No.393186

IS 〈インフィニット・ストラトス〉 転生者は・・・

ISさん

第9話『拓神の災難』

2012-03-17 17:53:02 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:10106   閲覧ユーザー数:9663

 

 

 

 放課後。

 一夏は机に頭から煙を出しながら伏せていたから、放置してきた。

 俺は自室に帰る途中だ。女子からの視線が痛い。接触してくるわけでもなく、ただ見てるだけなのもそれに拍車をかけてる。

 

 

 ガチャッ

 

「あ、お帰りなさい♪」

 

 バタンッ

 

 ……初日で疲れたんだな今日は。

 なぜ楯無さんが部屋居る幻覚を見なきゃいけないんだ?

 まあ、所詮幻覚だ。さっさと休もう。

 

 ガチャッ

 

「急に閉めるなんて、酷いなあ君は……来ちゃった♪」

 

 畜生。幻覚でも嘘でも無かった。

 現実だよ、これが。

 何しに来たんだ!?

 

「はあ、なんですかその彼氏の家に突然来た彼女みたいなノリは? それよりどうやって入ったんですか」

 

 部屋に入り、ベッドに腰掛けてから話を切り出す。

 なぜか隣に楯無さんが座ったのは……気にしない方向で。

 

「悪くないわね……鍵は生徒会長権限で開けたのよ♪」

 

 なにが悪くないんだ!?

 それに開けちゃった。って……プライバシーのカケラも無いんだが。

 

「で? 何しに来たんですか?」

 

「私が生徒会長ってのは知ってるわよね。それで生徒会のメンバーは会長が選べるの」

 

 知ってるというか今言ってたし『生徒会長権限』って。

 そしてなんだこの嫌な予感しかしない空気は……。

 

「そういうわけで、玖蘭拓神くん。君を生徒会副会長に任命します!」

 

 やっぱりか!

 でも一応、

 

「拒否権は……?」

 

「無いよ? 生徒会長命令だから」

 

 ですよねー……はぁっ。

 一応、抗議の目線を隣に送って――

 

「あはっ♪」

 

 分かってた、うん。抵抗が無意味なことくらい分かってたんだ……

 

「分かりましたよ。やれば良いんでしょう?」

 

「うん、もの分かりの良い子はおねーさん好きだな」

 

「そうですか。てか、それなら放送で呼び出せばいいんじゃないんですか?」

 

「もう、つれないなあ……もう一つあるわよ。どうして私と本音が繋がってるって知ってるの?」

 

 こっちが本命だろうなあ……というかのほほんさん、見かけによらず行動が早い。

 たぶん本当に余計な行動したよな、俺。

 

「企業秘密です……企業所属じゃないですけど、とにかく秘密です」

 

「え~、教えてくれないの?」

 

「秘密ですって」

 

「どうしても?」

 

「どうしても」

 

 俺の部屋に来たわけはコレだろうなあ、逃げられなくするっていう。

 話すとなると、転生についても話さなきゃならないもんな。

 それ言っても信じてもらえるかどうか不安なんだけど……。

 

「なら、教えてもらおうかな~」

 

 ちょっ、なに手をワキワキさせてるんですか!?

 

「は? というか何をするつもり―――」

 

「こうする♪」

 

「えっ、ちょっ、くすぐりっ、あははははっ…だめ、止めてくださっ、あはははっ―――」

 

「ほら、早く喋って楽になろうよ」

 

「しゃっ、喋りませんよっ、くっ、くははははっ――っう、だめっ、らめぇ――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……何するんですか!」

 

「拓神くんが喋らないのがいけないんだよ? で、どうなの?」

 

「それ脅迫ですからね? どっちにしろ喋りま――『もう一回、行っとく?』……分かりました。喋ります」

 

 無理。もう無理。精神が崩壊する。喉痛い。

 そういうことで仕方なく喋ることにする。

 まあ、どうせ考えておいた嘘だし。本当のことなんか説明できるわけない。

 

「えっと、簡単に言うと前に日本の裏側のことを調べたんですよ。そこで更識の名前を見ました。それと布仏家との関係やらも見ました……これで良いですか? 現・更識家当主さん」

 

「あら、そこまで知ってるんだ。おねーさん驚き」

 

 楯無さんがどこからともなく取り出した扇子。

 それをバッと開くと、そこには達筆な文字で『驚愕』の二文字。

 

「でも、本当は違うでしょう?」

 

「う、嘘じゃありませんよ」

 

 沈黙。

 

「そう。ま、いつか本当を教えてもらうよ♪」

 

 だめだ。これはまたいつか問い詰められる。

 

「ん~じゃあ、今日のところはコレで帰らせてもらうよ♪」

 

 ほっ、と心の中でつい息を漏らす。

 次回が無ければ良いのに…

 楯無さんは立ち上がってドアの方に歩いていく。

 一応見送ろうと俺もベッドから立ち上がると、

 

「あ、そうだ。まだ後一つ」

 

 そういって俺のほうに戻ってきた。

 

「まだあったんですか? 今度は何を――――んっ!?」

 

 一回のまばたきで次に目を開けると、ドアップの楯無さんの顔。

 それと、唇にはなにか柔らかい感触。

 

 ……って、はあ!?

 すっと俺から離れた楯無さん。

 

「え、ちょっ、な、な、なにをっ……!?」

 

 キスされた!? 一体なぜに!?

 突然の驚きと恥ずかしさとかで、心臓が突然バクバクと弾み始めるっ!?

 

「君の心、いつか私が奪うよ。……じゃあね」

 

 顔を赤くした楯無さんは、それだけ早口で言うとさっさと部屋から出て行ってしまう。

 

「………………えっと…?」

 

 お、俺はいつあの人にフラグを立てた?

