俺は楯無に手を引かれ、自室に帰った。

「お、おい、どうした？」

「へ？　なにが？」

「だから急にどうしたんだよ？」

「むー、自覚無いの？」

　自覚？

　…………なんのだ？

「……その様子だと無いみたいね」

「？」

「だ・か・ら。あの時、私に心配かけたって思わないの？」

「ああ、だから心配するなって言ったじゃん。それにもっと俺のこと信用してくれないのか？」

「……まあ、いいわ。私に心配させた代償は払ってもらうわよ？」

　へ？　代償って……ゾクッ。

「ふふっ、覚悟なさい」

　ドサッ、とベッドに仰向けに押し倒されて、楯無が俺の上に跨る。

「ちょっ！？　たてな―――んっ」

　反論の余地も無く、楯無に唇を塞がれた。

　そして彼女の舌が俺の口の中に入ってくる。

「んっ…はっ…んむっ…んっ―――――ふぅ」

　離れると、楯無の口から俺の口へと垂れ下がる糸のように線が繋がる。

　それが切れる前にもう一度口を塞がれた。

「ふっ…あ…ん…はふっ…んうっ―――――ふはっ」

　また楯無と俺の口の間に線が繋がる。楯無は今度はそれを舐め取るとまた顔が近づいてきて、くっつくかつかないかのところで止まった。

「これで終わりだと思う？」

「思いたいけど、終わらないんだよな？」

「もちろん♪　……拓神が望むなら最後までいっても良いわよ？」

「それ、望んでるのはお前じゃないのか？」

「うわ、拓神ったらえっちぃ。でも当たり。んー、私のほうがえっちぃかな？」

「そうかもな……」

「でも、私は拓神と一つになりたい。……あなたとがっｔ―――」

「言わせねぇよ！？　いろんな意味で危ない！」

　前にもあったよな、そういうのを使おうとしたことが！

「なに？　じゃあストレートに言ったほうが良かった？」

「さっきとは違う意味でアウトだ！　この小説を十八禁にするつもりか！」

「あら、メタ発言は禁止だぞ♪」

　あっ、なにこれ可愛い―――じゃなくて。

　そして、むしろそれが一番のメタ発言だと俺は思うんだがな。

「ああもう。ともかく、一回離れてくれ」

「ヤダ」

「じゃあ……攻めても良いか？　―――答えは聞いてない」

　俺と楯無の位置を反転させる。俺が上、楯無が下。

「きゃっ……また強引だなぁ」

「いつも強引なのはどっちだよ―――んっ」

　さっきみたいな深いキスじゃなくて唇を合わせるだけで、俺は楯無の唇をついばむようにキスする。

　そのキスのときにすごく近い距離で見た楯無の目は熱っぽく潤んでいて、頬は紅潮してて。……とにかく、いつもより色っぽくて―――

「楯無…今のお前、エロい顔してるぞ」

「なによそれ。でも、拓神もそうよ？　私が欲しくてたまらないって顔してる」

　マジでか……無意識なんだが。理性が外れかけてるのか？

「……どうであれ、今はまだ食わないけどな」

「あら、どうして？　こんな良い女が目の前で欲しがってるのに」

「自分で良い女って言うか……。楽しみは後に取っておくってな。あと何年一緒だと思ってるんだ？」

「……１万年、でしょう？」

「そういうわけだ。まだお楽しみをするには早いんだよ」

「……でも、こういうことはしたいんでしょう？」

「えっ？　なにをっ！？」

　楯無は俺の手を取ると、自分の胸に押し付けた。俺は目線をそらして、手の感触も無視―――できなかった。

　……すげぇ柔らかい―――って無視しろ俺、無視するんだ。正気を保て。楯無に乗せられたら負けだ。

　でも、それを感じ取ったのか楯無はさらに胸を俺の手に押し付けてくる。さらには残った方の手で目をそらすことさえさせてもらえない。

　振り払おうにも、楯無に取られている方ではない手はベッドについていて、離せば俺は楯無にのしかかることに。

「私の胸の感触はどう？　ふふふっ」

　くすくす笑いながらも顔が赤い楯無。ああ、ちくしょう……

　ガチャッ――

　ガチャッ？

　楯無と目を見合わせて、部屋のドアを見る。

「お邪魔しますー。玖蘭くｎ…………」

　入ってきたのは山田先生。――いや、誰が入ってきたなんてどうでもいい。ただし織斑先生以外。ちなみに他の人だったら神力を使って気絶させてもいいと思ってる。ただし一夏に限り徹底的に頭を殴って記憶を吹き飛ばそうとも思ってる。

