「本当に、それでいいのか…?確かに今まで試した事はないが……」
「まぁ、僕の中にある情報が間違ってなければね」
ディージェントから聞いた内容は、ディジェクトが思っていたよりも簡単な物で、それゆえ今までになかった発想だった。
正直、簡単過ぎて本当に可能なのか疑ってしまうほどだ。
「それよりも、そろそろ行くよ?あの二人だけじゃ『歪み』は解決できない」
「ああ、分かってる……」
しかし、そう考えてる時間もない様だ。
オーガがファイズとサイガの戦闘に参入したものの、状況は一向に良くはならない。
何故ならサイガは章治の記憶から二人の戦闘法をすべて理解しているからだ。
章治はああ見えてかなりの策士だ。それゆえ今まで一緒にいた二人の次に来る動作や、その兆候となる癖もすぐに見抜ける。
ファイズの蹴りと、オーガの拳による挟み撃ちも即座にしゃがんで回避すると、二人に足払いを掛けてバランスを崩させる。
更に次元断裂を展開してその中から二本のトンファーエッジを取り出すと、その両棍で二人の装甲を叩き付けた。
「ハッ!」
「ぐぁっ!」
「くぅっ…コイツ、章治の動きに近い…!」
「お前達の事ならこの器となった男が良く知ってるからな…だったら話は早い。この男の記憶通りに動けば、お前達の動きなどすぐに読み取れる。もはやお前達は、既に私の手の中だ」
「チッ!」
[シングル・モード]
サイガの勝利宣言に近い言葉に、二人は仮面の奥で苦虫を噛み潰した顔になる。
ファイズは自身を押さえ付けるトンファーエッジを払い退けようと、ファイズフォンを取り外して「103」を入力し、フォトンブラスターへ変形させると、その銃口から赤いエネルギー弾をサイガの両腕に一発ずつ発砲した。
「おぉう」
「おらっ!」
「のうっ」
その銃撃に堪らず両手を緩めた隙にオーガがその手を掴んで思いっきり投げ飛ばした。
しかもその先にはディージェントとディジェクトがいる。あの二人なら何とかできるだろう。
「来たよ。それじゃあカードはここぞと言う時に使ってね。チャンスは一度きりだから」
「フンッ、言われずとも……」
二人はこちらへ飛んでくるサイガへ追い打ちを掛けるべく、同時に駆け出した。
だが、サイガもこのままやられるほど弱くはない。
「フン、甘いぞ」
サイガは蝶の翅を展開すると、その翅を羽ばたかせて二人に突風を吹きかけながら、その推進力で二人から距離を取った。
しかもその際、起爆性のある鱗粉をその風の中に紛れ込ませたために、二人の身体がその小さな灰色の粒子に触れて爆ぜた。
「ウッ…!」
「グゥゥゥ!」
二人は両手でその攻撃を庇いながら一先ず後退し、鱗粉の範囲外へ出る。
その間にサイガは空中へと浮かび上がって距離を取った。
ここまで離れられては、対象に触れて初めて効果が発動する「リジェクション」の効果が意味を成さない。
「チッ!ライダーズギアを装着したまま、オルフェノクの特性を使って来るとは…!!」
ここはまず銃撃などで撃ち落とす必要があるだろう。
そう判断したのか、ファイズも今だ手に持ったままのフォトンブラスターをサイガに向けて撃ち放っていた。
「そんな豆鉄砲では当たらんよ。これくらいはしなくてはな……」
しかしその銃撃を軽々と避けながらそう言うと、次元断裂から既にトンファーエッジが備え付けられているブースターライフルモードのフライングアタッカーを取り出した。
トンファーエッジは先程のファイズの銃撃で取り落としていた筈なのだが、どうやら次元断裂の外に出した状態でもクラインの壺がその物体を記録しているため、捨てられたら自動的にクラインの壺へ戻る仕組みになっている様だ。
そしてサイガは、そのトリガーを容赦なくファイズへ向かって引こうとした。だが……
[アタックライド…ブラスト!]
