No.395221

仮面ライダーディージェント

水音ラルさん

第25話:目覚めし“王”と苦渋の撤退

2012-03-20 19:33:56 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:462   閲覧ユーザー数:462

ディジェクトはデルタの頭から手を離して立ち上がり、ゆっくりと後退しすると荒い息を吐きながら膝を突いた。

その瞬間、変身が解除され好太郎の脂汗の滲んだ顔が現れる。

 

「ゼェ…ゼェ……や、やったか…?」

 

先ほど宣言した“存在の拒絶”はディジェクトドライバーへの負担が相当掛かる。

例え限界まで「リジェクション」を使っていなくても肉体へのダメージは計り知れない。それほどまでに強力なのだ。

これでしばらく好太郎は動けないだろうが、アレをまともに喰らったデルタはまず生きてはいないだろう。

そう思ってデルタを見ると、丁度装甲が光って変身が解除されていく所だった。

だが、それと同時に違和感を感じた。章治の身体が灰化していないのだ。

章治はオルフェノクなのだから死ねば灰化するのは当然なのだが、それらしい気配は一切ない。

それに先ほどから感じる「歪み」の気配が無くなっているどころか、逆に強くなっている(・・・・・・・・・)。

 

(何だ…?まだ、終わってないのか?)

 

――――ドクンッ――――

 

「…ッ!?な、何だ今のは……!?」

 

突如どこからともなく鼓動が聞こえてきた。

その鼓動が自分から聞こえて来た物なのか章治から聞こえて来た物なのかも分からない。

 

――――ドクンッ――――

 

ただその鼓動は一定のリズムを刻むだけで、この空間に異常な空気を作り上げて行く、この感覚は強いて言うならば…“何かが生まれる瞬間”の胎動…と言えばいいのだろうか?

 

――――ドクンッ――――

 

「な…!?」

 

その一定のリズムを刻む鼓動の響き渡る空間で、あり得ない異変が起きた。

倒れていた章治がゆっくりと起き上がったのだ。

その起き上がる動作の中で徐々に体が灰色に盛り上がり、その姿を人ならざる異形へと変えて行く。

一見すれば形だけなら人型ではあるが、その姿はどこかアゲハチョウを連想させる触角が生え、背中にもアゲハチョウの思われる小さな翅の模様が浮き出ている。

 

『……ア゛ア゛アァァァアア!!』

「グオッ!?」

 

完全に起き上がり、しばらく黙っていたかと思うと、その章治だったモノは突然叫び出し、背中の羽がその質量を無視したモノクロの翅が大きく広がって雄大さと威圧感と、そして恐怖心を与える。

その絶叫はまるで自身の誕生に歓喜する産声の様で、大気を震わせる衝撃波と緊迫感が周囲一帯に広がる。

 

(まさか…これが「歪み」の正体か!?)

『……フム、お前が私を呼び覚ましたのか…礼を言うぞ、古き人類』

 

好太郎は目の前の「歪み」を睨みつけていると、そのオルフェノクは自分の身体を見ながら中性的な声で好太郎に大仰な態度で話しかけてながら振り向いた。

その顔は人間であった面影は一切なく、灰色の丸い複眼と二本の触角を生やした蝶を彷彿とさせる顔に、螺旋を巻いたストロー状の口吻(こうふん)が付いている。

やはりこの異形はアゲハチョウの生態系を持ったオルフェノクである事は確かであったが、先程見たそれとは明らかに違う。

それは見た目ではなく雰囲気だ。どこにも人間態である三木章治としての面影など残されていないのだ。

初めからそんな人間ではなかったかのように……。

 

「歪み」と言っても大きく分けて二種類ある。

一つは別の世界から紛れ込んだその世界の脅威。

そしてもう一つは、その世界では本来起き得る筈のない事象だ。

今回の場合はその内の後者と言えるだろう。

 

「お前は…一体……」

『そうか、自己紹介が遅れたな…私の名は“ノア”…新たなる人類・オルフェノクの王だ』

「さっきまでの男はどうした…?」

『アレはこの器に入っていたただの人間だ。人間の分際で私を抑え込もうなど…実に愚かだ』

 

“抑え込んでいた”……。つまり章治はただ「歪み」が出て来るのを防いでいただけという事だ。

しかしその章治を自分が拒絶したことで抑えが無くなり、こうして「歪み」が覚醒してしまった…つまり好太郎はパンドラの箱を知らず知らずのうちに開けてしまっていたという事だ。まさかこのような結果になってしまうとは…!

