No.395286

仮面ライダーディージェント

水音ラルさん

第39話:全てはPから始まった/ヴァン・ビギンズ

2012-03-20 20:26:51 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:315   閲覧ユーザー数:315

歩はディージェントの変身を解くと、先程トライセラトップスドーパントと共に落ちて来た穴の真下まで来て、その穴を見上げた。

穴は各フロアの床を見事に貫通しており、歩が戦闘を行っていた大展望台広場まで続いている。

 

(ここから行った方が早そうだね……)

 

そう判断した歩は自分の足元に横に寝かせた状態の次元断裂を展開するとその上に乗った。すると次元断裂は歩を乗せたままスーッと何の音もなく上へとゆっくり上昇して行った。

 

次元断裂を応用すればこのくらいの応用が利く事はディージェントになる以前から知ってはいたが、あまり好んでこう言う事はしたくないのが本音だ。何故なら……

 

(やっぱり、掴まる所がないから怖いな……。壁も展開したいけど、一つしか展開出来ないし……)

 

足場はそれなりに広くはしてあるがトライセラトップスドーパントが開けた穴の大きさまでしか展開出来ないのだ。

しかもあの時トライセラトップスドーパントは徐々に体躯を大きくしながら落ちて言った為に、上に行けば行く毎に穴が小さくなり、展開した次元断裂も小さくしていかなければならないのだ。

 

それなら直接次元断裂空間を潜って目的地まで移動すれば良いだろうと言う話にもなるが、歩はそこまで細かい位置に移動する事が出来ない為、座標が微妙にズレてしまうのだ。

しかも移動するのはタワーの上部。もし展開する位置がズレてタワーの外側に出てしまえば、普通の人間なら怪我では済まない。

まあ、歩なら落ちそうになってもディージェントに変身して耐える事が出来るだろうが、そんな命綱なしのバンジーをする趣味は全くない。それならこっちの方が断然楽だ。

それに、先程落ちた際に階段も崩れてしまったのでこうやって移動するしかない上に、あのままサイクロンだけでディボルグと戦わせるのは危険だ。

 

ディバイドが一緒にいないのは気配をタワー出入口の近くで感じたことからすぐに気付いた。

恐らくディボルグではない別の何かと戦闘になって落ちたのだろうが、彼なら問題ないだろう。

 

やがて大展望台広場まで辿り着くと軽くジャンプして次元断裂から飛び降りてスタント着地すると、そこには別の先客が、歩を挟むように立っていた。

タキシードの男と、どこかの工場で着ける様な茶色い作業服を着た男だ。

 

「来ましたか。仮面ライダー殿」

「よくも東京湾まで飛ばしてくれたなぁ!キッチリ礼をさせてもらうぜ!!」

「……ナスカドーパントと、アノマロカリスドーパント…ですね?」

 

二人の特徴的な口調から一体誰なのかすぐに分かった。歩の推察に「ええそうですよ」と答えながらナスカドーパントの男・井上運河は金色のガイアメモリを取り出してスイッチを押してガイアウィスパーを鳴らして自身の顎に挿し込むと、その姿を先刻見た青い騎士の姿を模した怪人へと変えた。

 

[ナスカ!]

 

『貴方のドライバー、頂きますよ』

「……僕のドライバーは貴方達が今持ってるドライバーとは勝手が違います。手に入れても使えないですよ」

 

そう返しながら歩はクラインの壺からディージェントドライバーとカードを取り出して戦闘態勢に入ろうとするが……

 

[アノマロカリス!]

 

『そんなのやってみねぇと分かんねぇだろうがあぁぁぁ!!』

「ッ!?」

 

目の前のナスカドーパントに気を取られている隙に、背後に居た男がアノマロカリスドーパントに変身して襲い掛かって来た。

 

「チィッ…!」

『ぐべっ!?』

 

それには流石に驚き、思わず後ろを振り向いて次元断裂を展開させて相手の猛進を防ぐが、それが拙かった。

 

『隙ありです』

「ッ!しま…ガハッ!」

 

ナスカドーパントに背を向けてしまったが為に、背後からの奇襲には対処できずにナスカブレードによる峰打ちを受けて吹き飛ばされてしまった。しかもその際に、手に持ったディージェントドライバーとカードを手放してしまい、宙に舞ったディージェントドライバーはナスカドーパントの手元に落ちてしまった。

