組み手という名の暴力を全力回避中な! 蒼焔 刃です。ご機嫌いかがでっ!)

 

ー左 薙 爪 撃ー

 襲い来る暴力に現実逃避でそんなくだらない事を考えていた瞬間、俺の左頬をカイラの右爪が掠め、空中に血の線が舞う。

 

「うおおおお! 爪かすった! 痛いし!」

 

「ほらほら~たかがかすったぐらいで騒がない♪」

 

 何故このような事態になっているかというと……それはあの【灰狼(グレイウルフ)】戦後へとさかのぼる。

 

 心構えを俺に説いたあの夜以降、カイラは俺を本格的に闘士として、狩人として鍛え上げる為に本格的な修行を始める事になった。

 

 まずは基本からというカイラの教えに従い、まずは身を守る基本としての【腕受け(アーム・ブロック)】や【足受け(フット・ブロック)】など、防御面での技術を教えてもらい、ゆっくりと拳と蹴りを繰り出すカイラの攻撃を防御したり捌いたりという事を一通り行い、次は回避をする際の体裁きを叩き込まれる。

 

 攻撃を防御するか回避するか、それは相手の攻撃に合わせて取捨選択する事であり、これをおろそかにするものは生き残れない、と真剣に話しかけるカイラに頷き、俺はこの動きを徹底的に体に覚えさせる。

 

 【進化細胞(ラーニング)】の効果により、瞬時にその動きを記憶・理解し、動きに反映させる俺を見て、ある程度できるようになってきたと判断したカイラが、それならばと、ある程度、速度を速め、組み手形式での鍛錬に移ることになった。

 

ー直 拳 腕 受ー

 カイラの左拳を左手で受け止め─

 

ー蹴 捌 回 避ー

 カイラの右足の蹴り上げを右手で威力を殺しながら、受け流すように捌く。

 

 初めはその体の動作の一つ一つを確認しながらゆっくりと。

 

 そしてそれを徐々に速度をあげて、力を強くしていく。

 

ー突 出 左 拳ー

 そして俺に突き出されるカイラの左ストレートを回避しながら、俺はカイラの一挙手にいたるまでを【解析(アナライズ)】し続ける。

 

 俺よりも圧倒的に技術的にも、力的にも上のカイラの動きは、その挙動一つ一つが勉強になり─

 

ー右 上 首 蹴ー

 殴り方・蹴り方・体の力の伝え方。

 

 その一つ一つを【解析眼(アナライズ・アイ)】のターゲッティングサイトは捕らえ、その知識を書籍として【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】に埋めていく。

 

 そしてその記憶は【進化細胞(ラーニング)】を通して俺の体に反映され─

 

 丁寧に、確実に。

 

ー肘 突 打 撃ー

 俺は教えられた動きを忠実に再現しながら、且つそれをもっとも相手に有効な形に最適化させていく。

 

「……驚いたニャジン。 ここまで出来る子だったとは……正直思っていなかったニャ。まったくジンはいつも……いい意味で期待を裏切ってくれるよにゃ~♪」

 

ー右 膝 顎 撃ー

ー両 手 交 受ー

「っ……結構必死だけど……ね!」

 

 不意に俺の顎を捉えようと放たれるカイラの膝の一撃を、【両手交差受け(クロスアーム・ブロック)】で抑えるように防ぐ俺。

 

 こうして俺の動きがよくなるたびに、徐々に修行をするカイラのその目に真剣みを帯びさせ、その攻撃の鋭さが増していく。

 

 そんな日々を過ごしていたある日。

  

「…………そろそろ本気めにいこっかにゃ~」

 

「……え?」

 

ー両 手 爪 伸ー

 そんな言葉と共に、先ほどからその両手の野生的な鋭い爪をシャキーンという音が聞こえるぐらいの勢いで30㎝ぐらい伸ばして─

 

「はっ!」

 

「うお?!」

 

ー袈 裟 爪 斬ー 

ー後 方 回 避ー

 その鋭い爪の一撃は刃物の如く空を切り裂きながら俺に迫ってくる。

 

 俺がその右腕の袈裟斬の爪を避けると─

 

「あまい!」

 

「っ……!」

 

ー宙 回 右 踵ー

ー後 反 回 避ー

 カイラがそのまま前転宙返りの要領で俺へと飛び込みながら、その右踵落としを俺の頭目掛けて放ってくる。

 

 俺はそれを仰け反って回避するも、その一撃はチッっと俺の鼻先を掠めながら地面へと落ちていき、地面に穴を開ける。

 

(ちょ?! 今のとか結構やばめな威力じゃないのか?!)

 

ー交 差 爪 斬ー

 踵を下ろした体制から体を弓なりにそらせたカイラが、その両手を振りかぶって袈裟斬と逆袈裟のX字に爪を振り下ろす。

 

 ……何故、こんな猛攻にさらされているのかというと……俺はあの後、自分の体質についてカイラに伝えたからだ。

 

 ルナちゃんのところをはしょりながらも、傷の治りが早い体質であり、それは打撲・擦り傷・切り傷でも関係ないという事を話したのだ。

 

 ……それが、今の現状を引き起こしているのである。

 

 口は災いの元と言えるだろう……。

 

 しかし、強くなるためには戦いに慣れる必要があり、カイラはついこの間まで戦いを知らなかった素人である自分よりも桁違いに強い闘士だ。

 

 それ故、俺の戦闘経験も大幅にあがっているのがよく分かる。

 

 分かるのだが……。

 

 無論手加減はしているのだろう。

 

 しかしながら、今の俺と彼女とでは圧倒的に戦力差がありすぎた。

 

 スピード然り、パワー然り、戦闘経験然り。

 

 そんなカイラが、【素手】から爪という【武器】ありになったのだ。

 

 ……………………その恐怖たるや推して知るべし!

 

ー爪 斬 十 抉ー

 振り下ろされたX字の爪斬によって、地面に刻まれる五線の交差したX字の傷跡。

 

(よ、容赦ないな~!? かなり本気になってきてないか?!)

 

 その爪のリーチの長さも考慮にいれ、大きく後方に下がって回避する俺。

 

「っ! 今のも避けるか……本当によくやるようになったニャ? ジン!」

 

ー好 戦 微 笑ー

 そう言いながら口元に笑みを浮かべるカイラ。

 

 ……その好戦的なその笑顔は、野生の獣の獰猛さをかもし出していた。

 

「そりゃあ! 目の前に! いい手本がいてくれるからね!」

 

ー前 傾 姿 勢ー

 互いに前傾姿勢になり、前後左右どこへでも動けるように爪先立ちでカイラを見据える俺。

 

 その一挙種一挙動ですら逃さない意気込みで見つめる俺と、俺の言葉にさらに笑みを深くするカイラ。

 

 そして─

 

ー疾 速 瞬 見ー

 その野生的な脚力を生かし、地面を蹴って俺に迫るカイラ。

 

ー左 薙 爪 斬ー

 疾風のような速度で俺との間合いをつめ、交差する俺に向かって左薙の左爪が迫る。

 

「っ!」

 

ー回 避 屈 低ー

 その一撃をしゃがんでかわすものの、俺の速度に遅れたように髪が舞い踊り、切られた髪の筋が空中に舞い散る。

 

ー前 転 回 避ー

 そのまま追撃を避けるために前に転がり、俺と交差し通り抜けたカイラのほうを振り向くと─

 

ー樹 木 駆 上ー

 その突進の勢いを殺さずに駆け抜け、木の幹を駆け上がったカイラが─

 

ー逆 蹴 唐 竹ー

 オーバーヘッドの要領で右足を唐竹に蹴り下ろしてくる。

 

(なんて動きっ!)

