No.393540

IS〈インフィニット・ストラトス〉 転生者は・・・

ISさん

第20話『拓神と楯無』

2012-03-18 02:07:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:18484   閲覧ユーザー数:17780

 

 

「う……ふぁああっ、と」

 

 

 真っ白な空間から浮上した意識が覚めて、最初に見たのは夕焼けの朱に染まる保健室。

 

「もう夕方になってたのか……ん?」

 

 上体を起こして周囲を見渡す。

 すると視界の隅に、見慣れた水色の髪が見えた。

 

「楯無、か」

 

 楯無は俺のベッド脇にあるイスに座って、頭はベッドの上で自分の腕を枕にして寝ていた。

 

「ここで寝てんじゃねえよ……」

 

 なんとなく手を伸ばして、その頭を撫でる。

 ああ、髪の毛サラサラだなぁ……。

 

 

 

「んっ……拓、神?」

 

 

 どうやら目が覚めたようだ。

 

「ああ、おはよう……なんてな。もう夕方だぞ?」

 

「だ、大丈夫なの!? 終わってから急に倒れたって聞いて、織斑先生に場所聞いて……!」

 

 取り乱す楯無も珍しい。

 でも、それだけ想われてるってことで……顔が赤くなりそうだ。

 

「そこまで心配されてもな。疲れで気を失っただけだ。でもありがとう、楯無」

 

「そうなんだ……まあ、どういたしまして?」

 

「なんで疑問だし…まあいいや」

 

「……本当、良かったわ。君に何も無くて」

 

「俺は死なないよ。俺は不死身(笑)だからさ」

 

 不死身の某サワーさんって本当、不死身だよな。

 そして最後は思いっきり幸せだよな。

 

「笑ってなによ、笑って……」

 

 

 

 

 

 

「ねえ…真面目な話、してもいい?」

 

 急に真面目な顔になって、俺の目をしっかり見てくる楯無。

 

「あ、ああ。わかった」

 

 

 

「……拓神は、あの無人機のことを知っていた。違う?」

 

 

 ああ、やっぱり、ごまかしはきかないか。特にコイツには。

 

「……あってるよ。再起動については知らなかったけどさ」

 

「どうして知ってたの?」

 

「……知りたいのは、ここの生徒会長として? それとも個人として?」

 

「質問に質問で返すのは、おいしくないなぁ…」

 

「これだけは聞いておきたいからさ」

 

 今、生徒会長として。を選んだ場合、俺に真実を教えるつもりは無い。

 さあ、どうする? 楯無。

 

 

 

「そうね……私には生徒会長としての義務もあるでしょうけど、個人よ。拓神を好きな一人の女として、君の事を知っていたい」

 

 いつも通りストレートだなぁ。心が揺らぐだろうが。

 "教えたくない、普通に暮らして欲しい"って。

 

「……知ってる理由を、教えても良い。でも、聞いたら戻れない」

 

「いいわ。もしものときは拓神が面倒見てくれるんでしょ?」

 

 即答かよ。しかも、それは卑怯だぞ。

 

「なんだよそれ。――本当に?」

 

「ええ、覚悟はできたわよ」

 

 自分から言っておいて、いざ言うとなると喉がカラカラになってうまく声が出せない。

 信じてもらえるのか、気味悪がられないだろうか。そんな嫌な予測が頭を埋め尽くして、言葉を止めようとする。

 でも、言う。

 俺のことを想ってくれている、楯無のために。

 

 

 

 

 

 

「……わかった、教える。まずは―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てを話す事にした。

 

 

 俺のこと。

 

 

 そして半神について。

 

 

 無人機、バグ。

 

 

 現状で楯無に隠していることを全て話した。

 

 

 無論、転生者であることと楯無の想いを受け入れられない理由も。

 

 

 流石にこの世界の未来で起きることは教えなかったけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話の最中、楯無は常に真剣な表情だった。

 途中、驚きで多少表情が変わることはあったけれど、ほとんど気づかない程度。

 

 

 

 ―――これで全部。……どう思った? 俺は普通の人じゃないんだよ…ただでさえ転生者だ。幸せになる資格すらない」

 

 多分、今の俺はとても乾いた笑みを浮かべていることだろう。

 そんなレベルで―――

 

「――これが現実」

 

 言い終えた俺は、うつむく。

 今は楯無の顔を見れなかった。

 認めてもらえるまで、見てはいけない気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「「…………」」

 

 

 

 

 

「「…………」」

 

 

 

 

 

 長い長い沈黙。

 本当は短いのかもしれない。でも、とてつもなく長く感じる。

 

 

 

 

 

「ねえ」

 

 楯無が口を開いた。

 

「何?」

 

「拓神は、本当にそんなことを思ってるの?」

 

「……なにが?」

 

 

「『幸せになる資格がない』なんて、本当に思ってるの?」

 

「ああ……思ってr――」

 

 

 

 

 

「――馬鹿言わないで!」

 

 

 初めて聞く楯無の怒声。

 俺は、うつむいてた顔を上げて楯無を見る。

 

 

「私の気持ちはいい、フラれても仕方ないって思える。けど、けど! そんな悲しいこと、言わないでよっ!」

 