 

『うごがががが……お?消えた…?』

 

更に突然の攻撃によって空間の演算が狂い、アノマロカリスドーパントの動きを止めていた次元断裂が消えてしまった。

 

『ご苦労様です。お陰で手に入りましたよ』

『あ、はい。でも、どうして殺さないんで?』

『私は一対一で戦う主義ですからね。こんな勝ち方をしても、嬉しくもありません』

 

アノマロカリスドーパントの疑問にナスカドーパントはウンザリした感じで答えながら落ちたカードを拾い上げると、メモリを体内から取り出して人間に戻ってディージェントドライバーを腰に巻き付けた。

 

「さて、では試しに使ってみますか。使い方も貴方の戦いを見ていれば分かりますし」

 

[カメンライド……]

 

少し前にジョーカードーパントとの戦闘も見ていたからなのだろうか、ディージェントへの変身プロセスを進めて行く。

だが、歩にはこの時点で彼が変身できない事が分かってる。ワールドウォーカーがDシリーズに触れれば、差異はあれども頭の中にそのDシリーズの情報が流れて来る筈だ。

そして歩の予想は的中した。

 

「変身」

 

[エラー!]

 

「何…?ぐあっ!?」

『い、井上さん!?』

 

カードをディージェントドライバーに挿入した瞬間、通常とは違う電子音声が発せられ電流が一瞬流れたかと思うと、ドライバーが運河を吹き飛ばしてしまった。

 

「…ハッ!」

『あ!テメェ返せ!!』

「これは元々僕の物です。変身」

 

[カメンライド…ディージェント!]

 

運河の身体から弾き飛ばされたディージェントドライバーをすぐさま拾い上げると、運河と同じプロセスを通してディージェントへ変身を果たし、両手のグローブを嵌め直しながら二人に言い放った。

 

「Dシリーズは誰でも扱えると思ったら大間違いですよ。それに、これは望んで手に入れる力でも決してありません」

「くぅ…いくら私でも無理がありましたか……」

 

[ナスカ!]

 

運河は悪態をつきながらもナスカメモリを起動させて自身の身体へ挿入して再びナスカドーパントへ変わると、同時に出現したナスカブレードで構えて斬り掛かって来た。

 

『はぁっ!』

 

[アタックライド…スラッシュ!]

 

「…フンッ!」

 

しかしすぐに「スラッシュ」のカードを発動させて右手の手刀でナスカブレードを受け止め、そのまま何度か切り結ぶ。

 

『俺がいる事を忘れてもらっちゃあ困るぜぇ!!』

『よしなさい!!』

『え!?なんで!?』

「……?」

 

何度目かの鍔迫り合いに入ったところで、静観していたアノマロカリスドーパントがディージェントの背後から襲い掛かろうとしたが、ナスカドーパントが叱責して動きを止めた。

それには流石のディージェントも折角のチャンスを逃そうとするナスカドーパントの意図が分からなかったが、更に続けた言葉にようやく理解した。

 

『これはあくまで私と彼の戦いです!先程も言いましたが、私は一対一での勝負しかしない主義なのです!余計な手は出さないで頂きたい!!』

「……意外とフェアですね」

『それが私のポリシーですからね。ハァッ!』

 

ナスカドーパントの騎士道精神に感服して声を漏らすと、こちらの手刀を弾いて距離を取り、ナスカブレードを眼前に構える。

ディージェントも同じくバックステップで距離を取ると、肩の力を抜いて楽な姿勢で立った。

一見すれば隙だらけに見えるが、これがディージェントなりのあらゆる状況に対処できる構えだ。

無駄に力が入っていては空間把握能力で周囲の状況を把握していても対処に遅れてしまうからこその、ディージェントが行き着いた独特の戦闘スタイルだ。

 

ナスカドーパントもそれを理解しているのか特にこれと言って何も言わず、代わりに「フッ……」と軽く笑った。

 

『それでは私と一緒に…史上最速のダンスパーティを始めましょう』

「……ッ!?」

 

そう宣言した刹那、ナスカドーパントの姿が一瞬にして消え、ディージェントが何かに弾かれた様に吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

迫りくるナイフを眼前に捉える中、ディバイド…ヴァン・アキサメはこれまでの事を走馬灯のように思い出していた。

 