 

『私を目覚めさせてくれたせめてもの礼だ。今ここで生まれ変わるか最後の古き人類となって世界の変わる様を目に焼き付けるか…どちらかを選ばせてやろう』

(そんなの、どちらも最悪じゃないか……)

 

今ここで生まれ変わると言うのは、このオルフェノクが自分に使徒転生をさせると言う事…そんな事をすれば高確率で死ぬのは目に見えている。

そして最後の人類になると言うのは、今ここで殺さずにこの世界の人間達がすべて消える所を指をくわえて見てろと言う事…そんな惨めな思い、死んでもゴメンだ。

今ここで消し去ってやりたいところだが、今は「リジェクション」の反動で満足に戦う事が出来ない。

そんな状態ではこの「歪み」を消すことなど不可能だ。

だが、やるしかない…。ここで俺が戦わなければ誰がやる?自分が撒いた種の不始末は…自分でつける!!

 

「悪いが、どちらも願い下げだ……」

『ほう、ではどうしたいのだ?』

「お前は…ここで俺がその存在ごと消してやる!!」

 

もう一度変身しようとカードとバックルを取り出したその時、好太郎とノアと名乗ったオルフェノクの間に次元断裂が現れた。

何事かと思ったが、その中から亜由美と気を失っていたはずの歩が出て来た。

どうやら目を覚ましたようだが、向こうも自分と同じく満足に戦う事は出来ないだろう。

 

「好太郎さん!一体何が……もしかして敵!?」

「いや、アレは多分章治さんの中にいた『歪み』だね。何らかの拍子に出て来たんだと思うよ」

 

亜由美が自分に問いかけようとした時、ノアオルフェノクを見て警戒すると、歩が冷静に状況を分析して勝手に解釈した。

 

『ほう、まだ二匹もいたか…古き人類』

 

二人を見たノアオルフェノクは見下した態度でぼやくが、その言葉に好太郎は目を鋭くさせて睨み、亜由美は少しムッとした顔になったが、歩は亜由美とは対照的に何時もの虚ろな目だ。

コイツ…本当に一体何なんだ?リアクションが極端すぎるぞ……。

 

好太郎が歩の思考回路がずれに違和感を覚えていると、歩がノアオルフェノクに章治の事を問い掛け始めた。

 

「章治さんはどうなりましたか?」

『ショージ?あぁ、私の器となった者の事か……。彼なら消えたよ。そこにいる一匹の古き人類によって』

 

それを聞いた亜由美は信じられないと言った顔で好太郎を見た。

彼女は信じていたのだ。自分が章治を殺さないと……。だが結果的に章治を拒絶し、その存在ごと消してしまった。

 

(クソ…!何をやってるんだ俺は…!!アイツが折角俺を信じてくれていたのに!!)

 

彼女を裏切ってしまった罪悪感と嫌悪感に蔑まれた。

好太郎は何年も人との関わりが出来なくなっていた為、人とどう接すればいいのか分からなくなっていたのだ。

それ故に口数も減って行き、今の様に人を遠ざけるようになってしまった。

 

「……亜由美、巻き込むかもしれないから離れてて」

「え?ウ、ウン……」

 

好太郎が自己嫌悪に浸っていると、歩はそう言って亜由美を別の場所へ行かせるために遠ざけた。

その時、一瞬だけこんな考えが過ぎった。

 

(コイツ…俺を庇ったのか?)

 

もしかしたら歩は自分が亜由美に何か言われて傷つく事を考えた上でそう言ったのではないだろうか?

