夢、弟子、告白
side 零樹
「オレはまた夢を見ているのか」
誰かが鎖で覆われた空間にオレは立っていた。
「なあ、オレを呼んで何がしたいんだ」
返事はない。それでも何かしなければならないと感じた。
「少し独り言に付き合ってもらっても良いか?」
何も無いと思ったら優しい風が吹いた。これは付き合ってもらえると考えれば良いのだろう。
「今日、ブラスという奴にあったんだが、そいつはモンスターなんだが人間の子供を育ててたんだ。それも本当の親子の様にそれが羨ましかった」
話しながら昔を思い出す。トラウマに近い記憶を。
「オレも昔、血の繋がらない子供を育てたことがあるんだ。その娘と出会ったのはある場所で戦争が起こったときだ。その戦争にオレも妻も家族全員で参加していた。オレの妻が敵の攻撃からある親子を庇ったが庇い切れずに親子にも被害にあった。そして母親が命を落とす直前にオレに託した子だ。オレの妻は自分が庇った親子がどうなったか気にしていた、自分がもう死ぬのが分かっていたのに。オレは正直に話し、子供しか救えなかったと言った。そうしたら妻は
『それだけではまだ救えていない。私はもう駄目だからその娘を私達の娘だと思って育てて欲しい』
と残して逝ってしまった」
そしてオレは暴走した。仇を文字通り塵一つ残さず消し飛ばした。
「オレはその戦争で色々なものを無くしすぎた。妻を両親を友を。そして約束という名の呪いを手にした。当時のオレは妻との約束の為だけに生きていただけに過ぎなかった。その娘には妻の事も本当の親の事も教えず育てた。そしてその娘を見るたびにあの日の事を思い出し、何故妻の代わりにこの娘が生きているのかと悩み続ける日々が続いた」
本当に何度殺そうかと思った事か分からない。娘の命を使って反魂の術を使おうか悩んだ。
「そして12歳の誕生日に真実を告げた。その頃には一人で生きていけるだけの知識と力を与えていたからな。そしてオレの心の内側を全て吐き出した。そこからが予想外だった。娘はずっと前からその真実に気付いていた。それでも自分の親はオレだと泣き付かれた。その日初めてオレは娘と本当の家族になれたんだと思う」
あの時は本当に嬉しかった。だけど
「だけど、それも長くは続かなかった。その翌年の事だ。毎年一人で行っていた妻の墓参りに二人で行ったときだ。妻を失った戦争である一つの国が崩壊した。そこにはある称号があった。笑うかもしれないが『立派な魔法使い』という称号だ」
『立派な魔法使い』という言葉に世界が震える。
これは怒りか?
「あの日『立派な魔法使い』達がオレを殺す為に共同墓地、いや、街ごと一般人も巻き込んで魔法で吹き飛ばしやがった」
全てが赤と黒に染められた世界。あの光景は一生忘れる事が出来ないだろう。
「オレは不老不死の存在だからなんとか生き残れる事が出来た。だが娘は……二度も家族を守れなかったオレは復讐の道を進み、復讐が終わった後、心が摩耗し過ぎ廃人の様に過ごした」
そこまで話した所で何かがくだける音と同時に夢から覚めた。
目が覚めると外はまだ暗かった。
「遅い目覚めだね」
「フェイトか、オレは何日寝ていた」
「さあ?君が何時寝たのかが分からないからどうとも言えないね。とりあえず今はクロコダインがやられてヒュンケル以外が集まっている所だよ」
「1週間近く寝てるな」
「何かの病気かい?」
「いや、病気ではないがこれからもこんなことが起こる可能性があるとだけ言っておく。それよりバランがこっちにいるならダイ達のことを教えておいて欲しい」
「何故だい?君が直接伝えれば良いじゃないか」
「オレは少しやりたい事があるのでな」
「そうか伝えておこう。兄の方はデルムリン島で弟はダイだと伝えておけば良いのかい?」
「ついでに兄の方は両腕を吹き飛ばしちまったと伝えといてくれ」
「なっ!?」
「じゃあ後は任せた」
フェイトが何か言おうとしていたが無視して影に飛び込む。向かうはパプニカ。一時的な弟子であるヒュンケルの様子を見る為に。
転移して戦闘音が聞こえる方に行くと丁度クロコダインが乱入する場面に出くわした。ここでは原作通り鎧の魔剣を装備している。やはりアレは使っていないか。その後のヒュンケルの行動は原作通りだったのでスルー、ダイ達の方はラナリオンからの……ギガデインだと!?こんな所で補正が入ったか。違うな、何れオレと戦うときの為か。ライデインの練習もしているしな。ポップの疲労具合もそこまで酷くないみたいだからレインが鍛えていたんだろう。
さて、フレイザードを止める為に準備だけはしておくか。どうやって邪魔をしようか。
とか考えてたら原作通りの決着が付きフレイザードが現れない。
あれ?