父親に剣術を教わっていた幼少期の事。

母親に連れられて母の故郷のアメリカへ旅行に行った事。

高校の剣道全国大会で準優勝を果たした事。

そして、ディバイドライバーを手に入れたあの運命の日の事も……。

 

その日は何時ものように学校に行っていたのだが、その帰り道である山道が目に入った。

そこは今ではあまり行かなくなったが、ヴァンが子供の頃によく遊んだり偶に父に剣道の稽古を付けてもらっていた思い出の場所だ。

 

『……偶には行ってみるか』

 

そう呟いて山道を登ってしばらくすると、その道中に何か緑色の木刀の様な物が地面に突き刺さっているのが見えた。

 

『何だぁありゃあ…?』

 

そんな疑問の声を漏らして更に近づいてみると、それは木刀などではなく正真正銘の日本刀の形を成していた。

しいて違う所を挙げるならば、まるで宝石の様に煌めいている所や、鍔の部分に何かをセットするための小さな溝が付いてる事だろうか。

 

興味本位で柄を握って引き抜いてみると、その瞬間頭の中に何かがゆっくりと流れ込んできた。

 

『ん……?何だぁ、ディバイドライバー?これの事かぁ?』

 

そう呟きながらも頭の中に入って来る内容を読み取ってみると、それはこの剣…ディバイドライバーの使い方やその作られた目的、そして異世界の事などが頭に叩き込まれた。

 

異世界なんて言っても正直実感の湧かない夢物語だし、高校2年生にもなって厨二病な事をほざく質でもない。

まあとりあえずクラインの壺とやらに入れて持ち帰ってから色々調べてみよう。

そう思い立つとすぐにそれを実行し、山から下りる事にした。

 

しばらくしてようやく山道からアスファルトの敷かれた公道まで辿り着いた頃に、何やら学校へと続く繁華街から嫌な気配を感じた。

それに、向こうからはサイレンの音なんかも聞こえてくる。事故か何かあったのだろうか?

 

(……ちょっくら見てみっかなぁ?)

 

そんな気合の入っていない野次馬根性を出しながら、ヴァンは来た道を戻って行ったが、それが彼に“声”を張り付かせる要因となるとは、彼は夢にも思わなかった。

 

 

 

 

 

『なんだぁ…こりゃあ……』

 

その眼前に見えていたのは地獄絵図だった。

何時もの通学路に立ち並ぶ幾つもの建物は瓦礫に成れ果て、道行く人々が見た事もない様々な生き物達に襲われている。

 

全身が茶色くくすみ、民族風の白い布で出来た服を纏った怪人だ。

 

だが、見た事はないが知っている。いや、正確に言えば分かると言った方が正しいか。

先程ディバイドライバーを手に取った時にアレに関する情報を手に入れたからだ。

だとすると、本当に異世界なんてものがあるのだろうか?そして、何故その異世界の怪物がこうしてこの世界にやってきているのか……。

 

『ゴギ、アゾボビモリントガギスゾ(おい、あそこにもリントがいるぞ)』

『タギバボンバギンゲゲルンタギギョグザ、グソグギフグゾリビズベタゴグザッタバ。ジャスゾ(確か今回のゲゲルのルールは、黒い衣服を身に着けたオスだったな。やるぞ)』

 

闊歩していた内の二体の怪物・グロンギが良く分からない言語で話し合うと、こちらへと歩み寄って来た。

 

ここで逃げてしまえば後が楽だったろうが、この時のヴァンにはそんな事は出来なかった。

何故なら見てしまったのだ。崩れた瓦礫の下から助けを求めてもがく手を。

 

『たす…けて……』

『……あぁ、助けてやるよ。コイツ等を片付けたらなぁ!』

 

自分の耳に僅かに届いた声にヴァンはそう返すと、手元に次元断裂を展開させてその中に右手を突っ込むとディバイドライバーを引き抜く。

更にもう片方の手にも先程よりもコンパクトな次元断裂を展開させると、そこから一枚のカードを取り出して構えた。

 

『テメェらぁ、ここは俺の居場所なんだよぉ……。それを軽々しくブチ壊す奴等は…俺が徹底的にしばき倒してやんよぉ!』

 

[カメンライド……]

 

左手に持ったカードをディバイドライバーの鍔部分に設けられているスリットにセットすると、電子音声が発せられ、戦うための準備ができた事を告げ、音声コードを唱えた。

 

『変身!』

 

[ディバイド!]