「…ハッ!」
「ぬぉう!?」
しかしそれを確認したディージェントも、ファイズに習って「ブラスト」のカードを発動させ、右手から出した拳ほどの大きさのエネルギー弾でサイガの側頭部を撃ち抜いて火花を散らした。
「くう…今のは驚いたぞ……」
「じゃあ、もっと驚かしてあげようか?」
[エクシード・チャージ]
「おおぉぉらあああぁぁぁぁ!!」
ディージェントへ注意が向かってる隙に、オーガがエクシード・チャージを発動させて展開したその長大なエネルギーブレードを、空中に滞在するサイガへと叩き付けた。
「のぐぉ!?」
「今の内だね」
「分かってる!」
[アタックライド…リジェクション!]
オーガストラッシュで地面に叩きつけられ、抑え込まれて身動きが取れなくなっているのを好機と見たディージェントはディジェクトへ合図を送り、ディジェクトは短くそう返すと「リジェクション」を発動させながらサイガへ駆け寄り、その頭を鷲掴みにした。
「ぬぅ、離せ……!」
「吹き飛べ…お前の中の『歪み』を拒絶する……」
宣言した瞬間、サイガの背中から灰色の何かが噴き出し、それと同時に激しい衝撃波が近くにいたディジェクトとオーガストラッシュのエネルギーブレードが吹き飛んだ。
「うわっとぉ!?」
「グオッ!?」
衝撃波によってオーガストランザーが跳ね返された勢いでオーガは尻もちを着き、ディジェクトはディージェントの所にまで吹き飛ぶが、キャッチされて何とか態勢を整えた。
「上手く行ったみたいだね……」
「一体、何が起きたんだ…?それに、身体が上手く動かん……」
ディジェクトは何時もとは違う反動による倦怠感に包まれながらも、自分を抱えているディージェントに訊ねた。
自分はただ、ディージェントに言われたとおりに「歪み」を拒絶しただけだ。
それが一体何を意味するのか自分でも分からないが、少なくともこちらが有利になった筈だ。
ディジェクトの疑問に、ディージェントは解説をし始めた。
「君は今までエネルギーや物理的な現象による攻撃を拒絶する事にしか使ってなかったみたいだけど、“アプローチアウトシステム”の本質はそこだけじゃない。概念の拒絶も可能なんだよ」
「何だそれは、もっと分かり易く説明しろ」
コイツの説明は哲学的過ぎて何を言ってるのかよく分からん……。
そんな意味を込めながらもっと簡潔な説明を要求を要求すると、ディージェントは「う~ん」と唸りながらサイガを見た。
「もっと分かり易く説明すると、章治さんの中にいた『歪み』を外に追い出したんだよ。そして、その『歪み』がアレだよ」
そう言いながらサイガから噴き出した灰色の塊を指差した。
その塊は徐々に形を成していき、やがてその姿をあのノアオルフェノクへと変えた。
『何だ今の衝撃は…それに、私の中から器の気配が感じない……』
「まさか、俺にこんな事が出来たのか……それじゃああそこで倒れてるサイガは……」
ディジェクトはもしやと思い、自分の足で何とか立ちながらディージェントの方を見ながらサイガを指差すと、ディージェントから予想通りの答えが返って来た。
「ウン、アレは章治さんだろうね」
「何!?章治!!」
その言葉が聞こえたのか、ファイズはサイガに駆け寄ってその肩を揺さぶった。
するとサイガは「う゛~」と呻きながらゆっくりと身体を起こした。
「章治!無事か!?」
「へ、美玖?一体何が起こって…ってうおっ!?ボディが白くなっとる!何やこれ!?」
あの飄々とした声色は間違いなく章治だ。しかし何故かサイガに変身したままの状態で、章治も何時ものデルタの身体じゃない事に驚きの声を上げている。
「本当に、章治、なのか…?」
「その声、ひょっとして正幸か?それが最近新しく作ったライダーズギアか?エライ動きづらそうやなそれ」
オーガがサイガに話しかけると、サイガはその装着者が正幸である事をすぐに理解してとりあえずオーガのその外見的な感想を述べた。
するとオーガはプルプルと震えながら…サイガに抱き付いた。