 

ー後 跳 回 避ー

 その蹴りを避けるために咄嗟に後方に飛びのく俺に─

 

ー回 転 双 爪ー

 俺に背を向けて着地したと思ったカイラが、俺のほうに飛んできながら回転斬りを放ってきて─

 

ー四 肢 這 屈ー

「くっ?!」

 

 再び伏せるように地面に四つん這いになって避ける俺。 

 

「いい加減─」

 

 そして、その伏せた俺を蹴り上げようと、その足が─

 

ー逆 風 上 蹴ー

「あたれにゃー!」

 

「無茶いうなああああ! ぐううう!」

 

ー突 出 仰 反ー

 両手で大地を突き放し、上体をそらしてその蹴り上げを避け、避けた俺の顔すれすれをその蹴りが通り抜けていく。

 

 風圧で髪が靡く中─

 

ー後 転 宙 返ー

 その勢いを利用してそのまま地面を蹴り、後方宙返りで距離をあけようとした俺だったが、この接近戦の中で宙に浮くという隙をカイラが逃すはずもなく─

 

「もらったぁああ!」

 

ー回 転 突 蹴ー

 蹴り上げた足の勢いを利用し、螺子のように体を捻り、勢いをつけた後ろ回し蹴りを俺の着地地点を狙って放つカイラ。

 

ー交 差 防 御ー

「ぐっ……はっ」

 

 再び【両手交差受け(クロスアーム・ブロック)】でそのカイラの蹴りを防ぐ俺だったが、一流の闘士たるカイラの本気めの蹴りがそんなもので防ぎきれるはずもなく─  

 

ー防 壊 軋 体ー

 防いだ腕ごと体を持っていかれ、蹴りの衝撃が俺の腕を折り、俺の腹へと突き抜けてくの字に折れ曲がり、後方へと吹き飛ばされていく。 

 

ー樹 木 背 打ー

「ごっ……!」

 

 十数メートルを吹き飛ばされた俺は、樹木に背中を強く打ち付けて空気を吐き出す。

 

ー骨 軋 血 吹ー

 俺の背中の骨と肉が軋み、悲鳴をあげ、激痛が駆け抜ける中……俺の体は樹木の幹にめり込み、木片を撒き散らす。

 

「ごほっ、ごほっごほっごほっ」

 

 ようやく息を継げるようになった俺が、息を吸い、吐き出すのと同時に口の中から感じられる血を吐き出し、咳を繰り返す。

 

ー血 渋 吐 出ー

 その咳に混じって吐き出される血のしぶき。

 

 そして─

 

ー細 胞 再 生ー

 いつもの細胞がざわめくような感覚と共に【進化細胞(ラーニング)】が活性化し、俺の傷をふさぎ、俺の内部を癒していく。

 

「う……ぐうっ……」

 

ー樹 剥 立 上ー

 俺は傷の治り具合を確認しつ、痛みに顔をしかめながらも、こちらに歩いてくるカイラを出迎えるように蹴られた腹を押さえながら樹木に埋められら自分の体をはがすように立ち上がる。

 

「いっつうう……。カイラやりすぎだろう!」

 

「……今のくらって文句いいながら立ち上がるジンにはいわれたくないにゃあ……」

 

 驚愕と心配の表情を浮かべていたカイラではあったが、俺が立ち上がるのを見てその表情に不満の色を浮かべる。

 

 実際、カイラと戦うようになってから俺の肉体構成や体力は加速度的に上昇を始めた。

 

 【進化細胞(ラーニング)】が毎日俺という存在を進化させ、その記憶と鍛錬が俺を一段上の俺へと作り変えていく。

 

 日々劇的に進化・成長していく俺を見て、満足そうに微笑むカイラ。

 

 俺はそんなカイラの姿に支えられてどうにかこの厳しい修行にも耐えられていたのだ。

 

「でも……最近、あまりにもジンが避けたりするのがうまくなってきたから……ついついムキになっちゃたニャ。ごめんにゃ~……ジン」

 

 俺が未だ治りきらない体を抑えているのを見て、頬をかきつつあやまってくるカイラ。  

 

 伏せる獣耳と、力なくたれるその獣尻尾。

 

(っ……もふもふ……もふもふだ!) 

 

 猫耳ピクピク……。

 

 しっぽふりふり……。

 

 モフモフしたいっ……!

 

ー毛 撫 揉 尾ー

「う……にゃああ! こら、しっぽで遊ぶな! 耳をさわるにゃ!」

 

 はっ! ついガっとなってやってしまった。

 

 どうやら無意識のうちに癒しを求めてカイラの耳と尻尾をもふもふしていたようだ。

 

 しかし……後悔は微塵もないッ!

 

「まったく……成長速度も実力も……そこらのリキトア見習い闘士よりも桁違いになりつつあるのに……変なところで歳相応なんだよにゃあ、ジンは」 

 

 苦笑気味の笑みを向けるカイラ。

 

 そんな癒しを得られている間、体の痛みは大分薄れていて、もふもふに夢中になれるほどになっていた。

 

「ん、もう大丈夫! もふもふ分もチャージしたし!」

 

 【解析(アナライズ)】結果が俺の体が治ったことを指し示し、俺は先ほど吐き出して血のあとがついていた口元をぬぐう。

 

「そっか……うん、そうだねえ。そろそろ攻撃の方も教えていいかもにゃ~……。……正直、リキトアの若手闘士の中で一番といわれているあたしの攻撃をここまで避けれるんだから、攻撃方法さえ確立させれば、そこいらの雑魚なら余裕になりそうだニャ」

 

  俺はカイラが俺を攻撃してくる記憶と共にそれを練習し、その動きが【進化細胞(ラーニング)】の進化に合わせるかのように最小の動きで最大の力を発揮できるように、調整・最適化されていく。

 

 そして、その日からは回避に専念する組み手の時間と、試合形式の組み手の時間が取られるようになっていく。

 

 そして…………修行はさらに苛烈に、より実戦的になっていく。

 

 ……どうしてこうなった!

