No.39334

不思議的乙女少女と現実的乙女少女の日常7 『良く晴れた空 1』

バグさん

新キャラ始めました。

2008-11-03 13:09:11 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:384   閲覧ユーザー数:374

晴れた空は美しい。

 

 そう、真剣に思う。

 

 雲ひとつ無い晴天は、それだけで生きていることを感謝するに足る。

 

 地球を照らす太陽は一つの奇跡だ。

 

 良く晴れた日は、それだけで気分が良く過ごせるものだ。

 

 だが、決してそうとばかりも言えないのだという事を、今、実感していた。

 

 シャープに切りそろえられた自分のボブカットを人差し指で弄りながら、リコは嘆息した。

 

 学校である。

 

 昼食の時間である。

 

 午前の4時間を終えて、午後の授業を控えて、いい感じにお腹の空いたリコ。

 

 現在、彼女には2つの悩み事があった。

 

 1つは、昨日と一昨日、ユニコーン探索やらお料理教室やらで、リコに振り回されまくって数学の予習を忘れてしまっていた事。リコは全体的に成績が良いが(体育を除く)、基本的に文系であり、数学は苦手。それでも、数学において高得点を維持できているのは、日々の予習の賜物である。そのため、予習をしていないと授業に望むのにやや不安があるのだった。

 

 まあ、それは大きな問題では無い。出席番号的に、今日はおそらく教師に当てられないからだ。

 

 問題は…………そう、大きな問題は2つ目にあった。

 

 それも、その問題は眼の前で、現在進行形で繰り広げられているのだった。数学の予習よりもより程度が大きいと感じている理由は、まさにそれだった。誰だって、後々の問題より現在起こっている問題に重点を置くに決まっている。過去を乗り越えて現在があり、現在に足跡を残して未来とするのだ。

 

 現在を乗り越えなければ未来は来ない。それ故に、現在の方がより重要なのは当然の事だった。

 

 その、リコの眼の前で起こっている問題。

 

 それは…………。

 

「だっかっら! なんでアタシが泊まりに行ったら駄目なんだよぅ!」

 

「別に無理して泊まりに来ていただく必要はありませんわ!」

 

 2人の親友の口論だった。

 

リコの机、その前面にあわせる形で左側面、右側面をつけて、二つの机が並んでいる。

 

リコから視て右側に座っているのがヤカ。長い髪を両側でくくり、柔らかなツインテールとなっている。その髪を括っている髪留めはコサージュの様にリボンで花を形作られている。リコの好きなゴスロリスタイルのフリルもアクセントとして忘れない。校則で許されるギリギリの範囲だった。

 

左側に座っているのが、親しい友人にはエリーと呼ばれる、リコの友人だった。

 

エリーは本名を花刻(はなとき)・カルペンティエリ・エリーザと言う。彼女は日本人とイタリア人のハーフだった。その容姿も正にハーフのそれで、色素が薄いのか、髪の色も瞳の色も日本人のそれでは無く、かといって白人のそれでもなく、むしろ日本人の遺伝子が勝っている。つまり、純粋な茶色に近かった。日本人の遺伝子が勝っているとは言っても、やはりハーフ。どこか日本人離れした容貌は、整っている事を考慮しなくても美しく感じさせた。

 

天然茶色の髪の毛は、先端に向かうにしたがって波立っているナチュラルウェーブで、髪質の良さを十分に感じさせるものだった。そのウェーブした部分をたまに堪らなく触りたくなる時があり、気が付いた時には指先でクルクルさせてもらっている。

 

まあ、それはさておき。

 

ヤカとエリー。

 

この2人が、リコの眼前で睨みあっていた。

 

その様はまるでトラ対クマ、ライオン対グリズリー、ジャンガリアンハムスター対スナネズミ。ボルボックス対ユードリア。要するに、リコにはどっちも同じ様な生物に見えたのだった。

 

口論の始まりは些細な事だった。爪楊枝の先端ほどに小さな穴だと思う。肉眼で観察する事はほとんど困難だろう。

 

 机を力強く掴み、う~っ、とヤカが唸る。エリーも似たような感じだ。

 

「なんでリコは泊まりに行ってよくて、私は駄目なのさぁ!」

 

「貴女みたいに異常なファッションセンスを持った人間は、我が家の敷居を跨ぐ資格など無いという事です!」

 

まあ、そういう事だ。

 

明日は学校の創立記念日であり、学校は休みだ。去年までは創立記念日という事で、形式的には休日でも生徒は学校へ集合し、体育館に集まって学校の歴史を知るビデオを見せられていたのだが、今年の生徒会は…………いや、生徒会長は優秀だった。…………主に生徒達にとって。詰まる所、今年も体育館に集合して、リコ達にとっては日建設的なビデオを見せられる事を断固拒否したのだ。リコが聞いたところによると、相当な議論があったらしい。しかし、結果的に生徒会長は教師にそれを納得させるだけの理由を提供したらしく、創立記念日は晴れて完全休日となった。

 

そこで、リコはなんとなくこう言ったのだ。

 

 

『あー、そういえば、エリーの家って行った事無いわね。あれ? ヤカはあるんだけっけ』

 

『あるよー。この前ね。さすがお金持ちは違うよぅ。凄い大きな家でね、何コレみたいな感じだった』

 

『表現が良く分からないけど…………まあ、とにかく凄いのね』

 