「うおおぉぉ章治いぃぃぃ!!」
「どわぁ!?抱き付くな鬱陶しい!!」
「社長、落ち着いてください」
ファイズはオーガの感極まった奇行を冷静に宥めながら、オーガをサイガから引き離した。
そこでようやくオーガは正気に戻り、軽く笑いながらサイガに謝った。
「アハハッ、ゴメンゴメン。章治に会えたのが嬉しくってさぁ」
「相変わらず子供っぽいなぁ正幸は」
「まあそれでこそ正幸だからな」
「ところで美玖、お前も正幸みたいに抱きついたりしてくれへんの?」
「こんな公衆の面前で出来るか!?」
ファイズの完全否定にサイガはガクッと項垂れながていると、オーガが思わぬ事を口にした。
「それってつまり、二人っきりの時だったらするって事だよね」
「おぉやった!久々に美玖とあま~い夜を過ごせそうや!!」
「いや今のは言葉のあやで会って…って何でそんな話まで飛躍する!?」
オーガの逆転の発想によりサイガはガッツポーズをし、ファイズは自分の首を絞めている事に気が付いて頭を抱えていた。
「なあ、奴はオルフェノクなのか?気配が全然違うぞ」
その三人のやり取りを見ていたディジェクトは、気になった疑問をディージェントへ投げかけた。
「歪み」でなくなったのなら気配が変わってても何の疑問もないが、それだけではない気がする。
これは能力でも何でもないただの勘なのだが、その違和感の正体をディージェントは答えた。
「オルフェノクとしての部分は『歪み』が持っていったからね。章治さんはもうオルフェノクじゃないよ。あえて言うなら“サイガに変身できる唯一の人間”って言ったところだね。その原因はサイガを装着した状態で『歪み』を拒絶したからサイガのライダーズギアがその装着者に合わせた物に変化したからって言えばいいのかな?」
「なるほど、分からん」
ディージェントからの答えをバッサリ切ると、答えた当の本人はガックリと首を項垂らした。
だが、要するに章治はサイガにしか変身できない体質になってしまったと言う事だろう。
となると、この世界は最早「デルタの世界」とは言えない。今のこの世界の名称は……
「つまり、この世界は『サイガの世界』と言ったところか?」
「そう言う事だね」
ディジェクトの結論にディージェントは抑揚のない声色で簡単に答えると、未だに状況を理解していないノアオルフェノクを見た。
それはそうだろう。目の前には先程まで自分が装着していた筈のサイガ。しかもそれが章治の意思で動いているのだ。
章治から完全に切り離した今がチャンスだ。ここでこの世界のイレギュラーを完全に消し去る。
そう決めてディージェントは両手でグローブを嵌め直す仕草を取っていると、潜在意識の中で士が言っていたあの言葉を思い出した。
“お前、本当にディケイドの二の舞を踏む気か?”
あの言葉の真意は未だに分からない。しかし今のままでは駄目だと言う事は確かだろう。
一体何をすればいいのか分からないが、少なくともDプロジェクトの目的の中に“「歪み」の修正”が入ってる事は間違いない。
ディージェントはこの考え事を振り払い、ディジェクトに向き直った。
「『リジェクション』の反動で上手く動けないだろうけど、まだ行けるかい?」
「当たり前だ。ここでお前だけに全部任せるわけにはいかないからな」
「そっか、正幸さんと美玖さんにも言われたよそれ」
どうやらディジェクトもこのまま休んでるつもりはなさそうだ。
だったら、彼にも一緒に戦ってもらおう。この世界を、救うために……。
「じゃあ行くよ。仮面ライダーディジェクト」
「ああ、分かってる……」
「俺達も一緒に戦わせてもらうよ」
「そうだな。章治も別に異論はないな?」
「その言い方やと、ウチに拒否権はなさそうやな。ま、断るつもりもないけどな」
二人で話していると、この世界のライダー達三人も共に戦ってくれる様だ。
ノアオルフェノクもそろそろ状況を理解し、痺れを切らしてディージェントとディジェクトに話しかけて来た。