「楯無……」

 

「ここにいるのは、拓神。『玖蘭拓神』以上でも以下でもない。拓神は拓神だよ……ここにいる拓神は偽者かなにかなの? 違うわよね? なら幸せになる資格も権利もある。だから……!」

 

 

「っ…!」

 

 

 

 忘れてた、んだろうか。

 それとも意図的に忘れようとしてたのか。

 

 

 俺は俺、それ以外じゃない。そんな当たり前なことを。

 転生したから、俺は普通の人間じゃないから……そんな理由はただの建前で。

 

 

 ―――なんでもない、俺は……俺だ。

 

 

 

「ゴメン、楯無。俺は俺だよな……。なんでかすっかり忘れてたよ。ありがとな、思い出せたよ」

 

「……うんっ」 

 

 

 今の半泣き状態の楯無からは、いつもの威厳もなにも感じ取れ無かった。

 居るのは、ただの女子。一つ年上の女の子、それだけ。

 

 ポフッ。とまた楯無の頭に手を載せて、撫でる。

 恥ずかしいのか、頬を朱に染めて少しうつむいた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「落ち着いたか?」

 

「拓神のせいだよね?」

 

 あの後、楯無が復活(いつもどおり)になるまで俺は頭を撫で続けていた。

 いつもの楯無の裏側を見れた気がして。それと、あんな状態の楯無は……可愛かった。

 

 

「なあ、楯無」

 

「ん? なに?」

 

「なんで、俺のことを信じたんだ? 普通だったらあんな事言っても信じてくれない」

 

「それは…拓神が、あんな場面で嘘をつくとは思えないもの」

 

「えらく信用されてるなあ……信じてくれてありがとう」

 

 俺も人のことを言えないくらいに、楯無を信用してはいるが。

 というか、なぜ楯無に本当のことを話したんだろう……?

 

(たぶん、甘えたかったのかな……楯無に)

 

 俺は一応、そう結論つけることにした。

 異質な俺を、そうと知らないでも好きになってくれた。だから……だろう。

 

「で、楯無。どうするんだ?」

 

「何が?」

 

「俺について。お前が俺に好意を寄せてるのはとっくに分かってる。というかアピールしすぎだ」

 

「あら? 嫌だったの?」

 

「うぐ……。それは……」

 

「あはっ♪ 冗談よ」

 

 

 

 

 

「私は……拓神がどんなでも私の気持ちは変わらないわ。あなたの…拓神のことが好き」

 

 

 

 今更だが、面と向かって"好き"と言われたのは初めてだ……前世込みで。

 そんな理由で、今更ながら顔が赤くなったのがわかった。

 それでも、楯無からは目を逸らさない。

 

「……俺とお前じゃ、流れる時間が違いすぎる。さっき言ったろ? 俺の寿命は、人の寿命と桁が違うんだ」

 

「それでも。私が死ぬまでは、あなたのそばに居たい」

 

「まったく。本当、俺のどこにそんな魅力があるって言うんだ……」

 

「私からしたら、あなたは十分に魅力的よ?

 

 

 

 ……今すぐ食べちゃいたいくらいに」

 

 ゾクッ、とした感覚が背筋を凍らせた。

 というか、楯無は有言実行しそうで怖い。そして既に近づいてきてるのは、幻覚だと信じたい。

 

「お、おい、冗談……だよな?」

 

「……そう思うのかしら?」

 

 じりじりと、ベッドの上の俺に迫ってくる楯無。

 ベッドの上に上がると、四つん這いのまままだ思うように動けない俺の上に来た。

 

 

「それで――」

 

「?」

 

「あなたの答えは、出たの?」

 

「何の?」

 

「私の気持ちに……想いに対する答え」

 

 

 ……どうなんだろう。

 

 

 俺は……楯無のことが……好き……なんだろうか? こんな俺を、受け入れてくれた楯無が……

 

 

 

 

 

 

 好き………なんだよなぁ。好きに、なっちまったんだよな……。

 

 

 今なら分かる気がした。楯無の言っていた『魂が惹かれる』という言葉の意味が。

 本能で求めてしまう。俺は、楯無を……。

 

 

(ああ、これは宣言通り、楯無に"心を奪われた"よ)

 

 

 

「俺は……」

 

「うん」

 

 

「楯無のことが……」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……好きだ」

 

 

 言ったことで、なんだかもどかしくなって……近くにあった楯無の唇を奪った。

 もう何度かしたはずなのに、感覚が違う。

 キスは一瞬で、俺はすぐに離れる。

 

 

「……嬉しいな♪ ありがとう」

 

「それは俺の言うべき言葉だよ……それと提案が一つある」

 

「提案?」

 

「そう、提案」

 

「どんな?」

 

 

 

 

 

「俺と同じ時間を生きるつもりはある?」

 

 

「……それは、私があなたと同じような存在になる。ということ?」

 

「ああ、そのままの解釈でいい。……別に今すぐじゃなくていいんだ。いつでも、その決意ができたときで」

 

「覚悟なら、もう『ダメだ』――どうして?」

 

