「……。」
「……。」
さて、どうしたものか?パーティーにはなったものの、俺は彼女と上手く話せないでいた。
現在はダンジョンの中を奥へと進み、彼女が言っていたボスモンスターとやらを探索中だ。そして歩きながら気付いてしまう。
(何を話していいか分からん!)
先ほどまでのテンポの良い会話はどこへ言ってしまったのだろうか?
元々俺は内向的なキャラで、基本一人で行動している。リアルを充実している人達のように、新しい話題や世間話することなどめったに無いのだ。
我ながら情けなくなってくる。こうして隣には、夢にまで見た2次元のヒロインが、今では3次元となって一緒に歩いてくれているのに、せっかくの機会を無駄にしている。
前世でこんな自分だが後悔はしていないと言ったが、今になって強く後悔している。
(どんな話をすればいいだ…。)
考えろ…。伊達に今まで多くのゲームをしたり、漫画や同人誌などを集める駄目人間になったわけでは無い。何かあるはずだ、彼女と盛り上がれる話題が…!
「……声優ってどう思う?」
「とても素晴らしい職業だと思うわ!!」
俺は思わず引いてしまったよ…。まさかここまで乗ってくるとは。
「俺もそう思うよ、憧れるよな……。」
「そうでしょ!!本当に素敵だわ…、私も勉強とかたくさんして、いつか声優になりたいな…、って私は何喋ってるの!?」
「声優の話だろ?」
「秘密にしてたのに…。何で話しちゃったんだろ、私は……。頼むからレンもこのことは他の人に黙っておいてね?」
そう言ってブラックハートは少し残念がった顔をしていた。別にそんな隠すものの程でもないだろうに。
「隠す必要があるのか?」
「当たり前じゃない!だって…その…恥ずかしいじゃない?私がそんな子供の夢みたいことを本気にしてるなんて…。」
「……。」
「黙ってないでなんとか言いなさいよ?」
いや、何と言えばいいのやら。別に悪いことじゃないだろうに…。後、恥ずかしがってる彼女の仕草が目の前で見る異常に可愛いな。こっちまで照れてしまう。
「ああ、すまなかった。君のことは黙っていてもいいが、別に恥ずかしがる必要はないと思うぞ?」
「?」
「立派な職業じゃないか?声優達がいることで初めてゲームとかのキャラクター達が生きてくるんだ。声があるのと無いのでは天と地ほどの差が出来る。それくらい声優ってのは素晴らしいものなんだぞ?」
「そうかもしれないけど…。」
「まぁ結局の所は人それぞれ意見が異なると思うけど、少なくとも俺は声優を志望する君のことを絶対に馬鹿にはしない。」
「あ…ありがとう……。こんな私でも頑張れば声優になれるかな?」
「ああ、絶対になれると思うよ。」
なにせ彼女の声優は今井麻美さんだからな。歌うのも上手いし…。って、しまった!この手のものは「中の人などいない!」で通す筋があるんだったな、以後気をつけよう。
「そっか…、なんだか自信が出てきたわ。」
「それは良かったよ。」
彼女も元気に取り戻してくれたみたいで、本当に良かった。
そういえば、会話の中で「ピコーン」という音がして、彼女の上に俺にも分からないゲージが出ていたな。どうやらゲージは上昇したみたいだけど、まぁ気にしなくても大丈夫だろう。
そんなこんなで彼女と声優絡みでいろいろと話していると、奥の方で待ち構えているモンスターを発見した。どうやら奴がここのボスのようだ。
「やっといたわね。」
「ああ、結構強そうだな。」
「問題ないわ。何故なら今回は助っ人がいるからね。」
「精一杯頑張らせてもらうよ。」
そこまで当てにされても困るが、なんとか期待に応えてみよう。俺も当てにされたことが嬉しいようだし。
ボスモンスターもどうやらこちらに気付いたようだ。敵の名前を確認、「野犬」。とても素早い動きのしそうな相手。更に今度の敵からの攻撃は、くらったら軽症では済まされないだろう。
「心配しなくても大丈夫よ。あなたには私がついてるんだから。」
この言葉に緊張していた体が一気に解れてくる。そうだった、俺には心強い仲間がいるのだったな。
「そうだな。あんなモンスター二人でなら余裕だろう。」
「ええ、気楽に行きましょ。」
そして俺達はそれぞれ武器を構えて、相手を見据える。ボスだけあって、強そうに見えるが今の俺達に気にする必要はない。
厨二セリフを吐くならば、この言葉がここではよく似合う。
「今の俺達は無敵だからな。」
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その5です。