そうだとすればコイツはとんだお人好しだ。この事態を引き起こした元凶だと言うのに……。

 

亜由美がこの場から離れる為に次元断裂を展開させてその空間へ入ろうとした…その時だった。

 

「うわぁっと!?な、何!?」

 

突然その空間から一台のオートビーグルが亜由美のすぐ横を突っ切り、ギャギャギャというタイヤと地面が擦るドリフトの際に起きる喧(やかま)しい音を響かせながら反転して急停止した。

 

「バイク…だね……」

「いや、それは見れば分かるって!でも何でいきなり!?今真横通り過ぎましたよ!?」

「……ひょっとして、高速道路かどこかイメージした?」

「そんな危ない所になんて絶対に行きません!!普通に路地裏の出口をイメージしました!!」

「いや、それより問題は乗っている奴だろ……あとそのボケ、絶対ワザとだろ?」

「まぁね、空気を和ませようかと思って……」

「アッサリ肯定しないでください!!それと簡単にこの緊迫した空気は和みません!!」

 

二人の漫才はさておき、好太郎はバイクに乗っている人物を見た。

 

遠くから一見すればライダースーツとヘルメットで素肌を完全に隠してるように見えるだろうが、実際はそうではない。

赤いラインの入った黒いライダースーツの上に銀色の装甲を身に着け、ヘルメットも普通の形状ではなく、バイザーと思われた黄色い部分は大きな円を縦に入ったラインで二分割にした複眼だった。

そう、アレこそがこの世界の本来の「基点」となるライダー……

 

「仮面ライダー…ファイズ……」

 

好太郎はそのライダーの名を呟いた。

 

 

 

 

 

「何だ今のは…それに、ここは一体……」

 

ファイズは章治の声が聞こえてきた方向へ勘を頼りにオートバジンを走らせていたのだが、直感ですぐ横にあった狭い路地裏へ突っ切ろうとしたところ、突然目の前が灰色の靄に包まれてしまい、その中を突き抜けたかと思えば、三人の男女と、アゲハチョウ型のオルフェノクがいる廃ビルの中へと辿り着いた。

 

(この臭い…あの男、もしかしてあの時のか……?)

 

ファイズは灰色のビジネススーツを着た男を見た。

あの男から発せられる臭いは知っている。自分がエレファントオルフェノクとの戦闘を終えた時に感じたものだ。

 

「お前、あの時トンネルにいた奴だな……何者だ?」

「答えたいのは山々なんですけど、今はそれどころではないので後にしてくれますか?」

 

ファイズはオートバジンから降りて、その男に聞くと、男は抑揚のない口調でそう言いながらアゲハチョウのオルフェノクを指差した。

もう一度見て気付いた事なのだが、このオルフェノクは普通ではなかった。

このオルフェノクからは一切臭いを感じない上に、何やら寒気にも恐怖心にも似た気迫を感じたのだ。

 

「おい、何だアイツは?普通じゃないぞ」

『ほほう、お前はオルフェノクの様だな…それもこの器となった男の特別な存在か……』

 

男がファイズの問いかけに答える前に、バタフライオルフェノクがファイズを見ながらそうぼやいた。

その声は中性的で、元が男なのか女なのかよく分からないが、その仰々しい仕草からして恐らく男だろう。

 

「器…?特別な存在…?どう言う事だ?」

『フフフ…この器の人間体もまだ消えてないからな。特別に見せてやろう……』

 

バタフライオルフェノクがそう言うと、身体を発光させて人間態の姿を見せた。

しかし、その姿を見てファイズは絶句した。

パンクなファッションに明るい茶髪をカチューシャでオールバックに留めた糸目の男…まさに今まで探し続けていた人物・三木章治その人だった。

 

「ッ!?章治!!?」

『確かにかの器に入っていたのはショージと言う男だったが、今はもういない』

 

しかしその声は先ほどの中性的なものであり、その表情も今までの飄々とした笑顔から打って変わって、完全に冷めきった…まるで人を見下したような目つきでこちらを見ていた。

 

(どういうことだ…?コイツ、今何て言った……もういない?)