「これは、そんなにすぐ決めて良いことじゃない。俺の時間は1万年、楯無が俺に飽きたとしてもどうにもならない」

 

 むしろ俺は、今すぐにそうしてしまいたかった。

 けど、本当にこれは簡単なことじゃない。

 

 

 1万年は……永すぎる。

 

 

「なら、安心して良いわよ。私が拓神に飽きることなんてないわ」

 

「そんなこと、言いきれ『る、わよ?』」

 

「言ったでしょう? 魂が惹かれてるって。私はいつまでも…それこそ永久(とわ)にでもいい。拓神と一緒に居たいの」

 

「……本当に?」

 

「本当に」

 

 ずいっと顔を、鼻が触れるくらいまで接近してきた。

 

「だから……『迷惑になるかも』とか、そんな考えは捨てなさい?」

 

 心を先読みされた気分……というかされた。

 俺は今から、それを考えようとしてた。

 それと―――

 

「……更識家はどうする?」

 

「そうね……ある程度したら、妹に任せるわ」

 

 笑顔でそう言い切った楯無。

 

「いいのか?」

 

 楯無の妹『更識簪(さらしきかんざし)』。一年四組所属の専用機が無い、専用機持ち。性格は楯無とは正反対。

 

「あの子はそんなに弱い子じゃないもの。でもただ押し付けるだけっていうのは嫌だから、それなりにはやるけどね」

 

「そっか。楯無がそう言うなら……」

 

 

 

「しつこいけど、本当に良いのかよ?」

 

「ええ、お願いするわ」

 

「……わかった」

 

 

 そう答えた俺は、今俺の上に居る楯無と場所を入れ替わるため、楯無の腕を引く。

 

「? ――きゃっ!」

 

 楯無をベッドに引き倒すと、俺は起き上がって楯無の上に。

 周りから見ると、俺が楯無を押し倒しているように見える。

 

 

「じゃあ、抵抗するなよ?」

 

 それだけを告げて、楯無にキス。

 ただのキスじゃない。永い時を共に歩むという制約の、契約のキス。

 楯無の口内に舌をすべり込ませる。

 

「ん―――んんっ!? っ……」

 

 自分の唾液に体の中を流れる、血液ではなく、あれから新しく感じているモノ――神力――を混ぜる。

 そしてそれを、繋がっている口を通して楯無の方へ流し込んだ。

 

「んっ―――(ゴクン)」

 

 楯無がそれを飲み込むのを確認する。

 でもそれちょっとエロく見えた俺は、少し楯無とのキスを堪能してから唇を離した。

 

 

「ふぁっ……拓神って、以外と強引なのね」

 

 体を起こして、楯無から離れる。

 

 

「少なくとも楯無が言える台詞じゃないだろ……なにか感じないか? 血液じゃない、体の中を流れるナニカを」

 

「ええ、まだなんとなくだけれど……これが神力?」

 

「ああ。人は誰でも神力を少しは持ってる、って父さん(神)が言ってた。俺はそれを増幅させただけ。……それでも、身体は半神のものに変化していくんだけどさ」

 

「……これで私も拓神と同じになれた?」

 

「まあ、な。……その感じてるものを目に行くようにイメージしてみて」

 

「え、ええ。わかったわ」

 

 楯無が一度目を閉じて、少ししてから開く。

 その目は"金色"に輝いていた。

 

「成功。見てみ」

 

 ベッドの隣の棚の上にある、小さな置くタイプの鏡を取って楯無に向ける。

 その目を一度見開いてから、楯無が口を開いた。

 

「金色……境界(ウォーダン)(・オージェ)みたいね」

 

「悪いけど、あれより性能が良いよ。意識すれば、制限無くどこまでも見える……解除にはその目から神力が無くなる感じで、イメージしてくれ」

 

 そういうと楯無はもう一度目を閉じて、開く。

 すると、いつも通りのルビー色に戻った。

 

「OK、解除もできてる。他にも色々あるけど、使い方は今と同じ。その場所に楯無の神力を集中させるイメージでいい。ちゃんと認識できてるし、暴走することもなさそうだ」

 

「そう、わかったわ。……そうだ、楯無が借り物の名前ってことは知ってるのよね?」

 

「ああ、更識家当主が継ぐ名前だろ?」

 

「そう。でも、あなたには本当の名前で呼んでもらいたいな」

 

「それを知らないぞ?」

 

「だから教えるの」

 

 そういうと、楯無は俺の耳元に口を寄せて

 

「私の本当の名前はね――『更識 (ゆい)』よ。二人きりとか、特別なときはそう呼んでちょうだい」

 

「ああ、わかった。結」

 

「久しぶりね、その名で呼ばれたのは……少し、寝てもいい?」

 

「体が力に慣れてないから負荷がかかったんだろうな。少しすれば慣れて違和感も何も無くなるはず。……ああ、おやすみ」

 

「ええ、おやすみなさい……」

 

 すぐに寝息が聞こえてきた。

 俺も気持ちの面で疲れが増えて、すぐにでも倒れそうだったからその場で並んで寝る事にする。

 

 

 

 ……今の幸せを噛み締めながら。

 


 
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