 

 

 

 

 

 それからさらに数週間立ち……カイラと出会って早二ヶ月が過ぎ……もはや習慣になりつつある早朝の回避動作・格闘動作の一手一手の確認作業。

 

ー真 直 連 拳ー

 肩口から真っ直ぐに繰り出すストレート。

 

ー肘 鉄 鋭 突ー

 踏み込みと同時に、超至近距離下での戦闘用の肘鉄。

 

ー右 上 脚 振ー

 子供でリーチの短い自分の最長の攻撃である、右蹴り上げ。

 

ー右 踵 振 下ー

 蹴り上げた足を振り下ろし、唐竹からの踵落とし。

 

ー右 膝 突 出ー

 右足を地面につけたのと同時に、重心を前にかけながら腰を回し、膝蹴りを突き出す。

 

ー深 呼 吸 入ー

 一連の動作を確認し、大きく深呼吸をして体と気持ちを落ち着ける。

 

ー結 跏 趺 坐ー

 俺は続けてそのまま地面に胡坐を掻き、精神集中に入る。

 

 目を閉じ……胸部に意識を集中。

 

ー魔 力 流 動ー

 胸部にある回路のようなモノが開くのと同時に、俺の体に胸部からしみこむように【魔力】が流れだす。 

 

ー魔 力 循 環ー 

 頭から体にかけて、【魔力】が流れしみこんでいくかのように湧き出し、【魔力】が外に流れ出さないように体内で【魔力】を循環させ、【魔力】を圧縮させながら循環させる。

 

ー魔 力 表 環ー  

 やがて、その【魔力】の質量が体内に収まりきらずに体表へと放出されて、それは体内と同じように体の回りを周回していく。

 

(──うん。前よりも増えてる。魔力操作も大分楽になってきた)

 

ー魔 力 落 着ー

 しゅんと吸い込まれるように表面に溢れていた魔力がその光をなくして体内へと収束され、魔力が抑えられていく。

 

「ふ~……うん、大分慣れてきた。【魔力】の瞬間出力も大分増えてきたし……」

 

 【魔力】を一度押さえた後、【魔力】を一気に放出したり、引っ込めたりを繰り返したりして確認する。

 

 こうして確認してみると、【魔力】や【気力】を扱い始めた頃に比べれば、その最大容量・回復力・出力・制御力が上がってきているのを実感できる。

 

 体の鍛錬もまた、劣化という意味では【進化細胞(ラーニング)】の作用で意味はないのだが、鍛錬をする事によって動きの調節・最適化がされるので、そちらのほうでは決して無駄ではない。

 

 次は【気力】だな、と思いながら、俺は【魔力】を抑え、【気力】の鍛錬にはいる。

 

 下っ腹……丹田と呼ばれる場所に意識を集中しながら─

 

ー気 力 流 出ー

 【魔力】よりも脈動し、活動的な【気力】が俺の体を満たし、俺は再びそれを循環させていく。

 

 やがて【気力】は、意識をしている丹田に集まり、その熱量を高めるかのように集約し、それが再び循環の中へと戻っていく。

 

ー気 力 表 出ー 

 やがて【気力】は、俺の体外へと溢れ出し、橙色の輝きを持って俺を包み込む。

 

 その暖かな力を感じながら、俺はゆっくりとその【気力】を沈めていく。

 

ー深 呼 吸 入ー 

 大きく深呼吸をしながら、俺はこの数週間、修行をしてた内容を思い返していた。

 

 

 

 

 あの夜の後、修行の一環として最初に始まったのは、俺があの【灰狼(グレイウルフ)】と戦う前に行っていた遊びのように後ろから突かれ、その相手を探すかくれんぼのようなもの。

 

 またあの獣に襲われてはたまらないからと、カイラが行動範囲を決めた後、再び始まったかくれんぼに、俺はまた後頭部をつつかれて四苦八苦していたが……そうこうするうちに段々とカイラに背後を取られる瞬間をなんとなくではあるが理解できるようになっていった。

 

 葉の擦れる音、草を踏みしめる音、地面を駆ける音。

 

 カイラが俺の隙をうかがい、俺の後頭部を爪でつつく瞬間、一気に間合いを詰めるために大地を踏みしめる気配。

 

ー回 避 腕 掴ー

「!! へ~! やるにゃ刃!」

 

「ふ~~~! ドキドキしたあ~!」

 

 ようやく初めてカイラの攻撃を回避し、驚くカイラの腕を捕まえられたのだ。

 

 そして、その後は俺が隠れることになったのだが……ほどなくしてあっさりと見つかり……再びカイラが鬼になってと繰り返していくうちに、カイラの真似をする中で徐々に気配を消すコツというのが分かってきた。

 

 カイラもまた、最初は見つけやすいように気配を消していたのだが、徐々に本気めに気配を消すようになり……俺もまたそれを真似して気配を消すようになる。

 

 消した気配を探り、探られるから気配を消す。

 

 そうやってそれを繰り返す中─

 

ー自 然 溶 込ー

「! ……驚いたにゃ……そこまでになるだにゃんて……」   

 

 俺はようやくコツを掴み、気配を消す(・・)のではなく、自然の気配に溶け込む(・・・・)事だとわかったのだ。

 

 そして─

 

ー気 配 感 知ー

「そこだあ!」

 

ー投 石 森 茂ー

「にょわっとおう!」

 

 俺はカイラの【気力】・【魔力】を感知し、茂みから俺を狙っていたカイラに足元の意思を投げて牽制し、それを余裕で避けたカイラが、俺にニヤリと笑いかける。

 

 その後、この遊びがどういう意味なのかをカイラが説明してくれ─

 

 実は、この遊びは【牙】族として生きるために最低限必要な【狩人】になるための訓練であり、つついて隠れるほうは、獲物を前にして相手にそれを悟らせないように、自然に溶け込み同化して気配を隠す能力、【気配隠蔽】能力を身につける訓練であり、見つけるほうは獲物や危険を感知するために、敏感に相手の気配を察知する為の能力、【気配感知】を身につけるための訓練だったのだとか。

 

 遊びの中にまで訓練を施す【牙】族のやり方に感心しながら、俺はその訓練をし続け─

 

「(ジン、そっちいったにゃ)」

 

ー枝 上 隠 蔽ー

「(おっけ~!)」

 

 カイラからよほどの事がない限りは見つからないというお墨付きをもらった次の日から、俺はカイラと一緒に狩人として森の獲物を狙い、狩る修行に入っていった。

 

 俺が大きな音を立てたりして獲物を追い込み、カイラが爪や【リキトア流皇牙王殺法】で獲物を仕留めていたのだが─ 

 

 そろそろジンも、狩人としての武器をもったほうがいいというカイラの言葉に従い、かくれんぼの次に鍛錬として追加された弓術。

 

 カイラに基本を教わり、弓を引き矢を番え、何本か矢を射る中─

 

ー正 射 必 中ー

 【解析(アナライズ)】で弓の特性を知り、矢の具合を知り、矢を射るようになった時。

 

 ふと次の矢を構え、的を狙った瞬間、『すでに的を射ている』イメージがわくようになったのだ。

 

 ひどく不思議な感覚ではあったのだが……俺はそのまま矢を放つ。

 

 すると、矢はイメージそのままに軌跡を描き、的に当たったのだ。 

 

 目の作用てターゲットサイトが出るため、的を捕らえることが容易な事も相まって、俺は的に当たった矢に矢を当てるという事も出来るようになった。

 

「…………ジン、アンタって何でも出来るんだにゃ~……」

 

 俺の雰囲気に飲まれるかのように、俺の矢を射る姿を見ていたカイラが呆然とした表情をしていたのが印象に残っている。

 

 そして、その日以降。

 

 俺は背中に矢筒を背負い、弓を持って狩りに望むようになったのだ。

 

ー弓 狙 引 絞ー

 俺はカイラから送られるサインを見て頷きながら、弓に矢を番え、獲物の気配を感じる方向へと鏃を向け─

 

ー森 茂 飛 出ー  

 森の茂みから飛び出した獲物は……【猛角牛(ブルホーン)】。

 

 名の通り牛ではあるのだが、その頭についた角が巨大な三叉になっているのだ。

 