『フム、ところでお前達は一体何なのだ?何故私の邪魔をする?』
その質問に二人はそれぞれ答えた。
「自分の存在意義を探す仮面ライダーです」
自分達の正体と……
「そして、お前がこの世界を壊すのを邪魔するのが、俺達の目的だ」
その目的を。
『クッ、フハハハッ!そうかそうか…そんなに私の邪魔をしたいのなら……やってみるがいい』
その答えに軽く吹き出し高笑いを上げ、愉快そうに呟いた後、冷淡な声でそう言い放った。
次の瞬間には一瞬でこちらに迫り、何時の間にか生成したレイピアをディージェントへ向けて突き出した。
「フッ!」
『今のを避けるか……』
しかしその刺突をディージェントはしゃがんで避け、ノアオルフェノクは感嘆した。
「ガァウ!!」
『くぬぉ!』
その隙を突いてディジェクトが抉るようにその脇腹を殴り付け、吹き飛ばした。
「こっちも忘れてもらっちゃ困るね」
「まったくだ」
[バースト・モード]
[エクシード・チャージ]
それを見ていたオーガとファイズは、次の一手を打つためにそれぞれ攻撃準備に入る。
オーガはフォンブラスターを起動させて「バースト・モード」に変え、ファイズはファイズポインターを右脹脛(みぎふくらはぎ)に装着してファイズフォンのエンターキーを押した。
オーガがエネルギー弾を打ち込んでいる間にファイズポインターをノアオルフェノクへ向けるように右足を蹴る姿勢にして構えた。
するとそこからエネルギー弾が射出され、それがノアオルフェノクの右肩に着弾した瞬間、円錐状に展開して動きを拘束した。
『くぅ!』
「はああぁぁぁぁ!!」
ファイズのクリムゾンスマッシュがノアオルフェノの右肩に炸裂し、ターゲットの身体を貫こうとするが、ノアオルフェノクはそれを耐えモンキーオルフェノクの尻尾を出してそれを攻撃態勢に入ってしまっているファイズに突き刺そうとした。
「オイ変態、後ろが無防備やで?」
[エクシード・チャージ]
しかし何時の間にかフライングアタッカーで空中にホバリングしていたサイガが、イクシード・チャージを発動させ、サイガドライバーから発生した青いフォトンストリームが右足のラインを経由して爪先まで達すると、その足でノアオルフェノクに向けて蹴った。
すると右足に充填されたフォトンストリームがエネルギー弾になって飛び出し、ノアオルフェノクに直撃すると、青い円錐状に展開されてロックオンした。
「はいなっ!」
『おぐぅ!?』
そのポインターが命中した反動でノアオルフェノクは動きを止め、ファイズへの刺突は失敗に終わった。
サイガやオーガの場合は、他のライダーズギアと違って何らかのツールを使用せずにエクシード・チャージを行うだけでポインターを射出する事ができる。
流石は新型だけあって高性能だ。正幸もいい仕事をする。
「そぉりゃああぁぁぁ!!」
そう思いながらも目の前の敵に渾身の一撃を入れるべく、更にフライングアタッカーを逆噴射させてその推進力と落下スピードの合わさった空中からの蹴り・「コバルトスマッシュ」を自身が出したポインターに向かって放った。
『なっ…ぬぉおおああぁぁぁぁ!!』
その背後からの衝撃にノアオルフェノクは堪らず吹き飛び、それと同時にファイズのクリムゾンスマッシュが右肩を貫通する。
『く…ぬう……!』
ノアオルフェノクは苦悶の声を漏らしながら立ち上がり、その抉られた肩から一瞬Φのマークが浮かび上がり青い炎を上げるが、すぐに治まり元の形状に復元された。
また取り込んだオルフェノクの能力を使ったのだろう。これではキリがない。そう、自分達だけなら……
「そんじゃあお二人さん、後よろしゅう」
「分かりました。それじゃあそろそろトドメの一発…いや、二発行ってみようか」
「あぁ、そうだな……」
[ファイナルアタックライド…ディディディディージェント!]
[アタックライド…ファング・レッグ!]
[ファイナルアタックライド…ディディディディジェクト!]