 そんな記憶は無いぞ。引き分けた……じゃ理由が軽すぎ。

 なんだ? なんなんだ? 

 ……あー、わかんねぇ!!

 それにファーストキス奪われたし……これはいいや。

 

 ――ともかく、俺はどうすれば良いんだよぉ!

 

 

 

 もう寝てしまおうとベッドに飛び込んでうつぶせのまま布団をかぶる。

 って、寝れるわけ無いだろ!

 

 

 

 

 

 ……第一、俺は転生者なんだ。

 本来ならこの世界には存在しない人物。

『俺』と酷似した魂を持っている人物は居たとしても『俺』は居ない。

 

 逆に言おう。

 俺はこの世界に居てはいけない人物。

 ここが本当の『インフィニット・ストラトス』という物語のパラレルワールドだとしても。

 俺が幸せになる権利は俺と酷似した魂を持つやつから奪ったもの。

 奪った権利は……本来の俺の権利じゃない。

 今の俺にある権利は『前に進む』これだけ。未来《さき》を目指すだけ。

 むしろこれだけあれば十分だ。

 一回死んだ身で、この世界を生きていけるなら……。

 

 

 

 

『拓神……』

 

 俺が思考の渦にはまっている中、ティエリアの外部音声だけが、部屋に反響した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 数日後の放課後

 

 

 この前のことのせいで、最近寝不足。

 授業の事など、まったく記憶に無い。ただ意識を保って前を見ていただけ。

 休み時間はもっぱら寝て、授業が始まる前にのほほんさん……長くてめんどいな……本音に起こしてもらってる。

 

 

「はあっ……俺にどうしろってんだ」

 

 低っくいテンションのまま部屋のドアを開ける。

 今日もあの人は居ないはずだよな……?

 

 ガチャッ

 

「お帰りなさい。ご飯にする? お風呂にする? それとも私?」

 

 バガンッ!

 

 ドアを、出るはずの無い音を立てながら閉めた俺は悪くない。

 くそっ、まだ寝不足なのか……?

 楯無さん(裸エプロン)の幻覚を見るなんて……つーか服装がなんでだよ。溜まってるのか?

 

 

 改めて、部屋のドアを開ける。

 

「お帰りなさい。私にする? 私にする? それともわ・た・し?」

 

「選択肢がないです。……楯無さんを選んだらどうなるんです?」

 

「わたしとえっちぃことが出来るよ♪」

 

「そうですか……帰ってください。というか、一人にしてください。今は人と話す気分じゃないんで」

 

「………それって私のせい?」

 

 

「ええ、そうですよ。だから早く出てって―――ぐぉっ!? ……なんですか?」

 

 制服から着替えることもせずにベッドで横になった俺の腹の上に、楯無さんが馬乗りになった。

 あえて言おう、腹が圧迫されて息が苦しい……。

 

「それは、おねーさんに相談してもどうしようもないこと?」

 

「……そうです。俺の問題なので」

 

「想い人の悩みを解決はおろか聞くこともできないのは、つらいなあ」

 

「……そういえば、俺のどこがいいんですか? この前突然あんなことをされたんですから、それを聞く権利くらいありますよね?」

 

「うふふっ、それは乙女の秘密……って言いたいけど、教えてあげる。といっても私もわかんないんだけどね。この前の入学前の模擬戦、あれが終わったあとで好きになってたとしか言えないから」

 

「まったく不確定な想いですね。……それで俺はファーストキス奪われたんですか」

 

「あら、想いなんて不安定なものよ? それに私もファーストキスだったわよ?」

 

「男と女のファーストキスは重さが違いますから、大切にすべきなんじゃないんですか?」

 

「なら、そのファーストキスをあげた代わりに君の悩みを教えてくれない?」

 

「……卑怯ですね、それは。どの道こんなこと誰にも話す気はありません」

 

 それよりか話せるわけが無いんだ。

 

「なら、私はどうすればいいの?」

 

「一人にさせ『ダメ』……さいですか」

 

「確かに君のことはまだあんまり知らないよ? けど、少なくとも君の力にはなりたい……」

 

 その体を俺のほうに倒して顔を近づけてくる楯無さん。

 今更なんだけど、その服装……もはや服装と言っていいのかもわからないのは刺激強いなあ。

 

「ならまずは、その服装を何とかして欲しいなって思うんですけど」

 

「話を逸らさないで? 私はどうしたら良いの? どうしたら君の力になれる?」

 

「……ふぅ、本当どうしたら良いんでしょうね」

 

「君の話を聞けば良いの? 君のために動けば良いの? 私の体を許せば良いの?」

 

 

「あなたみたいな人が言うセリフじゃないですよ、それは…俺みたいに純情なヤツは本気にしますから」

 

「本気にしてもらっても構わないわ」

 

 まったく、この人は何がしたいのかわからない。

 俺を自分のものにしたいのか、どうしたいのか……。

 

「楯無さん、あなたは何がしたいんですか?」

 

「あら、この前言ったはずよ? 『君の心を奪う』って。でも……」

 

「でも?」

 

「まずはカラダから奪っちゃおうかな」

 

「なっ!?」

 

 完全に自分の体を俺に乗せてきた楯無さん。顔は俺の首に。

 

「っ!? や、止めてください!」

 

 そして首筋を甘噛みされる。

 そのままぺロリと舐められた。

 くっ、理性を持って行かれ……っ!

 

 

 バッ!

 

「きゃっ!」

 

「……すいません。外の風にでも当たってきます」

 

 楯無さんの体を自分から多少強引引き剥がすと、俺は部屋から出て行った。

 

 

 

 ……逃げた。自分から。自分に向けられた気持ちから。

 


 
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