 こいつはこの角で突進し、敵を貫いたり、突進力で跳ね飛ばしたりする攻撃性を持ち、その角でこの森の樹木を倒し、木の内側の柔らかい部分を食べるという性質から、森を破壊するものとして【牙】族の間では害獣指定されている。

 

 そんな【猛角牛(ブルホーン)】が、カイラに追われて目の色を変えながら茂みから飛び出し、怒りに泡を吹きながら、目の前に立ちはだかる木々や草などをなぎ倒しながら逃げようとしていた。

 

 俺はその【猛角牛(ブルホーン)】を【解析眼(アナライズ・アイ)】のターゲッティングサイトに捕らえ、引き絞っていた弓を─

 

ー矢 貫 獲 物ー

 放った。

 

 俺の放った矢は、俺のイメージ通り三叉の角と角の間を通りぬけて斜めに眉間を貫く。

 

ー重 音 倒 付ー

 脳を貫通された【猛角牛(ブルホーン)】は、そのまま二~三歩進んだかと思うとその足に力をなくし、地面につっこむように倒れこむ。

 

ー柔 軟 着 地ー

「…………ジン、アンタもう狩人で生計立てちゃいなよ。きっと許可でるよ?」

 

「いやどこからよ!」

 

 仕留めた【猛角牛(ブルホーン)】の傍に立って、その死を確認したカイラが、半ば関心したような、半ばあきれたような声で頭上の俺を見上げてそんな事をいい、俺はそれに苦笑をもって答える。 

 

 その他にも、この森に生きる動物達を狩る際、相手を倒すという意思を隠して相手に気配を悟られずに後ろから近寄って生け捕りにしたりする技術や、木々を加工し、簡単な罠を使って獲物を追いたて、捕まえる狩猟技術。

 

「いいかにゃ? ジン。この木は材質的によくしなって粘りがあるにゃ。だからこれの端をちょっと削って弓にし、この絡まった蔓を弦にして結べば……ん、ほら。即席弓の完成だにゃ!」

 

ー弓 蔓 引 確ー

「へ~……なるほど、結構丈夫だな……。この場合の矢はどうすればいいかな?」

 

「それは適当に真っ直ぐっぽい木に、この爪や牙を先につけてやれば即席の矢になるにゃ」

 

 俺が弓が得意だと知り、いざという時のためにとそこらへんの木々から、枝と丈夫な蔓を使い、弓と矢を作り上げる技術。

 

ー牛 皮 剥 取ー

「ん~……おっし、綺麗に剥げた」

 

「お~、うまいうまい。これなら、なめせば十分に扱えるものになるにゃ」

 

「そんじゃ、こっちのほうもやっちゃうね?」

 

「まかせるにゃ~」

 

 仕留めた獲物の血抜きをし、皮と肉の間の繊維を切り離し、肉と骨を上手に切り分け、牙や爪を丁寧に落としていく。

 

 骨もまた加工する事によって工芸品や武器、家具の一部などに使えるのだ。

 

 狩った獲物をなるべく無駄に扱わない事。

 

 これもまた狩人の心得といえるだろう。

 

ー煮 沸 薬 液ー

「カイラ~こんな感じ?」

 

「うん、そうそう! あ、火傷しないようにするんにゃよ~?」

 

 そしてその得た皮で、寒くなる時期に備えて植物から獲た樹皮を煮込み、それに皮を漬け込み、余分な脂を落として皮をなめし、柔らかく保てるようにする作業。

 

ー香 草 燻 製ー

「………………じゅるり」

 

「?! カイラ!? これ保存用だから! 食べちゃだめだからね?!」

 

「し、失礼にゃ! つまみ食いだなんて考えてないニャよ?!」

 

「…………語るに落ちたなカイラ……」

 

「はっ?! く……やるねジン……!」

 

「いや何がだよ……」

 

 肉を香草で包み、その香草で慰撫してスモークを作ったり、岩塩を利用して塩漬けを作り、保存食を作り上げる技術。

 

ー骨 削 鋭 利ー

「ん、上手上手。そんで、この牙の根元のほうを掘り出して木を埋め込むんにゃよ」

 

「なるほど……うん、これでいい?」

 

「ん! いいね~。これなら魔獣クラスでも貫けるはずにゃ」

 

 爪や骨を削ったり、加工したりして鏃や工芸品などに加工する技術。

 

 カイラは生きる上に必要な技術と、もしものために手に職をつけるための技術を戦闘技術を仕込む間に教えてくれたのだ。

 

 こうしてカイラは森に生きる先達として俺と共に作業をしながら、俺に戦い方を教え、狩りをするというスタイルで日々を過ごし、カイラと過ごす日々は俺にとっては新鮮であり、また楽しいものになっていった。

 

 そんな思考を終え、息をゆっくり吐き出した瞬間─

 

「へ~……なかなか様になってきたね? ジン」

 

「えへへ……まあね。前もいったけど……カイラが先生だし! 強くならなきゃおかしいよ」

 

「……んもう、この()は嬉しいこといっちゃって~!」

 

 俺が一人で鍛錬していたのをじっと眺めていたカイラが俺に声をかけてきて、俺が素直にカイラに対してそういうと、カイラが照れるような笑顔で頬を掻くのだった。

 

 ……あれ、()の響きおかしかったけど……気のせい、だよね?

 

 

 

 

 

 楽しくも厳しい、カイラと共に暮らし、共に生き、共に学び、共に鍛える。

 

 そんな日々は確実に過ぎ、徐々にカイラとの別れが近づいていく。

 

 そんな事が頭をよぎるも、いつものように回避・防御の基礎、格闘基礎、【気力】・【魔力】運用を行い、食事と昨日狩った獲物の解体作業を行った後……これまたいつものように実戦形式の組み手に入る。 

 

「おっし、今日こそカイラから一本とるんだ!」

 

「おおう? 大きくでたにゃ。ふふ~ん、かかってこいにゃあ~!」

 

ー指 先 誘 動ー

 俺が気合を入れてそういうと、不適に笑うカイラが、人差し指を上に向け、かかってこいという意味合いを込めてくいっくいっと動かす。

 

ー前 傾 姿 勢ー

 俺は、速度と対応性重視の前傾姿勢から─

 

「しっ!」

 

ー疾 風 疾 走ー

 足に溜めた力で地面を蹴り、離れていたカイラとの間合いを詰めながら右手を地面に擦らせるような勢いで逆風からカイラの腹へと拳を繰り出す。

 

「まだまだ!」

 

ー袈 裟 爪 斬ー

 カイラも俺のその動きに不適な笑みを浮かべたまま、低い位置の俺を叩きつけるかのように袈裟斬に右爪を振り下ろす。

 

「っ!」

 

ー長 髪 切 飛ー

 咄嗟にボディ狙いの拳が明らかに届かないと悟り、迎撃されることが明白になった事で、俺はカイラから振るわれる右手の手首へと当ててずらし、一瞬止まった攻撃の隙をついて回避するが、避けきれなかった髪の毛が2~3本切れて空中に飛び散る。

 

(っさすがに爪も入るとリーチが長い!)