と拍子抜けしていると火山が噴火を始めた。
まさかオレがいる事に気付いていて姿を現さずに直接火口に向かいやがったな。おそらくこの予想で間違いないだろう。しかしどうしよう。とりあえずこのまま放置してみよう。
ヒュンケルがダイ達を投げ飛ばして溶岩に飲み込まれたか。いや、この感じは溶岩の中で変身したな。なら大丈夫だろう。おっと、クロコダインに見つかる所だったな。ヒュンケルが鎧の魔剣以外の姿でいる事に驚いているな。
それにしても渡すタイミングを逃したな。どうするかな、このラウズアブソーバーと3枚のカード。とりあえずKは保留としても今後、そう言えばフレイザードの時に全軍集まるのか?まずいな、追いかけてでも渡すべきだ。気付かれない様に地上を走りながらクロコダインを追っていくと洞窟らしき所に入っていくのを確認する。ここまで来ればバレても問題は無いので空を飛んで洞窟に入る。
「!!レイキ、どうやってここを」
「弟子の戦いを見ていたからな。クロコダイン、ヒュンケル、お前達は人間側に回るんだな」
「……師匠、すまないとは思う。だが、オレは」
「そうか、進むべき道が見つかったか。行けば良いさ、今日だけは見逃してやる。餞別だ」
ラウズアブソーバーをヒュンケルに投げ渡す。
「これは」
「ラウズアブソーバー、剣
ブレイド
の新たな可能性を引き出す物だ。中にJ、Qのカードが入っている。それをQ、Jの順にラウズすれば良い。次に会う事があればオレは容赦なくお前らを切り捨てる。覚悟しておけ」
「……短い間でしたがお世話になりました」
「じゃあな、出来れば出会わない事を祈ってるがそれも無理だろうな。だからオレからは生きろとだけ言わせてもらうよ。クロコダインも元気でな」
それだけを伝えてルーラで鬼岩城に戻る。これでなんとかどっこいどっこいになるだろうと考えているとバランに捕まりました。それはもうすごい殺気を放ちながら今にも竜魔人化しそうなバランを見て抵抗せずに捕まりましたよ。だってバランクラスになると殺さずに倒すのって面倒なんだもん。
「それで、一体何のようですかバラン殿」
「息子が貴様に頼みたい事があるという」
「どっちの?」
「貴様に腕を切り落とされた方のだ」
斬り掛かって来たから斬り返しただけなのにオレが悪いみたいに言われる。理不尽だ。
「いやぁ、予想以上に弱くてな。まさか銅の剣で切り落とせるなんて思っても見なかったんだよ」
「何!?」
「詳細を省くが明らかにダイ、ディーノよりも強かった。竜鬪気すら纏っていたからな。だから怪我等しないだろうと思ったらあっさり斬れたんだからしょうがないだろうが」
「とりあえず話しを聞いてやって欲しい」
「分かったよ。叶えられる物なら叶えてやれば良いのか」
「そうしてもらえると助かる」
バランに案内されある一室に入る。そこには両腕を失った少年が窓際の椅子から外を見ていた。
「は~い、お久しぶり。元気にしてるか~い」
「……ああ、来てくれましたか」
今にも自殺しそうで結構怖い。昔のオレを見ているみたいだ。
「それでオレに頼みって何だ?場合によっては叶えてやろう」
「その前に確認です。貴方は僕と同じなんですか」
「違う。オレたちは自分の意志でここにいる」
傍にバランがいる事から出来るだけ単語を出さずに会話をする。
「ディケイドの様なものと判断しても」
「どっちかというと鳴滝の方だ。それと元はネギま!から来ている。オレたちの父親がネギま!に辿り着いた事で大きく歴史が変わったが、基本は一緒だったはず。それで君は何を望む」
