No.394623

仮面ライダーディージェント 第5話:崩れる世界

水音ラルさん

ディケイドライバーがライダー大戦の際に壊れた際にバックアップとして生まれたディケイドの代理人こと破壊の代行者・仮面ライダーディージェント。
ディケイドに代わって本当の目的を果たそうとするも、門矢士が復活したせいで存在を保てなくなってしまった。
しかし自分の代わりに計画を実行できる素質を持った一人の青年に自分の力をすべて託し、青年はその計画を代わりに実行するために動き出す。
仮面ライダーディケイドに代わり、自らの使命を遂行する者、仮面ライダーディージェント。 自らの存在意義を求め、その歩みは何処へ行く。

2012-03-19 21:41:51 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:367   閲覧ユーザー数:366

歩は皐月の家まで一緒に歩いていた。

あの後変身を解き、この世界で宛がわれた移住先へ帰ろうとしたところ……

 

「あ!ちょっと待てよ!こんな夜中に乙女一人置いて帰る気か!?さっきの奴みたいなのがまた出てきたらどうすんだよ!?取り敢えず、アタシん家まで付き合え!!」

 

と言われてしまい、渋々付いて行く事になったのだ。と言うか、その口調で「乙女」というのはどうなのだろうか……。

しかし、皐月の言い分も一理ある。

 

歩はまだ会った事はないが、皐月や先ほど倒したゴートファンガイアが言っていた神童という男があの一体だけを連れてくるとは考え難い。しかも皐月の話だとその男は次元断裂空間を使ってどこかへ消えたというのだ。

 

普通、Dシリーズを持たずに異次元移動を行うのは不可能だ。

だとすればその男は自分と同じDシリーズ適合者なのだろうか?いや、その可能性は低い。

 

何故ならDシリーズ…仮面ライダーは怪人と対を成す存在、謂わば水と油だ。その仮面ライダーが人を襲う手助けをするために怪人を連れ込むなんてありえない。

だとすれば、あの者たち(・・・・・)と同じ存在なのだろうか……。

 

「……で、あのカラフリャーは何だったんだよ。それにさっき歩が着けてた鎧って何なんだ?」

 

隣から皐月が質問をしてきた。カラフリャーとは何なのだろうか…何となくファンガイアの事であるのは分かるのだが……。

教えるのは簡単だが、そう易々と教えて良いものではない。

 

別の世界の情報はその世界にとっては毒でしかない。その別の世界の技術が世界のバランスを壊す事など造作もないのだ。自分のいた世界が辿った結果が良い例だ。

しかも、彼女はこの世界の「基点」だ。その影響力はかなりのものだろう。

 

「基点」とは、その世界を構成する基盤となる存在だ。例えるなら、小説やテレビの主人公の様なものだ。

「ライダーサークル」にもその「基点」となる存在がおり、その「基点」の名を取って「クウガの世界」や「ブレイドの世界」といった感じに名付けられる。そのように呼ぶのならここは「皐月の世界」と言えるだろう。

 

「おーい、さっきからずっと考え込んでねぇで何か言えよ」

 

どうやら相当考え込んでいたようである。皐月も痺れを切らしたのかもう一度歩に話しかけて来た。

こういうタイプはいくら話をはぐらかそうとしてもしつこく質問してくるだろう。

取り敢えず誰にも言わない様にきつく言っておけばいいだろうし、もし何らかの要因で情報が漏れたらすぐに修復すればいい。

今の歩にはそれくらいの力はある。決して自分の世界の二の舞は踏ませない。

 

「あぁ、ゴメンゴメン。じゃあ教えるけど、この事は他言無用だよ。」

 

そう前置きを置くと歩は先ほどの非現実的な出来事と、自身の出自と正体を話そうとした。

 

「じゃあまずは……」

「あ、ちょっと待った」

 

歩は話を切り出そうとした途端、皐月から待ったの声を掛けある一軒の民家を見た。

その民家はどこにでもありそうなごく普通の家なのだが、その家の表札には「多々井」と書かれていた。

 