『そうでしたわね。リコさんはいらっしゃった事がありませんでしたわね。私は

リコさんの家にお邪魔した事はありますけど……。あの、よろしければ、今日泊まりに来ませんか?』

 

『え? いいの? 突然お邪魔して迷惑じゃ無い?』

 

『全然構いませんわ。いいえ、むしろ大歓迎です』

 

 

 で、その場に居たヤカも、当然話しに乗ってきたわけで…………。

 

 

『あ、じゃあ私も行く行くー!』

 

 

 と、当然の様に手を上げて、

 

 

『別にエリーの家に行きたいわけじゃ無いけど、フォルセティに会いたいし』

 

 

 当然の様にいらん事を言ったわけで。

 

ちなみに、フォルセティというのは、海外の珍しい料理でも中世ファンタジーで英雄が着用する防具の名称でもなければ対象の防御力を下げる魔法でもない。

 

犬の名前だ。エリー宅の唯一の良心だ。それというのも、花刻家がゾロアスター教の教えを忠実に護っているとかそんな事は全然無く、恐ろしく大きい敷地内にペットが一匹だけであり、それ故になんだかとても心癒されるのだ、とヤカが言っていた。ちなみに犬種はゴールデンレトリバーらしい。

 

 

 まあ、そうしたヤカの余計な一言が原因で、次第に罵りあいへと発展したのだった。

 

 眼の前の2人は、よく喧嘩をする。

 

 まるで、それ以外にコミュニケーションの方法を知らないかの様に。

 

 やがて、罵りあった二人は疲れたのか、息を付き…………。

 

 ヤカが若干上から目線で身体を逸らし、眼を細めて笑った。明らかに慣れてない動作と表情で、眼尻がやや痙攣していた。

 

 そして、この強情ものがぁ、と言って、

 

「このエセ外国人めぇ…………なんですか? 寝る時は畳に布団ですか?朝食は納豆焼き魚定食ですかぁ? アメリカに憧れてエアギターを恥かしげも無く疲労する中学生ですかぁぁ?」

 

 良く分からない事を勝ち誇ったように言い出す。

 

ヤカ、それは全く罵りになってないわよ、とリコは敢えて突っ込まなかった。

 

エリーが『むうぅ』と、明らかに反応を示したからだ。

 

 一体ヤカの言葉の何処に反応したのだろうか。エセ外国人という言葉が最有力候補だが、エリーはハーフなのだ。的を外した悪口に腹を立てる必要はあるだろうか。国籍は日本のものを持っているだろうし。

 

 ああ、だから逆に腹が立つのか、とリコは一人で納得する。

 

 エリーは悔しそうに歯噛みし、リコを視た。

 

 無言で視た。

 

 何かを求めるように視てきた。

 

「…………な、な、なに?」

 

 やや動揺して、どう反応していいか分からない。

 

エリーは腹の底から搾り出す様な声で、

 

「…………リコさんはあの馬鹿に何かいう事はありませんの?」

 

「いや、特に無いけど」

 

「リコさんはどっちの味方ですの!?」

 

「え、永世中立国という事では駄目ですか?」

 

 若干引き気味に、手の平をちょこんと前に出して胸の辺りに置く。

 

「ま、まあ良いじゃない? ヤカはほら、アレだしさ。別に悪気があったわけじゃ無いだろうし、皆で一緒に泊まろうよ」

 

 なだめるように、刺激しないように、言葉の一つ一つをしっかりと発音する。

 

エリーはその華奢な外見とは裏腹に、とても強いのだった。物理的に。なんとか流古武術だかを極めているらしく、小指を一本掴めれば、僅かな力の流れを利用して相手を投げることが出来るという神技の持ち主だった。

 

 エリーが癇癪を起こす事はまずありえないだろうが、神技が手に馴染んでいる可能性は十分有りうる。興奮した状態で手を取られて投げられる可能性も同じくらい有りうる。リコは間違っても小指を軸にして投げ飛ばされたくは無かった。

 

「ほら、ヤカも謝りなさいよ!」

 

「えー、私悪く無いしぃー」

 

「なによその頭の悪い女子高生みたいな喋り方…………あ、頭は悪かったか、いや、そうじゃ無くてとにかく謝りなさい」

 

「うぅ…………リコがさり気無く私の心を中華包丁で切り刻む…………」

 

 ヤカは、リコに言われてどうやら観念したらしい。というより、そもそもヤカはどうでも良かったのかもしれない。エリーをからかって楽しんでいる節も無くは無く、それ故にエリーも腹を立てるのだろう。

 

「ごめんよぅエリー。正直調子に乗りました! だからさあ、私も、泊めて?」

 

 さっきまでの踏ん反り返った体勢と態度から180度方向転換し、下から上目遣いでねだる様に手を合わせて覗き込む。馬鹿な男子なら勘違いしかねないポーズだ。

 

  当然、エリーには通用しないだろうが、

 

「…………まあ、別に私もヤカさんが泊まる事に関しては、やぶさかでは無いですわ」

 

 ただ、一言多い癖は直していただけません? 

 

そんなエリーの言葉に、ヤカは曖昧な笑みを浮かべた。

 

そんなわけで、リコとヤカの2人は花刻・カルペンティエリ・エリーザの家へパジャマパーティーに出かける事となったのだった。

 

大きな問題を一つ解決させて、しかし、続く数学の授業で問題を当てられて酷く困った。人生とはままならないものだと、リコはしみじみと実感するのであった。


 
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