「貴方達の目的はなんだ」
「修正力の調査だ。あとはお遊びだな」
「遊びだと」
「そうだ、オレたちにとってこの度の戦争は遊びだ。先に言っておいてやる。オレたちは真の大魔王が相手でも瞬殺出来るだけの力がある」
「!!」
「レイキよ、先程から何を話しているのだ。それに真の大魔王とは何の事だ」
「ふむ、簡単に説明するとバラン殿の息子はオレたちの世界の記憶を所持しているという事です」
「レイキ達の世界の記憶という事は、この先の未来の事を言っておるのか」
「ええ、その上でこの子はオレに頼み事があると言いオレと会いたかったのでしょう。それで何を頼む」
「……もし、最後の様な事になった時にダイを助けてやって欲しい」
「ふむ、それ位なら良いだろう。ではバラン殿、オレはこれで失礼させてもらう」
「待ってくれ、出来ればこの子の腕を治してもらいたい」
「もし、腕を治して襲って来た時にバラン殿は討てますか」
「……」
「覚悟があるというのならフェイトに言って下さい」
「……分かった」
「では、これで」
部屋を後にしてとりあえず食堂へ向かう。よくよく考えると1週間以上何も食べていない計算になる。別に1ヶ月位なら飲み食い無しで戦う事も出来るが胃液が胃を溶かしている感じがするので何か腹に込めなければならないと思い早速飯を食う。
ちなみに鬼岩城の食堂は年中無休24時間営業で幹部クラスになると飯がタダで喰える。もちろん遊撃師団員は全員が幹部クラスだ。とりあえずパンを文字通り山盛り、シチュー寸胴鍋ごと貰い黙々と食べ続ける。意外な事に人型の魔物の食生活は人間とあまり変わらないのか味も中々の物だ……材料はあまり聞きたくないがな。
「零樹、ここにいましたか」
「うん?刹那姉さん、何か用」
「いえ、ハドラーがバルジ島にて師団長全員でダイ達を倒すと言っているのですがどうしますか」
「リーネ姉さんはなんて言ってる」
「この世界での方針は全て任せると」
「じゃあ、今回は保留で。もう少しこの世界で色々な事をしてみたいからね。主に鉱石とか薬草の採取」
「はぁ〜、分かりました」
「ごめんだけどよろしく。たぶんハドラー達は負けるだろうから」
「零樹はどうするんですか」
「オレはこの世界の呪文の昇華をしようと思う。中々興味深いからね。こんな気持ちは久しぶりだよ」
「……」
「……夢を見て昔を思い出した。あの頃のオレはこんな風に実験やら研究やらをしているのが一番、という訳ではないけど好きだった」
「あの頃は皆が幸せでしたね」
「いや、一人だけ違う。あいつだけは違ったせいで今のオレ達がいる」
「……分かっていると思いますが、いずれ私達の出身世界に似た世界に行く事もあるかもしれません。その時は」
「分かっている。そこにいるあいつはあいつではない。だから私情を挟むなと言いたいんだろう。そんなことはこの旅に出るという話が出たときからずっと考えていたさ。だけど別人だと分かっていてもオレは自分を止める事は出来ない。いや、止めてはならないんだ」
「……そうですか」
「ごめん、でもこれだけは譲れない」
「いえ、仕方ない事なのでしょう。では私は姉上に報告に行って来ます」
姉さんが食堂を去った後、食事を再開するも先程とは違いうまいとは感じなかった。
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オレはあいつを殺す。
それによって今のオレが消えるとしてもだ。
by零樹