これは、裏切りなのかもしれない――。
細い月は、ふたりの姿をゆるりと映し出す。
見下ろせば、ぬばたまのさらりとした髪が目に入る。……己とは対照的な、艶やかな……闇の色。
視線に気がついたのか、きら、と鋭い琥珀が閃いた。
刃のようだ――と。
だが、ひやりと冷えた刀身とは違う、燃える様な熱さを持っている。
此方を見る様は、まるで、獲物をねめつける様だ。
尤も、此方も可愛げのある餌には到底なり得ないのだが。
先程から己に幾ばくかの熱を与えている、隻眼の男。
簡単に捕えられて、存外に逞しい腕に、囚われて。
簡単には、譲れない――その思いは……罪悪感。
蹂躙されようとも、渡さない、渡せない――。
それは、己のすべてである筈だったから。
「……?」
ぱちり、と目を覚ます。
少し、頭が重い。ずきと鈍痛がする程度だ。
いつの間に、眠ってしまっていたのか。
寝かされ掛けられていた陣羽織は、見覚えのある瑠璃紺をしている。
人の気配。
現れたのは奥州を牛耳る年若き男、伊達政宗。
「Hey、目覚めたか?My princess?」
に、と口の端を歪めて己の手をとる。
そのまま目の前に跪き、手甲を嵌めた指先に、そ、とくちびるが触れる。
気障な男だ。
ぼんやりと、己の手の甲に視線を落とす。
熱が伝わる筈はないのに、何故か、あたたかいと感じる。
ちら、と頭を上げると、視線が絡む。
少し長めに伸ばした漆黒から覗く、挑発的な光……。
「……」
どう答えていいのか……答えるべき言葉を探る。
拒否を。
選択を――。
己は、一軍の大将だ。
ありたくて、その位置にあったのではないとはいえ、それが事実である。
それ以外であることを、赦されなかっただけなのだ。
そう、己のこの手をやすやすと取っている、この男が。
己が尊崇し敬愛する主を、ただの、小蛇程度が手を下せる筈はないと……。
おこがましい。
ああ、なのに。
何故己は、この男の手を、払い除けることができないのだろうか。
この胸の蟠りは、いったい何だというのか。
胸を巡る熱は、熱く、苦しく……。
ぐちゃぐちゃと考えが纏まらない。
「何を悩んでる?オレにも云えないことか?」
「……!?」
そ、と耳元で囁くその声は、どきりとするほど色気があり……此方を翻弄する。
「折角の綺麗な顔が台無し……ぐっ!」
強く、政宗の腹に一撃を加える。
「黙れ」
はっきりとそれだけを告げる。
「アンタ、本気で入れたな……?」
「貴様のその言動が気に障る。貴様がすべて……悪い」
真っ直ぐに睨みつけ、そう答える。政宗は、鳩尾付近を摩る様に手を添えている。
「……Ha!随分とshrewdだな」
「私にも解るように云え」
苛立ちを含みながら、強く云う。
「……意地悪なお姫さんだ、ってこった」
「どういう意味だ」
「アンタがそれだけ可愛い、ってことだ」
くす、と小さく笑っている。
「どこまでも、貴様は……やはりあの時、息の根を止めておけばよかった」
舌打ちする。
「Oh、怖い怖い。まぁオレは行くが、アンタはもうちょっと眠りな。朝までは……未だ時間はたっぷりある」
さらさらと、梳くようにやわらかく、銀色を撫でる。
す、と立ち上がって、部屋を出ていく。
「伊達」
「Ah-?」
呼ばれて振り返ると、ばさ、と布が飛んでくる。
「……忘れ物だ」
瑠璃紺の布の塊は、確かに政宗のものだ。
「Ha!Thanx!」
此方に口づけを投げるような仕草をし、軽く手を振ってその場を後にする。
「……」
簡単な南蛮語であれば、己も理解できる。
複雑な思いを抱えながら、その背をただ、見送った。
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◆伊達×三成です。デキあがっています ◆アニメ・劇場版のそのあと何年か後かと思います ◆いろいろ考えた割には、こんなことになってしまいました ◆出だしはシリアスチックで少し暗く感じますが、2ページ目はただのいちゃラブ ◆支部にも同じものをupしています