 

 手だというのに、爪の長さも入るために驚異的なリーチになっているカイラの攻撃に驚愕しつつ、左手の返しの爪がくる前に、リーチの短い俺のレンジである懐に入り込み、どうにか攻撃を当てようと試みるが─ 

 

「はっ!!」

 

「っ!」

 

ー右 蹴 上 回ー

 俺が体制を低くして再び動作に移ろうとした瞬間に、カイラの右足が蹴り上げられ─

 

ー迎 右 拳 下ー

 回避をすれば追撃が来ると分かっていることから、防御を選択しようとするも、それも実力差から意味がないと思った俺は、軌道を変えて威力を軽減するため、右拳をカイラの脛目掛けて振り下ろす。

 

ー軋 撃 敗 浮ー

 最低限そらせればそれでいいと全力で撃ち込んだものの、カイラがそれを読んで真正面から脛と拳がぶつかるように蹴りを調節した為……ウエイト・力・速さの全てにおいて劣る俺は勢いに押し負け、俺の腕が軋む音を立てる中、体ごと空中に打ち上げられる。

 

「ほら! 甘いよジン!」

 

ー左 追 蹴 上 ー

 右足を振りぬいた勢いをそのままに体を回転させながら地面を蹴り、その回転の勢いに合わせて左足を逆風から振りぬく……いわばサマーソルトキックを空中の俺に対して追撃してくるカイラ。

 

「っとお!」

 

ー足 乗 蹴 出ー

 俺はそんなカイラの蹴りを利用し、身軽な自分の体でカイラの左足に乗って勢いを殺しながら、カイラが回転し、カイラの左足から地面が見えた瞬間にカイラの左足を蹴って難を逃れ、地面を目指す。

 

「やるじゃない! でも─」

 

 俺の動きに目を丸くしていたカイラだったが、回転した先にあった樹木の枝を蹴って木の幹へと飛び、木の幹を蹴る際、足に溜めを作って─

 

「逃がさないよ!」

 

ー飛 突 爪 撃ー

 三角飛びを行った後、俺を貫かんと体ごと右爪を伸ばして飛んでくるカイラ。

 

(ちょ?! どこの格ゲーの動きだよ!)

 

 と、断片的に浮かんだ記憶そっくりの動きに驚愕と悪態をつきながらも、まだ空中に浮かんだままの俺は、俺を刺し貫かんとせまるカイラの爪を避けるため─

 

ー旋 回 受 流ー

 浮かんだ体を姿勢制御するために空中で両手を一度大きく広げ、体のバネを使って体を捻りながら自分の体を抱き締める手と、後ろに回す手で横回転する力を作り上げ、カイラの一撃の軸をそらし、腕で受け流しながら回避する。

 

 回転する俺とカイラの体が交差し、カイラの腕の側面を撫でるように逸らしながら、攻撃を回避する中、カイラのやるな、という横目の視線と、俺の視線が交錯する。

 

「はっ!」

 

ー転 右 薙 蹴ー

 先に地面についたカイラが油断なくこちらを振り向むこうとしているのを目の当たりにし、俺は空中で回転している自分の勢いを利用し、右薙の右蹴りをカイラに向けて放つ。

 

ー後 蹴 迎 撃ー

 カイラは、振り向くのが間に合わないと悟り着地した態勢そのままに後ろ蹴りで俺の蹴りを迎撃。

 

 ぶつかり合う蹴りで弾き飛ばされ、勢いを殺しながらカイラに背を向けて着地する俺。

 

 互いに背中を向けあう状況。

 

 一瞬の静寂から─

 

「はっ!」

 

「らあ!」

 

ー転 右 上 爪ー

ー吶 喊 前 傾ー

 振り向きざまにカイラは右爪をアッパーカットの要領で右斬上に地面を抉りながら俺を切り裂かんとし、俺は勝機を得るために懐にもぐりこもうと、まさに倒れこむような勢いで前傾姿勢で突撃する。

 

ー頭 上 掠 爪ー

ー回 転 足 払ー

 俺の突進のほうがスピードが速く、直撃は避けられるものの爪が俺を捉えようとしていたため、姿勢をさらに低くして爪を完全に避け、頭上を通っていく爪を感じながらも懐に入り込めた俺は、この姿勢では拳は届かないと判断。

 

 地面に手をつき、勢いを回転にまわして回し蹴りで足払いをする。

 

ー足 払 撃 宙ー

「んな?!」

 

 伸び上がるように爪のアッパーカットを出したことにより、足元が疎かだったところを狙った俺の足払いは見事に決まり、迎撃用に蹴りを準備していたものの、軸足を刈るように蹴られて後方宙返り気味に一瞬宙に浮くカイラではあったが─

 

ー後 返 後 転ー

 そこは半獣人の瞬発力。

 

 宙に浮いた瞬間、瞬時に両膝を抱いて回転を加速させた後地面に手をついてそのまま後転しながら俺との間合いを放す。

 

「……っはあ~~~! まさか……まさか本当にこのアタシに一撃いれれるようになるなんてね……本当に……本当にやるようになったじゃないかジン!」

 

「へへ、まあ……カイラのおかげだよ」

 

ー視 線 交 錯ー

 戦闘姿勢を崩さず、互いの視線を逸らすことなく、その視線同士がぶつかると─

 

「ふふふ、あはははははははは!」

 

「ぷぷ……、にゃはははははは!」

 

 どちらともなく微笑みが浮かび、声を出して笑いあう。

 

 今までは唯一方的に教えを請うだけで、戦いと呼べるものが出来なかった自分が、カイラと拳を交え、あまつさえ一撃を入れれるほどになったのだ。

 

 自分の成長を実感できることが……俺にとっては嬉しかった。 

 

「いや~、ジン。あんたほんとにすごいにゃ! まさかあたしと戦えるようになるとは。【リキトア流皇牙王殺法】をつかわずに体術だけの勝負なら……ジンは【牙】族の中でも結構上にいけるんじゃないかにゃあ」

 

「本当?! でも……そんなこといっても結局、力と重さがないから決定打にかけるんだよね~。【魔力】や【気力】があればどうにかなるけど……まあ、筋力強化とかカイラの動きを真似しての攻撃を反復練習するしかないかなあ」

 

「そうだにゃ~。これで破壊力さえつけば、本当にそこらへんの雑魚なんて本当に目じゃなくなるニャ」

 

ー頭 撫 柔 手ー

 俺の言葉に満面の笑みでうなずきながら、俺の頭を撫でるカイラ。

 

 そんなカイラに微笑み返し、ふと空を見ると日が傾いてきているのが分かった。

 

「っと、そろそろ晩御飯の準備をしなきゃだニャ。さ~! 狩りにいくニャよ~!」

 

「お~!」

 

ー跳 躍 樹 上ー

 そういったカイラの言葉に頷き、互いに足元に溜めをつくって飛び上がり、木の幹を蹴り、枝を飛び移って木の天辺まで飛び移っていくカイラと俺。

 

「ジン! やってごらん!」

 

「わかった!」

 

 木々の頂上に同時に着地すると、俺に声をかけてくるカイラ。

 

 俺は頷いて意識を静かにし、足元の自然へと意識を伸ばす。

 

ー気 配 捜 索ー

 クリアになる意識の中、俺の傍を駆け抜ける風の匂いや、風で揺れる木の葉のこすれあう音。

 

 ざわめく草々の気配などが俺の伸ばした意識に流れてくる。

 

ー雑 壊 暴 力ー 

 

「…………! カイラ! 向こうに【暴猪(ボールボア)】!」

 

「?! 何だって?! また(・・)?!」

 