 

そう叫びながらディバイドライバーを横薙ぎに振るうと、剣先の通った箇所に二枚の板状の物体が現れ、空間がパックリと裂けてその傷口がみるみる広がって行く。

やがて開いた傷口から灰色のドロッとした空間が見えたかと思うと、その空間がこちらに迫ってヴァンの全身を包み込んできた。

 

『ぁん?…ナブッ!?』

 

突然の出来事に思わずそう声を漏らすが、特に感触と言った物がなく、ただ視界が灰色に濁り体付きが変わって行く様な感じがした。

その後目の前に現れていた二枚の板状の物体が顔に突き刺さったかと思うと視界がクリアーになって行き、変身する前よりも視界が鮮明になり、目の前に居た二体のグロンギが自分を見てたじろいだ。

 

『クウガ!?』

『バレクウガガボボビ!?(何故クウガがここに!?)』

『何言ってんのか分かんねぇけど、これからお前等を徹底的に叩き潰して助けに行かなきゃならねぇんだ。とっととくたばってくれよぉ』

 

後頭部を掻きながらヴァン…ディバイドは意味不明な言語で話すグロンギにそう言い放つと、その二体に斬り掛かって行った。

 

 

 

 

 

『オイ!大丈夫か!?』

『た、助けて……』

 

グロンギとの戦闘を終えたディバイドは瓦礫に押し潰された男性を引き上げながら声を掛けた。

その男性は瓦礫に胸部を圧迫されていたのか、服に血が滲んでおり、口からも血を吐き出していた。

 

『待ってろ!今救急車を……ッ!?』

(誰か…誰か来てくれ……)

 

そこまで言ったところでまた別の場所からも助けを求める声が聞こえて来た。

今のヴァンは変身した状態だ。変身していれば当然身体能力や五感が高まり、本来なら聞き取れない様な小さな音でも聞きとる事ができる。

 

(痛い、痛いよぉ……)

(何で、こんな事になったんだ……)

(誰か助けて!私、まだ死にたくない……!!)

 

しかも聞こえてくる声はそこからだけではなかったのだ。そこら中の瓦礫の奥から無数の呻き声が聞こえてくる。

それには思わず抱えていた男性を手放してマスク越しに耳を覆うが、それでも聞こえてくる。

 

『やめろ、そんなに話しかけないでくれ……すぐに行くから、待っててくれよぉ……』

 

耳に響いて来るいくつもの声に恐怖を覚えながらも、そう言い返す。そしてふと下を見ると、先程手放してしまった男性が目に入るが、彼の状態に思わず息を飲んだ。

 

『そ…んな……ッ!』

 

どうやら手放してしまった際に後頭部を激しく打ってしまっていたようで、元から重症の身体に余計に衝撃を与えてしまった事で、その拍子に胸部にも致命傷を与えてしまい息絶えていたのだ。

 

(助けて……)

 

混乱していても尚、聞こえて来る無数の呻き声に思わず叫んだ。

 

『ウルセエェェェ!俺に話し掛けるなあぁぁぁぁ!!』

 

 

 

 

 

その後どうしたのかは詳しく覚えていない。ただあの声が聞こえるのが嫌で自分は必死に逃げた。

そして何時の間にか知らない土地…異世界に来てしまっていたのだ。

しかしどこに居てもあの“声”が耳に張り付いて来る上に特に夜になれば何度も何度もその時の夢を見て気が狂いそうになってしまう。

 

それからというものあらゆる世界を巡り続けていたが、それも今この目の前の白いライダーの手によって終わろうとしている。

ここで死ねば、この呪縛からも解放されるのだろうか…いや、死ねば元も子もないし、死ぬのはもっとゴメンだ。

 

生きたい!

どんなに辛い状況になろうが、どんなに人に疎まれようがそれでも生きて行きたい!!