『フム、もう少し分かりやすく言おうか……』

 

ファイズが混乱していると、バタフライオルフェノクは更に続けようとする。

やめろ…それ以上言うな……。そんな事、ある筈ない…だって、さっき聞こえたんだぞ…あいつの声が…!

 

『コイツの身体はこのオルフェノクの王・ノアが頂いた。喜べ、奴は私の…“王”の誕生の為の供物となったのだぞ。これほど喜ばしい物など、あるわけがなかろう』

「ッ!貴様!!」

 

[シングル・モード]

 

ファイズはそれを聞くや否や、ファイズフォンを手に取って「103」と入力し、横方向へ折り曲げて光線銃にさせると、その銃口をノアと名乗ったオルフェノクへ向けて叫んだ。

 

「章治を返せ!!」

『それは出来ない。何故なら私はこれからこの世界を改変させなくてはならんのでな』

「改変…だと?」

 

そのファイズの剣幕に臆することなくノアオルフェノクはあっけらかんとした態度で自分の目的をその姿を再びオルフェノク態へ変化させながら更に続けた。

 

『そう。これより私は次の世代へ行ける者を選定する。そしてその者達と共に新たな世界を創造するのだよ。オルフェノクだけの世界を…な……』

「ッ!!」

 

それは、正幸とは真逆の考えだった。

正幸は共に共存できる世界を目指すのに対して、この自分達が待ち望んでいた筈の“王”は自分達だけの世界を創るつもりだ。

そしてその理想は、人間の完全なる絶滅を意味していた。

しかもこの“王”は、章治をエサにしてこうして降臨した。

ただ現れるだけならまだいい。だが、その為だけに章治を…最愛の人を犠牲にするような奴なんて…“王”なんかじゃない!!

 

「そんな事…絶対にさせない!!」

「待ってください」

 

ファイズは引き金を引こうとしたが、灰色のスーツの男にその手を掴まれて止められた。

 

「放せ!あの帝王気取りの反逆者は、私が倒す!!」

「貴女ではアレを倒せません。それに、アレを今のまま(・・・・)倒せば、それと同時に章治さんを完全に(・・・)消す事になります」

「お前…まだそんな事を言ってるのか!!」

 

そのスーツの男の言葉に反応したのは、ダークレッドのロングコートを羽織ったもう一人の男だった。

その目は怒り一色に染まっており、低く響く怒号を更に轟かした。

 

「お前はアレを見てもまだ奴が人間だって言うのか!?アイツは最早ただの『歪み』の塊だ!!確かに、奴をこうしたのは俺のせいかもしれない…だがここで奴を消さなければ、この世界は滅びるんだぞ!それでもいいのか!!?」

 

男の言葉の中に一部よく分からない単語が混じっていたが、確かにそうだ。

ここでこの“王”を倒さなければ、世界は滅びる。しかし、もう一人の男の言葉にも納得してしまう自分がいた。

もし“王”を倒せば、章治はもう二度と帰って来なくなる。

それだけは絶対に嫌だ。絶対に連れ戻すって決めたんだ…でも、どうすれば……。

 

『喧(やかま)しい、お前は少し黙っていろ』

 

ノアオルフェノクが煩わしそうに言うと、その背中に大鷲の巨大な片翼を生やす。

その翼を大きく羽ばたせて突風を起こしてロングコートの男を吹き飛ばした。

 

「ぐおっ!?ぐ…ヅッ……!」

「好太郎さん!!」

 

ポニーテールの少女がその男の名を叫びながら彼に駆け寄った。

どうやら、打ち所が悪かったらしく、気を失ってしまったようだ。

その様子を見たスーツの男は軽く舌打ちすると、その虚ろな目でこちらを向いた。

 

「このままだと分が悪いので、ここは一先ず引きますよ」

「お、おい!このままヤツを放っては……」

 

ファイズが言い切る前に突然目の前が先程の灰色の空間に包みこまれ、この場所から謎の三人と共に完全に消えた。

 