 そんな俺の気配感知に引っかかったのは、動きを止めているものの、その気配を隠そうともしない荒々しい気質。

 

 成長すると全長5m以上に成長するという、この森の中でも巨大で凶悪な存在。

 

 雑食性であり、森の木々や動物を手当たり次第食い荒らす害獣として【牙】族からは危険視されており、見つけ次第排除するのが森を護る守護者の役割とまで言われているのだ。

 

 また、【牙】族の狩人としてはこの【暴猪(ボールボア)】を単体で倒せれば一流の仲間入りという、ボーダーラインにもなっている。

 

 基本、【暴猪(ボールボア)】は単体で活動し群れを成すことをせず、互いの縄張りがある為にここまで頻繁に遭遇することは少ない。

 

 しかしながら……俺はカイラと狩りを行う中、すでに何度かこの【暴猪(ボールボア)】と遭遇し、狩っていたためにその気配を覚えていたのだ。

 

「……おかしいね、【暴猪(ボールボア)】がこんなにこの森に頻繁に現れるだなんて……ともかくよくやったよジン!」

 

ー樹 上 跳 躍ー

 カイラが俺に【暴猪(ボールボア)】までの先導を促し、俺がその気配を捉えた方向へと案内するように木々を飛び移っていき、その後をまったく遅れずにカイラが追従する。

 

 近くなる気配にその顔に獲物を狩る狩人の笑みを浮かべたカイラが、その体から【魔力】を放ち、木々へと浸透させて行く。

 

❛【木門】【覚技】・【瞳葉(リーズァイズ)】❜ 

 

ー周 囲 緑 瞳ー

 森の木々と意識をリンクさせ、瞳を葉に作り上げ、視覚情報を共有する【瞳葉(リーズァイズ)】。

 

 技者次第でその範囲は異なるが、範囲内の樹木全ての葉を瞳に変えるこの技から逃れられる存在はまずいない。

 

 俺が気配を感じ、指差す方向に【瞳葉(リーズァイズ)】を展開するカイラ。

 

「……また派手にやってくれちゃって……本当にどうしようもないやつだね……!」

 

ー歯 噛 締 軋ー

 【瞳葉(リーズァイズ)】から送られてくる森の惨状に歯を食いしばり、険しい顔になるカイラ。

 

 そして、木々を飛び移る俺達の視線の先、肉眼でも見えるようになった、鬱蒼としたこの森の中にはありえない……ぽっかりと木々の開けた広場。

 

 それは木々がなぎ倒され、食物になる果実の木や草が食い荒らされて広場になってしまった場所。

 

ー凶 獣 睡 眠ー

 そして、その中央に四肢を折りたたんで丸まっている毛皮の塊。

 

 その口元からはみ出た牙は1メートル以上はあろうかという長さで、その体は分厚い脂肪の下に筋肉が隠されている。

 

 その大きさは10mにも届こうかという大きさで、今まで狩ってきた中では最大の大きさだった。

 

「ジン! アンタがやってみな!」

 

「うん!」

 

ー加 速 跳 躍ー

 カイラに促されるまま、俺は木々を飛び移る速度を加速させて広場前にあったよくしなる木の枝へと体重を乗せて着地する。

 

ー弓 形 引 絞ー

 その枝は、弓のようにしなり、その粘り在る枝は折れることなく─

 

ー放 昇 跳 躍ー

 弓が矢を放つかのように俺を上空へと押し上げ、俺はその押し上げる一瞬を利用してジャンプをし、さらに上空へと飛び上がる。

 

ー両 膝 抱 抱ー

 【暴猪(ボールボア)】を眼下に捕らえ、俺は必殺の一撃を与えるべく、自分の体を丸め、両膝を勢いよく抱える。

 

ー加 速 回 転ー

 その勢いは徐々に加速度をつけ、落下の勢いと相まって俺を高速に回転させ、俺は青い弾丸のように落下を始める。

 

 回転を緩めず、俺はその高速回転のまま、【暴猪(ボールボア)】の顔めがけて落下して行く中─

 

ー魔 力 開 放ー

 俺は【魔力】を解放し、体内に循環させて体を強化する。

 

ー凶 獣 開 眼ー

 高速回転・魔力開放に伴い、俺の気配を察した【暴猪(ボールボア)】が、その両目を開き、僅かに身じろぎして俺のほうを見上げるべく顔を向ける。

 

「っし! ナイスタイミング! いけ~!ジン!」

 

「はぁあああああああああ!」

 

ー渾 転 踵 落ー  

 カイラからのそんな言葉を背に、俺は高速回転から放たれる、今の俺の全力をこめた右足の踵落としが【暴猪(ボールボア)】の眉間へと突き刺さる。

 

ー粉 骨 粉 砕ー

 十分な回転速度と落下速度を加えたその一撃は、岩のように硬い骨と、分厚い皮下脂肪を持つ【暴猪(ボールボア)】の顔面へと突き刺さるのだが─

 

ー凶 獣 咆 哮ー

「───?!!!」

 

 突然顔面に突き刺さった痛みに、咆哮をあげて痛がり、のた打ち回るように暴れだしたのだ。

 

(まずい! 一撃必殺がずれた!)

 

 本来ならばもう少し上の部分を攻撃する事により、頭蓋骨を粉砕して脳を破壊し、一撃でしとめるという予定だったのだが……【暴猪(ボールボア)】が気がついて上を向いた時に攻撃位置がずれ、分厚い頬骨に当たってしまった為に絶命までには至らなかったのだ。

 

「くっ!」

 

ー顔 蹴 距 離ー

 俺は自らの失態に顔をしかめながらも、見境なく痛みで暴れまわる【暴猪(ボールボア)】から逃れるために、顔面に突き刺さった踵の勢いを利用して離れようと大きく後方へ跳躍するが─

 

「ジン! あぶない!」

 

「なっ?! があ?!」

 

ー巨 牙 襲 撃ー

 カイラの忠告も空しく、痛みで暴れる【暴猪(ボールボア)】の巨大な牙が空中にいた俺を横殴りにとらえ─

 

ー防 壊 腕 折ー

 辛うじて【腕受け(アーム・ブロック)】が間に合いはしたが、その質量・重量・力に負け、俺の右腕は折れ、わき腹に当たった牙は俺の肋骨を砕く。

 

ー背 撃 樹 木ー

 凄まじい重量感に吹き飛ばされた俺は、激しい衝撃を伴って木の幹へと体を強打し、俺の体がぶつかった樹木に俺の体がめりこみ、へし折り、樹木が徐々に傾いて倒れていく。

 

「……がふっ……」

 

ー吐 血 咳 込ー

 遅れてやってきた激痛と呼気。

 

 背と手、わき腹に突き抜けるそれが俺の体の状態を突きつけ、内臓を傷つけたのであろう、咳き込んだ瞬間に吐き出してしまう血。

 

「ジン! 大丈夫かい?!」

 

ー跳 躍 着 地ー

 その様子を見ていたカイラが、木々の上から俺の傍へと着地し、心配そうに俺を見つめる。

 

「ぁ……うん、だ、いじょうぶ。すぐ治るし」

 

 折れていない左手をひらひらと振ってカイラにアピールをするものの、傍から見れば強がりにしか見えないそれを見て─

 

「惜しかったね……いい一撃だったけど、ちょっとずれちゃたニャ?」

 