『なぬ!?』
サイガからのバトンタッチを受け取り、ディージェントとディジェクトは互いにファイナルアタックライドを発動させ、ディージェントの展開したビジョンがノアオルフェノクを拘束し、ディジェクトの展開したビジョンが二人の標的の間に十枚立ち並んだ。
『さあ、終わりです(だ)』
その二人の台詞を合図に、ディージェントが指を招く様に動かして自分のビジョンを、ノアオルフェノクを磔にしたままこちらに近付ける。
その際ディジェクトの展開したビジョンを次々と通り抜けていき、ディージェントのビジョンが徐々に光り輝いて行く。
「フゥゥゥ……」
「ハァァ……」
ディージェントは後ろを向きながら右拳に藍色のノイズを纏わせながら顔の前に構え、ディジェクトは右足に力を込めるように体重を傾けて攻撃対象との距離がゼロになる瞬間を見極める。そして……
「ハァ!!」
「ガアァァ!!」
『ぬおああぁぁぁぁ!!』
ディージェントの必殺技・「ディメンジョンナックル」と、ディジェクトの必殺技・「ディメンジョンキック」が、全てのビジョンを通過したノアオルフェノクに直撃・爆散させた。
その衝撃波でこの世界の三人のライダーは目を覆うが、やがてその爆風は去って行き、後に残ったのは焦げた地面とその近くに立っている二人の異世界のライダーだけであった。
「終わった…のか……?」
「多分そうやろ。ハァ~疲れたぁ~……。美玖ぅ~、後でこのうちの疲れきった身体と心を癒してぇな~」
「章治!お前まだそんな事…を……」
ファイズがツッコミを言い切る前に突然バタリと倒れ変身が解除された。
『美玖!?』
それに変身を解除した章治と正幸は驚き、駆け寄ったが、その身体からは灰が流れていた。
彼女の寿命がもうすぐそこまで来ている事は、オルフェノクを知っている者ならば明らかな事である。
「クッソ…!遅かったか……!!」
「とりあえず、僕の移住先がすぐそこにあるんでそこへ移動して様子を看ましょう」
歩の計らいで一先ずその場から一番近い歩の移住先へ向かう事になり、一行はこの場から離れることとなった。
その際何故か歩が美玖を抱えて行こうとしていたのを見て章治が猛反発していたが、この中で比較的動けるのが歩だけであり、しかも自分の触れている範囲の空間を弄って重みをなくす事が出来ることから歩が連れていくことが決定した。
その時の章治の顔が実に悔しそうだったのを正幸と好太郎は見た時、何とも言い切れぬ哀愁感が心を通り過ぎていったのを感じた。
歩のマンションのリビングで亜由美は、頬杖を着きながらボーッとしていた。
亜由美の頭の中では、士のあの言葉が反芻していた。
“何で破壊者がこんな性格をしてたんだか”
彼は自分の基になった人物の事を破壊者と呼んでいた。
亜由美にはそうは見えなかったし、それにもし本当に破壊者だとしたら、Dプロジェクトにある矛盾が生まれる事に気が付いたのだ。
歩は世界を救うために旅をしていると言っていた。
しかしそれだと、ディージェントの前にその為に旅をしていたディケイドは、世界を救うためではなく、壊するために旅をしていた事になる。
それは一体どういう事なのだろうか?歩はその事を知っているのだろうか?
ひょっとしたら、歩はただオリジナルに世界を破壊するために利用されているだけなのではないだろうか?