「アタシん家に着いたからどうせなら上がってから話そうぜ。」

「また明日という訳には……」

「ダメ」

「だよねぇ……」

 

結局そのまま多々井家にお邪魔する事になり、皐月の部屋で二人っきりで話す事になってしまった。

因みに家に上がった時に皐月の両親と会ってしまい、「皐月が男を連れて来た!」だの「アラアラ、明日は嵐かしら」などと騒がれてしまい、更に追い打ちをかける様に皐月が「二人っきりで話す事があるから絶対覗くなよ」と言い出したため更に騒がれてしまい、誤解を解くのに一時間近く掛かってしまった。

そこから更に夕食にも誘われてしまい、皐月に大体の事を説明し(その際も度々茶々が入って来た)、家に帰ってこれた頃には夜中の十時になっていた。

 

 

 

 

 

翌日、2月11日……

 

歩は臨時担任を任された3年D組のクラスに入ると、驚く事に亜由美と加奈が来ていた。

学校に行けば必ず自分に会う事になってしまうにも関わらず普通に登校していたのだ。

歩は疑問を抱きつつもとりあえず今は臨時教師として勉を取っていく事が最優先と考え、亜由美たちには昼休みにでも話を訊く事にした。

 

 

 

 

 

昼休み、食堂に行くと亜由美、加奈、皐月の三人で学食を食べているところを見つけた。

歩が学生で溢れ返る人波と喧噪の中を潜り抜けながらその席に近づくとそれに気付いたのか皐月が手を振りながら声を掛けて来た。

 

「あ、おーい歩!一緒に食わねぇ!?」

「………」

「ってあれ?皐月、先生にタメ口になってない?」

 

その言葉に加奈は訝しげにこちらを見ていたが、亜由美はそんな加奈を気にも止めず皐月に疑問の声を漏らした。

 

「そう言えばなってたね。まぁ、別に僕はそれでも構わないけど」

「あ~、何かコッチの方がしっくり来るからなぁ。それと後歩、お前もアタシの事下の名前で呼べよ。上の名前で呼ばれると何かしっくりこねぇんだよ」

「アンタって本当にフランクねぇ……」

 

加奈はそう軽くツッコムと、自分と向かい合う様に空いている席に座った歩の目を見ながら真剣に言い放った。

 

「昨日、亜由美と話し合った結果、勘違いしてるだけなんじゃないかって事になりましてね。結局こうして来る事になったんですよ。それに、いくら亜由美を狙ってるとしても、こんな人目の多い場所でそんな危険を犯すとは思えませんからね」

「あぁ、成程(なるほど)ね。それと後、君はまだ誤解してるみたいだけど、昨日言った通り僕はただそこの彼女に協力してもらおうと思ってるだけだからね」

「?…おい、一体何の話をしてんだ?」

「あぁ~それはええっとぉ~」

 

どうやら亜由美は誤解してるだけだと思ってくれたらしいが、加奈はまだ疑っているようだ。

隣で皐月が話の内容について行けず、亜由美に聞こうとしている様だが、亜由美も言ってしまってもいいのかと悩んでいるようだった。

 

「あぁ、別に言っても大丈夫だよ。その子も知ってるし」

「え!?」

「あ、ひょっとして歩が実は宇宙人だったってって話か?それだったらもう聞いてるぜ」

「宇宙人って何!?宇宙人って!?」

「いや~、だってこの世界の人間じゃないんだろ?だったら似たようなモンじゃん」

「うぅ…上手く否定できない自分が悲しい……」

「まぁ、僕もそれで大体合ってるって言っちゃったしね」

「……それで先生、一ついいですか?」

 

亜由美と皐月の会話に軽く口を挿(はさ)んでいると、加奈が話を切り出してきた。その目は自分の目と全く真逆の強い意志を持った目だった。

 

「もし亜由美に何かあったら私はあなたを許しません。例え世界の危機で亜由美がその人柱にならなければならない事態になっても、私は亜由美の親友として彼女を守ります」

 