ー優 微 撫 柔ー

 俺の頭を優しい瞳を向けて撫でるカイラ。

 

「ぅん……ごめんね? せっかく任せてもらったのに」

 

「気にしない気にしない! 後は……カイラお姉ちゃんに任せとくニャ!」

 

 落ち込む俺に気にするなとエールを送り、ウィンクをしながら背を向けるカイラ。

 

ー魔 力 奔 流ー

 その刹那、カイラの体に魔力が溢れ出し、その魔力に反応した地面がざわめくように反応する。

 

「……よくもやってくれたね……! 森と……アタシの怒り……存分に味わえ!」

 

ー地 面 強 打ー

 怒りを込めて大地に拳を叩きつけるカイラのその手から、緑色の【魔力】が地面を伝播し、未だに暴れまわる【暴猪(ボールボア)】へと殺到する。

 

 そして、その【魔力】にこめられた意思は顕現し─

 

❛【土拳(サフィスト)】❜

ー土 拳 連 打ー

 

 【暴猪(ボールボア)】を囲むように打ち付けられる【土拳(サフィスト)】の連撃。

 

「────!!!!」

 

 咆哮をあげて暴れまわる【暴猪(ボールボア)】は、その【土拳(サフィスト)】の連撃を受けてもなお顕在であり、その巨体を、牙を振るい【土拳(サフィスト)】を次々と破壊していく。

 

ー疾 風 近 接ー

 それを見たカイラが獣人特有のしなやかさを持って、音も立てずに暴れまわる【暴猪(ボールボア)】へと接近し─

 

ー魔 力 震 足ー

 【暴猪(ボールボア)】の暴域にその足を踏み入れた瞬間、その足から流れ出す【魔力】が─

 

❛【土脚(サレッグ)】❜

ー土 脚 連 打ー

 

 その【魔力】を受けて【土脚(サレッグ)】が土の中から起き上がりながら、巨大の【暴猪(ボールボア)】を下から蹴り上げる。

 

 その連撃により、わずかに浮かび上がる【暴猪(ボールボア)】ではあったが……その一撃で【暴猪(ボールボア)】は暴れる方向性を変え、その名の所以たる形へと体制を整える。

 

ー凶 獣 球 体ー

 その身を丸めてその分厚い皮と皮下脂肪を鎧とし、筋肉で補強をして転がる……【(ボール)】状態へと。

 

「っ!」

 

 浮き上がったところを、俺が傷つけた眉間めがけて爪を突き刺し、脳を破壊するつもりだったカイラの動きが、その【暴猪(ボールボア)】の動きで思わず止まり─

 

 浮かび上がっていたその巨体は、落下を始め─

 

「っち!」

 

ー転 進 回 避ー

 自分の動きを止めた事に対して舌打ちをしながら、カイラは後転し、距離をとる。

 

ー落 下 重 破ー

 その重さで体を地面に沈みこませながら、自分の落ちた周囲を破壊して木片や石、土塊を撒き散らす【暴猪(ボールボア)】。

 

「くっ……」

❛【土拳(サフィスト)】❜

ー土 拳 連 打ー

 

 そんな飛び散る土塊共を防ぐために【土拳(サフィスト)】の拳で迎撃し、盾代わりにするカイラ目の前で─

 

ー回 転 凶 進ー

 【暴猪(ボールボア)】名の由来たる、回転突進の回転を始める【暴猪(ボールボア)】。

 

「っ! この位置はまずい!」

 

「カイラーーー!」

 

 今のカイラがいる位置は回転突進直撃コース。

 

 その延長上に俺がいるものの、俺がいる位置は辛うじて間合いの範囲外。

 

 今最高にピンチなのはカイラなのだ。

 

(間に合え!)

 

ー魔 力 直 播ー

 俺は痛む体を押して、左手を地面につけて【魔力】を注ぎ、カイラのほうへと【魔力】を直進伝播させる。

 

「?! ジン?!」

 

 そんな俺の行動に、一瞬俺のほうに視線を移すカイラ。

 

 そして─

 

❛【土拳(サフィスト)】❜

ー土 掌 押 上ー

 

「!!」

 

 カイラの足へと伝播した【魔力】は、俺の意思通りに土の手を開いてカイラを上空へと押し上げる。

 

ー押 上 跳 躍ー

 瞬時に俺の意図を理解したカイラが、その押し上げられる力を利用して跳躍し、空中に舞いながら体制を整える。

 

ー暴 回 破 壊ー

 そしてその飛び上がった真下を潜り抜けて行く【暴猪(ボールボア)】の回転突進が、俺の【土拳(サフィスト)】を粉々に打ち砕きながら蛇行と無軌道をとりながらごろごろと転がり、自らが餌としていた木々を破壊し、地面にめり込ませ、そのことごとくを破壊しながら通り道を平らに踏み固めるように均していく。

 

 俺は目の前の状況……暴れまわる【暴猪(ボールボア)】と、空中にいるカイラを見ながら思考を巡らせる。

 

(俺の状態は……だめだ。このままじゃカイラの足手まとい。ならアイツのトドメはカイラに任せるしかない。なら、俺に出来ることは……足止め。出来るならカイラがトドメを刺せるようにアイツの顔を上向きにするのが望ましい。だけど……どうすれば)

 

 そう考えているうちに、無秩序な軌道の【暴猪(ボールボア)】が暴れる中、その渦中へとカイラも落下を始める。

 

(! カイラが危ない! 一瞬だけでもいい、止められれば……そうだ!)

 

ー魔 力 広 播ー

 俺は咄嗟に思いついた作戦を実行するべく、地面につけたままの左手から再び【魔力】を流し、均されていく地面へと【魔力】を伝播させる。

 

 そして─

 

❛【土拳(サフィスト)】❜

ー土 拳 地 穴ー

 

 【暴猪(ボールボア)】の進行上に、【土拳(サフィスト)】を片面にまるで壁のように上空へと伸ばし、【土拳(サフィスト)】を作るために大きく抉れ穴になった場所へ【暴猪(ボールボア)】を導く。

 

ー凶 獣 落 転ー

 そして狙い通り落とし穴に落ちる【暴猪(ボールボア)】ではあったが、その回転突進の勢いからその落とし穴を削りながら落とし穴の壁を登り、駆け上がっていく。

 

 そしてその勢いは留まらず、壁状にした【土拳(サフィスト)】を破壊しながら上空へと駆け上がっていく。

 

(今だ!)

 

❛【木拳(トラフィスト)】❜

 

ー木 拳 連 結ー

 俺は自分の背中にあった折れた木へと【魔力】を通し、【木拳】を連結させて真正面にある樹木へと伸ばし、【魔力】を伝播させながら次々と対面にある樹木へと連結した【木拳】を伸ばしていく。

 

(イメージ……イメージしろ!)

