僕らの関係は平行線のままだった。平行線と言っても決して不和があったとかそういうわけではなく、ただ時間だけが過ぎてゆく、そんな空虚な結びつき。
「今日はありがとう」
彼女はそう言って僕に微笑みかけてくれるが、その笑顔すらもテンプレートのように思えてくる。事実そうかもしれない。この関係を保つ為だけの一時的な措置。
「それじゃ」
彼女と僕の間で、電車のドアが閉まる。彼女を乗せた電車がホームから離れるにつれ、僕はどこか安心したような、しかし不安なような気分になる。上手くいっていないわけじゃない、でもこの関係は僕の心を痛めつける。
家に帰ってもその悩みは尽きない。彼女はこの関係をどう思っているのだろう。そんな質問を幾度しようかと思ったが、まるで繊細なガラス細工に触れるような心地になって、いつもすんでの所で触れられない。触れてしまったら、もう二度とこの関係には戻れない事がわかっていたから。
「手紙?」
朝、玄関ポストからの音で目が覚めた。つまらないダイレクトメールの投函かと思いきや、白い封筒に入っていたものは、これまたただ真っ白な紙が一枚。差出人の名前はない。僕の名前と住所だけが手書きで封筒に書かれていた。
「いたづらか……」
いたづらにしても不気味なものがある。僕はまじまじと手書きであろう文字を見つめた。文字は小さく、儚げな雰囲気を持っていた。
「あ……」
起きたばかりで働いていない頭が一気に冴え渡る。この文字には見覚えがあった。見覚え、なんてもんじゃない。彼女の文字だ。
「でも、どういう意味なんだ」
白紙の紙。目を凝らしても何も書いていない。ただ、その意味はすぐにわかった。わかったと同時に肩が震え、涙が頬を伝った。絵が好きだった彼女が、何も描かずに送った白い紙。色を上から重ねるのではなく全くの新しい紙を使った理由。平行線に触れるのではなく、それすらも消し去る白。彼女は言い出せなかったんだろう、だからこそこんな手紙を出したのだ。
「白紙に戻そう、か」
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こんな別れ方してみたい