 

 

 

 

『逃げたか…あの娘は実に欲しかったのだがな……』

 

ノアオルフェノクは誰もいなくなった廃屋で一人ぼやく。

どうもあの娘の命はあと少ししか残されていない様だった。

そして、この器となった男もそれを救うために、今まで自分に生贄を捧げて来た。

確かに自分の力を使えば、あの娘を生き長らせると同時に、完全なオルフェノクとして不老不死にする事が出来るだろう。

しかし、この器となった男は、あくまで今の姿を捨てさせずに寿命を延ばそうとしていた。何故そんな事をするのか…理解に苦しむ。

 

それに、何故かあの娘は非常に欲しいと思ったのだ。

自分の物にしたいと言う、支配欲……。何故自分がアレをそんなに欲するのかよく分からないが、恐らく器となった男の精神に感化されたのだろう。

 

『まあ良い、その内手に入るだろう。まずは選定をしなくてはな……』

(待…てや……ヘンタイ……)

『おや?どうやらこちらもまだ完全には消えてなかったようだな』

 

ノアオルフェノクは自分の頭の中に響いた声に感嘆の声を漏らした。

あそこまでやられていれば、普通は生きていないだろうに、この男の精神力には驚かされる。

どうやらあの時、一時的に人間態になったことで、精神だけがわずかに浮き出て来たのだろう。

 

(美玖は…絶対にお前にはやらへん……)

『フン、何を言い出すかと思えば…アレが私の所有物になるのも時間の問題だよ』

(よう言うわ…アイツはなぁ…そう簡単に別の男に靡く様な女やないねん……。ウチが口説き落とすのにどんだけ時間が掛かったと思うとるんや……)

『さあな。別にそんな事をせずとも、手足を縛ってでも手に入れるさ』

(ハッ!王様が聞いて呆れるわ…どこのヤンデレやねん……)

 

その傍から見れば独り言を呟いているようにしか見えないやり取りを続けるノアオルフェノクだったが、そこで本題を思い出した。

そうだ、選定をしなくては……。この声もいずれは聞こえなくなるだろうし、このまま幻聴と言い合ってても時間の無駄だ……。

 

そう結論を出して外へ出ようとしたが……

 

(待てやボケ!お前は絶対に行かさへん!!)

『カッ…!な、何だ…!?身体が…動かん……!』

 

突然金縛りにあったかのように身体の自由が利かなくなり、そのままうつ伏せに倒れてしまった。

何とか立ち上がろうとするが、身体に思う様に力が入らない。

 

(お前はここでジッとしとけ!その内、アイツらがお前を消しに来るからな!!)

『奴らが、私を…?フハハ…!そうは思えんがな……。それに、こうして私を止めるのに、あとどれくらい持つものか……。まあ良い、せめてもの余興だ。お前が私を抑えられなくなるまで、しばらく待ってやろう……』

(おおきに…それだけで十分や……)

 

その声を最後に、頭の中から声が聞こえなくなった。自分の身体を抑える事に集中し始めたようだ。

 

動けるようになるのは、恐らく明日の夜明け頃だろう。

それまでの間は、別の方法を使わせてもらうとしよう……。

そう決めると、背中から灰色の翅を伸ばし、その一部を灰化させて床に零した。

やがて灰は徐々に質量を増やしていき、盛り上がって行く。

そして人の背丈ほどの高さまで盛り上がると、形を成してキャタピラーオルフェノクへと変わった。

 

『キュロロオオォォォ……』

 

しかしそれに自我は存在せず、ただ生み出したノアオルフェノクの命令にのみ従う雑兵だ。

 

『さあ行け。夜が明けるまでの間、私の代わりに選定を行え』

 

その命令を聞くと、ノソノソとした足取りでゆっくりと人通りの多い方へと歩いて行った。

 

『フフフ…果たして、私を消す事など出来るのかな?それも、この器ごと……』

 

ノアオルフェノクはほくそ笑みながらも次々と翅から灰を零し、駒を創り出していった。


 
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