 

 【魔力】を一気に放出する事により、途切れそうになる意識を必死に保ちながらも、俺は自分のイメージ通りに【木拳(トラフィスト)】を展開し続ける。

 

 そして、空中に浮かびあがった【暴猪(ボールボア)】が、俺の【土拳(サフィスト)】壁を破壊しつくして落下するその下に─

 

❛【木門】【拳技】・【樹織(ネィティン)】❜

 

 次々と木々をつなぎ、繊維のように折り重なり、網目状の形へと変化させた【木拳(トラフィスト)】、【樹織(ネィティン)】を展開する。

 

「カイラーー!」

 

「! あいニャ!」

 

❛【木門】【拳技】・【木拳(トラフィスト)】❜

ー連 拳 足 場ー

 その連結した【木拳(トラフィスト)】が、【樹織(ネィティン)】から枝分かれするかのようにカイラの足元へとまっすぐ伸び─

 

ー木 拳 着 地ー

 その【木拳(トラフィスト)】へと着地したカイラが、その伸びる勢いを利用して再び宙へ跳躍する。

 

 上空に上っていた【暴猪(ボールボア)】の巨体が、地面から離れることによって徐々にその回転速度を緩めながら落下する先には、木々で出来た【樹織(ネィティン)】が待ち受けていて─

 

ー凶 獣 絡 取ー

 

 そして、その回転した体は口元に飛び出るその巨大な牙が【樹織(ネィティン)】に絡まることによりその回転を無理やり止められ、牙が軋みをあげ、【暴猪(ボールボア)】が軋む体に悲鳴をあげる。

 

 そして、それを狙って上空から迫る─

 

「これで……終わりだぁあああ!」

 

ー落 下 爪 突ー

 牙が絡まることによって真上を向く事になった【暴猪(ボールボア)】の眉間へと、真っ直ぐ吸い込まれるようにカイラの爪が突き刺さっていき─     

 

ー絶 叫 凶 獣ー

「─────────────………………!」

 

 肩口までを【暴猪(ボールボア)】の眉間に埋めたカイラ。

 

 そして獣の断末魔があたりに響き渡り、【暴猪(ボールボア)】はその体を小刻みに震わせる。

 

 そして、やがてそれは動かなくなり─

 

「っしょっと!」

 

ー手 抜 血 噴ー

 カイラが突き刺した手を抜くと、そこから噴出す獣の血しぶきが噴水のように血を撒き散らす。

 

「ふ~…………やっとか……。ナイスアシストだニャ、ジン! ……やっぱりジンは【リキトア流皇牙王殺法】を扱えるんだね……うん、それならこれからはそっちの修行もさせないと……!」

 

 凄惨な血染めの体で、笑顔を浮かべるカイラが、俺にその微笑を向けながらも、俺が【リキトア流皇牙王殺法】を使える事に頷きながら修行内容の追加を決心する。

 

「…………カイラ、俺が…………【リキトア流皇牙王殺法】を使える事には……何も言わないの?」

 

「ふふ、な~にいってんの、今更だにゃ~! あんたほど自然に愛されてる存在も稀だしニャ。自然の力を使う【リキトア流皇牙王殺法】を使えたところで別段驚きはしないニャ」

 

 そんな細かいことは気にしないとばかりに、ふふんと胸を張って俺に笑いかけるカイラ。

 

(…………まったく……カイラには救われてばかりだな……)

 

 そんな事を思いながら、俺は心に宿る暖かさからカイラに笑い返し─

 

「っ?!」

 

 そんな俺の顔を見て、驚いた顔をした後、あわてて顔を背けるカイラ。

 

「っ~~~~~……不意打ちはやっぱくるニャ……」

 

「???」

 

 そんな言葉をつぶやくカイラと、首を捻る俺。

 

 ようやく動けるまで回復した俺が立ち上がり、どの道、【暴猪(ボールボア)】を解体しなければならないという事でカイラが【暴猪(ボールボア)】の首元を斬って血抜きに入り、俺は自分の体の確認をする。

 

 そして、何度か経験したことなのだが……この【暴猪(ボールボア)】、狩人の腕前を示すものとして扱われるだけあって、この巨大な肉は食料として王都へと持っていき、一流の狩人に届く願掛けとして民の皆に振舞われるらしい。

 

 それ故、カイラが森の境界まで走って森の外の番人の協力を得て、【リキトア流皇牙王殺法】を使って解体された肉を運んで行くのだ。

 

 まあ……その間俺は、森の掟に引っかかる自分を、その森の番人たるカイラ以外の【牙】族のみなさんから隠すために気配隠蔽を念入りに行って【瞳葉】などで感知されない位置にいなければならないのが難なわけだが……。

 

(まあ、せっかく仕留めたのに腐らせるだけというのも……狩人の矜持に反するしな……)

 

 大分カイラの思考に染まってきたな、などと考えながら、お互いの血塗れの惨状を見て苦笑しつつ、俺は後のことをカイラに任せ、その場を離れる。

 

(温泉のほうは……カイラの仲間が解体作業をした後で、体を洗うために寄る可能性が高い。ならば出会う危険性が低い湖のほうで体を洗うか)

 

 そう思い、俺は血を洗い流すために湖へ脚を向け、気配を自然へと溶け込ませて気配隠蔽をしながら森の中へと消えていったのだった。 

 

 

 

 

 

『ステータス更新。追加スキルを含め表示します』

 

登録名【蒼焔 刃】

 

生年月日  6月1日(前世標準時間)

年齢    6歳

種族    人間?

性別    男

身長    105cm

体重    27kg

 

【師匠】

 

カイラ=ル=ルカ 

 

【基本能力】

 

筋力    C ⇒B- NEW

耐久力   CC⇒B- NEW 

速力    CC⇒B- NEW

知力    C ⇒B- NEW 

精神力   C ⇒BB NEW

魔力    C ⇒B- NEW

気力    C ⇒B- NEW

幸運    B

魅力    S+ 【男の娘】補正

 

【固有スキル】

 

解析眼   S

無限の書庫 EX

進化細胞  A+

 

【知識系スキル】

 

現代知識  C

サバイバル B⇒A  NEW

薬草知識  B 

食材知識  B 

罠知識   C⇒B  NEW

狩人知識  C⇒B  NEW

魔力操作  C⇒B  NEW

気力操作  C⇒B  NEW  

 

 

【運動系スキル】

 

水泳    B 

 

【探索系スキル】

 

気配感知  C⇒B  NEW

気配隠蔽  C⇒B  NEW

罠感知   C⇒B  NEW

足跡捜索  C⇒B  NEW

 

【作成系スキル】

 

料理    C⇒B  NEW

精肉処理  C⇒B  NEW

皮加工   C⇒A  NEW

骨加工   C⇒A  NEW

木材加工  C⇒B  NEW

罠作成   C⇒B  NEW

 

【戦闘系スキル】

 

格闘    D⇒B  NEW

弓     C⇒S  NEW

リキトア流皇牙王殺法 C⇒B- NEW

 

【魔術系スキル】

 

無し

 

【補正系スキル】

 

男の娘   S (魅力に補正)

正射必中  S (射撃に補正)NEW

 

【ランク説明】

 

超人    EX⇒EXD⇒EXT⇒EXS 

達人    S ⇒SS⇒SSS⇒EX- 

最優    A ⇒AA⇒AAA⇒S-  

優秀    B ⇒BB⇒BBB⇒A- 

普通    C ⇒CC⇒CCC⇒B- 

やや劣る  D ⇒DD⇒DDD⇒C- 

劣る    E ⇒EE⇒EEE⇒D-

悪い    F ⇒FF⇒FFF⇒E- 

 

※+はランク×1.25補正、−はランク×0.75補正

 

 

【所持品】

 

衣服一式

お手製の弓矢 NEW  


 
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