　……まあとにかく、問題なのは今の俺たちの格好であって。

　俺は楯無の上に乗り、胸に手を当てている。つまり、俺が楯無を襲っているように見えるわけで。

「は、はわわっ……そ、そのあなたたちがそういった関係なのは、し、知っていましたが……その―――――きゅぅ……」

　山田先生は混乱して目を回して、その場で気絶してしまった。

　ふぅ、山田先生は気絶させる必要がなくて良かった

「えっと、どうするの？」

「俺に言う？」

「「…………」」

　結局どうするか思い浮かばなかったので、とりあえずベッドに寝かせて起きるのを待つことに。

「あ、そうだ。記憶って神力で消せないの？」

「無理。そこらへんは本当の上級神にしか操れないらしい。あとは時を止めるとか、そういったのは無理っぽい」

「へえ…じゃあ、山田先生どうする？」

「とりあえず起きたら、あれは気のせいだってとにかく思い込ませればいい。ＯＫ？」

「とりあえずわかったわ」

　数分後

「あ……えっと、私はどうしたんでしたっけ？　どうしてベッドに……」

　やっと起きたよ……

「あ、先生気がつきました？」

「さっき入ってきたところで突然コケて、頭打って気絶したんで……大丈夫ですか？」

「あ、そうだったんですか。すいませんでした」

（（コケて頭打って気絶、に何の疑問も持たない（の）！？））

　今の俺と楯無の考えてることは同じだと思う。そして、どうやらさっきの気絶のショックで記憶は吹き飛んでるらしいな。

　……うん、まさかだった。

「え、えっと、頭が痛いとか無いですよね？」

「はい、そこらへんは問題ありませんよ。先生は石頭ですからー」

　えへん、と胸を張るようにする山田先生。いや……

（（そういう問題！？　てか（というか）威張れないし、それに石頭だったの（か）！？））

　たぶんこれも思考が楯無とシンクロしてると思う。

　ツッコミもなにやらおかしい気もするが、それより山田先生ェ……

「そ、それなら良かったです。で、俺の名前を呼びながら入ってきたんですけど何か用が？」

「あ！　そうでしたそうでした、忘れるところでしたよ！　実は男子の大浴場が解禁になったんです。織斑くんとデュノアくんは食堂にいたから先に伝えましたので、入れる日程のほうはその二人に聞いてください。良かったら入ってくださいね。では、お邪魔しましたー」

　そして何事も無かったかのようにここから出て行った山田先生。

　というか出て行くときに本当にコケて気絶しないか、すげぇドキドキしたんだけど……。

　さて、確か今日の風呂は一夏とシャルルのお風呂イベントだったよな。というか俺もシャルルのことは女子って知ってるし、わざわざ行くような真似はしないぜい。

「ね、拓神。拓神は大浴場行くの？」

「今日は行かない。理由は明日になればわかると思うよ」

「ふぅん……じゃあ、さっきの続きする？」

「やらねぇよ。山田先生のおかげでいろいろと覚めた」

「あらざーんねーん。もう少しで落とせたのに……」

「本人の目の前で言うなよ」

　本当にあと少しで落とされてたよ、あれは。

　……だって好きな女が目の前にいて、誘ってきてるんだぞ？

　普通の男だったらどうするか。……わかるよな。

「とにかく、俺はシャワー浴びてから寝る」

　シャワーを浴びてる間楯無の襲撃を注意していたが、流石に楯無もさっきので興が冷めたようでそれは無かった。