その言葉には言われた本人も皐月も、そして歩も驚いていた。

歩の目はやはり虚ろで何の反応もなさそうに見えるが、実際にはその言葉は歩の心にズッシリと圧し掛かっていた。

 

歩がしようとしている事は正しくそれなのだ。

ただ自分の使命の為に一人の少女を犠牲にして己が使命を果たそうとするただの自己満足。

それを目の前の少女は許さないと言ってきたのだ。しかも、自分の身を挺してでも守るとも……。

それは仮面ライダーたちの絶対の使命。それをライダーでも何でもないただの少女が言ってのけたのだ。

歩は加奈のその意志の強い眼から視線を外してこの会話の渦中にいる亜由美に目を向ける。

この世界の自分は相当恵まれている。もし自分にもそんな友人がいたのならば、たとえ次元移動能力を持っていたとしても心のどこかは救われていただろう。

 

「そうか…この世界の僕は良い友人を持ったね……」

 

その呟きは誰にも聞かれることもなく、食堂の騒がしい喧噪の中に消えていった。

 

 

 

「シンクロ?」

「そう。僕とシンクロしてくれれば、Dプロジェクトをより確実に進める事が出来るんだ」

 

食堂では、食事を食べ終わった後もこの4人で話し合っていた。内容は亜由美とのシンクロについてだ。

それは別に強制ではないし、加奈に言わしてみれば、ただの歩の個人的な用事であるのだが、亜由美は悩んでいた。

確かに亜由美が居なくても何とかなりはするが、もし亜由美がいない所為で助けられなかった人が出て来たとすれば……。

そう思うと無碍にはできないし、万が一歩が死んだとすれば、一体誰が世界を救うというのか……。

他のDシリーズは歩の話を聞く限りでは余り当てには出来ない。

加奈と皐月は無理はしなくていいと言ってくれてはいるがそれでも……。

 

――――キイィィィィン……――――

 

そんな風に悩んでいると、突然どこからか耳鳴りがして来て下を向いた頭を上げた。歩も聞こえたのかある一点を見ながら険しい表情をしていた。

亜由美もそちらを向くと食堂のガラス製の出入り口が目に入った。

しかしよく目を凝らしてみると、ガラスの鏡面化した部分に青い大きな虫の様なものが一瞬映った様な気がした。

 

「亜由美?」

「おい二人とも、どうしたんだよ?」

 

加奈たちは気付いていないようだったが、食堂にも異変が起きていた。

 

「あれ?響子何処に行ったんだろ?」

 

「ん?おい大悟ドコ行ったんだ?便所か?」

「あれ?さっきまで居たはずなんだけど……」

 

食堂から徐々に人が減っているのだ。それも不自然な事に誰にも気づかれずに……。

歩は軽く舌打ちをすると、突然歩の口からは出そうにもない大きな声で叫んだ。

 

「全員、食堂から出ろ!!」

 

突然の大声に食堂が静まり返ると異変はその姿を現した。

 

『グギャギャギャギャ!!』

「きゃあぁぁぁぁぁ!!」

「うわぁ!な、何だぁ!?」

「ギャアァァ!放せ!放してくれぇぇぇ!!」

 

突如、出入り口のガラスや窓、水の入ったコップや果てはステンレス製のトレイの中から亜由美が先ほど一瞬だけ見た青い大きな虫が大量に現れた。

 

ミラーモンスター…鏡の中に存在するその世界の裏側の世界・ミラーワールドに潜む「龍騎の世界」に存在する脅威だ。

今この食堂は完全に彼らの餌場になり、生徒たちは次々とミラーモンスターの餌食になってゆく。その様相は正に地獄と化していた。

 

「うっぷ……」

「亜由美!?大丈夫!?」

「やっぱりこの世界での変身は無理があったか……」

 

亜由美はその阿鼻叫喚の地獄絵図に吐き気を催していた。

それを心配する加奈を余所に、歩は自身の行動の甘さを悔やんでいた。

 

この世界は「ノンポジション」…つまりどの「サークル」にも属さない何の脅威もない世界だ。

「ノンポジション」の世界は別の世界との干渉率が低く、多少の事では「歪み」は発生しないのだが、次元移動能力によって無理矢理干渉すると、そのイレギュラーな存在に世界が対処できず、他の世界との境界線が曖昧になってしまう。