別に亜由美は渡を疑ってるわけではないし、ましてや歩が世界を壊すために動いてるとも考えていない。
これは自分のただの考え過ぎだと割り切ると、そこで丁度玄関から結構美人な女性を抱えた歩と、その後ろからは、好太郎と助かったと思われる章治、後よく知らない男性と言う大人数でゾロゾロと入って来た。
「え、ちょ、どうしたの!?何か知らない人達も混じってるし、章治さんはもう大丈夫なの!?」
「この世界のライダーの二人だよ」
「ちょっくらベッド貸してもらうで嬢ちゃん。あとウチはもう大丈夫やで」
「ねえ、この娘誰?歩君の妹?」
「今はそんな事どうでもいいだろ。一応そうらしいがな」
亜由美の驚きながらの質問に歩は簡潔に答え、章治が大雑把に断りと返答を入れつつ歩の後を付いて行く。
更にその後から続く男性がぼやき、好太郎が焦燥感に駆られながらも律儀に答えると言う、何とも忙しい展開になって行く。
先程までの亜由美が過ごしていた静寂はどこに行ってしまったか、先程まで好太郎が使っていたベッドに歩が抱えていた女性を寝かせて「後はお願いします」と章治に後ろに下がりながら言うと、章治は早速その女性を看始めた。
歩曰く、彼女はあの時いた女性のライダーらしく、彼女の寿命がもうすぐそこまで来ているとの事だった。
章治が脈や呼吸の乱れなどを一通り確認すると、自分達に向き直って結論を述べた。
「今はまだ大丈夫や。でもそう長くないかもしれへんな」
「そうか……章治、あの“王”の力は使えないのか?」
「その言い分やと、ウチのファイルを見たっちゅう事やな?悪いけどウチの中にはもうアイツの気配があらへん。あの時完全に消えてもうたみたいやな」
「あの、何でそんなに冷静でいられるんですか?章治さんって、この人のために今まで戦って来たんですよね?だったらおかしいじゃないですか」
章治の小ザッパリとした結論に亜由美は違和感を覚えた。
自分の勘違いだったら未だしも、章治がこのファイズの女性のために独りでいたのだとしたら、今の章治の態度はおかしい。
そう思っていると、章治は軽く溜め息を吐いて亜由美にその理由を答えた。
「あのな嬢ちゃん、本当はウチだって泣きたいくらいに焦っとるんや。でもここで焦ったって何の意味もないんや。焦れば焦るほど目の前の物が見えなくなって、仕舞いには大事な物を失う事になる。それにな、美玖はそう言う男が大の嫌いやからな」
そう答えた章治の顔は笑っていたが、その目はとても悲しい物だった。
彼だって本当は失いたくないのだ。それでも必死に悲しい気持ちを堪えて、それを手放さない様にしている。
亜由美はそんな章治の考えを知って、まだまだ自分は子供だと思っっていると、ファイズの女性…美玖が呻き声を上げながら瞼を開いた。
「美玖、大丈夫かい?」
「正幸…?一体、何があったんだ?」
「あの後、貴女は倒れてしまったんです。それでひとまず落ち着ける場所に移動したんですよ」
歩が簡単に説明し終えると、章治が何やら実に言い辛そうに頬を掻きながら美玖に話し掛け始めた。
「なぁ、美玖……」
「何だ、章治…?」
「その…あの時はホンマすまんかった!!」
章治は突如として美玖に向かって土下座した。
その行動に亜由美を含めた余所者三人は唖然となるが、美玖と正幸には何の事か分かっているらしく、美玖は「それで?」と続きを促し、正幸は達観した顔でその後の展開を見守っている。
「あの時、お前の寿命を延ばすためとはいえ、お前に酷い事を言うたり、仲間を殺して来た事を謝らせくれ!許してくれとは言わん。なんやったらここで死んでも構わん!ただウチの話を聞いてくれ!」
その後、章治の口からこれまで何のために失踪していたのかの真実が語られた。
美玖の寿命があと僅かだと知ってしばらくした頃、自分の中に“王”が存在している事に気付いた。
その“王”の力を使えば美玖を死なせずに済むかもしれない。
しかしそのためには、ある程度のエサとしてオルフェノクを殺して自分の力にする必要があったのだ。
そんな事をみんなに話せるわけもなく、それで仕方なくオルフェノクの敵として動く事にしたのだと言う。
その真相を美玖はただ無表情で黙って聞いていた。
そしてすべてを聞き終えた彼女は、ゆっくりとベッドから身を起こしながら何時もの厳しい口調を章治に発した。
あの戦いを終えた後、ファイズは変身を解除して美玖に戻ったかと思うと、すぐに倒れてしまった。
そして
「……章治、とりあえず立ちあがって目を瞑れ」
「う…はい……」