そう思い立った刹那、ナイフの切っ先が自身の喉元にほんの少しふれるところで、素手で受け止めた。

 

「何っ!?」

「お前、死んでるからどうでもいいとか言ってたよなぁ……」

 

エターナルブレードの刃を素手で握った事で、血がポタポタと滴り落ちながらもディバイドはエターナルに向かってポツリと呟いた。

 

「じゃあ俺の目の前にいるお前は何だぁ?ただの死体だってぇのかぁ?」

「……そうだ。俺にはもう、生前の感情など残っていない…ただの動く人形だ」

「ざっけんなぁ!!」

 

ディバイドは激昂するとナイフを握ったままディバイドライバーでエターナルを切り払った。

それによりエターナルがナイフを手放して大きく吹き飛ぶ。

 

「なっ…がはぁっ!?」

「お前は自分が何時でも死んでもいいとかぬかすが、俺はずっと生きて行きたい!どんなに苦しくても、どんなに後悔しようともなぁ!!」

 

エターナルブレードを投げ捨てながらエターナルに言い放つ。

そうだ。何で何時までも逃げ続けてたと思ってる。生きたいからだろう。生きて、いつか安心して眠れる場所を見つける為だろうが。

だったらこんな所でくたばるわけには…行かない!

 

それなのに相手はこうして話し合っていると言うのに自信を死んでるとのたまいやがる。

それなら……

 

「お前が俺を殺そうってんなら、俺が先にアンタを殺してその先も生き続ける!罪を背負ってなぁ!!」

 

[ファイナルアタックライド…ディディディディバイド!]

 

ファイナルアタックを発動させると、ディバイドとエターナルの間に十枚のビジョンが出現して標的を捉える。

更にディバイドは居合いの構えで剣を左腰に据えると、気合と共にディバイドライバーを振ると緑色に煌めく斬撃が放たれ、展開されたビジョンを通過しながらエターナルへと迫った。

 

「ラアァァァァ!!」

「くっ…ぐあぁぁぁぁぁ!!」

 

斬撃がエターナルに直撃すると激しくスパークを起こしてやがて爆散し、エターナルの変身が解除されて健の姿が現れそのまま倒れた。

 

「ぐっ…何だ、これは……。身体が、動かない……!」

「教えといてやる…そいつが“死”ってヤツだよ。元SWAT隊員」

「そうか……これが、本当に死ぬと言う事か……。すまないな、ボス。俺はここまでだ……」

 

健がそこまで言い切ると、彼の身体は塵となって消え去って行った。

そして後に残されたのは、彼が使っていたエターナルメモリとロストドライバーだけだった。

 

 

 

 

 

駆は薄暗い階段を上って行くと、やがて広い部屋に辿り着いた。

まだ上へと続く階段が続いている様だが、上からは何やら風の吹き流れる音がする事から屋外へと続いているようだ。

しかし駆はすぐに気持ちを切り替えて目の前にいる背を向けている男の名を呼んだ。

 

「克也、来てやったぜ」

「……ふんっ、思ってたより早かったな。駆」

 

克也は駆に振り返ってその顔を見ると、自身の口元を凶悪に歪めながら皮肉気な言葉を吐いた。

駆は部屋を見渡してある一点が消失している事に気が付いて克也に問い掛けた。

 

「彼女はどうした?」

「あそこだよ」

 

克也が天井へ視線を配り駆もその方向へ目をやると、囚われていた女性・麗奈は天井に浮かんだキューブ状の灰色に濁ったガラスケースの様な物体の中に閉じ込められていた。

 

「何だアレは…!?」

「アレは俺が作り上げた“空間隔離断裂“とか言うヤツだ。ある男から貰った力さ」

 

駆の驚嘆の声に克也は何でもなさそうにそう簡単に答えると、再び駆の方へ視線を向けた。

 

「これからお前とは本当の意味で決着を着けなきゃならないからな…しばらくあの籠の中で大人しくしてもらわないとな」

「克也…もうやめろ。俺はこれ以上、お前に罪を着せたくない」

「はっ!どの口が言ってやがる。俺をこうさせたのはお前だろうが!」

「ああそうだ。お前を生き返らせて苦しめたのは俺だ……。それが俺の、罪だ」

 

駆はそう呟いてロストドライバーを取り出して腰に巻き付けると、今度はジョーカーメモリを取り出してスイッチを押した。

 

[ジョーカー!]

 

「そうだ、俺をもう一度殺してみなぁ!十年前のあの時みたいになぁ!!」

「違う。俺はお前を殺しに来たんじゃない」

「何ぃ……?」

 

殺しに来たわけじゃない?