しかもこの世界の場合は、須藤歩による強制干渉の他に、神童という男がファンガイアを連れ込む際に展開させた次元断裂空間、さらに2回に及ぶディージェントへの変身の際に発生させた「歪み」によって別の世界との道が繋がってしまったのである。それも、この世界の近くにある「ライダーサークル」と繋がってしまう程の……。

 

ミラーモンスターたちの一部が此方に気付いたのかノソノソと近づいてきた。

変身すれば何とかなるだろうが、こうも囲まれている上に、亜由美たちがいるのでは巻き込んでしまう。このままでは不利だ。

 

「…三人とも、僕から離れない様にね」

「え?」

「うわぁ!?何か出たぁ!?」

「落ち着きなさい皐月!」

 

亜由美たちが此方に日理向く前に、歩は次元断裂空間を展開させて、その中に亜由美たちを巻き込んだ。

 

「悪いけど、ディナーはお預けだよ」

 

ミラーモンスターに振り返り向きながらそう言うと、自分も次元断裂空間の中に逃げ込んでいった。

 

 

 

 

 

次元断裂空間を抜けた亜由美たちは繁華街に来ていた。本来なら比較的安全であるはずの歩の部屋にまで移動しようと思っていたのだが、「歪み」が大きすぎるためか上手く演算する事が出来なかったのだ。

そしてこの商店街も、食堂の地獄絵図と何ら変わらない景色が広がっていた。

巨大な蟹や蜘蛛が建物を壊しながら街を闊歩(かっぽ)し、上空に浮かんでいる黒い捻じれた板からはゴキブリと人を掛け合わせたような怪物が大量に出て来て冬空を覆っていた。

 

「そんな…街が……」

「先生、どういう事か説明してもらえますか?」

 

亜由美が街の惨状に悲観しているのを余所に、加奈が歩に質問をしてきた。いや、もはや尋問に近いだろう。加奈は歩の事をまだ信用しているわけではないのだから……。

 

「『ライダーサークル』の脅威がこの世界に流れ込んで来たんだ」

「その原因は何ですか?貴方の所為じゃないんですか?」

「………」

 

歩は答えられなかった。自分の所為だけではないとしてもこの事態を作り上げてしまった原因の一つなのだから。

 

また壊してしまうのだろうか…自分の所為でまた……。

 

「お、おい二人とも!喧嘩してる場合じゃねぇだろ!?アレ見ろアレ!!」

 

皐月によって一度中断され、皐月の指差した方を見てみると、そこには四人の人間がいた。だが、歩にはそれが人間ではない事は分かっている。

何故ならそれは……。

 

「え!?ウソ!?」

 

皐月の声に反応した亜由美もそちらを見て驚いていた。

そこには歩を始めとした四人が立っていた。だがその四人は不気味な笑みを浮かべながら此方に近づいてくる。

 

「皆は離れてて」

「なぁ、アレも世界の脅威とかいうヤツか!?」

「ウン。アレは人間に擬態している。アレは……」

 

歩が言いきる前に目の前にいる自分たちに変化が現れる。急に四人の身体が盛り上がりながら変色し、緑色の蛹(さなぎ)のような怪物に変化した。

そこからさらに体内から熱を発し始めると赤く変色した体皮を破り捨ててそれぞれ蜂や蠍(さそり)といった昆虫を彷彿とさせる怪物に変化した。

 

「え!?何!?どうなってんの!?」

「アレは『カブトの世界』の脅威…ワームだね……」

 

そう言いながらディージェントドライバーを取り出し、もう一度亜由美たちに離れるように言うと、ディージェントドライバーにディージェントのカードを挿入した。

 

「変身」

 

[カメンライド…ディージェント!]

 

歩の身体が灰色のノイズに包まれ、それが晴れると同時にディージェントへの変身が完了する。

 

それと同時に歩の変化を警戒していたワームが痺れを切らして襲い掛かって来た。


 
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