その気迫に気負されながら章治は立ち上がると、その場に立っていた美玖と目が合う。
たがいに身長差があるせいで美玖が章治を見上げる形になっているのだが、美玖の鋭い眼光は衰える事なく章治を射抜いている。
言われた通りにすると言うよりも、その視線から逃れるように目を瞑ってこれから自身の身に起こる惨状を後ろ向きな考えで身構えていると、ポスッと胸に何かかが軽く触れる感触が伝わった。
「ヘ……?」
その予想外の感触の正体を確認するために目を開くと、美玖が顔を伏せた状態で右拳を章治の胸に押し当ててる姿が目に入った。
「この、馬鹿……」
「美…玖……?」
美玖は小さく罵言を吐いて、今度は自分の頭を章治に押し当てた。
章治はてっきりとんでもない折檻が飛んでくるのではないかと予想していたが、その予想を大きく裏切った美玖の行動に思わず彼女の名前を呼ぶと、一拍間をおいてポツリポツリと言葉を紡いだ。
「お前は確かに許されない事をした…だがここでお前が死ねば、私や正幸、みんなが悲しむんだ……。だから死んでもいいだなんて言うな。お前はこれから、私達と一緒に“夢”を実現させるために生きて、その罪を背負い続けて行くんだ……。それに、こうなってしまったのも私が原因でもあるしな…もし私のためを思うんだったら、私の命が尽きるまで、ずっと傍にいてくれ…お帰り、章治……」
「……ッ!美玖!!」
章治は美玖を強く抱きしめた。それも、ただ力を込めて抱くのではなく、優しく、それでいて決して手放さない様に……。
「ゴメンッ!本当にゴメンなッ!!ホントは、お前を死なせたくなかったのに…それなのに……!!」
「もういいんだ。お前や正幸達に会えただけで、もう十分だ。これ以上何かを望んだら、バチが当りそうだ……」
その光景を亜由美達はただ黙って見ている事しかできなかった。
本当にこれでよかったのだろうか…?
何とかして美玖を助ける事は出来ないのだろうか…?
そう思いながら歩に振り向くと、首を静かに横に振って否定の意を示した。
「この世界の人間じゃない僕達は、その世界の事象には触れてはならない。真司君と話してる時にも言ったと思うけど、何らかの行動を起こしてその世界で起こるはずだった出来事をなかった事にすると、そこに新たな『歪み』が現れる可能性がある。この世界の問題は、この世界の人間が解決しなくちゃいけない。それがワールドウォーカーの決まりだよ」
「………」
それを聞いていた好太郎も、無言でそれが正しいと答えていた。
歩達の行っている事は分かる。それでも、納得できない自分がいた。
こんな理不尽な運命があっていいのか、いいわけがない。
だって、ようやく分かり合えたのに、こんなの悲しすぎる…!
「本当は僕だって何とかしたいよ…でもこれが決まりなんだ。亜由美にもそれを分かって欲しい」
そう言っている歩の表情は、実に辛そうに歪んでいた。
ふと歩から視線を下げて、彼の手を見ると拳を強く握りしめており、その隙間からはジワリと血が浮き出ていた。
本当に、何も出来ないのだろうか。
「君達には感謝してるよ。だからそんなに落ち込まないで」
何とか出来ないものかと考えていると、正幸が声を掛けて来た。
亜由美が彼の方を向くと、正幸は優しげに微笑んで更に続けた。
「これはあくまで俺達の問題だしね。君達にはもう十分すぎるほど手を貸してもらったんだ。それだけで十分だよ」
そう言っている正幸の顔は、もう吹っ切れてるつもりなのだろうが、やはりどこか影があった。
やはりこの人も悲しいのだろう。しかし、それでもどうにもできない。
折角章治が戻って来たが、今度はまた別の仲間がいなくなってしまうと言うのに、彼はそれを隠そうとしている。
「明日の朝、スマートブレインまで来てくれないかな?君達に何かお礼がしたい」
「……分かりました」
そう言って正幸は章治と美玖を連れて部屋から出ていった。
その間も、章治と抱き合っていた事で美玖をからかったりしていたが、やはり何処か元気がなかった。
「………」
歩はその様子を頭を掻きながら眺めていたが、気を取り直したかのように美玖と好太郎に振り返ると、明日の予定を告げた。
「それじゃあ明日の朝にでも、スマートブレインに行くよ。勿論、好太郎君もね。今日はここに泊まるといいよ」
「……ああ」
そう短く返した好太郎は、何か考えている様だったが、それが何なのか亜由美には分からなかった
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第30話:基点復活と短命な運命