だったら何をしに来たんだ?

まさか俺ともう一度仲直りしたいってか?そんな事、もう遅い!

 

「ふざけるな!昔の俺はもうどこにも存在しない!何故俺を殺そうとしないんだ!?早く殺してみろよぉ!その代わり、俺もお前に地獄を見せてやるがなぁ!!あっはっはっはっはっは!!」

「俺がここに来たのは、お前を殺すためじゃない……。お前を、その憎しみの呪縛から救うためだ!!」

 

発狂する克也にそう叫ぶと、ジョーカーメモリをドライバーのスロットルへセットして右腕を構える。

そして戦う覚悟の下に、あの合言葉を口にした。

 

「変身」

 

[ジョーカー!]

 

電子音声がドライバーから発せられ、駆の姿を漆黒の戦士へと変えて行く。

 

それは、この街・風都にある都市伝説。

街を泣かせる悪人を徹底的に懲らしめる漆黒の制裁者。

人は皆、彼へ畏怖と尊敬の念を込めてこう呼ぶ。

 

仮面ライダーと……。

 

「さぁ克也…俺は自分の罪に気付いた。今度はお前が、自分の罪に気付く番だ」

 

左手をスナップさせて克也に指差すと言い放った。

それを聞くと克也は憤怒の表情でディボルグドライバーを取り出し、腰に巻き付けてカードを取り出した。

 

「罪に気付けだぁ…?そんな事で、俺の憎しみが消えると思ってんのかテメェはあぁぁぁ!!」

 

[カメンライド……]

 

ジョーカーに激昂を飛ばしながらカードをスライドさせたバックルの挿入口にセットすると、克也も同じく合言葉を口にした。

 

「変身!!」

 

[ディボルグ!]

 

克也は異世界の仮面ライダーと評される姿へと変貌すると、右腰に備え付けられたカードホルダーを手に取って、その形状を槍へと変形させて構えた。

 

「克也、お前を絶対に止めてみせる」

「やってみろ駆うぅぅぅ!!」

 

ジョーカーは拳を、ディボルグは槍を振るい、二人の仮面ライダーによる激闘が始まった。

 

 

 

 

 

ディバイドは変身を解くと、その場に座り込んで大きく息を吐きながら額に浮いた脂汗を拭った。

アレは正直ヤバかった……。本当に死ぬかと思ったほどだ。素手で握って止めるとか、よく思い付いたもんだな自分……。

 

そう自画自賛しながらそのまま固いアスファルトに寝そべって空を仰ぎながら、エターナルエッジを握った右掌を見た。

その手には大きな傷口が出来ており、未だに血が滴っている。

そんな時、歩のあの言葉を思い出した。

 

“人の命はそう簡単に奪って良いものじゃないと言う事を忘れないでね”

 

(ワリィな代行者、奪っちまったよ……。そうしないとこっちが死んじまうからな)

 

心の中でそう謝りながら右手を握りしめる。

確かに人の命は大事だが、自分の命の方がよっぽど大事だ。

歩なら一体どうしたのだろうか。迷う事なく殺したか?それとも迷ってしまい逆に殺されたか?

そんな事は知る由もないが、アイツなら何となく迷っていそうな気がする。

歩は人を殺す事を恐れている。恐れているからこそ自分にあの様な警告を出すし、アノマロカリスドーパントと戦う時も無駄な戦闘を避けて遠くに飛ばした。

 

(アイツ、以外とお人好しだなぁ……。あんなんだと、その内マジで死ぬぜぇ)

 

こちとら2年間もライダーをやってるんだ。あんな考え方ではこれから先やっていけない事なんて目に見えてる。

まずはあの考え方を正してやろうかと思い、起き上がって再び風都タワーを上ろうとした時、身体に衝撃を受けて吹き飛んだ。

 

「グフォッ!?」

『ハハハハハ!!やったぜえぇぇぇぇ!!』

「……ぁ…ん?」

 

またも地面に倒れ伏しながらも顔を上げて衝撃が来た方向を見ると、アノマロカリスドーパントが大笑いをしながらこちらを見下ろしている姿と、その背後にいる何かの異形が目に入ったところで、ヴァンの意識は薄れて消えて行った。


 
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